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川奈ホテル Ocean View Double Room | |
Kawana Hotel | 2010.06.12(土) |
静岡県伊東市 | 楽-4 |
ARCHIVES ・ 1992 |
風格のゴルフリゾート 都心から伊豆半島へと向かう特急列車は、週末らしい混雑を呈していた。伊豆急行所有の風変わりな車体は「アルファ・リゾート21」と名付けられ、グリーン車に相当するロイヤルボックス車両には、お召し列車を思わせる四つ折り扉や、トンネルに入ると天井に海底をモチーフにしたイルミネーションが出現するなど、他に類を見ないユニークな工夫が施されている。 川奈駅から車で5分ほど走った高台にある川奈ホテルは、昭和11年開業の歴史あるリゾートホテル。隣接するゴルフコースはゴルファー憧れの聖地であり、ベストコースとして数々の賞に輝いている。ホテルでは首脳会談が行われたこともあり、リゾートにして名門というイメージをほしいままにしてきた。 これらホテルとゴルフコースは切っても切れない関係にあり、互いの名誉を支え合って今日に至っている。また、川奈ホテルは以前オークラの一員だったが、現在はプリンスホテルズ&リゾーツに属している。 いかにも伊豆の風土に囲まれた穏やかな環境は、そこに佇むだけですべてが浄化され、こころのゆとりが蘇ってくるかのよう。木立に囲まれたアプローチを下ると、赤い瓦を頂いたホテルの建物が見えてくる。 こぢんまりとした正面玄関は、別荘地の大邸宅を思わせる造り。ホテル外観はディティールを見ると凝っているが、一見した限りではホテルというより病院や宿舎のようなさっぱりとした印象を受ける。 石構えの玄関にはガラスの二重扉があり、赤いカーペットが敷かれている。アンティーク風のペンダント照明も趣きを感じさせる。 玄関を入ってすぐ脇がフロントレセプションデスク。反対側にはクロークがある。正面にはガーデンへと続く出入り口やメインロビーがあり、一歩踏み入れた瞬間から風格と伝統の空気に包まれることを実感する。 まずは手続きを済ませて客室へ。今回は新本館5階にある海側のダブルルームを利用した。面積は約30平米。デビット・ヒックス氏の特徴あるデザインテイストが、長かったオークラ時代の趣きを色濃く残す客室だ。 ヨーロピアンデザインの白木家具、天井の蛍光灯間接照明、テーブルの足元にカーペットと同じ生地を張ってあることなどなど、オークラ風の箇所は数えれば切りがない。それだけ、オークラ=デビット・ヒックス氏というイメージが出来上がっているからだろう。 デスクを中心とした家具類もエレガントで立派なものが揃っている。デスク前のミラーは大型で、枠もしっかりとしたもの。テレビは旧式で21インチと小さいが、いずれこの地にテレビはあまり似合わない。 ベッドには本来スプレッドが掛かっているようだが、すでに外してメイクされていた。幅は160センチ。ベッドボードの幅と合っていないのが少々アンバランスだ。 窓際には存在感のあるブルーのアームチェアがふたつ向き合っている。高級レストランにでもありそうな、エレガントなデザイン。座り心地もいい。 窓は横幅いっぱいに広がっているのだが、残念なことにスライド式のルーバーが取り付けられているので、常に半分は隠されてしまう。他にレースカーテンとドレープもあるので、このルーバーはなくてもいいように思った。 バスルームもオークラ風だ。壁と床は大理石張りで、ベイシン上には4つの蛍光灯、バスタブ上には丸い蛍光灯を備え、明るさは万全。バスタブの壁面にも大理石を用いている。広さは165×270センチ。 シャワーカーテンはなく、アクリルのサッシ扉を設置。バスタブと壁面の間に10センチほどの余裕があるところもオークラらしいデザインだ。バスマットはロゴ入りの赤いもので、なかなか印象深い。バスタブは大型でゆったりサイズだ。 ベイシントップは広々としており、下段にも引き出しや収納棚が設置されているのが便利。タオルには赤いゴシック体の小文字でkawanaと刻まれている。バスアメニティも、オークラ時代の流れを残しているようだ。 ホテルの新本館と本館の間にある塔の最上部は展望台になっている。客室階ホールから、細く薄汚れた階段を上がり、9階相当の高さまで行くのだが、岬の灯台にでも上がるような気分だ。しかも、なんとなく金田一ミステリーに出てくる殺人現場のような雰囲気があって、ちょっとしたスリルも味わえる。 だが、ひとたび展望台に出ると、息を呑む眺めに心が洗われる。遥か彼方まで海原が続き、飛行船に乗っているよう。傍らには古い望遠鏡もある。 丘が連なる風景や、間近に見る瓦屋根のホテル棟など、いつまでも眺めていたい景色だが、残念ながらここにイスなどの類はなく、長居は難しい。また、季節によっては寒さが身に沁みるかもしれない。 展望台から地上を眺めていたら、実際に歩いてみたくなり、メインロビー前の扉から、芝や木々のある庭へと出てみることにした。 ロビー前の扉からは石の階段で芝まで下りられる。