「じゃあ」の一言で崩れた好印象 |
2006.03.25(土)
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万平ホテル ウスイ館 Superior Room | |
Mampei Hotel |
哀-2
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都心ではだいぶ暖かさが感じられるようになったが、降り立った軽井沢駅で最初に触れた空気は、まだひんやりしたものだった。それでも、春の陽気に誘われてか、新幹線車内も、軽井沢駅周辺も、かなりの混雑振りを見せていた。軽井沢は、避暑地や別荘地として名高いだけあって、落ち着いた雰囲気の宿が多い。プリンスホテルのように、充実したレジャー施設を持つホテルもあるが、むしろこれといって特別な施設を持たず、周辺をゆっくりと散策したり、読書にいそしむのに向いた、小さくて静かな宿が多勢を占める。そんな軽井沢らしい宿の中でも、ひときわ長い歴史のあるクラシックホテルとして、多くの人々から愛されているのが、万平ホテルだ。
軽井沢駅からはタクシーで5分程度。途中、万平通りと呼ばれる細いながらも車通りの多い道を進んで行く。落葉松などの木立ちが、いかにも軽井沢らしい。正面玄関に到着すると、すかさず数名の係が車に近寄り、にこやかに出迎えてくれた。扉を開けるタイミングも心得ているし、トランクが開けば、さっとそちらに注意を向ける。颯爽とした身のこなしが気持ちいい。 チェックインはエントランスを入ってすぐにある小さなフロントカウンターで行う。カウンターの脇には上階へと通じる階段が、そして、背後に目を向けるといかにもクラシックホテルらしいロビーが広がっており、漂うにおいからも過ぎ去った年月を感じ取れる。 客室へは係が案内してくれたが、思っていたよりも遠かった。ロビーのある「アルプス館」から「あたご館」へと進み、エレベータで2階へ。さらに先へと進むと、いつしかそこが「ウスイ館」の1階となって、また別のエレベータに乗って「ウスイ館」の3階に至る。途中の廊下には、万平ホテルの長い歴史にまつわるエピソードなどが額に入れて紹介されており、滞在中に見て歩くのもいい。他に、資料室も設けられている。 用意された部屋は、「ウスイ館」のスーペリアルーム。1階には床がフローリングでワンルームの「書斎タイプ」があり、2階と3階はベッドルームを仕切りで囲った「クラシックタイプ」になっている。また、1階には猫足バスタブを備えた部屋もあるそうだ。デザイン的にもアルプス館のテイストを見事に引き継いでいる。今回利用したタイプは46平米の面積があり、入口を入ると、手前からバスルーム、ベッドルーム、リビングスペースと、3つのセクションに分けた造りをしている。 ベッドルームは完全に仕切られているわけではないが、格子のガラス戸に囲まれ、ほぼ独立した空間だ。120センチ幅のベッドをハリウッドスタイルに並べてあり、寝具やマットレスは快適。天井にも格子状の意匠が見られ、丸いぼんぼりのようなペンダントライトがやさしく照らす。木肌にぬくもりを感じる木材を使っており、比較的新しい建物にもかかわらず、早くも風合いを醸し、初めて来たのに懐かしい。 ちょうどベッドの真正面には、小さいながら雰囲気のいいライティングデスク兼ドレッサーがあり、モダンなスタンドライトを添えている。窓辺に設けられたリビングスペースには、窓に向けて置かれたソファセット、テレビ、ミニバーキャビネット、そして、一彫堂の軽井沢彫り桜柄タンスを備えている。窓を大きく開け放てば、木立ちを抜ける爽やかな空気と鳥の声が舞い込む。ここならば、BGMも映像もいらない。ただぼんやりと時間の流れにまかせるだけで、気分も体もよみがえっていくような気がする。 バスルームは約7平米と広く取ってある。このホテルには温泉や大浴場はないので、客室のバスルームは重要だ。淡い色合いの空間は、腰ほどの高さまでが細かいタイルで、その上は塗り壁で仕上げられている。ベイシンは広く、天板は人造石。大きめのバスタブの脇には、ガラスのスイングドアで仕切られた、半分洗い場のようで半分シャワーブースのようなユニークな空間を設けた。トイレもガラスドアで仕切ってある。壁に設置されたちょっとゴツ目のタオルウォーマーも印象的だ。アメニティはモルトンブラウン。照明が調光可能なのがうれしい。 夕食は「ダイニングルーム」で、洋食のコースを。宿泊プランにあらかじめセットされているメニューだが、どうやら9,240円のものと同じ内容らしい。ホワイトアスパラガスと真鯵のマリネ、野菜とポテトのポタージュ、蕗味噌を包んだ真鯛のクリスティアン、イベリコ豚のグリル、バニラアイスクリームと赤い果実のスープ、コーヒーという流れ。サービスはとてもよく行き届き、テーブルを担当した青年の実直で丁寧なサービス振りが料理よりもずっと印象に残った。料理も悪いわけではないが、味が薄かったり、量が控えめだったりと、年配客や長期滞在客などに照準を合わせているような感じで、しっかりと食べたいと構えていたら物足りなかった。 朝食も同じ店を利用した。洋食と和食がチョイスできるが、和食を希望する場合は前日までに予約が必要だ。どちらかというと洋食の方がこのホテルには似合うように思いつつも、あえて和食にチャレンジした。だが、結果から言うと失敗だった。料理は作り置きの品ばかりで、ほとんどが冷たいもの。味噌汁くらいは熱々でと願いたいが、それすら冷めていた。 今回は1泊の滞在だったが、館内にはほとんどレクリエーション施設がなく、庭も散策するような感じでもなく、これが連泊や長期の滞在だったら、ちょっとキツイかもしれないと思った。もちろん周辺には買い物や遊びのスポットがたくさんあるので、ホテルから飛び出せばいくらでも楽しめる。しかし、単に寝るための部屋にするには贅沢な料金だ。もう少しホテル内で楽しめればいいのかもしれないが、それはそれで軽井沢の流儀から外れるような気もする。このホテルがしっくりと馴染むようになるには、もう少し年齢を重ねなければ。やはり、熟年夫婦が、自分達の軌跡とこのホテルの歴史とをなぞらえ、静かに過ごすのが一番似合いそうだ。 11時にチェックアウトを済ませたが、もう少しこの場に留まりたくてカフェテリアに入ろうとした。すると、若い女性の係に、荷物を預けて来なければ入店できないと言われた。それも、意地悪そうな口調でぶっきらぼうに。べつにスキー板やコントラバスを抱えているわけではなく、小さめのキャリーバッグだけなのに。なぜ入れないのか聞くと、店が狭いからだと言う。まだ午前中で混雑もしていないし、この荷物を持って入って他の客に迷惑が掛かるとは到底思えない状況だった。今フロントで受け取ってきた荷物を、またわざわざ預けに行けという訳かと返したら、「じゃあどうぞ」と不機嫌そうに一言。何だその「じゃあ」って。この時まで、スタッフの謙虚で親しみのあるサービス姿勢に感心していたのに、一気に崩れ去った。 オープンしたてのホテルにはないものが、ここにはあるだろうと思ってわざわざ来ているのだし、心地よさ以外に何もないホテルなのだから、サービスの質だけは高くあってもらわなければ困る。型にはまらず、フレキシブルな対応ができる規模であり、そうしたサービススタイルにも慣れ親しんでいる客層に恵まれていることを自覚し、それに相応しいサービスを守り抜いて欲しい。 |
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