大阪四ツ橋通り沿い、サントリービルの隣に建つ、小さいながら立派な石造りの建物が、アンビエント堂島ホテルだ。2003年3月3日に開業した比較的新しいホテルだが、その前身となる旧堂島ホテルは1984年に開業し、1994年にはスモールラグジュアリーホテルを銘打って開業からわずか10年にして全面改築。強気な料金設定で高級路線に進んだが、1999年に倒産した。
その後、投資ファンドが20億余りの安さで落札し、セラヴィリゾート株式会社と賃貸借契約を結んでアンビエント堂島ホテルを開業させた。かつては1室3万円以上という料金設定も、1万円台に見直され、バブル仕様の贅沢な設備を廉価で利用できるようになった。東のマンハッタン、西の堂島ホテルという感じだろうか。だが、その安い値段でも利益が出るようなサービス体制になっているため、器は立派でも多くを期待することは難しい。
ホテルは大阪駅からも徒歩で行くことができるが、荷物がある場合などはその道のりが遠く感じられるだろう。かと言ってタクシーに乗ろうにも、ホテルの目の前を通る四ツ橋筋は、御堂筋とは逆向きにミナミからキタへの一方通行なので、キタの大阪駅からだと逆走になってしまう。結局、タクシーでは御堂筋から中之島をぐるっと大回りして行かないと、このホテルには到着できない。便利なようでいて、中途半端な場所にあるという印象だ。
外観は実に立派で、重厚感のある建築だが、印象的な赤いテントが華やかで瀟洒な雰囲気を醸している。小さなエントランスから館内に入ると、大理石や壮麗なシャンデリアで装飾されたロビーがある。さほど広くはないが、クラシックな家具や調度品があり、どれもなかなか立派。吹き抜けの豪奢なロビーの片隅にあるフロントだけはモダンなデザインで、ちょっと違和感がある。
低層階には各種レストランや宴会設備が充実し、最上階にはチャペルを備える。客室は8階から13階までの6フロアに78室あり、旧堂島ホテルからのクラシックなタイプと、改装されたタイプがある。今回利用したのは23平米のスタンダードダブルルーム。オーソドックスなレイアウトの客室ながら、家具調度品はどれも不釣合いなほどに立派だ。しかし悲しいほどにまったく垢抜けない。このセンスでは、旧堂島ホテルが流行らなかったのも仕方がない。
鮮やかなブルーのカーペットに水色の壁紙は、ここが地中海に面したリゾートだったら、どんなにか環境にマッチして素敵だったことだろうと思われるが、昼なお薄暗く、目の前には雑居ビルや屋上ゴルフ練習場などしか見えない場所には相応しからぬテイストだ。窓の外にある、妙に幅の広い避難用バルコニーの存在も、室内に外光が入りにくくしている原因だ。
アーモアやベッドボード、ナイトテーブルには、彫りや装飾が施され重厚で高級感もある。160センチ幅ベッドの両脇に置かれたナイトテーブルには、オリエンタルな雰囲気のライトスタンドが載っている。この部屋にはライティングデスクはなく、あとは窓の傍にフロアスタンドがあるだけで、照明は少ない。アイボリー色のテーブルとアームチェアは優美なデザインで、高級レストランのサロンを思わせる品だ。それぞれの備品は素晴らしいが、全体のコーディネートの均整が取れていない印象だった。テレビプログラムは最低限のラインナップで、CNNでさえ有料チャンネルだ。
バスルームはタイル仕上げのユニットバスで、居室に比べるとあっけないほど普通だ。客室案内には15種類のアメニティアイテムがあると書いてあったが、7種類しか確認できなかった。また、シャンプー、コンディショナー、ボディソープはミニボトルが用意されているが、3本とも明らかに使いかけのボトルだった。タオルは3サイズ用意されるが、その掛け方ひとつにしても無神経で粗雑な仕事ぶりを物語っている。ミニバーがあるのはいいのだが、冷蔵庫には霜がこびりつき、ドリンク類は無造作に並べられていて、だらしがない。一瞬の手間を惜しむことで、全体の印象をかなり悪くしている例だ。
せっかく心機一転オープンを果たしたのに、もうすでに寂れた感じがするし、全体にいいしれぬ陰気さが充満している。サービスも悪いというほどではないが、ややピントハズレな印象を受けた。なんとなくパッとしないホテルだった。
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