1998.08.07
小樽はやっぱり寿司でスカイ
小樽グランドホテル Suite
楽-3

早朝の飛行機で札幌へ。今時早い時間のガラガラの飛行機に通常料金で乗っている客なんて、他にいるのかなと思いながらしばし睡眠。新千歳空港からは、快速エアポートという快適とは言い難い電車に揺られ1時間ほどで小樽に到着した。空港から札幌の市街までの車窓は、意外と北海道らしい広大な風景が広がり目を楽しませてくれるのだが、如何にせん車両が風情も味もない通勤電車みたいな感じなので気分が盛り上がらない。

せっかくの北海道なのだからちょっとレトロな感じの列車でも走っていたらいいのに。札幌から小樽までは、進行方向右側の席を陣取るのが断然ベター。途中から日本海が線路脇ぎりぎりまで迫って、なかなか気持ちいい。小樽築港の駅周辺では大規模なウォーターフロント開発が進んでいて、来年にはショッピングセンターや、映画館、そしてヒルトンホテルができる。この辺りにもお台場現象が巻き起こっているらしい。ニチイがヒルトンをやる・・・ ちょっと恐い気もするけど。

小樽に着いてまずホテルにチェックインしようと思い歩いていたら、今回のコンサートの世話人に道でばったり会い、勢いに負かされそのまま寿司をご馳走になってしまった。小樽に着いて10分後には寿司を食べている。それも、ずいぶんと気を使ってくださり、大事な客の接待でしか使わないと言う小ぢんまりとした店で、赤雲丹や子持ち蝦蛄など、小樽ならではの変わったネタを振る舞ってもらった。それなりに腹ごしらえはした後だったのに、ペロッっと食べてしまった。とりあえず夜のリハーサルに備えて、ホテルで体を休めなくてはと、話しが盛り上がり過ぎないうちにそそくさと失礼してホテルに向かった。

観光地小樽はホテルが不足している。夏休みの観光シーズン真っ只中で、どこのホテルも満室の日が続いている。ホテルとしては黙っていても客がやってくるわけで、よい仕事をして客を喜ばせようなどとは毛頭思っていないらしい。ホテルに着いて最初にあてがわれた部屋は、びっくりするような狭さのシングルルームだった。窓の外には手の届きそうな距離に隣のビルの壁があるだけだ。

ホテルの担当を呼んで話しをしたところ、これがまたホテルマンらしからぬ人で、「主催者に部屋を用意しろと言われたから用意しただけだし、今は観光シーズンで他の部屋はないから、我慢して欲しい」といけしゃーしゃーと言う。それなら主催者と話しをしたいと言うと誰だかわからないなどと抜かす始末で、本番を控えたぼくは結構切れそうだった(切れてたかもしれない)。1時間ほどして主催者が慌ててやってきてくれ、スイートに案内してくれた。結局は手違いだが、東京のホテルではこんな事件には遭遇できないから、貴重な体験をしたと言えないこともない。

新しい部屋は、窓が大きく取られた最上階のコーナーに位置する見晴らしの素晴らしい部屋で、小樽市街や海が望め、同じホテル内とは思えない雰囲気。8人掛けのダイニングセットやバーカウンターなど、設備も十分だが、バスルームはありきたりのつくりで、石が張ってあるでもなし、石鹸が大きいわけでもなし、シャワーの水圧も低く、地方のホテルだなぁとつくづく感じた。もちろんルームサービスもないし、ベルマンもいない。でも、料金はご立派で、東京顔負けの値段が設定してある。

各ホテルのラックレートやパッケージプランは軒並み東京の高級ホテルと同等で、2名1室朝食付きでひとりあたりの料金は1万5千円から2万円近いものが多い。同じ時期の札幌と比べても倍近い値段だし、ホテルのクラスを考えたら更に割高感がある。実際に観光客は小樽にステイせずに、札幌から日帰りで回ってくることが多いそうだ。

午後からのリハーサルが一段落付いたので、夕方からひとりで小樽運河を散策しに出かけた。東京に比べれば夕方はかなり涼しくて、過ごしやすい。カーデガンか何かないと肌寒いくらいだ。運河沿いはカップルばかり。水面に街燈が映えて美しい。ひとりでいるのも変に思われそうだからコンビニによってホテルに戻った。ホテルにルームサービスがないから、コンビニでコーヒーを買う。最近はフィルターがセットになっていて、それなりにいれたての感じが楽しめる便利な品が売られている。そのコンビニにはJALが出している「コーヒーでスカイ」というのが売られていた。「カレーでスカイ」というレトルトカレーもあった。ネーミングに惹かれて「コーヒーでスカイ」を買い、だだっぴろいスイートのリビングでポットの湯を使いコーヒーを飲む。

夕食はホテル内の中国料理店に入った。立派にサービス料を取るホテルの中国料理店でテーブルクロスをかけていない店は初めてだ。安手のテーブルには紙ナプキンさえない。ここは長崎ちゃんぽんか?でもバーミヤンと同じくらいの味だったし、バーミヤンの料理をホテルで出せばこのくらいの値段に化けそうだなと納得のゆく価格だった。食後にあたたかいお茶を出してもらったら有料だった。

いったいサービス料は何に対して加算されているのか、見当が付かなかった。その後、音響さんが東京から発送した機材が着いていないということで大騒ぎ。でも、あるホテルマンが受け取ってそのまま引き継がずに帰ってしまっただけだった。その影響で結局深夜までリハーサル。

