プリシア リゾート ヨロン Superior Deluxe |
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Pricia Resort Yoron |
2008.11.28(金)
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鹿児島県大島郡 |
喜-4
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楽園の旅人 | 沖永良部島から与論島へのローカル線は、小さなプロペラ機でのフライトだった。乗客は6名のみ。やはりビジネスマンがほとんどだ。そして、とびきり美人な客室乗務員がひとりでサービスに当たっており、それがやけに眩しく見えた。機体のバランスを保つためか、ビジネスマンの視線を美人から遠ざけるためか、すべての客は後方座席に詰めて座らされた。
離陸後、ベルト着用サインが消えると、通常通り、これから先は電波を発しない電子機器が使えるというアナウンスが入った。そのわずか30秒後、ふたたびベルト着用サインが点灯し、「まもなく着陸いたします。これから先、飛行機をお降りになるまでの間、すべての電子機器のご使用はお控えください。」とのアナウンスが入った。お決まりとはいえ、なんとも滑稽な感じがした。 空から見る与論島は珊瑚礁に囲まれ、エメラルドグリーンに輝いていた。あまり珊瑚が見られなかった沖永良部島に比べると、より南国の島らしい景観である。離陸後わずか20分。ふわふわと揺れながらもスムーズに着陸した与論空港は、沖永良部空港よりも一層小さかった。かわいらしいターミナルビルの外壁では、魚たちのオブジェが6人の旅人を歓迎している。 手荷物を受け取り、さてどうやってホテルに行こうかと考えていると、カウンターの係が「どちらまでですか」と声を掛けてくれた。島の人たちのこうした素朴な親切はありがたい。プリシアリゾートに泊まると告げると、ホテルに電話をして出迎えを頼んでくれた。カウンター係というよりコンシェルジュと呼ぶ方が相応しいと思わせるエピソードである。 程なくしてホテルのバンが到着した。スタッフはチノパンとアロハという軽装だが、この気候や風土にはぴったり似合っている。車に乗り込むと、まずは歓迎の挨拶があった。与論島は人口よりも牛の方が多いということ、島には信号がひとつしかないこと、タクシーは4台しかいないこと、朝刊は夕方配達されることなど、いかにここがのどかな島であるかを実感できる話を聞かせてくれた。 そうこうしているうちに、すぐさまホテルに到着。あいにくの曇り空だったが、フロントの係は南国らしい陽気さと親しみがあり、たちまち打ち解けるような雰囲気だった。予約はスタンダードのコテージで入れてあったが、チェックイン時にアップグレードを頼んだ。いずれのタイプにも空きがあるとのことで、7,000円の追加料金で、最も新しくて広いオーシャンフロントのスーペリアデラックスコテージを選んだ。 時計を見ると、まだお昼前である。キーを渡せるのはチェックインタイムの13時からだというので、それまでランチしたり、散策したりして過ごすことにした。荷物はロビーの一角にあるバゲージルームに自分で置いておくというカジュアルで珍しいシステムになっている。バゲージルームには誰でも入れるので、貴重品がある場合は別途フロントで預かってもらう方がいい。 ランチは、ロビーと同じ棟にあるレストラン「ヴィーナス」でもずくそばセット1,050円を注文。店内は広々としており、明るい雰囲気だが、他に客もなく、のんびりとした時間が流れていた。ロビーでは島内や海のレジャーに関するあらゆる情報を得ることができ、係も積極的にアドバイスしてくれる。 今回はとにかくゆっくりとした時間を過ごしたかったので、特に予定を決めず、思いに任せて行動することにしていた。まずは、敷地内がどうなっているのか、ゆっくり散策しながら見て回ることに。広大な敷地内には、遊歩道が整備されており、トロピカルな植物が生い茂っている。 最も印象的なのはプライベートビーチ付近だろう。地中海の島々の文化を模した「ミコノス広場」あたりは、さながらギリシャの島を思わせる雰囲気で、白や水色がとても眩しい。ちょうど雲が切れ始め、次第に青空が見えてくると、海の色が一変し、風の感触も変化した。 シーズンオフのビーチに人影はなく、美しい海と空を独占する心地よさは格別だった。ビーチサイドにはダイビングクラブハウスやホットタブもあり、オンシーズンにはカーニバルのように活気付くことだろう。ビーチからやや離れたところにはプールもあるが、とても小ぶりだった。あとはショップがある程度で、それほど多くの施設があるわけではない。むしろ、あるのは海と空だけと言ってもいいくらい、それらの印象が強烈だった。 敷地を一回りしたら、ちょうどチェックインタイムになったので、フロント棟に戻ってルームキーを受け取った。客室はすべてコテージ。いずれのコテージへのアクセスも屋根のない道を歩かなければならない。カートもなく、案内もしないので、あまり大荷物で来ると難儀するかもしれないし、悪天候の時は大変だ。 コテージは大きく分けて、3つのカテゴリーがある。最も標準的なスタンダードコテージ。5〜6名のファミリーで使えるファミリーコテージ。そして、最も新しいスーペリアコテージだ。スーペリアコテージは2階建てで、2階はスーペリア、1階はスーペリアデラックスとなっている。室内の設備はほぼ同等だが、1階には広い芝の庭と屋外ジャクージが備わっているのが特長だ。 このスーペリアコテージがある場所は、もともと雑木林だったらしい。