メダル落とし
2007.09.23(日)
あさや Therapy Room
Asaya
楽-4

アトリウムロビーは壮観だ あさやの歴史は1888年(明治21年)の麻屋旅館開業から始まった。その後、1972年の渓風館(地上11階)増設、1973年の観山館(地上11階)増設、1977年の八番館(地上7階)増設と拡張路線を進み、1990年には、総工費73億円を掛けた秀峰館(地上12階)を完成させ、鬼怒川でも有数の大型リゾート旅館となった。

しかし、バブル崩壊後、団体客が大幅に減少し、個人客へのシフトに乗り遅れた鬼怒川温泉の大型旅館は、軒並み経営が悪化。足利銀行の破綻(2003年)の余波で、揃って経営が行き詰まってしまった。長銀の破綻で第一ホテルが倒産した構図と似ている。

あさやホテルをはじめ、鬼怒川金谷ホテル、鬼怒川プラザホテル、鬼怒川グランドホテルは、2004年12月から2005年1月にかけて相次いで産業再生機構送りになった。ほかに、日光のホテル四季彩なども同時期に産業再生機構に送られている。

産業再生機構の下で旧経営陣は一掃され、資本増強されたうえで、2006年4月に鬼怒川グランドホテルを除く鬼怒川地区の他のホテルとともに、大和証券系の投資ファンドに売却された(鬼怒川グランドホテルだけは、別の投資ファンドに売却)。なお、同じ大和証券系の投資ファンドに売却された各ホテルは、その後も別々に経営されている。

その後、投資ファンドの下で設備の縮小やリニューアルを進め、徐々に息を吹き返しつつあるところで、あさやホテルでは渓風館を解体した他、観山館を社員寮に転用して、現在は八番館と秀峰館で営業している。その2館だけでも、圧倒的なスケール感だ。

さて、天気がよければ鬼怒川の雰囲気を満喫するために散策でもしようかと思っていたが、ハーヴェストをチェックアウトした時点で雨が降っていたので、諦めてホテルへ向かうことにした。それでは当然チェックインタイムに早すぎるわけだが、とりあえずフロントに立ち寄った。手続きだけは済んだが、「午後3時まではお部屋に入れませんので」と言われ、荷物を預けることに。

だが、クロークがあるわけではなく、ロビーの一角に用意されたコインロッカーを利用するように言われた。ロッカーには100円玉が必要だが、あとで戻ってくる仕組みだ。ここまでの印象だけで、サービスの体制や質が十分に理解できた。至れり尽くせりを求めるのは間違いのようだし、旅館のような気配りも期待できそうもない。気ままにマイペースで行動するのがよさそうだ。

とりあえず館内を歩いてみることにした。秀峰館には、最上階まで吹き抜けのダイナミックなアトリウムを取り囲むようにして、様々な施設がある。まずは、アトリウムの一番下のフロアまで降りて、中央に配置されたソファに座って、館内の雰囲気を感じてみた。ここはラウンジ「イサベラ・バード」と店名がついているが、特に営業をしている様子はなく、自由にくつろげるようになっている。傍らには噴水もあり、どこかレトロな印象も感じられるが、見上げるアトリウムは圧巻だ。

しばらく佇んだ後は、土産物屋を見物。おそらく夕方以降は混雑するだろうが、今の時間はまったく客がいないので、貸切気分で見て回れる。そうこうしているうちに腹が空いて、この時間でも営業している4階の和風ダイニング「和彩工房」に入った。ランチメニューは700円から1,400円程度と手頃で、全品にサラダバーが付いている。コーヒーやデザートはそれぞれ200円で追加可能。メンチカツがオススメだというので、それを注文した。カラッと揚がったメンチカツは熱々で美味しかったけれど、かなりのボリュームだったので、夕食までに再度腹が空くかが心配になった。

食事を済ませて、ゆっくりロビーに戻ると14時半。チェックインを待つ客が、いつの間にかかなりの人数になり、ロビーからアトリウムに張り出すように設置されたデッキに多数用意されたソファが、ほとんど埋め尽くされていた。だからかどうか知らないが、部屋への案内が前倒しされ、14時半過ぎから順次案内が始まった。

名前を呼ばれ、和服姿の係が荷物を持って先導してくれる。だが、これも通常の旅館とは違い、それぞれの部屋に担当が付くというわけではないらしく、案内の途中で係が入れ替わったし、客を名前で呼ぶこともなく、館内や食事の説明もマニュアル通りに暗唱しているだけという感じで、気持ちが伝わってこないのが残念。仲居がいるのならばと思ってポチ袋に用意していた心付けは、結局渡すことなく終わってしまった。

今回の客室は最上階12階にある45平米のデラックスツイン。12階には掛け流し展望風呂付きのグランドツインや、眺望和室、デラックスツインなどのコンセプトルームが集められている。デラックスツインのうち、禁煙タイプのものを特にセラピールームと呼んでいるそうだ。

