山口グランドホテル Double Room
Yamaguchi Grand Hotel
2009.03.13(金)
山口県山口市
楽-3

館内で見かけたイスとテーブル
 
小郡 新山口駅はかつて小郡駅と呼ばれていた。市町村合併で小郡が山口市の一部となった際、駅の名称も変更されたのだという。小郡という響きには、不思議な魅力がある。子供のころ、新幹線が博多まで開通した時の時刻表を見ては、まだ見ぬ小郡の街並みを勝手に想像していた。

そこには古い武家屋敷跡があったり、石畳のなだらかな坂の向こうに寺があったりという雰囲気で、伝統と文化が共栄する厳かで落ち着いた街の風景を思い浮かべていた。

現実の小郡を知るようになって、想像とは違うことを理解したが、幼いころに抱いたイメージも、あながち間違いばかりではなかったと感じている。そんな小郡という地名に、身勝手で淡い愛着を持っていたこともあって、新山口駅への改称はいささかショックだった。まだ地名は残っているが、この改称が地域文化衰退のひきがねにならないことを願う。

この日、山口は強い雨と風に見舞われていた。用意されたホテルは新山口駅の新幹線口からすぐだと聞いていたが、この風雨ではわずかな距離も百里に感じられた。タクシーに乗るには、ばかげているほど近い。距離を歩くのは少しも苦痛でないが、服や靴が濡れて傷むのがイヤで雨を呪った。

だが、駅舎からロータリーと幹線道路をくぐり抜け、向こうへ通じている公共地下通路が目に留まった。これはありがたい。古びた地下通路は実用的であること以外は考えずに作られており、何の装飾もないが、風雨をしのげるだけで十分に助かった。しかも、通路からそのまま目的のホテルへ入れるようになっていた。ますます感謝である。

ロビーは近頃改装されたらしく、照明の陰影を強調したモダンな雰囲気だ。構造自体は古いままで、地階や2階へ通じる階段にはレトロ感が漂う。フロントはカウンター式。係に笑顔はなく、全体的につっけんどんな印象だが、たった一人だけ感じのいい青年がいた。

チェックインを済ませ向かった部屋は5階のダブルルーム。どの部屋も基本的に狭く、シングルで約13平米、ツインでも20平米程度。一部客室はロビーと同時にリニューアルしたようだが、そのレートは倍近く、おそらくは婚礼関係で使われているものと思われる。

今回のダブルルームは約17平米。客室階廊下も室内も、古いままに使われているが、それはそれで味わいとぬくもりがあって悪くない。部屋はほぼ正方形だが、わずかに横幅の方が広い。入口脇にクローゼットがあり、その前にはデスクユニットが壁に寄せて設置されている。デスクの上には、電磁サーバやら案内やらが所狭しと並んでおり、作業をするにはそれらをどかさなければならなかった。

デスクスタンドはなく、天井から下がるペンダントが机上を照らしている。液晶テレビはデスク上に、冷蔵庫はデスク下にある。デスクの前には丸テーブルとアームチェアがひとつ。もしふたりで利用する場合は、デスクのイスをくるりと回せば一緒にテーブルを囲めないこともないが、イスの高さがアンバランスだ。

140センチ幅のベッドは最も奥、いわば一番落ち着くところに設置してある。マットレスは沈み、寝具は古いタイプのスプレッド兼羽毛布団にシーツを当てたスタイル。そこに置かれた青いストライプの浴衣もまた、レトロ感を漂わせている。ナイトテーブルにはスタンドがあり、これとデスクペンダント、入口ダウンライトの3つが、居室照明のすべてである。

窓は開閉可能。その開閉ハンドルが室内に大きく飛び出しており、それに注意するよう掲示があるものの、通常、まさかこんなところに殺人的突起があるとは思いも寄らないので、なかなか慣れず、何度ぶつかって痛い思いをしたことか。それがまた、ベッドと窓との狭い場所にあるからクセものだ。窓の外には大きな看板があって、ほぼ視界ゼロ。本当にこの窓には腹が立つ。

だが、役に立つこともひとつあった。この部屋は空調を入れると、まるでアラビア半島のように灼熱地獄と化す。かといって切れば寒い。ということで、窓を少し開けることで、温度のバランスを保つことができた。キラーウィンドウに命を救われたかっこうである。

バスルームは140×180センチのユニット。赤い樹脂のベイシントップが印象的だ。古いデザインだが、壁のタイルも浴槽も清潔感には申し分なかった。シャワーの水圧は心地よく、ベージュのタオルは大小が2枚ずつ用意されている。

夕方、食事のためにロビーで待ち合わせをした。少し早めの時間に行ったのだが、見物して歩く場所は少なく、外は雨なので出る気になれない。だが、座って待とうにもイスが少ない上にすでに誰かが座っていて、結局立ったまま時間をつぶすことになった。

館内には7つのレストラン・バーがある。ホテルの規模を考えると、とても充実しているといえるだろう。夕食には中国料理「随園」の個室を利用した。こちらもまた最近の改装でモダンに生まれ変わっているが、料理はとても素朴で家庭的。家族や気の置けない人とテーブルを囲むのに最適である。

朝食は1階「アゼィリア」で。ブッフェスタイルだが、和食中心で、トーストやパンを希望する場合は、係にリクエストして出してもらわなければならない。この日だけなのか、客層がよくなかった。パチンコ屋の開店を待つ列を彷彿とさせ、ほとんどの客がタバコをふかしていた。

ふと見ると、隣の席には妊婦と、彼女をかばう夫がいた。「ヨーグルトがあると嬉しいけど、見当たらないわね」と、赤ん坊の栄養を気遣う会話をしている。夫はどうもタバコの煙が気になる様子。他に影響の少ない席はないかと見回すが、適当な場所が見当たらない。そこにそっと手をのばし、うなずいてみせる妊婦。その表情は、そこにいるだれよりも幸せそうだった。

 
フロントカウンター ロビー エレベータホール

カーテンからのぞくキラーハンドル ベッド ベッドからデスク方向をみる

入口脇はクローゼット 窓からは看板裏ビュー バスルーム

正面玄関 外観 ガーデンに建つチャペル

 山口グランドホテル(公式サイト)
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