シャングリ・ラ ホテル 東京 Deluxe Room |
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Shangri-La Hotel Tokyo |
2009.05.09(土)
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東京都千代田区 |
喜-4
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最後の理想郷 | 2009年3月2日、日本中のメディアがシャングリ・ラ ホテル 東京の開業を伝えた。マンダリンオリエンタル、ペニンシュラに続き、これでアジア系主要ラグジュアリーホテルが出そろったわけだが、前者2軒よりも、このシャングリ・ラのオープンに注目が集まったのは、最悪とも言われた開業のタイミングによるものだった。
表向きには勝算ありと胸を張ってスタートを切ったものの、景気が停滞し、超高級ホテルは贅沢の代名詞のように扱われ、日本を訪れる外国人エグゼクティブも激減する中での開業は、実のところ薄氷を踏むどころの心地ではなかっただろう。 91年のフォーシーズンズの上陸を皮切りに勃発した外資系によるホテル戦争は、このシャングリ・ラの開業でもって一通りの役者が揃ったことになる。だが、本格的な戦いはまだ火ぶたを切ったばかりであって、勝者敗者の明暗を分ける正念場はこれからやってくる。 ともあれ、ホテルは目立ってこそなんぼであるからして、どんな理由にせよ、開業時に大きく取り上げられたシャングリ・ラは得をした。館内がいかにゴージャスな内装で飾り立てられているかはもちろん、ロビーのシャンデリアを一度掃除するのにいくら掛かるのかまでが、その場におよそ似つかわしくないレポーターによって大げさに叫ばれていた。 そんな目線でしかシャングリ・ラの壮麗さを表現できない、あるいは感受できないような人々には、ここは無縁の世界であるべきだが、もしこのホテルが真の桃源郷であるならば、訪れる人々の心に和平をもたらし、世の移ろいをも忘れさせるほどの魔力を漲らせていることだろう。シャングリ・ラ ホテル 東京は、最後の理想郷となりうるのか。その実力を体験するために泊まることにした。 東京駅前という好立地は、フォーシーズンズホテル東京丸の内と通ずるものがあるが、シャングリ・ラ ホテル 東京にはそれに加えて高層階からの見事な眺めが武器となる。東京駅は日本中のあらゆるディスティネーションに通じており、成田空港からのアクセスにも優れている。欲をいえば駅直結であってほしかったが、残念ながら、雨天時に傘なしで濡れずにホテルへ行くことはできない。また、目と鼻の先にあるようでいて、ビルをひとつ周り込まなければならないため、駅から5分は見込んでおいたほうがいい。 徒歩にもましてアクセスしにくいのが車の場合である。ホテルのメインエントランスと車寄せは地下にあって、進入路のある道路が車線数の多い幹線で、右折による出入庫ができないため、方角によっては、かなり遠回りしなければならない。特に上野方面から来館して、銀座方面に出発する場合は最悪だ。 こうした障害レースをクリアして正面玄関に到達したならば、そこからは気品あふれる桃源郷での生活がスタートする。出迎えるドアマンやベルアテンダントは、インターコンチネンタル東京ベイで精鋭チームを組んでいた一員がキャプテンを務めており、開業2カ月目とは思えない、まるで100年の老舗ホテルのような風格を感じさせる。 地上からのアクセスでも、ビルのエントランスに係が立ち、訪れる人を恭しく迎えている。3基並ぶエレベータまで王侯貴族を導くように係がアテンドし、館内に足を踏み入れた瞬間から優雅な気分に浸ることができるだろう。ロビーは28階。エレベータを降りたところは、さながらスイートのリビングのように、段通の上にソファをあしらってあり、解放感やダイナミックさではなく、心地よい落ち着きとくつろぎを醸すよう工夫されている。 フロントカウンターはこぢんまりとしているが、ロビーのほぼ中央の判りやすい位置にあって、すぐに見つかった。カウンター前にはクリスタルの眩い照明器具が下がり、カウンター奥では息を呑むほど精巧な彫刻が黄金色に輝いている。チェックインは滞りなく行われたが、周りのインテリアに気を取られ、人のサービスはまったく印象に残らなかった。少なくとも、不愉快なことはなかったようだが、記憶に刻まれるような魅力もなかった。 フロントを過ぎた先には、シンボリックな吹き抜け空間がある。