1996.09.21
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フォーシーズンズホテル椿山荘東京 Club Executive Suite Garden View
楽-3

開業して初めてこのホテルに足を踏み入れた時、日本にもやっと、ものすごいホテルができたものだと、度肝を抜かれた覚えがある。他に例を見ない、重厚で豪奢な建築は超高級ホテルフォーシーズンズの威厳を十分に放っていた。まるで、今から王侯貴族でもやってくるのかと思うほどに、館内はどこも手抜きのない手入れが施されていた。

サービス人もまた然りで、リラックスと緊張感との微妙なバランスを保ち、この高品質な空間に相応しい、真のテーラーメイドサービスを実現しようと、それはもう意気揚々としていたものだ。多くのトップエグゼクティブを迎えて、旅なれた方々に満足を与えることで、他の追随を許さない孤高のホテルとなろうと皆が燃えていた。

しかし、現実はどうであったか。彼らの努力虚しく、ゴージャスなロビーは結婚式に出席するためにやってきた、どちらかというとホテルを利用し慣れないお客さんばかり。ロケーションが災いしてか、海外からのエグゼクティブの支持も今ひとつ。これでは彼らの士気が低下するのも無理なかろう。かくして、真のエグゼクティブのためのホテル、フォーシーズンズは、そのサービスの真髄を必要としないゲストに、その生き残りを依存せざるを得なくなった。

今の客層には、1時間仕上げのプレスサービスよりも、オルタネイティブキュイジーヌよりも、24時間のコンセルジュサービスよりも、無料のリムジンサービスよりも、手頃なパッケージプランとプライベートな空間の方がありがたいに違いない。フォーシーズンズホテルの何たるかは、その豪華さや居住性の快適さだけでなく、メイドや館内のハウスキーパーを含め、充実したサービス体制抜きに語れない。

例えば、フォーシーズンズのコンセルジュは、500ページの文書を、安全かつ確実に、期限までに、しかも可能な限りリーズナブルにニューヨークに送る方法についても熟知しているから、ベストの手段をアドバイスしてくれる。しかし、そういった腕の見せ所があまりにも少ない。今後、婚礼は順調に業績を伸ばしていくだろうし、それに追随して稼働率も上がってくるだろうが、その中で、本当にフォーシーズンズの実力に適ったゲストの割合は低下する一方のような気がする。

開業当時に燃えていたスタッフが、個人の諸事情でだんだんと減ってきて、婚礼ホテルになってから入社したスタッフの数が増えてくると、サービスの水準がどんどんと低下してくる。すでに彼らは試行錯誤をやめ、現状を保っていくことに意味を感じ始めている。現状に満足することが、いかに危険かをもう一度考えてもらいたいものだ。また、滞在中は従業員と多く接し、相談や頼みごとをして、積極的にサービスを受けるようにすれば、ゲストは価格以上の満足感を得られ、従業員には絶好のケーススタディーとなり、お互いのためになるような気がする。

今回は滞在中、隣室の騒音に悩まされた。隣室といっても、廊下を隔てたお向かいの客室にだ。その客室も同じエグゼクティブスイートだが、この日に披露宴をした新婚さんの部屋だった。おめでたいことに水を差すつもりはないが、扉を開け放して、友人がかわるがわる遊びに来ては、室内で大騒ぎしていて大迷惑。いったい何人が部屋に入っているのか。

客室の前には介添えが立っていたので、「騒々しいので、せめて扉を閉めていただけませんか」と申し出たが、一度目は無視。二度目に厳しく言うと、しぶしぶ扉を閉めた。二次会なら宴会場でやって欲しい。それにここはフォーシーズンズクラブフロアだ。静かに過ごそうと思って来ているのに、何と配慮の無いことだろう。

このホテルで味わうもうひとつの至福は「スポーツマッサージ」だ。案内には指圧もあるが、これはちょっと違う。グローバルスポーツ研究所の若きマッサージャーが、リンパ系を中心にパワフルに揉み解してくれ、よくあるホテルのマッサージとは、爽快感がまったく違う。本当に効いたという実感がある。施術中もかなり痛〜い。ぼくは肩凝りの塊のように筋肉が凝っている。毎度「常に緊張するお仕事をしているんですね」といわれる。おもしろいくらいに凝っているから、興味深いとまでいわれる。50分8,000円と少々高いが、その価値は十分にあり。フォーシーズンズの他、ウェスティン東京でも体験できる。

チェックインの前に「ビーチェ」で昼食をとった。しっとりとした雨の降る仏滅の土曜日は、ロビー同様に店内もひっそりしていて、混雑時よりも高級感が漂っていた。久しぶりの「ビーチェ」だったが、これといって大きな変化はない。相変わらず、若いサービス人ばかりで、マニュアル通りよく動いているが、気配りとか、安心感といったものは与えてくれない。店も値段もご立派なんだから、もう少し貫禄のある人材を常にひとりくらいはうろうろさせておいたらどうだろうか。

昼のコースは6,000円と8,500円の2種。ほとんどの料理にチーズが使われていて、チーズづくしコースという感じ。サービス同様、料理も格別味わい深いものではなく、強いて言えば、手打ちのパスタと、バスケットいっぱいのパンがおいしかった。また、グラスワインの品揃えが豊富だ。

Y.K.