ホテルにたどり着く前に、銀座一丁目の駅で疲れ果てた。エスカレータやエレベータの設置が進み、体が不自由な人はもちろん、荷物の多いトラベラーにも非常に便利な駅が増えているというのに、銀座一丁目駅はバリアフリーどころかバリアマックス構造になっている。地下配管を避けて通るためだろうか、歩行者にとっては意味のない階段の昇降が多くてヘトヘトだ。
メルキュールホテルへは、地下道からホテルの地階へと直接入れるルートもあるが、せっかくなので地上に一度出てから正面玄関に回った。以前通りかかった時には、歩道ぎりぎりのところまで小さなデスクを出して、ドアマンが控えていたが、すでにやめてしまったらしい。無人のエントランスから入り、エレベータで2階のフロントに向かった。
フロント周辺も小ぢんまりとしている。元々オフィスビルだった建物を、にわかにホテルとしてリノベーションしたので、所々に無理な構造やオフィスの名残りも見て取れるが、総じてよく工夫しているという印象だ。カウンターで手続きを済ませ、簡単な説明を受けて自ら客室へ向かった。ベルはいない。2基あるエレベータはキーを挿し込まないと客室階には停止しないシステムになっている。だが、パブリックフロアで自由に出入りできる階段は、そのまま客室階まで繋がっており、セキュリティとしてはほとんど意味を成していない。客室階は、廊下の片側に客室を配置しており、赤い扉がポップだ。
客室はとても細長い造りだが、狭い空間をうまく生かす工夫がレイアウトに見られる。ベッド幅プラスアルファ程度の横幅しかなく、縦は横幅の2倍以上ありそうだ。壁とベッドの鮮やかな白、家具のダークブラウン、イスや扉の赤が絶妙なコントラストを生み出しており、ベッド側の柄の入った壁紙や額の写真がフランスを感じさせる。このリップスティックを思わせる赤はテーマカラーとして外装や内装の随所に使われ、アクセントになっている。
ベッドは110センチ幅。寝具はダクロン風で、少々ゴワゴワした感触だ。ベッドの足元には液晶テレビを置いている。窓際に幅広のデスクを据え、シャンパンも備えるミニバー、冷蔵庫、棚もデスクの脇に集約させた。ルームサービスはない。LANは1日500円。テレビプログラムは退屈だった。せっかくフランス系なのだからTV5くらい見れるようにしたらいいのに。個人的にはTV6の方が好きだけれど。
イスは肘掛のないものが2脚あるだけで、小さくてもいいからソファがひとつ欲しいところ。また、デスク以外にテーブルがないので、収納可能だったり折りたためるようなコーヒーテーブルが欲しい。照明は明るいが、雰囲気をコントロールするのが難しかった。ミラー張りのクローゼットは、ハンガーレールを手前に引き出せる構造になっているのに、細い扉がつっかえて機能しない。また、新しいからか、塗料や接着剤の入り混じった臭いが部屋にこもり、かなり気になった。
バスルームの扉は、半透明プラスチックを使い格子状にデザインした引き戸で、とても洒落ている。ボウル状のベイシンや、カゴに入ったタオル類など、今風の雰囲気に仕上げた。イタリア製のアメニティは洒落たボトルに入っているが、コンディショナーは備えていない。バスタブの長さは140センチとややこぶり。湯を張るのにかなりの時間を要するのは、この建物がホテルとして設計されていないからか。
レストランは2階にある。「エシャンソン」という店名はシャンソンと関係がある言葉なのかと思っていたが、綴りを見るとどうもそうではない感じ。調べてみたら、旧約聖書に登場する献酌官を意味するらしい。なるほど、お酌をしてくれる神官をイメージした店なのかと、ちらっとキャバレーやママのいるクラブを想像してしまったが、そうではなくビストロ風の気軽な店だ。内装は安っぽいが、サラダバー、スープバー、コーヒーが付いたランチのパスタセットは1,200円からと銀座ではうれしい限りのプライス。味もいい。
ホテル全体としては、もう少しフランス系のオシャレ心が生かされているかと思いきや、意外とフツウでややがっかり。もっともっと思いきったフレンチテイストが欲しかった。客室料金も、設備と広さを考えたら、立地のよさを考慮に入れてもまだ高すぎる。もう少し時間がたてば、現実的な実勢価格に落ち着くだろうから、それからが泊まり時かも。
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