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カペラ シンガポール Constellation Room | |
Capella Singapore | 2011.06.21(火) |
Singapore, Singapore | 楽-5 |
ARCHIVES ・ 1992 |
星座という名の部屋 シンガポールの中心部から車でわずか10分。政府が先導して開発を進めるセントーサ島は、島全体がエンターテインメントに満ちた、夢のようなレジャーアイランドだ。ユニバーサルスタジオやビーチなど、ファミリーで楽しめる施設が賑わいを見せる中、広大な敷地の中に佇む本物のラグジュアリーホテルがひときわ眩しい。その名はカペラ。シティリゾートの理想がここにある。 セントーサ島のゲートを通って1分も走らないうちに、車はカペラへのアプローチへと差し掛かる。先ほどまで建物が密集する街中にいたとは信じがたいほどの静寂。熱帯らしい樹木の間を縫って進むと、視界が急に開け、見事なタナメラ建築が目に飛び込んでくる。 この歴史あるタナメラの1階に、カペラのレセプションルームがある。車寄せに着くと、すぐに係が近づいて、にこやかで優雅な歓迎をしてくれる。荷物は係に任せ、いざなわれるがままにレセプションルームへと進む。 広大なホテルに対し、レセプションルームは邸宅の一室の趣き。コロニアル調の中にモダンアートやアンティークが絶妙に配され、趣味のいい人の家に招かれたような感覚だ。シンガポールの建物内は冷房がキツいと相場が決まっているが、ここには自然な居心地のよさが感じられる。ソファに座ると、ウェルカムドリンクの甘いピーチティーが差し出される。 日本から予約を入れた後、担当のパーソナルアシスタントから電話連絡が入った。滞在中を担当する係だと自己紹介があった後、到着までに用意しておくものはないかと尋ねられた。その時点で特別なリクエストはしなかったが、細やかなサービスに対する意気込みが感じられた。そして、到着時には電話を掛けて来た当人がきちんと出迎えてくれた。 レセプションを出て、ホテル棟へと通じる中庭を歩く。担当係から施設の案内や過ごし方のアイデアなどを聞きながらも、見事に整えられた庭の美しさに目を引かれた。植物は常に手入れされており、枯れたものや傷んだものはまったく目に入らない。草までがラグジュアリーなのだ。 そして建物のカッコいいこと。クラシカルなタナメラと連続しながらも、対照的なまでのモダンなテイストが自然と完ぺきに調和。建物までが有機的で、まるで生き物のようでもある。このホテル棟は5階建て。客室は、ホテル棟の他に、広大な敷地に点在するヴィラと、客室というスケールを超越したマナーハウスから成る。他にレジデンス棟もあり、結構な部屋数を備えているにもかかわらず、とにかく静かだ。 そして、今回予約した部屋が、最上階に4室だけあるコンステレーションルーム。この4室のうちでも、海側の眺めのいいロケーションは希少。どの部屋になるかは当日の運次第だったが、幸いなことによい条件の部屋がアサインされた。 コンステレーションルームは、スイートに出来るほどの広さをあえてワンルームに使い、リゾートらしい格別な開放感に満ちたシグネチャールーム。フローリングの床と丸くカーブした約4メートルもの天井、そして床から一面のピクチャーウィンドウから望むシンガポールの海。都会に居ながらにしてこのリゾート感とは、何とも得した気分だ。 客室デザインには、絶妙なバランス感覚が注がれている。妙な配置で気持ちが悪い部分などひとつもない。部屋の中央には大きなベッドが1台。シックなカラースキームの中で、鮮やかなベッドスローが印象的。マットレスやベッドリネンの質や状態も、ラグジュアリーホテルならでは。 そしてベッドの側面には、大きなフレンチドアがふたつ並ぶ。ドアの向こうには広いアウトドアテラス。扉を開け放てばテラスと一体に。閉じていても昼間は日差しが、夜は星空を眺められ、ベッドに居ながらシンガポールの空を楽しめる。 ベッド背後の壁の裏には、オープンのクローゼットがある。長いハンガーレール、引き出しのあるバゲージ台、ワッフルのバスローブ、ビーチトートバッグ、サンダルなどが備わっている。 ベッド前のピクチャーウインドウに沿って、長いベンチシートが設けられている。クッションの位置を工夫すれば、デイベッドにもなる。ベンチの隣りにはライティングデスク。リゾートであっても、ワークデスクや高速インターネットアクセスはもちろん、スタッフによるビジネスアシスタンスの充実は欠かせない。 テレビはピクチャーウインドウとフレンチドアの間に、可動式のボードに取り付けてある。モーツァルトやバロックなどのクラシック作品のCDが用意されている他、オーディオ設備も充実しているが、このロケーションでは映像も音楽も不要に思え、一度も使わなかった。 フレンチドアの向こうにあるアウトドアテラスは、まさに屋根のないリビングルーム。植栽に囲まれたテラスには、テーブルとイスのセット、大型デイベッド、ジャクージが設置されている。 デイベッドはガラス仕切り越しに森や海を望むように置かれ、一日中寝転んでただひたすら景色を眺めがら過ごしたくなる雰囲気だ。シンガポールの日差しはきついが、日陰ならば風が心地よい。絶え間なく往来する夥しい数の船舶を見るのも楽しい。 ジャクージにはあらかじめ水が張ってある。冷水で入るにはいささか寒いと思っていたが、しばらくスイッチを入れておいたら、いつの間にか程よい温度まで上昇していた。どうやらスイッチを入れることで、適温になるらしい。夜間は星空を見上げながらのジャクージ。まさにコンステレーションルームだ。 テラスは更に部屋を隅の方まで続いている。