乗車したひかりレールスターは8両編成。なんとのぞみの半分ではないか。長野行き新幹線も8両だが、なぜかJR東日本の新幹線には不思議と違和感を感じないが、東京より東の新幹線は、そもそも別物だと思っている。

新幹線イコール青と白みたいな固定観念を持つ者にしてみれば、東京−博多間は16両であってほしいという意味不明の願望があるのだが、大阪以西もまた、東京以東同様にチャンポンかつ不揃いの世界だった。

こだまに至っては4両編成というものもあるが、もはや新幹線たる威容は保っておらず、発育不良の芋虫のようだ。高速道路の料金割引もいいが、いっそ、のぞみ以外は新幹線料金を大幅に割り引いたらどうだろうかと思った。

新山口駅では地元のファンたちが出迎えてくれた。駅改札で花を持って迎えられ、まるで故郷に錦を飾る勝者の気分だった。ファンたちとしばらく過ごしたかったが、あいにく次の約束まで時間が迫っていたので、ホテルまでの道すがら、歓談しながら歩くことにした。

新幹線改札口からホテルまでは、まず在来線ホームを横切る橋を渡り、在来線口に向かう。新山口駅は線路数が多いので、そこまでがなかなか遠いが、昔ながらの駅舎や雑草の生えた線路には哀愁さえ漂う。在来線口を出ると、ホテルは眼と鼻の先である。そこで九州から戻るエージェントと落ち合うことになっていたが、エージェントよりもひと足先に到着したようだ。

ロビーに入るとちょうど電話が鳴り、19時の約束にギリギリになるとのこと。時計を見ると18時45分。では、先にチェックインを済ませ、とりあえず荷物を部屋に置き、タキシードだけでもスーツケースから出して下げておくことにしよう。

だが、フロントでチェックインをしたものの、ルームキーは渡せないと言われた。理由は、支払いが済んでいないからだとのこと。この宿泊費用はエージェントが支払うことになっており、ヘタにここで立て替えても、あとで面倒になるので、それは避けたかった。

しかし、悠長に待っていると、約束に更に遅れることになりかねない。かといって、荷物をこのままにして、深夜に一層シワがきつくなったタキシードの手入れをするのもゴメンだ。

15分程度のこと、なんとか融通を利かせてくれればいいのに、受付の女性は頑なだった。その上、フロントの後ろで待ってくれているファンを指して、あの人たちは何なんだみたいなことを言われ、気分が悪かった。

ここの狭苦しい部屋に彼らを連れ込もううと企んでいるとでも思っているのだろうか。事の次第を説明すると、それですべての合点がいったのか、支払いを待たずしてルームキーを渡してくれた。急ぎ部屋に荷物を運び、タキシードを吊るして、また急いでロビーへと戻った。

やがて到着したエージェントとともに、夕食会の会場へと向かい、創作懐石と歓談を楽しんでいる最中、ふと気付くとエージェントがいなくなっていた。酔いが回ると電話を掛けに行くクセがあるので、またそれかと思っていたが、料理も半ばだというのに、なかなか戻ってこない。卓上には皿が溜まる一方で、お招き下さった方々も心配しはじめた。

疲れて先にホテルに帰ったのだろうか。だが、それなら一言断っていくだろうし、公演経費の一切が入った大切なかばんはまだ置いたままだから、きっと戻ってくるだろう。しかし、会がお開きになっても、戻ることはなかった。

心配した食事会のホストがホテルまで一緒に来てくれて、フロントい尋ねると客室にいるとのこと。ホッとするやら腹立たしいやらだが、まあ一安心だ。かばんは一晩預かることにして、ホストに深く礼を述べて解散した。

客室は昨年利用したのと同じタイプ。これかツインかの2種類しかないのだから、次はどんな部屋だろうと楽しみにする要素はない。これ以下というのは眺めや採光の条件が悪い部屋があるが、これ以上というのは存在しないのである。

室内の清潔さは昨年同様に申し分ないが、蛍光灯の照明やぬくもりのない素材に囲まれた空間は、限りなく寒々しい。くつろぐどころか、いるほどに疲れる部屋だ。人から集中力と創造力を奪うには、こういう部屋に閉じ込めればいいのではないかと思えてくる。この殺風景な部屋では、ファンがくれた花が何より心を和ませてくれた。