東京駅で新幹線を待っている時、プラットホームでの体感温度は40度を超えているとしか思えない厳しい暑さだった。汐留の高層ビルに阻まれて、海からの風が入りにくくなったのが原因の一つだと言われているが、それを初めて実感した。見上げる丸の内ホテルは熱気でゆらゆらとよろめいて見え、汗で湿ったシャツは肌に密着して気持ちが悪かった。だが、新幹線で約80分、降り立った軽井沢駅には、高原の風が優しく吹きぬけ、灼熱の東京とは別世界だった。さすが避暑地として名を馳せるだけのことはある。
今夜の宿、ホテル軽井沢1130へは、駅前から送迎バスが出ている。あらかじめ予約が必要で、乗車の前に乗務員から点呼を受ける。予定の時間を過ぎていたが、全員が揃うまで待って出発した。途中、山間の峠道を通りながら40分ほどのドライブ。風情のある別荘地を走っていたかと思うと、忽然と大きな建物が現れる。周辺が長閑なだけに、スケール感のある建物に圧倒される。
だが、フロントロビーはこぢんまりとしている。ソファが並び、その日の新聞や周辺の観光案内などに目を通しながら、滞在客たちが思い思いにくつろいでおり、すでにこの空間と時間の流れにすっかりと波長が合っているように見えた。フロントには若い女性数人と、中年の男性が立ち、サービスに当たっている。フランクで気取りがないのはいいが、できるだけ面倒なことは避けて通りたいという雰囲気が、表情に思い切り出てしまっている。客室への案内などは行わず、ロビーにカートを設けている。
客室は233室だが、それぞれの客室はとても広く造られている。どの客室からも雄大な山々や森が眺められ、その深い色合いと新鮮な空気は、体中を通り抜けて浄化してくれるような気さえする。今回利用したのは約60平米のスーペリアルーム。ひとりで利用するには十分なスペースだが、それでもこのホテルでは狭い部類だ。
扉を入ると長い廊下があり、独立したトイレ、アウトベイシンを設けたバスルームを配している。内扉を抜けると居室になっており、リビングスペースとベッドスペースに分かれたワンルームタイプのジュニアスイート風の造りだ。廊下や居室の一部の床、そしてバスルームには大理石を使った。シンクを備えたカウンター風のテーブルにはバーのようなハイチェアを添えている。部屋の中央にはソファセットを置いた。
ベッドはやわらかく、寝具はカバーと一体化したもので、カバーに染み付いたにおいが気になった。ベッドの前にはバゲージ台、デスク、クローゼットを備えるが、それらはいずれも小さめだ。窓は開閉可能で、高原の空気を存分に味わうことができる。洗い場付きの広いバスルームもあるが、鬼押温泉の大浴場と露天風呂が無料で利用できる。
広い館内ではあるが、とりわけ見て回るような場所は少なく、みやげ物を扱う売店も小さい。夕食には日本料理「山ぼうし」を利用した。コースは6,930円と9,240円の2種類があるが、料理内容は共通で、高いコースには2品の料理が加わるだけ。ボリュームを求めないのなら、安い方で十分だと思った。店内は全席禁煙で、サービスはフレンドリー。味も悪くないのだが、もう少し値段なりの高級感や端整さを感じさせて欲しい。
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