緩やかに弧を描く大理石の階段が、巨大な石筍のように天から降り注ぐシャンデリアを囲み、壁面には彫刻と金箔で桃源郷が描かれ、降り注ぐ黄金の滝を思わせる。さすがに香港のような圧倒的なスケール感には遠く及ばないが、これはこれで上品にデザインされており、このホテルのアイデンティティは十分に表現されていると受け止めた。 客室に向かうエレベータは、地上とロビーを結ぶエレベータとは逆に、あえてやや判りにくい場所に配置されており、ここから先がレジデンスエリアであることを無言で示してるようだ。 客室は30階から37階までにあり、36階と37階は特別階のホライゾンクラブフロアで、29階にはスパ施設がある。フロント階から上層の配置は、同じ森トラストが手掛けるコンラッド東京とまったく同じだが、それぞれのホテルが放つ個性やインテリアのテイストはまるで異なっている。 客室階廊下にも落ち着いた雰囲気が漂う。毛足の長いカーペットは、一歩ごとに靴底から心地よい刺激が伝わってくる。廊下の内装もまたパブリックスペース同様に、ダークブラウン、ベージュ、ゴールド、クリスタルというグラデーションスケール内の配色を基調にしており、バランスよくまとまっている。 標準客室は50平米。階層や向きによって料金が異なるようだが、基本的な仕様とレイアウトは共通している。縦長の客室構造はティピカルなホテルルームという印象だが、ラグジュアリーホテルらしい十分な広さと、立派な内装により、ここで過ごす時間がいかに快適かが瞬時に想像できる。 先にオープンしたマンダリンオリエンタルやリッツ・カールトンも標準客室の広さや形状に共通点が多いが、ここシャングリラの内装は上質さという点においては、わずかに見劣りする。 デザインはハーシュ・ベドナー・アンド・アソシエイツ。数々のホテルデザインを手がける名の通ったチームだが、最近は質感よりも見た目を先行させるデザインが多くなっていた。予算をギリギリまで減らされた上に、立派に見せろと注文させるのだから、それを受ける方もたまったものではないだろうが、すぐに化けの皮がはがれるような内装を請け負うのは、デザイン会社にとっても名折れになるリスクが伴う。 その点、このシャングリ・ラは、少なくともパブリックスペースに質を貶めるようなマテリアルは見られないし、客室もラグジュアリーホテルとしての水準は十分にクリアしている。 入口脇にはコンソールと姿見があり、その先にバスルームの扉と対面するようにして、3つ扉のクローゼットを設置している。このクローゼット前の床はバスルームから連続性を持たせ大理石を敷いてあるが、他は毛足の長いカーペット敷きだ。クローゼットの並びにはミニバーキャビネットとカウチソファのような形をしたバゲージ台を置いている。 ミニバー冷蔵庫には目いっぱいドリンクが詰まっており、大理石のカウンターには存在感のある茶器、下の引き出しにはレギュラーコーヒー、ティーバッグ、缶入りのリーフティーを用意し、ペルーシュ10個とアカシアのはちみつを添えるという充実ぶり。グラス類も多く、ショットグラスが備わっているのは珍しい。 テレビは42インチ。間接照明を仕込んだ濃い木目の大型ボードに設置されており、DVDプレイヤー、BOSEサウンドシステムの他、さまざまな視聴プログラムを備えている。デスクは楕円形で室内に張り出して設置。ハイバックのビジネスチェアと、肘掛なしのイスを対面して添えている。 窓のサイズは380×220センチと大型。床から天井まで窓というわけではないが、床から45センチの高さから天井近くまで迫るガラス面により、眺望にも採光にも優れている。窓辺にはエレガントなシェイプのロングベンチソファを設置している。 ベッドは120×200センチサイズが2台、ハリウッドツインスタイルに並び、33センチ厚のマットレスと、肌触りのよいベッドリネンを使っており、非常に心地よい。 ヘッドボードは高く、低部にはカーブした木目、上部には布を張って変化を付けており、両脇のミラーが高い効果を生んでいる。デイセッティング時は、濃紺のスプレッドと3種類のクッションを添えてベッドを装飾しているところにも、ラグジュアリーホテルらしさが光る。 ベッド両脇のナイトテーブルには、それぞれ3段ずつの引き出しもあって便利。家具には濃淡の木目を使い分け、取っ手や淵どりにレザーを使っているのがユニークだが、柱や壁の薄い色の部分はどうもシールであるらしく、そこが室内の質感をワンランク低くしているように感じられた。 また、天井高は3メートルと高いのだが、なんとなく圧迫感があって、部屋全体が50平米もあるように思えなかった。