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2004.10.20.(水)

目黒雅叙園 Executive Suite
Meguro Gajoen
喜-3 奇抜さよりも心に残ったもの
竜宮城の入り口を思わせるエントランスからロビーへの通路
台風23号が首都圏を直撃し、都心も朝から荒れていた。テレビではなるべく外出を控えるようにと繰り返し注意を促しており、交通機関にも乱れが生じていたが、この日は有楽町よみうりホールでのイベントに出演することになっていたので、予定通りに出かけた。会場入りしてからは窓のない環境に置かれるので、外の様子はうかがい知れない。果たしてお客様は来場してくださるのか、来てくださるにしても怪我などないようにと祈るような気持ちでテレビの情報に注意を傾けた。

主催者によれば800枚のチケットは完売していたそうだが、実際に来てくださったのは300名ほどだった。客席の半数以上が空席だと、舞台と会場の一体感を作り上げるのが非常に難しい。だが、この天候の中、外出を中止せず足を運んでくださったことには、いつも以上に感謝の気持ちでいっぱいだった。

終演後の打ち上げも中止になり、来場していた友人の車で目黒雅叙園まで送ってもらった。この日ばかりは寄り道をして余韻を楽しもうという気分にはなれなかった。途中の幹線道路は激しい降雨が集まって激流になっていたし、通行できない状態の箇所もあってハラハラする。目黒川は橋の欄干すれすれのところまで水位が上昇し、危険を知らせるサイレンが不気味に響いていた。

こんな状態の中、ホテルに到着したのは午後10時過ぎ。時間も遅いし、この天候では正面玄関も無人だろうと思っていたが、若いスタッフが待機しており、礼儀正しく出迎えてくれた。その笑顔は、さまよう砂漠で見つけた泉のようにみずみずしく感じられた。エントランスでは、吹き込んでくる強風への対策として、オブジェなどが破損しないように、奥の隅の方に避難させていた。

美術館を思わせるユニークなデザインの廊下をしばらく進むとフロントカウンターがある。左手のダイナミックなアトリウムや水流に目を奪われていると、右側のフロントカウンターを見過ごしてしまうかもしれない。フロントとてそれほど小さい造りではないのだが、アトリウム側のスケール感に圧倒されて小さく感じられる。この時間、スタッフは全員若い男性だった。夜のホテルにありがちな、気の利かない無粋な雰囲気とは違い、どのスタッフも親切でソフトな印象だった。

目黒雅叙園が現在の形でオープンしたのはフォーシーズンズホテル椿山荘東京と同じ90年代初頭だ。バブルの影響を最も色濃く受けた時代に計画され、巨額を投じて完成した見事に贅沢なホテルなのだが、絢爛で大胆なデザインテイストは遊郭とか竜宮城などを彷彿とさせ、見ようによっては下品。江戸時代の文化を感じたかと思えば、現代的なイスを並べた空間があったりと、遊び心がちりばめられており、細かい部分までミュージアム気分で楽しめる。

今回利用した客室は80平米のエグゼクティブスイート。もう一回り狭い部屋もあるが、全60室がスイートのこのホテルでは最も標準的なタイプだ。室内は大きく分けてリビングスペースとベッドスペースに分かれているが、間仕切りのないワンルームタイプで、広々とした開放感が魅力となっている。低層階で川とは反対側だったが、三角形に張り出した大きな二面の窓の外には植え込みがあり、ちょっとした日本庭園気分が楽しめる。

リビングには幅広のソファとオットマン付きアームチェア、対面して椅子を配したライティングデスクとミニバーを設置。壁に埋め込んだ間接照明や、高級な焼き物のスタンドなどが、高いクオリティを演出する。ミニバーには数種類のグラスに加え、カップ&ソーサーを備えている。ベッドスペースとの間にはテレビやオーディオの収まった大きなアーモアがあり、客室の仕切りの役目を兼ねている。

オーディオはレーザーディスクやカセットデッキなど化石になった懐かしい機器も備わり、ビデオデッキを活用できるようビデオライブラリーも用意されている。テレビは旧式だが、リモコン操作でテレビ台が回転し、ベッドとリビングどちらでも観ることができるが、テレビは一台なので同時には観られない。

ベッドに関してはシーツや枕は気に入ったが、最近替えたと思われる掛け布団のファブリックがダサく感じた。ベッドスペースの窓際には独立したドレッサーも設けられている。BGMは4チャンネル用意され、時間帯に合わせた音楽が選べるのがいい。カーテンは電動式で、すべて独立して操作できる。照明も凝っているし、細かくコントロールできるのはいいが、当たって欲しいところに当たらず、デザインプランが優れていない印象を受けた。

最も充実しているのはバスルームだった。広い面積はもちろんのこと、イタリア産の大理石をふんだんに使い、金色の金属部分とともにゴージャスな雰囲気を醸している。天井の意匠など、細かいところにも工夫を凝らした。ベイシン脇には大きなテレビを埋め込み、まるで壁に映像が映っているようにも見える。バスタブは強力な水流が心地よいジェットバスで、広々したシャワーブースの他、スチームサウナも独立させている。このスチームサウナも十分に機能しており、気持ちよく汗を流すことができた。トイレはバスルーム内の他に、部屋の入口付近にももうひとつ用意されている。

全体に贅沢で大胆な設計とデザインが見られるが、その思い切りの良さが光るインテリアに対して、情けないボールペンやしょぼいアメニティが、実際以上にみすぼらしく見えてしまう。また、サービスもかなり限定して経費を抑える努力をしていることが伺える。客室清掃は10時から14時半までとビジネスホテル並み、全てテナントにしたレストランやルームサービスは22時までの営業で、23時まで開いているコンビニが閉まったあとはどうしようもない。また、各階のエレベータホールに設置され、チェックアウトも可能だったゲストリレーションズデスクは、廃止されて形跡だけが残っていた。

宴会場も非常に立派なので、婚礼などにも人気があって然るべきだが、こんなに広い客室ばかりでは、地方から列席する人の宿泊施設としては行き過ぎだろう。思い切ってワンスパンずつの普通サイズのツインルームを多数設けたほうがいいようにも感じた。だが、せっかくの希少で奇抜なホテルが消えてしまっては悲しすぎる。消滅しないようにたまには利用していこうと思う。

これだけ個性的なホテルだが、一番印象に残ったのは、台風の中でゲストを待つエントランスの若きスタッフの笑顔だった。朝もまだ強い風と時折吹き付ける横殴りの雨が残っていたが、荷物を丁寧にタクシーに積み込み見送ってくれた。雅叙園が見た目だけの存在でないことを知ってうれしく思った。

80平米の標準客室 シッティングエリア

ベッドの脇はクローゼット ベッドからリビングを見る

エントランス脇の独立したトイレ バスタブからベイシンを見る

シャワーブースとスチームサウナ ジェットバス機能付きバスタブ

かつてはチェックアウトもできたエレベータホール前のデスク フロントカウンター

ロビーまでの通路は一転して現代的な空間 アトリウムには豊かなグリーンと料亭がある

[目黒雅叙園]

Y.K.