ホテルの実力は朝食によくあらわれてくる。ぼくは意外と早起きなので、大抵の場合オープン時間に一番のりするが、音響さんは寝坊をしたらしく、10時までという記載がある食券をもって10時すれすれに入店したらしい。すると、10時までだからもうだめですと言われたそうだ。ぼくの感覚では券面の時間は入店可能な時刻を示しているものだと思っていたが、どうも違うらしい。実際、入店できたとしても満足なものは食べられない。パサパサのパンに冷めた目玉焼き、合成着色料の塊みたいなジャムとマーガリン。一流ホテルは朝食が違う。搾りたてのジュースが飲みたくても、ここでは無理だった。

コンサートも無事にはねて、例によって主催者側の皆さんと食事をした。運河に程近い寿司割烹の店に案内された。通常は9時で閉店にもかかわらず、ぼくらのために10時過ぎまで待っていてくれた。刺し身やカニ、寿司などが次々に用意され、殿様になったような気分。印象的だったのは、どの魚も甘いこと。生臭さが一切なく、苦手な種類の魚もおいしく食べられた。

1998.08.09
立ち姿
サッポロルネッサンスホテル Club Deluxe Room
喜-3

小樽のホテルにもう1泊したあと、最終日は口直しに札幌のホテルに1泊した。外資系の都市型ホテルはやっぱり快適だ。特別階の客室には、花瓶を借りてコンサートでもらった花束を飾り、大きな窓から降り注ぐ午後の太陽の光を浴びながらルームサービスで注文した搾りたてのジュースで喉を潤す。豊平川を渡ってくる風を取り入れるために窓を一部開閉できるつくりといい、高い天井といい、大きなベッドに清潔で肌触りのいいシーツといい、なにもかも特別に素晴らしいことのように思えてきてしまう。屋内プールで軽く泳いでコンサートの疲れを癒し(しかし、スパの中は子供のサッカー場と化していた)、ロビーに面したラウンジで挽きたてのコーヒーを飲む。

このホテルでは昼間で、閑散として人がほとんどいないというのに、贅沢にピアノの生演奏が入っている。学生さんなのか、近所の音楽教室の先生なのか、背伸びしてショパンやリストを弾いてくれているのだが、かえって危なっかしくって気が気でなかった。昼食は中国料理の店に行ってみた。飲茶セット1,800円。これは激安。グラスのモエエシャンドンが900円というのも破格だろう。当たり前だがきちんと真っ白なテーブルクロスがかけてあり、布のナプキンがある。お茶だって無料だ。

飲茶は豊富なメニュから6種類選べる。これがどれも本格的な味。サービスも的確で気持ちがいい。なのに、お客が少ないのだ。これは本当に気の毒だと思った。目の前に料理が出される時はついついサービス人の手に目が行ってしまう。爪が伸びているなとか、かわいそうにカサカサになっちゃってるなぁなんて具合に。この店にはとても綺麗で長い指の従業員がいて思わず「綺麗な指をしていますね」と声をかけてしまった。

夕食はスペシャリティレストランに出かけた。イタリアンとフレンチが一緒になったようなメニュで、これが東京なら面白味に欠けると感じるところだが、なにぶん前日まで寿司三昧だったので新鮮に思えたほどだ。昼間の中国料理店同様、店内は閑散としている。だが、昼の店より気の毒だという気がしない。店内のインテリアも高級店にしてはチープだし、料理にも冴えたところはない。可もなく不可もなくという感じ。強いて言えば生ハムに添えられた食用のほおずきが印象に残った程度。量的にも少し物足りなかった。

食後にダブルエスプレッソを注文したら「豆の量は同じでお湯の量が倍になりますがよろしいですか」と聞かれた。豆もお湯も倍にしないとダブルにならないような気がするけど・・・ 食後にメインバーへ行った。すると昼間中国料理店にいた指の綺麗な女性がバーテンダーをしていた。「わたし本当はここの人間なんです」といいながらブランデーアレキサンダーをシェイクしてくれた。旅先でこんな風におしゃべりがはずむのも悪くない。

ここのバスルームは広く取られたシャワーブースとスタイリッシュなベイシンが印象的。控えめな照明が基調のブラックと良く合う。ぐっすり休んだ後は熱いシャワーを浴びて朝食に。早朝のカフェレストランでの朝食といえば、まだゆったりとした空気が流れていて、外国人やビジネスマンが新聞を読みながらこコーヒーを飲んでいるような図を想像するが、ここは違っていた。

開店早々だというのに、黒山の人だかり。行列さえできている。昨日はあれほど閑散としていたホテルなのに、こんなに宿泊客がいただなんて! それもツアーのお客ばかりで、大きな荷物を持ったまま、ブッフェカウンターから山盛りの皿を運んで、慌ただしく食事をしている。厨房から運ばれてくるものがあっという間に無くなる。まるでデパートの催事場だ。きっと、道内をくまなく回るために集合時間がとても早いのだろう。昨夜も遅くに到着したのかもしれない。せっかく立派なホテルに滞在しても本当に寝て食べるだけでもったいないなぁ。8時前には台風一過のごとく店内は落ち着いた。

観光地のホテルは遅めの朝食がいいかもしれない。この状態では行き届いたサービスをする気も失せるのかもしれないが、大学病院みたいな無味乾燥のサービスをされるといささか不愉快だ。食べ終わった皿は下げてくれないし、コーヒーのおかわりを頼んでも一向にくれない。こんなことなら、朝食は和食かルームサービスにすればよかった・・・遅かりし由良之助。

最後に、このホテルでもっとも感心したのはベルボーイの立ち姿だった。チェックインをしている数組の客の後ろで一列に背筋をピンと伸ばして立ち、荷物は曲げた肘に大事に持っている。見るからに一流ホテルのスタッフだという感じがした。これほど粒の揃ったベルボーイを見たのは久しぶりだ。

Y.K.