棚湯からの絶景
2006.10.04(水)
杉乃井ホテル Ceada Standard
Suginoi Hotel
楽-3

駅の表示にも湯けむりマークが 鹿児島から始まった九州めぐりも、いよいよ6日目。博多から別府への移動には、特急ソニック号を利用した。車内はレザーシートにフローリングという内装で、デザイン的にも工夫が凝らされていた。使いやすいかどうかは別として、初めて利用する者にとっては、個性的で退屈しのぎに丁度よかった。別府ではどの宿に滞在するか悩んだのだが、喜怒哀楽的には、まずは旅館ではなくホテルに泊まるべしと思い、杉乃井ホテルを選んだ。

杉乃井ホテルの開業は1944年8月。その後、団体旅行や家族旅行がブームになり、1966年以降、現在のHana館、スギノイパレス、本館を増築して、別府市最大の温泉リゾートに成長した。だが、全天候型レジャープール「アクアビート」を建設するなどでバブル期に投資がかさみ、更に客数の落ち込みが拍車をかけて、2001年5月に一度破綻。現在はオリックスグループが所有し、加森観光が運営に当たり、再生を果たしている。

別府駅から杉乃井ホテルまでは路線バスもあるようだが、タクシーに乗るのが便利。観光地だけあって、タクシーの運転手も親切だった。ホテルまでの道のりは、リゾートの風情というよりも、どこにでもある市街地の雰囲気で、興味を引くような眺めではない。曲がりくねった坂道を上がること5分、到着した杉乃井ホテル本館の正面玄関は、山を背にした高台に建つ建物の裏側にあった。館内に入り、別府の市内と別府湾を一望した時、やっと温泉リゾートに来たという実感を覚えた。

ロビーは改装したばかりと見え、モダンで新しい雰囲気だった。今回予約したのはシーダフロアと呼ばれる、ニューコンセプトフロアの客室だ。到着の際、ドアマンに名前を尋ねられたので答えると、ドアマンはメモを見てシーダフロアの客であることを確認し、フロントではなくコンシェルジュデスクへと案内。そこでウェルカムドリンクのレモネードが振舞われ、チェックインが行われた。

ことはスムーズに運ばれたのだが、チェックインを担当した係の印象はよくなかった。こちらの顔を見たり目を合わせることはなく、歓迎している様子は感じられない。手続きは単に仕事をこなしているというだけ。曇った表情から伺えるのは、毎日の同じ作業の繰り返しにうんざりしている様子だった。さすがに複雑な館内の説明は手馴れたもの。だが、団体客でも扱うような勢いでまくしたてるし、フロア案内のコピーには赤ペンで乱暴にアンダーラインを引くしで、まったく下品だった。他に客の姿が見られない暇な時間なのだから、もっとゆったりにっこり、感じのよいサービスを心がけて欲しいものだ。

本館3階のシーダフロアには15室のモダンルームがあり、「オリエンタルモダン」と「ナチュラルモダン」の2種類のデザインテイストに大別される。それぞれのテイストの中に、広さや設備が異なる数タイプがあるので、客室数は少ないながら、バラエティは豊富だ。部屋まで案内してくれたのはいいが、設備の説明もなければ、茶が出るわけでも、菓子が置いてあるわけでもない。旅館のような手厚いもてなしは期待するだけ無駄なようだ。

今回アサインされたのは、「ナチュラルモダン」テイストのシーダスタンダードと呼ばれるタイプ。57平米というゆとりの面積が、リゾートの開放感を一層高めてくれる。入口を入ると踏込みがあり、靴を脱いで部屋に上がるようになっている。踏込みは行灯のようなやわらかい照明で照らされ、縁台や草履などが和の情緒を感じさせる。室内はフローリングになっており、素足でも気持ちよく過ごせるのがいい。

広い居室には、一段高くなったところに、布団を思わせるローベッドが2台並んでセットされている。心地よいマットレスやデュベが揃い、眠りの環境は快適だった。枕元にはCD/MDプレイヤーと電話機がある。ベッドの脇には間接照明が仕込まれた飾り棚があるが、たいしたものは飾られていない。また、クローゼットも20インチ液晶テレビも、部屋の広さの割りに小さく感じられた。冷蔵庫には304円のミネラルウォーターが3本入っているだけ。ティーセットは、5種類のティーバッグとティーポット、小さい茶碗が用意されている。