海に近く強風が吹きつけるために開発されずに来たが、一番の絶景がもったいないということで、新しく建てたのだという。コテージ前には美しい花壇も設けられ、よく手入れされている印象だ。 玄関は戸建て住宅みたいだなと思いながら中に入ると、室内の造りもまた住宅そのものだった。床は全体がフローリング。広いリビングにはL字型の大きなソファセットがあり、その背後にもまたソファとテーブルが置いてある。本来ならばダイニングテーブルがあるべき場所に、あえてソファを配置したのは、大人数で滞在する際に、ソファをベッドとして使用するためだろう。 他にあるのは、20インチのテレビ、引き出し付きの電話台、屋外ジャクージ用のバスタオルとハンガーのみで、さっぱりとしているのはいいが、ちょっとしたデスクくらいは欲しかった。小さなリビングの裏手にはフルキッチンがあり、冷蔵庫も大型のものが設置されている。これなら暮らすような感覚で長期滞在することも可能だが、敷地内はもちろん、周辺にも食料品店はないので、食材を調達するのは楽ではなさそうだ。 ベッドルームは入口脇にあり、こちらはとてもコンパクト。シングルベッドが窓を頭にして並んでおり、あとは小さなクローゼットがあるだけで、テレビも置いていない。室内でLANを使うことは出来ないが、ロビーまでパソコンを持参すれば、無料で接続できるコーナーが設けられている。 バスルームは、手前から窓に向かって、ベイシン、トイレ、洗い場付き浴室と並んでいる。ベイシンはシングルだが、スツール付きで、基礎化粧品や日焼け止めなど、アメニティも充実している。洗い場付き浴室には大きな窓があり、海の眺めと波の音が楽しめるが、給湯はかなり時間が掛かった。ガーデンはとても広く、芝の上を裸足で歩くもの気持ちがいい。庭の先には波打ち際が迫っており、ワイルドな波音としぶきが間近に感じられる。屋外ジャクージは、周囲の部屋から丸見えなので、水着着用ということになっている。 夕食はミコノス広場にある和食レストラン「ぴき」を利用した。郷土料理や海鮮料理をメインとした店で、入口の生簀にはイセエビが踊っている。店は広いが客はやはり少なかった。メニューを見ると定食類が廉価で用意されている。リゾートの食事といえば、高くてまずいというのが相場だが、ここは安い分だけマシだろうとういう感じで、1,575円の鶏から揚げ定食を注文した。 やがて運ばれてきた膳を一目見て、「安い分だけマシ」などと思ったことを懺悔したくなった。実に丁寧に造られていたのである。から揚げも、一口ほおばってみて、あつあつジューシーなその味に満足した。新鮮なもずく酢やマンゴゼリーのデザートまで付いてこの値段とは恐れ入る。こんなケチな定食を頼む客にも手を抜かず、いい料理を出してくれるのなら、今度の機会にはぜひ奮発させてもらおう。その生簀のイセエビくん、その日までどうかお元気で。 食事の後は、屋外ジャクージでゆっくりと過ごすことに。周囲の部屋はどれも空室のようだったので、裸のままでも構わないだろうと思い、露天風呂気分で開放感を味わうことにした。闇の向こうから聞こえてくるダイナミックな波音に酔いしれていると、隣のコテージに電気が灯り、若者たちが歓声とともにガーデンに繰り出してきた。どうやらこの時間になってチェックインしたらしく、「ひろ〜い」とか、「きれ〜」とか騒いでいる。別に見られても減るもんじゃないから構わないが、変態だと思われたらまずい。 幸い、夜空を眺めるために、こちらの照明はすべて消えているので、よほど凝視しなければ気付かれることもないだろうと思い、しばらく息を潜めていたら、お隣さんたちは程なく室内へと戻っていった。そのままドンチャン騒ぎでもされたら、せっかくのロケーションも台無しだなと心配したが、その後、騒がしくなることもなく、お互いを意識せずにそれぞれの時間を満喫することができた。 翌朝は、夜明けと共に敷地内をランニング。そして、ふたたび屋外ジャクージで潮風を感じ、レストラン「ヴィーナス」での朝食に出かけた。朝食は混雑しているというほどではないにしても、意外と多くの人が泊まっていたことが伺える賑わいだった。和洋のブッフェだが、地元郷土料理も多く並ぶ。店内の席もいいが、屋外テラスがまた心地よい。大きなガジュマルを眺めながら、鳥のさえずりの下で飲むコーヒーは、雰囲気だけで十分美味しく感じる。 その後、部屋に戻ってからは、11時のチェックアウトまで、ひたすら海を眺めて過ごした。波、また波。ただそれの繰り返しなのに、決して見飽きることがない。そんな海に問いかけ、教えて欲しいことがたくさんあるけれど、海は何も答えてはくれない。でも、決然とした気持ちでここを旅立つ気力を与えてくれた。たぶん、到着した時より、ずっといい表情になっていたと思う。 フロント係のひとりとは、偶然にもあるソプラノ歌手が共通の知人だったことが縁で仲良くなった。遠く離れた南の島に、また一人知り合いができた。空港までは、ホテルのバスで送ってもらった。かつては路線バスだったのだろうか、オンボロという言葉がピッタリの古いバスだが、周囲の風景によく馴染み、不思議なぬくもりが感じられる。ホテルを出てわずか1分で空港に到着。 レトロな喫茶店と売店しかないターミナルは、出発便が重なり、にわかに活気付いた。那覇へのフライトは、シーサーのペイントが印象的な琉球エアーコミューター便。チケットは今でもモギリというローカルさ。一瞬、島人になった気分。 |
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プリシア リゾート ヨロン(公式サイト) | |
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