龍宮殿 Japanese Room |
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Ryuguden |
2009.05.29(金)
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神奈川県足柄下郡 |
楽-3
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湖畔の旅館 | 芦ノ湖畔に佇む龍宮殿は、プリンスホテルズ&リゾーツが手掛ける和風旅館で、箱根プリンスホテル和風別館として1957年7月1日に開業以来、50年以上の歴史を誇っている。
現在は、開業当時からの本館と、1990年にオープンした新館(2010年4月より別館に名称変更)に分かれているが、それぞれの建物は完全に独立しており、中で行き来ができないため、一方の館から他方の館内の様子をうかがうことはできない。 新館が純和風ながらも比較的近代的な設計なのに対し、本館は昭和初期の建築の粋を集結させた、建築史の観点からも極めて興味深い造りをしている。この本館はこの地に龍宮殿を開業させるに当たり、静岡県浜名湖から旧浜名湖ホテルの建物を移築したものである。 旧浜名湖ホテルは、当時としては贅を極めたスーパーラグジュアリーホテルで、1936年に時の飛鳥組により開業された。平等院をモデルとし、完全なシンメトリーデザインになっており、外観は純和風ながらも、館内は洋風の設えだったらしい。送迎には馬車が仕立てられ、レストランではフランス料理を出していたというから、一般の人が利用できるようなホテルではなかったようだ。 だが、時期尚早だったのか、開業からわずか1年半ほどで破たん。壮麗な建物は、県や軍の施設を経て、廃屋同然になっていたという。高級すぎて世の中がついていけなかったという点では、リージェント沖縄にも通じるものがあるような気がする。 移築にも苦労があったらしく、芦ノ湖畔まで資材が運ばれた後、宮大工や多数の技術者によって1年以上の歳月を掛けて建てられたそうだ。館内の間取りは元通りに再現されたが、元玄関だった場所は芦ノ湖の方を向く格好になったため、新たに玄関が設けられ、館内の内装は純和風の畳敷きに改められた。 その後、大規模な改修工事が行われているが、元来の風情はそのままに補修や補強がなされ、より安心して滞在できる宿として、歴史ある建築ならではの味わい深い時間と空間を今も提供し続けている。 このような高級和風旅館は、到着から出発までをほぼ館内で過ごし、手の込んだ料理やきめ細やかなサービスをじっくり味わいながら滞在することを想定していることが多いが、最近は旅のスタイルが多様化し、高級旅館もビジネスホテル的なさっぱりとした使い方に対応できるプランを用意するようになってきた。 今回の滞在がまさにそのようなスタイルである。館内で料理を味わう時間はなく、きままな一人旅の途中なので、せっかくの至れり尽くせりのサービスも、むしろ煩わしく感じられるかもしれない。当初は欧米式のホテルに泊まるつもりで空室を検索したのだが、以前から興味のあった龍宮殿に好都合なプランを発見し、迷わず予約したのだった。 正面玄関は神社の拝殿を思わせる趣きがあり、石畳を越えてガラスの引き戸から中に進むと、玄関で靴を脱いで上がるようになっている。もう一か所、宴会場(畳敷きの大広間のイメージ)用の玄関があるが、宿泊客はこちらの主玄関を使う。玄関ホールには帳場があり、ちょうどチェックインを終えた先客が、係に先導されて部屋へ向かうところだった。 その後ろ姿を見送りながら、誰もいなくなったロビーを見渡してみる。赤い絨毯が敷かれ、長く続く廊下の途中には、新高輪プリンスで見慣れたソファとテーブルがいくつか置かれている。と、そこに帳場の奥から男性の係が出てきて、チェックインに対応してくれた。この中年の男性は番頭なのか、下足番なのか、立場はよくわからないが、どうもあまりチェックインには慣れていないような印象がなきにしもあらず。それでも、手続きが済むと、この男性が部屋まで案内してくれた。 館内は壮麗な木造建築が見られ、とても興味深い。建物はこの玄関ホールから正面にある大階段を境に、完全な左右対称に設計されている。2階建てで、エレベータはなく、館内には3か所の階段が設けられている。階段には、太く丸い柱や美しいカーブの手すりなど、艶やかに磨き上げられた木材がぬくもりを放っており、天井から下がるアールデコ風のシャンデリアが華を添えている。建物に歪みは見られず、天井の装飾も精妙だ。 客室は1階と2階に10室ずつ、合計20室があり、内2室が側面向きだが、残りはすべて湖側を向いており、裏向きの部屋はひとつもない。今回用意された客室は8畳のコンパクトなタイプながら、落ち着いた佇まいがあり、ひとりで過ごすにはほどよく感じられた。窓からは新緑の庭園の向こうに芦ノ湖や山々が見えている。窓を開け放ち、広縁の肘掛椅子に深く腰掛けて、何時間もぼんやり過ごせたら、どんなに心地いいだろう。 そんな風に思っているところに、案内をしてきた男性から簡単に館内の説明があった。大浴場は24時間利用可能だが夜と朝とでは男女が入れ替わること、部屋に仲居はつかないので室内サービスはセルフでとのこと、布団敷きは夕食の頃合いにしておく、などなど。 今回のプランには夕食がついていないが、道中で食事は済ませてきたので、かえって好都合だった。だが、もし不意に空腹になっても、館内にレストランはないので、あらかじめ注意が必要だ。客室は、2畳の踏み込み、8畳の客間、幅140センチの広縁、バストイレからなっており、昔ながらの趣きながらも、十分な清潔感と居心地のよさがある。客室の天井高は250センチ。間接照明付きの床の間には掛け軸が下がり、花瓶が置いてあるが、花はなかった。 バスルームは洗面所、タイル張りの洗い場付きバス、独立したトイレで構成され、こちらも古いながら手入れが行き届き、トイレだけは最新型に改装されている。バスには細い明かり取りと換気用の窓が設けらている。バスタブはこぶりながらも深さが60センチあって、湯を溢れさせられるタイプだが、残念ながら温泉ではない。 アメニティはディスペンサーボトル式だが、カミソリセットだけは立派なものを置き、男性用化粧品もある。タオルは備え付けのバスタオルと、持ちかえり可能な手ぬぐいが1枚ずつ。夜になって敷かれた布団は100×200センチサイズで、昼と夜とで種類の違う菓子がサービスされ、夜になると卓に白いクロスが掛けられる。 蛸川温泉の大浴場は、かなり大きさの違うふたつの浴場に分かれており、日ごとに男女が入れ替わるので、夜と朝とで両方の湯船を楽しめる。狭い方は家族風呂のようにコンパクトだが、混雑さえしなければこちらも落ち着いていていい。脱衣場にはバスタオルが豊富に用意されているので、部屋からは手ぬぐいひとつで出かけられる。 朝食は部屋に運ばれる。ひもの、かまぼこ、かま揚げシラスといった、相模湾の名産が並び、芦ノ湖の眺めとともに、箱根の朝を満喫。銅版の屋根を伝う雨もまた、風情を感じさせた。 |
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龍宮殿(公式サイト) | |
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