窓際のリビングスペースには、デイベッドにもなるL字型の大きなローソファと四角いローテーブルを据えた。ソファのブルーがアクセントカラーになっており、きれに並べられた20個以上ものクッションが彩りを添えている。傍らには観葉植物の鉢植えが置かれ、天井からは細長い個性的なデザインのペンダントライトが下がっている。他にダウンライトや間接照明の蛍光灯などが用いられ、照明デザインにも工夫が見られるものの、それほど効果が高い仕上がりとはいいがたい。インテリアも、高級ホテルというよりは、リゾートマンションの仕様に近い。

天井高は255センチ。窓は床からの大型サイズだが、目の前には生活感のある眺めがあるのみなので、できれば遠くに視線を向けておきたい。市街の夜景や、朝の別府湾などはいい雰囲気だ。だが、このタイプの客室には、山側向きで眺めの悪い部屋もあるので注意が必要。

この部屋で最も興味深いのは、全体で11平米を確保した広いバスルームだ。檜の浴槽を備えた半露天風呂があり、さわやかな外気を感じながらの入浴を楽しめる。残念ながら温泉ではないが、檜の香りだけでも十分にリラックスできる。シャワーブースはブルー系のモザイクタイル仕上げで、トイレは完全に独立させた。ベイシンには、ユニークなカタチの白いスツールが添えてある。タオルは大小4枚ずつ用意され、バスローブも備えている。アメニティはロクシタンで揃え、他にもアイテムを充実させるなど、女性をターゲットにしていることが伺える。

部屋を一通りチェックしたら、次は広大な館内を探索して歩いてみることに。同じ廊下を歩いていても、建物が変わると階数も変わるので、自分のいる場所がたまにわからなくなる。館内には、温泉浴場はもちろん、プールや劇場、スパなど様々な施設があり、レストランもファインダイニングからマクドナルドまで幅広く設け、あらゆる世代が楽しめるよう工夫されている。だが、最近は日本人よりも、韓国や台湾からの観光客が多いらしい。この日も400名以上の外国人が滞在しているとかで、どこにいても大声で騒がれて、いささか迷惑だった。

特に印象的だったのは、「棚湯」と名付けられた温泉浴場だ。名前が示す通り、段々畑のように、露天の湯船が段になって設置されており、またとない開放感に溢れている。最下段は、まるで海に向かって湯が流れ落ちているようにも見える造りになっている。他に、木の香漂う樽湯、ほぐし湯、サウナなど、様々なタイプの浴槽や設備が揃う。宿泊客用には「みどり湯」という温泉浴場も用意されており、こちらは小ぢんまりとしており、落ち着いた雰囲気でのんびりくつろげた。

全天候型レジャープール「アクアビート」は、ほとんど貸切状態だった。1時間毎に15分程度波を発生させる造波プール、流れるプール、結構スリリングなスライダーなどがあり、なかなか面白かった。スタッフはパキスタンとかトルコあたりから来た外国人たちが多く、そのスタッフたちとの雑談も楽しかった。

翌朝は、シーダフロア専用の朝食がルームサービスで提供された。随分とあれこれ工夫をしたつもりかもしれないが、内容はいまひとつ。見た目だけは賑やかだが、味が悪い。シンプルでもいいから、本当に美味しいものを食べさせて欲しいと思う客は多いと思うのだが。せっかくディティールを追求した特別フロアであるにも関わらず、全体を通じて上質さが十分に伝わって来なかった。だが、出発は気持ちのいいものだった。出迎えてくれたのと同じドアマンが、明るく「ありがとうございました!」と笑顔で声を掛け、深く頭を下げて見送ってくれた。前の日のグランド・ハイアット・福岡のドアマンより100倍いい。

 
ローベッドが2台並ぶ 窓側から奥を見る ベッドと反対側を見る

ローソファのあるリビングスペース 踏込み 見た目だけだった朝食

夜の室内 窓は大きい 障子が端整な印象を醸す

ベイシンコーナー シャワーブース アメニティ

半露天風呂 湯を溢れさせられる檜のバスタブ ロビー

温泉の蒸気 アクアビート 造波プール

 
杉乃井ホテル


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