湯 |
2006.12.16(土)
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ハイアット リージェンシー 箱根 リゾート&スパ Regency Executive Suite | |
Hyatt Regency Hakone Resort & Spa |
哀-4
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この日、日本で初めてとなるハイアットブランドのリゾートが箱根・強羅に開業した。強羅周辺と言えば、多くの企業保養所が密集しているというイメージが強く、芦ノ湖エリアの開放感や、湯本から宮ノ下あたりにかけての温泉風情を想像していると、殺風景にも感じるかもしれない。バブルの頃、勢いのあった企業がこぞって保養施設を造ったが、時代が変わってから、その一部はリゾートマンションなどに転用されている。以来、一般の旅行客の姿も多くなったが、それでもまだ地味なイメージのあるエリアだ。
今回ハイアットとしてオープンした建物は、元々森観光トラストが個人向け会員制高級リゾートとして展開する予定だった「グランフォーレヴィラ強羅倶楽部」として建てられたものだ。2004年4月から会員権の販売を開始し、2005年3月の開業を目指したが、会員制リゾートとしての運用が頓挫して、一般が利用できるリゾート「グランフォーレ強羅ホテル」として開業した。 一時期、「一休.com」でもかなりのお手頃価格で出ていたが、それでも軌道に乗ることなく、2006年2月末で閉館。話題となった「バンヤンツリー・スパ 強羅 箱根」も立ち消えになってしまった。そこに目を付けたモルガンスタンレー系のパノラマ・ホスピタリティが、同社が手掛ける2軒目のハイアットとしてオープンさせた。経緯はざっと以上のようだが、日本のハイアットでは初の女性総支配人による初のハイアットリゾートは、いったい何を感じさせてくれるだろうか。 強羅駅からホテルまでは、タクシーで5分程度でアクセスできる。強羅地区でも高い場所にあるため、ぐんぐん坂を登っていくという感じだ。やはり、周辺にはリゾートマンションが林立しており、商店の類はまったく見当たらない。静かではあるが、周囲を見ている限りは日常の延長でしかない印象がある。ホテルエントランスは、それこそレジデンスのよう。車で到着するも、そこには誰一人おらず、まだ開業していないのかと不安になった。 車を降りて館内に入ると、奥から何人かのスタッフが駆け寄って来た。その中にはドアマンの姿もあった。どうやら、たまたまタイミングが悪く、入口が無人だったようだ。スタッフの応対は明るく親しみのあるもので、時に熱意すら伝わってくる。もてなしの気持ちに溢れた表情は、実に生き生きと見える。この初心を永久に失わないで欲しい。 チェックインはすぐさま行われた。いわゆるフロントカウンターはなく、レセプションコーナーのふたつのデスクで、イスに座りながら手続きをする。周囲を見渡しても、オープン日にはよく見掛けるお祝いの花などは、一切置いていない。レセプションコーナーも、大きな窓に面していて明るいが、控えめな内装により、落ち着いた雰囲気が保たれている。 手続きは済んだが、部屋はまだ仕上がっていなかった。そのため、階下にあるラウンジ「リビングルーム」で、しばらく待つことになった。一面の大きな窓からは緑豊かな中庭が見え、中央の暖炉には火が点り、なかなかいい雰囲気。2層分の高い天井が開放感も格別だ。開業日サービスとしてシャンパンが振舞われ、そこに総支配人が挨拶に訪れるなど、出だしの印象は好調だった。 この時、ついでに夕食の席の予約をした。夜のメニューはどんな内容かを尋ねると、コースとアラカルトを用意しているとの返答があり、さらに、メニューは今印刷中なので、出来次第部屋に届けるとのことだった。 そうこうしていると部屋の準備ができたと係が迎えに来た。このホテルはわずか79室しかないが、それぞれの部屋が広いので、全体の規模は結構大きい。そして、客室がいくつかのウイングに分かれて配置されており、ロビーから客室へ至るルートは、複雑とまではいえないまでも、単純ではない。そのため、客室に着くまでやや時間がかかり、案内してくれている係と少しは会話でもしないと、なんとなく場が持たないという感じだった。 今回の客室は93平米のエグゼクティブスイート。標準客室でも56平米と、いずれの客室も広く取られているが、エグゼクティブスイートはその1.5倍以上の面積があり、広々としたリビングスペースと、グレードの高いバスルームを付帯している。また、廊下の最も奥に位置しているので、より静かな環境でもある。 部屋に入ると踏み込みがあり、靴を脱いで上がる仕様になっているが、靴のままで構わないそうだ。