そこもまたゴルフコースを思わせる、手入れの行き届いた芝が敷き詰められ、たいへん気持ちのいい場所だ。空も土地もひろびろとしている。そして、ほとんど人がいない。 起伏の向こうにはゴルフコースも見え、その先は果てしない海。そして、まるでこのまま両手を広げれば、飛んで行けそうな気のする空である。 これといって変わったものがあるわけではない。しかし、芝や木にさえ風格が伴っているから驚きだ。この雰囲気こそ伊豆・川奈であり、川奈ホテルなのだろう。ちょうどいいベンチを見つけて、海を見ながらひとやすみ。ゴルフはせずとも、好プレー後のようないい気分だ。 館内に戻り、エントランスホールの階段から2階へと上がってみた。すると、そこには川奈ホテルにしてはモダンなソファが置かれたライブラリーがあった。男性的なデザインが多いこのホテルの中にしては、わずかに女性的な雰囲気のある家具が見られる。 フローリングの床に、段通が敷かれ、壁には蔵書の入った書棚が置かれている。吹き抜けに面した手すりの前には、帆船の模型があり、これもインテリアとしてアクセントになっている。 棚の書物にも風格が漂う。立派な装丁のものが多く、これまでどのような人々がこの書物を手にしたのだろうかと思いを馳せるのも楽しい。 また、ライティングデスクにはレターセットが用意されており、ここで旅の手紙をしたためるのもいい。インターネットもこのコーナーで使用可能とのこと。他に、マージャン、囲碁、ビリヤードなどの部屋も用意されている。 本館から海側に大きく迫り出した部分には、3方向を窓に囲まれたサンパーラーがあり、ここがいわゆるロビーラウンジ的な役割を持っている。ケーキセットを注文し、ちょっとひとやすみ。朝は9時から開いているが、夕方は6時で閉店する。 日が暮れると、庭や海は真っ暗。景色も闇に包まれる。外がが暗くなるに従って、館内に多数ある電球の照明が、温かく浮かび上がってくる。 メインロビーの雰囲気は、日中よりも夜の方がいい。高いところまでガラスをはめ込んだ大きな窓やドア。そこに下がるベルベットのドレープ。数々のアールデコのライト。そして、レトロなレザーソファーたちが、貴族の館のような独特のムードを醸し出す。 メインロビーにある暖炉の上には、創業当時の紋章が掲げられており、訪れる人々を見守っているかのようだ。2階の手すりや梁の意匠も見ごたえがある。 暖炉は大理石造り。今の時期に火が入ることはないが、内部に残る煤跡が、冬の風景を思い起こさせる。ここに炎が揺れれば、きっとロマンチックになるに違いない。 第二ロビー側にも暖炉があり、その上には西田明史氏作の「怪鳥を追ふ」が飾られている。背景のタイルや脇の組石も興味深い。 第二ロビーは、メインロビーから暖炉を隔てて扉で通じている。雰囲気は似ているが、こちらの方がこぢんまりとしており、日本的なモチーフの装飾が多くみられる。 メインロビーはエントランスホールと繋がっており、吹き抜けの2階奥にはライブラリーがある。これらロビーは、自由にくつろげる空間になっており、喫茶営業などは行っていない。 夜のエントランスホールは、ひっそりと静まり返っている。夜間診療の病院だと言われれば、そう感じてしまうような雰囲気もあるが、それは建物が醸すものによるのかもしれない。 あちこちにユニークな照明器具が見られるが、正面玄関上のものは、天井飾りも美しい。夜、静かな館内で、ライトを見て回るというのも、楽しみ方のひとつ。ガラスにも独特の風合いがあり、そこから洩れる光もやわらかい。 サンパーラーとメインロビーの間には、2階へと通じるカーブした階段がある。立派な大理石造りで、手すりにも重厚感が感じられる。 夕食は山小屋風のメインダイニングで。ブルーのカーペット、イスの背もたれに取り付けられた白いカバー、そしてとんがり帽子風のナプキンセッティングが、昔懐かしい雰囲気だ。 テーブルセットもレトロだがきちんとしている。飾り皿はホテル紋章をモチーフにしたオリジナルらしい。カトラリーはあらかじめセットされていた。 2食付きのプランで泊まったので、献立は決まっていた。何が出てくるのか知らなかったが、前菜、スープ、魚料理、小さなデザート、コーヒー、パンというコースだった。 量的にも控え目で、カロリーを気にする人にはちょうどいいかもしれないが、正直、かなり物足りなかった。追加料金を支払ってコースをアップグレードするべきだったと後悔したが、我慢して眠ることに。 そして夜明けとともに目が覚めた。客室の窓からも、海から昇る日の出を見ることができる。朝食は地階にあるグリルにて。地階といっても、傾斜地なので、しっかり窓に面している。メインダイニングに比べると、カジュアルだが、テーブルクロスや布のナプキンを使っている。 和朝食を選んだ。鯵の干物と味噌汁が美味しかった。シンプルだが、美味しくないものはひとつも載っていない。漬物の盛り付けも丁寧。都心のホテルにも見習ってもらいたいものだ。 |
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