北見東急イン Twin Room |
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Kitami Tokyu Inn |
2009.07.01(水)
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北海道北見市 |
喜-4
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旅人の母 | 北見へと向かう途中、大空町にある佐々木旅館に立ち寄り、遅い昼食をとった。小さな町の変哲ない交差点に建つその佇まいは、保養を目的とした宿とは趣きが大きく異なっており、旅館というよりは食堂といった方がしっくりくるようであるが、もう長いことこの地で旅人を受け入れ続け、一度泊まった者はまた無性に訪れたくなるという、魔力を秘めた宿として知られている。
外観からも、どう見たって設備に人が引き寄せられるのではないことは、誰の目にも明らかだ。では、何が魅力なのだろう。遠回りしてでもここに立ち寄らせたがった案内人の意図は、旅館に併設された食堂の質素な椅子に掛けても理解できなかった。やがて、案内人から女将を紹介された。 旅館の女将といえば、和服を端正に着こなし、上品さと機敏さを兼ね備えた振舞いを想像するが、ここの女将は、それには程遠いいでたちで現れたかと思うと、初めて訪れた旅の音楽家を、故郷に戻った息子のように迎えてくれた。この女将は、あらゆる人の母なのである。この宿の魅力は、女将と少しの会話を交わしただけで、はっきりと見えてきた。 さて、腹ごしらえだ。大空町の名物にしようと町が仕掛けたオリジナルの豚しゃぶ丼を注文したところ、それに先駆けて、うどやぜんまいなど、フレッシュな山菜が振舞われた。聞けば、この日の朝に、女将が採ったものらしい。豚丼をたいらげてからも、煮えたばかりのかぼちゃやカットフルーツを出してくれる。これを母と例えず、何と例えようか。 女将はかつて東京三越の物産展に参加した際のことを話してくれた。「いやぁ、東京の人は働き者だね」と切り出し、デパートの地下にある狭苦しい食品売り場で、スーツ姿で汗だくになりながら駆け回る三越社員を見ながら、働くとはこういうことだと知ったという。田舎はゆっくりしているが、たるんでいる。これじゃいかんと思って頑張っているのだと、穏やかな口調で語ってくれた。 人情深く、これほどまっすぐな店には、そうお目にかかれるものではない。また必ず伺うと約束し店を後にした際は、大粒の雨が打ちつけるにもかかわらず、車が見えなくなるまで見送ってくれた。 それからチミケップ湖を通り、北見のホテルに到着した頃には、すでに夕方になっていた。この日の最高気温は13度。7月としては震える寒さである。さびれた町から来ると北見は都会的に感じるが、中心地にさえも人の姿は少ない。 そんな北見中心部では、東急インが最高級ホテルであるが、なぜか宴会施設を備えない宿泊特化型である。もとは同じ建物に東急デパートが入居していたが、デパートは先に閉じてしまった。周囲には東横インやコンフォートホテルがオープンしており、東急インはいささか押され気味の感がある。 ロビーは明るく、まだ新しいように見受けられる。チェックインをしようとフロントに行くと、極めて無愛想な若い女性が担当していた。彼女はレジストレーションカードを、まるでポーカーのトランプのように投げ出した。そして、一度も目を合わせず、不満そうな態度でルームキーを差し出した。エリカ様の真似でもしているのだろうか。 用意された客室は11階のツインルーム。客室は7階から12階にあり、うち11階と12階がコンフォートメンバーズ用のフロアに充てられている。禁煙フロアは9階から11階までとなっているが、用意された禁煙室は極めてタバコくさかった。 ツインと言っても、部屋の面積は18平米。シングルはもっと狭いようだが、ベッドが1台だけな分、フロアにはゆとりがあるのではないかと思われる。ツインは、窓から壁までベッドで埋め尽くされ、どうにも窮屈であった。これなら、ツインのシングルユースよりも低価格で利用できるコンフォートルームの方が、ずっと快適だったことだろう。だが、短時間の滞在である。今回はこれで我慢することにした。 朝食はブッフェが1,050円。早い時間からスーツ姿のビジネスマンでにぎわっていた。さっと朝食を済ませ、7時半には出発。この時はまだ近く閉館することを知らなかったので、これが最後の機会になるとは思っていなかった。どうというホテルではなかったが、生涯一度きりしか利用しなかったと思うと感慨深いものがある。(1982年7月開業、2010年3月31日閉館) |
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北見東急イン(閉館のため公式サイトは閉鎖されました) | |
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