入口からベッドルームを回りこむようにして廊下があり、その先がリビングルームになっている。天井高270センチのリビングには、L字型ソファセットと、オットマン付ソファ、テレビキャビネット、壁に向いたライティングデスクが設置されている。大型の家具が多いが、空間にゆとりがあるので窮屈な印象はない。テレビは37インチ型で、地デジや各種CS放送に対応しており、BOSE製のDVDプレイヤーも備えられている。デスクにはLANもあるが、1分42円で、1,500円に達すると、それ以降は24時間まで同料金で利用できる。 リビングの窓側は、ガラス戸で仕切ることの出来るサンルームになっている。タイルの床がリビングとは趣きをことにしており、さらに外側のワイドな窓からはたっぷりの陽光が差し込む。そこにイスとテーブルを置き、景色を見たりおしゃべりをしながら、ゆっくり過ごせる空間をつくり出した。旅館で言えば、広縁といったところだろうか。一角にはミニバーや冷蔵庫のキャビネットを置いている。ソフトドリンクは544円と、やや高めだ。ルームサービスもあるが、充実したドリンクメニューに対して、フード類はサンドイッチ程度しかない。値段はレストランと同じだ。 そして、更にサンルームの外が広いバルコニーになっており、外に出て直接空気に触れることもできる。だが、バルコニーがあるのは、どうやらこのフロアだけのようだ。そして、この部屋の下は駐車場になっている。また、肝心な景色だが、全体が斜面に建っているので、リビングから向けられる視線の方向の視界は開けている。しかし、眺めを楽しみたいのなら、バルコニーはなくなるが高層階をリクエストした方がいいようだ。また、いくつかあるウィングによっては、中庭しか見えない部屋もある。 ベッドルームはリビングの奥にあり、ガラスのパーテーションで囲われている。また、ベッドルームにも小さいながら窓があり、窓辺にはアームチェアを置いている。ベッドはハリウッドツインスタイルに並べられているが、2台のベッドにまたがってスローケットが掛けられているため、一見するとダブルベッドにも見える。マットレスとベッドリネンの感触はいいのだが、モコモコした枕は高すぎるし、寝具は化学繊維風で、全体的な寝心地は今ひとつ。 ターンダウンはリクエストしたら来てくれたが、単にスローケットを外しただけで、使用したタオルを交換することもなかった。これではまったく意味がない。まずもって、このホテルでは、デュベでマットレスをきつく包むようにベッドメイクしているので、ベッドに入ろうと思ったら、相当力を入れて寝具を引き出さなくてはならない。ターンダウン時には、ふんわりとメイクしなおして、気持ちよくベッドに滑り込めるようにして欲しいものだ。 ベッドルームとバスルームの間にもエントランスに通じている廊下があり、そこに面してクローゼットが設けられてる。クローゼットには厚手のバスローブ、浴衣と丹前、それに下駄が用意してあって、浴衣姿でレストランを利用することも許されている。ベイシン部分はウェットエリアから完全に独立しており、そこだけでも4平米の面積がある。ダブルのベイシンの背後には、タオルウォーマーも設置されている。トイレは引き戸で仕切られた個室になっている。 ウェットエリアは約6平米の面積があり、全体に天然石を張っている。高い位置ながら窓もあるので、自然光が入ってくるのがいい。大型のバスタブと、その脇の非常に広々とした洗い場は、ちょっとした家族風呂の雰囲気。残念ならが温泉ではないが、誰にも邪魔されず、プライベートなバスタイムを楽しめる空間だ。タオルはかなり厚手のもので、まだ新しくて清潔。アメニティはハイアットリージェンシー共通のもので揃えているが、特に目新しいものはなかった。 客室のインテリアは、色合いを控えめにし、モダンなテイストでコーディネートされているが、部屋の質感を大きく左右するファブリックから上質さを感じることは出来ない。やはり、ここは元リゾートマンションだと実感させられる内装だ。広いけれど、ときめきがないのだ。特にカーペットとカーテンは、致命的に安っぽい。また、室内の窓という窓は結露しやすく、夜から朝に掛けては曇ってしまう。困ったことに、カーテンを開いた時に生地が集まる部分やテレビキャビネットの裏側部分は、清掃時のチェックを怠っているために、カビがまるで綿花のように繁殖している。 箱根と言えば、なんといっても温泉だ。ここにも温泉を利用した大浴場があるが、男性用より女性用の方が少し広いらしい。男性用の方は、酸性が強い大涌谷温泉を湛えた浴槽と、8箇所の洗い場、3箇所のシャワーブースを設置しているが、サウナルームや水風呂はない。女性用も主な違いは広さであって、設備はこれに順ずる。人工的な植え込みを望む大きな窓があり、昼間は明るく、夜はライトアップされた幻想的な眺めになる。 