照明は、昼用と夜用それぞれにコントローラがあり、好みの雰囲気に調光できるのだが、ひとつひとつの照明器具を個別に調整することはできない。 バスルームはワイドな片開き引き戸で仕切られてるが、この扉を全開すると、居室との連続性が一層強くなる。総大理石仕上げのバスルームは、全体で約9平米の面積だが、そのうちベイシンのあるエリアに約4平米を割いている。大きな楕円形のベイシンはとても使いやすい。 ベイシントップには、タオルやVOSSウォーター、フラワーアレンジメントなどが置かれ、ドレッサーとしても心地よく使える雰囲気だが、スツールなどの座るものが用意されていない。アメニティ類は引き出しの中に並んでおり、翡翠色のパッケージと3種類のバスソルトが印象的だ。 ウェットエリアはバスタブとシャワースペースがあり、大きなガラス窓を通して居室が見えるだけでなく、バスタブに浸かった状態でも居室のテレビ画面が見やすいようにしてある。バスタブはコンラッド東京にあるフリースタンディングタイプと同じ形だが、こちらでは大理石の枠内に取り付けられており、脇にある緩いS字状の手すりが、空間をやわらかく見せるアクセントになっている。 天井には大型のレインシャワーヘッドが取り付けられているが、細い水流が四方八方に飛び散るようなタイプで、使い勝手にも心地よさにも優れていない。やはりレインシャワーは大粒の垂直水流に限る。バスアメニティはロクシタンの75mlサイズが2本置かれ、タオルも豊富に揃う。トイレはすりガラスのスライドドアで仕切られている。 残念ながら清掃状況は褒められるものではなかった。細かい部分に見落としが散見され、通り一遍で丁寧さに欠ける清掃の様子が手に取るように伝わってくる。極めつけはターンダウン。きめ細やかなフルサービスが提供されるのはマニュアルがそうであるからだが、マニュアルに記されていない事柄ではほころびをあらわにしていた。 濃紺のベッドスプレッドはしわくちゃに丸められ、クローゼット上段に無造作に投げ入れてあり、横浜のニューグランドを思い出す。ミニバーのボトルやアメニティ類の向きは最初からめちゃくちゃだったが、ベイシンにきれいに並べてあった私物の化粧品類までごちゃごちゃにされていたのは不快だった。 救いは客室の静寂が保たれていたこと。202室という規模よりも更に少なく感じるほどだった。 29階にあるプールやジムは滞在中無料で使える。プールは20メートル、ジムはカーディオマシン中心で、どちらも小ぢんまりとしているので、利用客が集中したらたちまちムードは崩壊するだろう。 プールサイドのデッキチェアはわずか6脚である。ロッカールームとバスエリアは、ジムを通り抜けた奥にあって、清潔が保たれ、タオルや化粧品も十分に揃っていた。バスエリアには石のジェットバスやサウナ、シャワーブースがある。スタッフはフレンドリーで、利用客が少ない時に限り、とても快適に過ごせるだろう。 朝食はルームサービスもしくは、ダイニングで提供されるが、いずれも料金は同じである。今回は「ピャチェーレ」の朝食を利用した。天井の高い店内はエレガントで高貴イメージの内装が施されており、スタッフたちもよく教育されているが、音楽はコンテンポラリー。この組み合わせは悪くないようにも思えるが、ここの雰囲気では空間の主張が圧倒的に強く、音楽が軽がるしく思えるばかりか、不作法にすら聞こえてくる。 ヨーロピアンブレックファストはコールドミートとナチュラルーズに自家製ミューズリーを添えたプレートがメイン。それが運ばれてくるまでの間は、濃厚なフレッシュジュース、ベーカリーバスケット、香り高いコーヒーがサービスされる。高級ホテルでさえブッフェ形式の無粋な朝食が主流になる中、フルサービスの高品質な朝食はありがたい。 チェックアウト時、フロントは予想通り混雑を呈していた。しかし、客を一列に並ばせるようなバカな真似はここではしない。マネジャーがフロント前に立ち、チェックアウトに来た客を恭しくラウンジに案内して、順番がきたところで出迎えに行っていた。こうして館内の優雅さを保つのは大変結構なことである。今後も日本におけるラグジュアリーホテルの手本となるべく、品質維持と向上に邁進してもらいたい。 |
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シャングリ・ラ ホテル 東京(公式サイト) | |
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