洋室タイプでありながら、入口には踏み込みがあり、靴を脱いで上がるようになっている。床はフローリングで、小上がり風の寝床にマットレスを置き、カバーと一体になった寝具を掛けてある。ベッドの前にはデスクが据えてあり、デスクに向かうと直ぐ目の前に32インチのテレビが掛かっていて、DVDプレイヤーもある。IDEAの洒落た電話機もあるが、やはりパルス式だ。LANの環境も整っているものの、メールの送受信に一部不都合があった。

デスクの脇には、冷水、ハーブティ、菓子、山葵海苔、干し梅などが用意され、浴衣も様々なサイズのものがあらかじめ引き出しに置いてある。バスタオルは4枚でバスローブ付き。色違いの手拭いは、記念に持ち帰れるようになっている。客室のバスルームは窓に面しており、外の景色を眺められるが、バスルーム内はマンション風の設備。カランからは温泉が供給される。独立したベイシンもまた、家庭用といった趣きだ。個室になったトイレには、最新型の便器が備わっている。

居室の窓際には、カウチソファとマッサージチェアが置かれ、押し花アートや、アロマポットなどの癒しグッズを添えている。インテリアはややアジアンリゾート風だが、量販店で簡単に手に入りそうな家具ばかりなので、センスやデザインをアピールする力は持っていない。どちらかというと普段着の気楽さのようなものが感じられる。

窓の外はバルコニーになっており、見下ろせばそこは渓谷だ。かなりの高さである上に、水の流れが速くて、結構スリリング。加えて、手摺りがグラグラするので、それに寄り掛かるには相当な勇気が要る。だが、恐怖を押し殺して覗き見るだけの価値は十分にある眺めだ。対岸に建つホテルの廃墟がまたなんとも言えない不気味さを醸しているが、近々取り壊され、跡地は緑化されるのだそうだ。

さて、せっかく温泉宿に来たからには、一番の楽しみはやっぱり風呂だ。大きな宿だけに、スケール感のある風呂が数箇所用意されている。まずは、屋上に設置された露天風呂に行ってみた。船風呂&檜風呂と桶風呂&岩風呂の2種類の浴槽があり、時間帯で男女入れ替えになる。いずれも洗い場はなく、単純に風景を眺めながら、ゆるめの湯にゆっくりと浸かるだけの湯船だ。小雨が降っていたが、周囲の木々の香りを伝えてくれ、それもまた風情のうちとして楽しめた。他に大理石造りの大浴場が2箇所あるが、特に混み合うこともなく、いつでものんびりと入浴を楽しむことが出来た。

夕食時間になると、館内は食べ物の匂いで満たされる。アトリウム全体が食堂になったような匂いだ。プランによって指定された食事会場を利用するのだが、今回は奮発して、八番館料亭「吉鬼亭」での食事へのグレードアップを頼んであった。時間になると係が部屋に迎えに来て、座敷まで案内してくれる。

畳にイスと卓を置いた風変わりな部屋に通されると、卓上には秋をテーマに彩った先付がセットされており、続いてテンポ良く料理が運ばれてきた。お造り、焼肴、牛の陶板焼など、比較的オーソドックスな内容だが、ごはんは個室内で釜炊きするなど、工夫を凝らした部分もある。板前が「お味はいかがでしたか?」と挨拶に来たのは感心したが、ごはんとティラミスを一緒に出されて辟易していたところに非常にかたいメロンが運ばれてきて驚いた直後だったので、あまり喜んであげられなかった。

食後は、ゲームコーナーを覗いてみた。狭いが結構賑わっている。都会のゲーセンと違って、ちょっとキッチュなゲーム機が多く、懐かしい雰囲気。30年以上前にどこかの温泉ホテルで見かけた旧式のメダル落としゲームがあったので、メダルを買ってチャレンジしてみた。単純なゲームほど夢中になりやすいのかもしれない。気が付くと、落とせば10枚のメダルと交換してくれるという金色のメダルに必死になっていた。このゲームコーナーのスタッフが一番人間味があって、楽しそうに仕事をしている印象があった。

朝食は和洋のブッフェだが、和の方が圧倒的に充実している。家庭的な味で、健康的な惣菜がたくさん並んでいた。箸のみでカトラリーを用意してないのは少々不便に感じた。午前中にも風呂めぐりをしたが、ほとんど利用客がいなかった。たった1日だが、連休の割には混雑に遭遇することもなく、心の芯までリラックスできる滞在となった。

 
トモダチの部屋のような客室 窓側から入口方向を見る ベッドは小上がり風の台に据えている

デスクなのかテレビ台なのか微妙 玄関を入ったところ ティーセットやお菓子

手拭い ベイシン 窓付きバスルーム

新型のトイレ バルコニーから見下ろす川 対岸のホテルは取り壊し中

アトリウムを見上げる アトリウムを見下ろす アトリウムの一番下はパティオ風

ロビー階のシッティングエリア アトリウムの噴水 正面玄関前

 
あさや


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