1998.09.28
海を抱くホテル
ラ・シェネガ Standard Room 3rd Floor
楽-2

ヘルスガーデンの内部

東名から小田原厚木道路に入り、真鶴新道を経て行けば、自宅からほぼ1時間のドライブで、目的のホテルへ到着する。有料道路に乗ってさえしまえば、あとは一つも信号がない。休前日でもない限り渋滞に巻き込まれる可能性も少なく、箱根同様、気軽に行けるリゾート地だ。

今回は車でなく、電車で出かけた。東海道線で小田原駅を出ると、進行方向左側に相模湾がひろがり、高台の軌道からの眺めは実に雄大だ。地形的に起伏に富んでいるためトンネルや橋が多く、ちょとした旅行気分が味わえる。真鶴駅からはタクシーで2〜3分のなだが、運転手は行きも帰りもやな顔せずに乗せてくれた。温泉旅館や別荘がほとんどのこの地域で、リゾートホテルはここが唯一といっていいだろう。

全32室の小ぢんまりとしたホテルは、黄色い瀟洒な建物でひときわ目を引く。エントランスに到着するとすぐに係が出迎えてくれ、フロントデスクに案内してくれる。このあたりの手際は旅館のスタイルに通ずる感じがした。これまた小さなフロントデスクでは、座ったままゆったりと手続きができ、ティーラウンジ越しに海が望める。ラウンジからはそのままプールサイドに出られるようになっていて、どこにいても潮風に手が届く。

客室は最低でも37uあり、木で出来た調度品があたたかい雰囲気を醸し出している。ベッドは大き目で、羽毛布団に掛けられたシーツも心地よい肌触り。シャワーブースが独立したスタイリッシュなバスルームも快適だ。ただ、高台に立つこのホテルと海との間に有料道路があり、その騒音がどうしても気になる。直接車の姿は見えないが、これで潮騒だけが聞こえる環境だったら、どれほど素晴らしいだろう。

1階にはリフレッシュルームがあって、幾つかのジャクージ、ドライ&ミストサウナ、タンニングコーナーが設けられ、そのままプールサイドに出られる。この日はまだあたたかい日差しがあったので、数人のゲストがプールサイトのデッキチェアに横たわり、シャンパンを飲んだり、本を読んだり、リラックスして過ごしていた。サウナでほてった体を、プールで冷やしているゲストの姿もあった。客室からは備え付けのバスローブのまま行けるようになっている。また、チェックイン前やチェックアウト後にも利用できる。

レストランは、館内に1個所だけなので、連泊するゲストには選択肢がなく辛いかもしれない。その1個所のみのレストランも、ホテルのレストランというよりは、街中の気の利いたレストランといった程度だが、値段が低く設定してあるので、落胆するほどではなかった。サービスは気の利かない印象が強い。

メニューはコースが2種類と、数種のアラカルトのみだが、アラカルトはグランメゾン並みの立派なお値段で、はじめから眼中からはずした。コース2種は7,000円と12,000円の2種。12,000円のコースは、メニューにシェフのおすすめと記載してあるだけで、内容が全くわからない。7,000円のコースも、前菜、魚、肉それぞれ二者択一になっているのだが、いずれも一方は「本日の○○」という記載で、内容がわからない。これじゃ説明してくれなきゃ何だかわからないなぁと思っている矢先に「お決まりですか?」と注文を取りにくる。

「本日の品々の説明をしていただけますか?」と尋ねると、「少々お待ちください」と言って引っ込んでしまう。その日の料理内容くらい心得ていてほしいものだ。昼間のプールサイドにあった大人のムードから考えると、もっとワインリストを充実させ、サービスに余裕が出てくればきっと売り上げが上がるだろうに。なぜか、このレストランで金を使うのはもったいないという気にさせられるのだった。料理自体、以前に比べて力がなくなった。数年前までは、特に新鮮な魚貝を使った料理を自慢とし、オーベルジュといって過言でない料理を出していたと記憶している。それが、ありふれた料理になってしまったのは残念だ。

