交流センター甑島館 Deluxe Room |
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Koshikishimakan |
2009.11.23(月)
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鹿児島県薩摩川内市 |
楽-2
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羞恥心 | もう20年以上も前、あるきっかけで出会った人が甑島の出身だった。その人は故郷を「日本で一番遠いところ」と呼び、「東京から24時間以内では帰れない」ことや「島に信号がひとつしかない」ことを強調していた。 その人の大胆なセンスと行動力の奥に見え隠れするおおらかさや素朴さから、島の風土を想像したものだったが、互いの縁が遠のくに連れ、甑島の名も記憶のどこかに消えていった。 だが、今こうして甑島に向かう船に乗っている。この話が決まった時も、初めて訪れるこの離島のことが妙に懐かしく感じられ、話を聞きながら勝手に想像していた島の風景が心にあふれた。 串木野の港を出発して1時間10分。まるで南国の楽園を思わせるような美しい港が近づいてきた。船は上甑島の里港に入港し、満載の人と車を吐きだした。そして人々はすぐさま散っていき、やがて島の静寂が戻った。この喧騒のない世界は、なんという深い安らぎだろう。たちまちこの島が好きになった。 あの人は、もう島に帰っているのだろうか。それともまだ都会で堪えているのだろうか。それを確かめるすべはない。なぜなら、名前すら知らないのだから。 ホテルは港の目の前にあって、岸から見る限り、ずば抜けて立派で大きな建物だが、公共施設である。外観は半円の弧を描き、客室にはバルコニーが付いているようだ。チェックインタイムは、フェリーの到着時間に合わせて設定されており、島に着いたら待たずとも部屋に入れるのがありがたい。 ロビーはさっぱりとした造りだが、吹き抜けの高い天井の下、ソファがゆったりと配され、ロビーラウンジの営業も行っている。フロント係の女性たちも親切だった。宿泊した客室は601号室。最上階のコーナールームにあたるこのデラックスツインをあらかじめ予約してあった。 すべての部屋にバルコニーが設けられているが、コーナーデラックスの特長は、床から高い天井までのガラス窓に囲まれたリビングスペース。そこにはアームチェアとテーブルがあるだけだが、里の集落や澄んだ港を眺める特等席である。 そしてベッド脇にはバルコニーもあり、直接外の空気に触れることもできる。バルコニーは他の部屋よりは狭い。内装や設備は地方のちょっとしたシティホテルクラス。ユニットバス内とは別にアウトベイシンも設けられている。 タオルはオレンジ色で大小1枚ずつ用意されるが、むれたようなにおいが気になった。また、夜は空調の効きが悪く凍えそうに寒かったなど、見た目ではわからないところで不都合があった。 インターネット設備はなく、部屋備え付けのドライヤーもない。バスアメニティも最低限なので、マイアメニティを持参する方がいい。ロビー階には温泉浴場があり、15:00から21:00と、6:30から9:00の間に利用できる。赤褐色に濁った湯には独特の香りがあった。 食事は2階の宴会場兼レストラン宴会場で提供される。この地はきびなごが名産で、他にも新鮮な魚介類が自慢。朝も夜も必ずきびなごが並ぶ。青魚好きならばたまらないだろうが、苦手な者にはかなりきつい。 食事中はテレビがつけられ、くだらない番組の騒音が神経を逆なでする。ロビーでも同様にテレビがつけられているが、これはどうしてだろうか。観たければ部屋で観ればいいのに。せっかく都会では得難い静寂という価値に恵まれているのに、それを無残に打ち砕くとは愚かに思う。 そんな騒音に耐えきれず、集落の散策に出かけた。石垣に囲まれた家々や、質素な花々。そこには穏やかな日々の暮らしがあった。余計な音など何ひとつ聞こえない。 向こうから土地の小学生がランドセルを背負って歩いてくる。島ではどんな遊びをしているのだろうかと、その子の楽しみを想像しながら歩いているうちに距離が近づき、やがてすれ違った。その子は歌を口ずさんでいた。「しゅ〜ちし〜ん、しゅ〜ちし〜ん」。なんだかガッカリした。 |
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交流センター甑島館(公式サイト) | |
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