1998.10.25
ベッドの下にご用心
ホテル阪急インターナショナル Deluxe Room
哀-4

最近特に客室の清掃状況が気になる。別に重箱の隅を突つくつもりはないのだが、なぜかいろいろと不行届きの部分を見つけ出してしまう。ぼくは割にキレイ好きの方で、自宅はなるべくキレイに保っているつもりだ。いつ人が来ても困らないようにだけはしているし、作曲や練習の合間に、掃除は絶好の息抜きになる。窓ガラスの汚れや、ちょっとした埃が気になって仕方ない。調度品や額縁の手入れも怠らない。

だからといって潔癖症ではない。人の使ったタオルがいやだとか、缶ジュースの飲み口に自分の口をつけられないということはない。正直言ってしまえば、落ちたものでも抵抗なく食べられる程で、結構サバイバルに適応しているかも。

ホテルの客室は出来るだけ前のゲストの形跡を消してから販売してほしいものだ。今回チェックインした部屋では、あちこちからいろいろなものが出てきた。ベッドの下から、脱ぎ捨てた靴下とスリッパ。テレビ台の下からビデオテープと切り刻んだメモ用紙などなど。ビデオテープは埃のつもり具合から見て数年は放ってあったはずだ。

髪の毛くらいでとやかく言うつもりはないが、汚れた靴下がベッドの下から出てきたとあっては気持ちが悪い。客室係のマネージャーを呼んで、状況を見てもらった。家具の下は掃除しないんですか?と尋ねると、きちんとさせていると答えたが、状況から見て、実施されているとは思いがたい。「いいえ、今までそこまではしておりませんでした」といわれる方がかえって合点がいく。

あちこちに埃が1mmくらい積もっているだけならまだしも、非常口の案内板は手垢でベットベトだし、ナイトテーブルには前の客がビールか何かをこぼしたまま半乾きになり、これまたベトベトになっている。こんな状態の客室を販売できる神経が恐ろしい。ここは、アメリカの某誌が3年連続、日本で唯一最高級ランクに認めたという“ご立派”なホテルなのに。

しかし、客室担当マネージャーの対応は誠実で好感が持てた。少なくともその時点では。心から詫びると共に、「新しいお部屋をすぐにご用意させていただきますが、次のお部屋にご案内する前に、このようなことがないよう、念入りにチェックさせていただきたいので、15分ほどお時間をいただけますでしょうか?」と言って出ていった。実際には30分近く経って新しい部屋に案内をしてくれたが、またしても問題発生。いったい彼らはどこを見ていたのか?

確かに1mm積もっていた埃は消え、案内板もふきあげてあった。しかし、前の部屋と同じようにテレビ台の下から紙屑や埃の塊、ベルト、コーラの空缶などが出てくる。あまりの埃っぽさにせき込むほどだ。このホテルにこれ以上を望むのは無理だと諦め、それきり何も求めなかった。

開業当時は清潔で素晴らしいホテルだと思った。しかしメンテナンスにあまりにも手を抜いていたつけで、あちこちボロボロだ。絨毯は染みだらけ。家具は傷だらけ。カーテンは黒ずんでいる。だいたい、デザイン性を追求しすぎて、清掃のしやすさや手入れのしやすさを無視した調度品が多すぎる。ハウスキーパーは清掃のプロでなければならない。素人には出来ない業でいつでも清潔で快適な客室を提供してもらいたいものだ。客室の維持管理に手を抜いたホテルは、それだけで信頼に値しない。

また、残念に思うのは、最近このホテルは利用する度にいつでも、すでにターンダウンされた状態の客室に案内される。陽が高いうちにナイトセットされた客室に通されると、その後仕事に向かう気力を奪われて、心地良さそうなベッドにもぐりこみたくなる衝動に駆られる。清掃の段階ですでにターンダウンした状態に仕上げれば、手間は省けるかもしれない。

しかし、せっかくのベッドカバーや飾り枕を目にすることなく終わってしまう。その上、当然夕方のメードサービスに来ないから、タオルの交換などもしてもらえない。元々タオルは十分な枚数用意されているとはいえ、夕方に今一度部屋を整えるのは、高級ホテルでは当然のサービスだと思うので、それが欠けると気分がよくない。一流ホテルを名乗るなら、その水準は守って欲しい。かつて、友人があるホテルで、ターンダウンされた状態の部屋に案内された際、自分でベッドカバーを掛け、「逆ターンダウン」をして、本来の雰囲気を復元したという話しを笑って聞いていたが、その気持ちがよくわかった。

出発の際、チェックアウトカウンターで、またしてもちょっとした事件があった。ある男性がカウンターでなにか相談事をしていた。ぼくはチェックアウトをするためにカウンターに近づいたが、他に2名いるスタッフはだれも声を掛けてくれなかった。ただボーッと突っ立っている。どうやらぼくでないお客さんとの会話の観客になっているようだ。横にあるコンセルジュデスクにいる女性も同じく知らん顔。しばらく黙って立っていると、その男性との会話が終わり、ぼくの用件を聞く体勢に入った。

「このホテルでチェックアウトを担当できるのはあなただけ?そばにいる全員は何なの?」と尋ねた。すると「申し訳ございません、ただいまのお客さまのお連れ様かと思ったものですから」と答えた。なんだか、これ以上なにを言っても無駄だと思いつつ、電話でチェックアウトする旨は伝えてあるし、ベルは荷物を取りに部屋まで来てくれたのだから、これからチェックアウトの客が降りて来るんだと構えられないのはなぜだろうかと、理解に苦しんだ。前夜の不手際を詫びるかと思っていたら、それもナシ。次回の割引券をくれたが、その場で破り捨て、カウンターを後にした。

これらの事件はすべてソフトの問題だ。ホテルらしい仕事を維持していれば、楽にクリアできる問題だと思う。そもそも客室の設備は素晴らしい。大型サイズの家具に、十分な収納スペース、広々としたバスルームからの眩いような夜景、オーディオとビデオデッキ、肌触りのよい寝具。どれをとっても第一級だ。バスルームに関しては照明が夜には明るすぎるので、調光できればよりよいのと、バスルーム内でBGMが聞ければ更によい。

コーヒーショップのサービス人も、「おコーヒー」といっていたのが気になったが、男性はとてもハキハキとしていて、よく気がつく。ところが、女性はてんでだめだ。このホテルには卓越した部分が多くあるにもかかわらず、それを帳消しにして余りあるソフト的欠陥がある。勿体無いという感想に尽きるが、これでは、過酷な大阪のホテル戦争で、生き残るのは難しいかもしれない。

Y.K.