奥には石のベンチもあり、トータルすればかなりの広さだ。特に、朝方の湿った空気には、草木のにおいが染み込んで、自然の中で目覚めたような気分にさせてくれる。このホテルにとって、テラスの存在は重要だが、これほどのゆとりはコンステレーションルームのみ。 室内にはエスプレッソマシンや上質な紅茶の他、さまざまフルーツの入ったバスケットが用意されている。 冷蔵庫には10本のソフトドリンクが入っており、すべて無料。アルコール類はなく、必要な場合はルームサービスで注文する。 居室とはスライドドアで仕切られたバスルームもまた広々としており、開放感たっぷりの造り。ナチュラルテイストながら高級感のあるデザインも魅力的だ。天井高は約3メートルある。 ベイシンは2面。それぞれに照明付きの細長いミラーが設置されている。スツールは中央にひとつ。タオル地のカバーが掛けられている。壁は艶消し仕上げの黒い天然石だ。 ベイシンの脇にはバスタブ。大きな窓に面しており、テラスと同じ景色が眺められる。バスタブの縁には胡蝶蘭の鉢植えがある。 バスタブは大型。周囲を大理石で囲われており、その仕上げ工事も丁寧。ハチミツの入れ物に入っているのは、バスハニー。案内してくれた係に「食べられるの?」と尋ねると、「やめておいた方がいい」とスマイル。蓋を開けると、甘いというより、ゴージャスな香りが溢れた。 バスタブとは反対側に、扉で仕切られたトイレとシャワースペースがある。シャワースペースも黒い石に囲まれた空間。ここまでは自然光が届かず、洞窟のような不思議な雰囲気がある。もちろん大型で強力なレインシャワーを備えている。 バスアメニティはABANNA。バスタブ脇に置かれたものは、まるで香水のようにリボンの掛かった立派な箱に入って並んでいる。 細かいアイテムはカペラのロゴマーク入りのホワイトポーチにまとまっている。タオル類は豊富に用意されており、しかも欲しいと思うところに置いてあるのが嬉しい。バスタオルはなんと8枚。 夕刻になると室内のムードは一変する。室内の照明はすべて白熱色かハロゲン。シーンコントロールが可能な照明効果により、気分に合わせたムードを作れる。 ライティングデスクに添えられたイスも、さりげなくコロニアル調で洒落ている。こんな光と雰囲気の中ならば、旅先からの便りを書きたくなる。ゲストステーショナリーが入っているボックスも、手に取ってみるとなかなかいい品物だ。 ターンダウンは夕食に出ているタイミングを見計らって行われる。ディナーから戻ると、枕元にはキーンと冷やしたミネラルウォーターと軽いスナック。だが、眠るのは惜しい。このまま夜明けまで雰囲気を味わい尽くしたいものだ。 深夜、凄まじいサンダーストームがあった。雷も雨も激しく、さながらロックステージのような光の明滅だ。アウトドアテラスはすっかり冠水。フレンチドアのところに、バスマットが何枚も用意されてあり、いったい何に使うのかと疑問に思っていたが、嵐に遭って初めて理解出来た。土嚢の代わりにドア下に敷き詰め、室内への雨水の浸入を防ぐのである。深夜に豪雨対策。これも熱帯リゾートならではの経験だ。 滞在中の食事はすべてホテル内のダイニングを利用した。東南アジア料理とインターナショナル料理のオールデイダイニングと中国料理店があり、いずれも洗練されたサービスとユニークでハイクオリティな料理を提供している。いずれの店も、客を楽しませようという演出力が実に素晴らしい。 また、滞在客はレセプションの上階にあるラウンジを自由に利用できる。英国式に入れる香り高い紅茶を始め、さまざまなソフトドリンクが揃う他、アフタヌーンティの時間には、ホテル自慢の菓子がズラリと並ぶ。 器も本格的で、優雅なアフタヌーンティを楽しめる。にもかかわらず、ほとんど客の姿を見かけない。朝食時のレストランはそれなりに賑わっているので、宿泊客が少ないわけでもない。日本のホテルだったら、ラウンジは超満員になることだろうが、ここではまだ静けさが保たれている。 ホテルには3つのプールがある。それぞれに深さや用途が異なっており、気分で選びながら気ままに使える。いずれのプールも緑に囲まれて気持ちがいい。 最下段にあるロングラッププールは成人専用。ひたすら泳ぎたい人がよく利用しているが、誰かが使っていれば、空くまで待つ心得のある客ばかり。互いにプライバシーや距離感をコントロールしながら過ごしている。 プールサイドにはデッキチェアが並び、タオルのセットなど、メンテナンスは常に行き届いている。水質管理もよく、子どもでも安心して泳げる環境だ。他にフィットネスジムやスパ施設も充実している。 スタッフたちは、みな陽気で親切。敷地内ですれ違えば、必ず笑顔であいさつする。そして、多くは名前で呼び掛けてくる。初めての滞在、かつ短い滞在でさえ、こうして丁寧に扱われるのは、とても気分がいい。 敷地内だけでもじゅうぶんに広く楽しいが、緑の中を縫うように設けられた遊歩道を進んでいくと、ビーチへの通用門がある。そこを出れば、明るく開放的なセントーサの表情に出会える。そしてまたカペラの敷地に戻る際には、カードキーが必要だ。出る時には不要なので、うっかりキーを持たずに出てしまうと、帰るのに一苦労することになる。 敷地外に出てからふたたびカペラに戻ると、いかにここが別世界であるかが、一層深く実感できるだろう。すべてが洗練されていながら、ナチュラルな心地よさ。バーラウンジでのライブミュージックも嫌味がなくとても楽しげ。開放的な雰囲気でも、ハメを外す下品な客はおらず、高い品位が保たれている。ホテルはロケーションやサービススタッフだけでは完成しない。今や、客の品位こそが問われる時代なのだ。 |
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