1997.06.07
キッチュなホテル
下田プリンスホテル Standard Room
楽-3

伊豆界隈のリゾートホテル、中でも海沿いのホテルはシーズンによって、びっくりするくらい料金に開きがある。最も安い時期とピークでは3倍近い差があるところもざらだ。このシーズンは閑散期で、これまたびっくりするくらい手頃な値段設定だったので、ものは試しと出掛けてみた。

下田駅からは車で10分ほどでプリンスホテルに到着する。エントランスからは、すぐ横手に従業員用の寮が建っているのが見える。ホテルの建物はかなりの年月を重ねて来ただけあって、少々くたびれ気味に感じたが、これでも要所要所改装したばかりだという。

確かに、きれいにはきれいだが、最近になって改装したというのは信じがたいほどに、古めかしいというか、今時どこを探せば手に入るかわからないような、60年代風の壁紙や照明器具を使っている。まぁ、部分的に最新型にしても、かえって調和が取れないだろうから、かまわないが。

チェックインタイムより少々早めに到着したら、時間までロビーで待たされた。時間厳守らしい。時間になると、銀行の開店時間のように、フロントカウンターが開き、「お待たせしました!ただいまからチェックインを行います!」と声を張り上げる。な、なんか、かわいいホテル・・・なんて思ってしまった。

手続きを済ませると、ベルが案内するまで再度ロビーで待たされる。都内のホテルならしびれを切らすところだが、リゾートだし、何しろ破格だから、ここはじっと我慢。10分ほど待った頃だったろうか、元気のいいベルが案内しにやってきた。レストランなど、なにか施設がある毎に立ち止まって丁寧に説明してくれるのはありがたいが、どちらかというと、早く部屋に落ち着きたいんだけど・・・

非常口の案内も丁寧にしてくれ、この調子じゃ避難訓練までさせられやしないかと危惧し始める頃にやっと部屋に入れてくれた。これまた古めかしい部屋! 低いベッドに、妙な色づかいのソファや、お化けが出そうなバスルーム。天井から下がる照明器具はこうキッチュとしか言いようがない。なかなかお目にかかれそうもないものばかりで、かえって興味が湧いてきて楽しい。窓のサッシは公団マンションのそれのようだ。しかし、その窓の向こうに広がる景色ときたら、なんて素晴らしいんだろう!

この日は強い風が吹いていて、海が荒れていた。高い波が白く砕けて、迫力のある波音を響かせている。サッシを開けて狭いバルコニーに出ると、吸い込まれそうなくらいダイナミック。それでいて、海の色は美しいのだから、穏やかな日に来れば、もっと美しく澄み切った海を眺められるだろう。この環境なら部屋のボロさなんて御破算にできる。

このホテルのもう一つの大きな魅力は、展望温泉大浴場だ。ワイドな窓からの景観を眺めながら、十分な湯量の湯船に浸かれば気分は極楽。オフシーズンはほとんど貸し切り状態で、なおのこと気持ちいい。下田プリンスホテルは、温泉旅館を全室洋室にしたようなホテルだ。

Y.K.