1992.03.24
フルーツのないホテル
「ラ・ベルエポック」ホテルオークラ
喜-3

世界の賓客をもてなす「ホテルオークラ」のメインダイニング「ラ・ベルエポック」は、別館12階に位置する絢爛たるアールヌーボーの世界だ。ちなみに、このレストランの上にはペントハウスがあって、高級な客室が集まっている。オークラといえば、サービスに定評があって、館内は随所から品格が感じられ、従業員も誇りを持ってサービスに当たっている。知り合いの指揮者がある従業員に声を掛け「あなた、どこかで見たことがあるような気がするけれど、京王プラザにいなかった?」と尋ねると、憤慨して「いいえ!私は生っ粋のオークラマンです!」と答えたそうだ。そんなオークラ流サービスの真髄を味わえると期待をして出掛けたが、その期待が大きすぎたようだ。この日は、我が25歳の誕生日。それをわざわざ店に伝えたり、それに対して特別なことをしてもらおうとは思っていないが、せめて不愉快な思いだけはしたくない日だ。サービス陣は思いのほか覇気がなく、丁重ながらもよそよそしい感じで、オークラのイメージとはかけ離れていた。20時30分の入店と、遅い来店だったことも影響しているのかと考えたが、一流店ならばそんなことはしないはずだ。それでも、アラカルトで注文した料理は、みな素晴らしかった。最近は現代フランス料理ばかりを楽しんでいたので、伝統的でオーソドックスなメニューに目が行った。デザートの頃合いとなって、季節フルーツのジュビレを注文したが、今日は食べごろのフルーツがないといって断られた。異常気象でもないのに、この大きな高級ホテルが食べごろのフルーツを切らしているとはにわかに信じがたく、遅い時間だったから、ワゴンサービスを必要とする注文を受けたくなかったのだろうと考えてしまった。ひどい大雨のせいで、帰りのタクシーがなかなかつかまらず、ハイヤーを手配しての帰宅。待つ間、あの風格を漂わせたロビーでお客さんの見物をしたが、これはとても楽しかった。

Y.K.