食後はバーへ。10人も入れば満員になってしまう小さなバーだが、雰囲気がとても好きだ。ヴィヴィアンリーやイングリッドバーグマンなどの映画スター直筆の書簡が展示してあり、おかれた家具の趣味がいい。古いジャズがかかっていて、ノスタルジックな気分に浸れる。長居をせずに部屋に戻ると、留守中にきちんとメイドサービスを行い、就寝の準備を調えてあった。このあたりにも旅館のタッチが伺える。

翌日の朝食はプールサイドのテラスで取る。焼きたてのパンと挽きたてのコーヒーを、爽やかな風を感じながら楽しめば、実に気分壮快だ。ちょっと季節を外せば、値段的にもとてもお得。平日にゆったりと大人の休日を楽しめる隠れ家だ。

2000.09.29
虫たちの逆襲
ラ・シェネガ Standard Room 2nd Floor
哀-2

急に海が恋しくなると思い浮かぶホテルのひとつがこのラ・シェネガだ。目の前に波打ち際が広がるリゾートもいいけれど、そんな時は荒い波音が闇に砕けるよな海を望むこのホテルの環境に惹かれる。シーズンオフのラ・シェネガはひっそりとしているが、その静けさと32室という規模がココロのクールダウンにはありがたい。

この日も思い立ったように出掛けたが、想像していた癒しはそう簡単に手に入らなかった。チェックイン時に感じたのだが、以前はもっと小規模ホテルらしくフレンドリーな印象のサービスだったものが、随分とあっさりと事務的な感じに変わってしまったことだ。このくらいの規模だと、サービスの距離感を最適に保つのは非常に難しい。あまりそっけないと気まずくなるし、至れり尽くせりではうっとうしくなる。このホテルのホテルとしての快適度を左右するのは、そのバランス感覚を身に付けた従業員が存在するか否かかもしれない。皆不足があるわけではないが、今一歩及ばない感じがした。

今回利用した客室はもっとも低層の2階、ちょうどレストラン棟の真上だったが、眺めや騒音などにマイナスポイントはなかった。上層階に行くにしたがって眺めは格段によくなるが、室内の設備は基本的に同等だ。37平米の面積があり、室内の天井高は240センチと低めだが、窓がワイドに取られ、余計な家具などがなにもないせいか、とっても広々と感じられる。

すべての客室にはバルコニーがあって、テーブルと椅子がセットされている。ベッドは120センチ幅で羽毛布団が心地よい。6平米弱のスペースを持つバスルームはタイル張りでほとんどの客室にはシャワーブースを付帯している。KOHLER社製の大きなバスタブやすっきりしたデザインのベイシン、ガラスでなくプラスチック製の扉と壁に囲まれたシャワーブースは、独特の雰囲気を醸し出しているが、残念なのはメンテナンス状態だった。シャワーブースには湯垢やカビが目立ち、シャワーヘッドのホルダーがゆるくて湯を勢い良くだすと踊り出してしまう。せっかく勢いがいいのにそれが生かせないのはもったいない。

アメニティはだいぶ貧弱になってしまい、必要最低限の品揃えだ。ただ、パイルスリッパがあったり、湯沸かしポット用に無料のミネラルウォーターを用意してあったり、ボロボロで気の毒なほどだがバスローブも一応あるなど、頑張っている部分も見逃せない。ルームサービスは16時から23時までの間営業しており、コーヒー600円、ピザ1200円などのほか、ユニークなのは湯河原「葵寿司」からの出前が21時から23時までの間だけ注文できることだ。ミニバーもあるが、ランドリーサービスは廃止されてしまった。氷はルームサービスで400円掛かるが、バーからロックアイスが運ばれてくる。

ターンダウンサービスは丁寧に行われ、細やかさを感じ取れるだけに、妙なところがかえって目に付く。波の音を聞こうと窓を開けておくと、すぐに蚊や小さな虫が入って来て噛み付かれたりするので、あらかじめ蚊取りマットを借りておいた方がよい。しかし今回はもっと大きな害虫が室内に数匹出没し驚かされた。フロントに殺虫剤を頼んだが、さして驚いてもいない様子。考えてみればレストランの真上の客室だし、このようなことは日常的なのかもしれない。更に常備灯の電池が切れており点灯しなかった。

ベイシンとシャワーブース。鏡は小さ目。 大きなバスタブは疲れをほぐしてくれる。

Y.K.