東海道線の根府川駅は、相模湾を望む高台に位置する、のどかな雰囲気の無人駅だ。駅前には農協があるだけで店は一軒もないが、客待ちするタクシーは2台停まっていた。根府川駅からヒルトン小田原までは車で10分足らずだが、途中急坂をぐんぐんと登ってゆき、ホテルの敷地に入ることを示す門からも、エントランスまではかなりの距離がある。
ヒルトン小田原の前身である「滞在型健康施設スパウザ小田原」は、厚生労働省所管の雇用・能力開発機構が総工費455億円を投じで建設した。これは、贅を極めたフォーシーズンズホテル椿山荘東京の約1.5倍の額にあたり、いかに莫大な予算が使われたかがわかる。98年より営業を開始したスパウザは、特殊法人改革の流れで投売りされることとなり、小田原市がこれをたった8億5千万円で購入。ヒルトンに運営委託をし、04年2月からヒルトンの名を冠し、同4月21日にグランドオープンを果たした。
メインロビーは二層吹き抜けでゆったりとしており、ロビー中央には天井のシャンデリアや木目の柱に囲まれた広いシッティングスペースを設けている。家具はどれも立派で、都心のインターナショナルホテルを思わせる雰囲気だ。フロントカウンターはシッティングスペースに面している。手続きは丁寧で、リクエストに対する柔軟性もあるのだが、何もかも言われてから行動を起こすという印象で、気が利くという感じはしない。
今回利用した客室は和洋室。ワンルームタイプのデラックスルームを希望していたが、全室片方のベッドがスタッキングベッドだというので、正ベッドが2台入っている和洋室を選んだ。面積はどちらも54平米とゆったりしており、2面の窓とバルコニーを持っているが、和洋室は半分が和室で、襖で仕切れるようになっている分、開放感が奪われている。
室内の備品は、スパウザ時代のものを活用している物も多いが、ファブリック、アームチェア、液晶テレビとテレビ台、ベッドなどは新しくなったようだ。スパウザ時代のものを見ると、高級リゾート風の立派な家具ばかりで、確かにお金が掛かっている。
洋室部分には、デュベカバーで仕上げた2台のベッド、アームチェアのセット、デスク、テレビとテレビ台という設えで、オーソドックスなホテルルームのレイアウトだ。一方、和室部分は4名分の座椅子とテーブル、床の間が設置され、押入れには4名分の寝具が収納されている。窓には障子をあしらった。
バスルームは大理石仕上げのアウトベイシンと、続くユニットバスルームという構成。ユニットバス内にも一部大理石を使っているが、高級感はない。以前はシャワーカーテンを引いて使うユニットバスだったようだが、カーテンを外し、バスタブの外をシャワーエリアとして使えるようにしている。ならば、思い切ってユニットバス内のベイシンを取り外して、シャワーヘッドを設けたらよかったように思う。
アメニティはヒルトン共通のスタンダードな品揃えで、ワッフルのバスローブを備えている。トイレは完全に独立しており、スパウザ開業当時には最高級の部類だった洗浄機能付き便座を備えている。冷蔵庫は空。ルームサービスは15時から23時までの営業で、カレーセット3,465円、コーヒー1,155円と立派な値段だ。
レストランは、ロビー階の「フローラ」とプールサイドの「アクアフェ」の2店舗があるが、「アクアフェ」は特別な繁盛期以外はディナー営業をしていないので、夕食は「フローラ」を利用することになる。敷地内にも近隣にも他に食事が出来る店はないので、選択肢は非常に狭い。しかも、「フローラ」は安くない。
メニューはブッフェか会席料理、洋食コースというラインナップで、一人5千円は下らないのだが、残念ながらそれほどの価値があるようには思えなかった。アラカルトもあるにはあるが、まったく魅力のない品揃え。魅力もなければ、親切さも感じられないメニュー構成だった。朝食ブッフェもヒルトンらしいものだが、他のヒルトンに比べるとクオリティが低い。例えば1週間滞在しようと思うと、とにかくレストランがネックだ。低カロリーメニューや軽食などが充実していないと、長期の滞在には向かない。
温泉健康施設「バーデ」や温泉露天風呂は、宿泊客なら自由に利用できる。広い施設内には、屋内外に温かい温泉水を使った様々なプールやサウナを設け、ゆっくりと体を癒すことができる。アクティブ派には、25メートルの水泳プールも用意される。その他、スポーツ施設、エステティック、アミューズメントなどがあり、目的にあわせて活用できるのだが、公共施設として作られただけに、いずれも利用客の便宜に対する配慮や高級リゾートらしい演出が不足している。とりわけ、更衣室のわかりにくいシステムと、衛生面が気になった。
ヒルトンになって合理的な経営への取り組みが感じられるが、ロビーや廊下を薄暗いほどに節電するなど、みみっちく思える部分もあった。できれば再建に向けて、財布のヒモを緩めて金を使ってあげたいと思うのだが、チャリティーではないのだから、使った料金に見合う価値を提供してもらわなくては困る。だが、現状ではその実力があるようには感じられなかった。
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