羽犬塚駅は小さいが、駅前にある羽のはえた犬のオブジェがシンボルだ。さて、今日の宿は駅前にあると聞いていたので、いったいどこだろうと周囲を見回してみる。見つけるのに難はなかった。駅前ロータリーから程近いところに、新しい外観のホテルが見える。あまり高い建物がないのでよく目立っているし、場所柄、とてもエレガントな佇まいに感じられた。

まずは、宿には寄らず公演会場へ直行。タクシーに乗ったほうがいいと言われていたが、一度会場に入ってしまったら、もう終演まで外にでることはないだろうし、できることなら町の様子を少しでも知ってから舞台に立ちたかったので、歩いて行くことにした。曲がりくねったのどかな道を進み、途中からは川岸の遊歩道を歩いた。ふるさとの景色っていったら、こういう風景を浮かべる人も多いだろうなと思うような、初めて見るのに懐かしい情景が続いていた。

だが、めちゃくちゃ暑かった。日差しも強いので、15分ほど歩いただけですっかり日焼けしてしまった。会場に到着し、この日お世話になるスタッフたちに挨拶をして、ステージの状況を確認。自分ですべき準備を整えたところで、ちょうどランチの時間になった。お待ちかねのランチは、エージェントが手配してくれた柳川名物のウナギセイロ蒸し。出来立ての熱々をデリバリーしてもらい、ふっくらと仕上がったウナギは感激ものだ。

無事に公演が終わり、エージェントが打ち上げの場所に選んでくれたのは、羽犬塚駅前にある「祇園太鼓」。紅白にも出場した北山たけしさんのおじさんがやっている店らしく、店内にはこの店を訪れた歌手たちのポスターやサインが、びっしりと掲示してあった。

打ち上げが終わって、ホテルにチェックインしたのは午後11時過ぎ。小さなフロントに夜勤の係がひとりだけいた。フロントの前には、朝食を提供するコーナーがある。エレベータは1基だけで、中に空調が効いていないので、とても暑かった。客室階廊下も同様に暑い。室内に入ったら、まずは空調をON。荷物を整理していると、共演の新田くんから「バーに行きませんか？」と誘いがあった。フロントで近辺の情報を尋ね、書いてもらった手書きの地図を頼りに、ふたりで夜道を歩くこと5分。ビルの2階にあるこぢんまりとしたバーに行き、1時間ほどしゃべった。

ホテルに戻ると、新田くんの部屋は扉が開きっ放し。聞くと、ルームキーのホルダーからキーを抜くと空調が停止してしまうので、キーを差したまま外出するために、開けっ放しにしたとか。「ルームキーのホルダーになにか別のカードを差し込んでおけば、とりあえず電源が落ちることはないよ」と言ったら、「へぇ！あったまいいですね」との反応。ドアを開けっ放しにする大胆さの方が、よほど驚きに値すると思うけど。このキャラクターには、結構和まされている。

シングルルームは、12平米程度だろうか。120センチベッドとデスクユニットオンリーという、今年に入って何度も泊まる機会があった、フツウのシングルルームに共通する仕様だ。ベッドマットレスの厚さは12センチと薄く、ベッドの高さは43センチ。部屋ごとの個別空調に、空気清浄機、空の冷蔵庫を備えている。電話機はデスクのみで、ベッドサイドにはない。デスクに添えられたイスは、背もたれのないスツールタイプだ。ナイトランプがなく、室内照明はシーリングとデスク前のブラケットに頼っている。

バスルームは約1.8平米。小さいバスタブだが、深さは55センチもあるので、湯を張ればなんとか全身を浸すことが出来る。アメニティは壁掛けのリンスインシャンプーとボディソープに歯ブラシのみ。タオルは2サイズが1枚ずつだ。コンパクトで最小限の設備ながら、全体的に清潔感があるのが救い。

朝食は、パン、フルーツ、コーヒー、ボイルドエッグが無料でサービスされる。和朝食は500円で用意してくれるが、前日までに予約が必要だ。朝食会場に行くと、宿泊客のほとんどが九州新幹線の工事作業関係者であることが伺えた。作業着姿のガッシリした男ばかりで、女性客はひとりも見当たらなかった。炭鉱の町にでも迷い込んだ気分だ。チェックアウト時には、フロントで卓上ライトが配られた。新田くんが言うには、東横インでももらえるらしい。そういえば、このホテルには確かに東横インの雰囲気が感じられる。