大浴場内は非常に静かだ。湯船から湯が溢れ出ることのない設計なので、水音すらしない。洗い場やシャワーのデザインはなかなか洒落ているが、いわゆる温泉風情とは程遠く、ゴルフ場のクラブハウスにある浴室の雰囲気だ。脱衣場に用意されているバスタオルは、客室にあるものと同じフカフカの新品。だが、いつもタオルが不足している状態だった。大抵の宿泊客は、一度と言わず何度か入浴するだろうから、とてもタオルの回転が間に合わないのだろう。大浴場用のタオルを別に考えた方がいいように思った。 夕刻、レストランを予約した時間になっても、予約時に約束があったメニューが部屋に届くことはなかった。どうやらすっかり忘れられてしまったらしい。しかし、時間になったので、どんなメニューがあるのかわからないまま店へと向かった。 席に案内されると、テーブルを担当する若い係が来て、今日のメインディッシュはブイヤベースか牛ステーキになるが、どちらにするかと選択を迫った。藪から棒に何を言い出すのかと思いながら問い質すと、ディナーは1種類のコースに決まっているだと言う。それは予約時に聞いた内容と違っているし、こちらはそんなつもりでなく来ているので、まるで押し売りをされているようでいい気がしなかった。しかも、メニューすら見せないのだから、いったいコースの値段がいくらなのか、そして、何品のコースなのかなど、注文する前に確認するべきことが何ひとつわからない。これで通用すると思っている高邁さは確かにハイアットらしいが、そんな理不尽を受け入れる考えは毛頭ない。 この店には、パークハイアット東京からヘルプに来ているスタッフが何人かいるので、そのうちの一人を呼んで不満を伝えたところ、彼はすぐに事情を飲み込んで、アラカルトメニューを差し出してくれた。そのアラカルトメニューは、品数こそ少ないが、なかなか魅力的な料理は並んでいるではないか。最初から気持ちよくこれを出していたら、どんなにか印象がよかったのに。そして、運ばれていた料理も丁寧に調理され、リゾートらしい素朴でダイナミックな盛り付けが印象的。味も満足できるものだった。オードブル、メイン、デザート、紅茶を注文して7,000円程度で済み、コースよりもお得だ。だが、最後の紅茶は、なんともまずくて失敗だった。 なぜこんなに紅茶がまずいのか。これは水が悪いからに違いない。箱根の水道水は美味しくないのだろうか。部屋に戻って、水道の水を飲んでみたが、まずいどころか、わりに美味しかった。レストランで2,000円も出してエビアンを注文したが、水道水で十分だったと悔やんだほどだ。口直しにと、部屋のポットの湯を使って茶を入れてみたところ、これがまたひどい味だった。まるで消毒液をそのまま飲んでいるような感じで、飲んだ後はしばらく喉の粘膜に違和感が残った。 このポットには何が入っていたのかと不安になり客室係に尋ねてみたが、ポットの手入れには洗剤などは一切使わない決まりなので、水以外が入ることは考えられないと言う。そりゃ決まりは決まりだろうが、実際に普通の水とは思えない味のものがポットに入っているのだから、そのような説明で威張られても納得がいくどころか、かえって疑いが深まる。しかし、ポットを替えてもらっても、また同じような味になるし、今度はお湯と一緒に黒い粒子が出てきた。結局理由はわからなかったが、このホテルでは美味しいお茶をむのは不可能だということは確かだ。 朝食は午前7:30から午前10:30までと、時間帯が限られている。せめて午前7:00から営業してもらいたいものだ。内容は和洋のチョイスで、平日はどちらもテーブルサービスのセットメニューだが、週末は洋食に限ってはブッフェスタイルとなる。オープンキッチンのブッフェ台には、新鮮な野菜や焼きたてのパンが並び、卵料理は料理人が目の前で調理してくれる。だが、トーストは美味しくなく、やはり紅茶の味は妙だった。店を出ようとしたら、伝票にサインを求められた。今回の宿泊には朝食が含まれているので、料金は発生しない。便宜上のサインなのかもしれないが、伝票には料金が記載されているので、そのような伝票にサインは出来ないと断わった。 朝のラウンジは、暖炉の薪がくすぶってしまい、ロビー全体が燻製状態だった。この煙で、よく火災報知機が反応しないものだと感心しつつ、本当の火事の時にはどうなるのやらと心配になった。 出発時、湯の味について詫びがあったが、何かと言い訳を重ねてばかりで、どうしたら美味しい茶を提供できるかという建設的な考えを聞くことは出来なかった。正面玄関まで見送りに出てくれたまではよかったが、車が道に出る時に振り返って見ると、すでに係はそっぽを向いていた。そこにこのホテルの流儀を見た思いがした。 |
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