2004.10.16.(土) |
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丸ノ内ホテル Corner Twin Marunouchi Hotel Tokyo |
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哀-4 もう老舗ではない丸ノ内ホテル | |
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東京丸ノ内に開業して80年。震災や戦火を逃れ、日本のホテル発展に大きく寄与してきた老舗ホテルが、東京駅により近い場所に移転して再オープンを果たした。かつては日本でも指折りの設備を誇る近代ホテルとして名を馳せたらしいが、改築のため閉店が決まった頃には、老朽化が進んた建物と、ビルに囲まれた薄暗い客室が災いしたのか、心霊現象多発地帯として有名になってしまうという皮肉な事態を招いていた。実際、滞在中に恐ろしい体験をしたといううわさは多数耳にしたが、とうとう自分で滞在して確かめるチャンスも度胸も持てないうちに取り壊されてしまった。
新しいホテルは、東京駅丸ノ内北口の目の前、OAZOの中核施設をなしている。信号機のタイミングがベストだったら、改札から1分以内にチェックインができるという便利さは、東京ステーションホテルにも匹敵する。ビジネスの拠点としてこの上ない立地のホテルは、真夜中に東京駅の寝姿を独り占めできる、眺めの宿でもあった。 まず、予約をする段階で、いったいこのホテルは自身をどの程度のカテゴリーに位置づけているだろうかと疑問に思っていた。ラックレートは立地を考えれば理解できないでもない金額だが、ほとんど割引をせず、実売価格としては非常に強気だ。フォーシーズンズ丸ノ内と大差ない面積単価を提示しているが、果たしてその価値がある設備とサービスであるのか。いや、あるはずないと確信していた。でも、行って見なくては確かなことは言えないので、無駄遣いかもしれないと思いつつラックレートで予約をした。 最近は新規オープンホテルは軒並み強気の料金を提示する。かつてはサービスが安定するまでの一定期間、特別割引レートで利用させ、いい印象を持たせてリピーターにさせたり、周囲への宣伝役をさせる戦法が多かった。シェラトングランデトーキョーベイが開業した時は、タワーズルームが1泊1万円だったし、パークハイアットもウェスティン東京も今の半額程度だった。 しかし、最近は新しければ高い料金が取れると考えるホテルが増えたようだ。オープン景気の間に稼げるだけ稼ごうという魂胆だろうか。でもそれはサービスなど価値のうちでないとナメているからできることだ。実際に開業当日から満足なサービスが提供できるホテルなど皆無と言っても過言ではない。全力で準備しても開業してしばらくは思いもよらないハプニングが発生し、対応に追われるものだ。であれば、チームワークが軌道に乗るまでは、お試し価格で様子を見るべきだと思う。 さて、丸ノ内ホテルはどんなサービスをするのだろうか。設備はフォーシーズンズ丸ノ内に太刀打ちできるほど立派なものが完成したのだろうか。期待と不安が入り混じった気分で、東京駅前の真新しい建物を見上げた。 フロントは7階にあり、ホテル専用のエントランスから専用の2基のエレベータでアクセスする。OAZOのショップ側から入るルートもあるが、せっかくならぜひ正面玄関を利用したいものだ。石をあしらった立派な車寄せがあり、係が一人常駐している。だが、その係は重たい荷物を持っていても一切手伝いはしなかった。7階はフローリングの床だけでなく、壁面にも木を多用し、温かみのあるデザインだ。特別目を引く演出もないし、贅沢な造りでもないのだが、余分なものがなく、スッキリと広々した感じが好印象だ。 アイランド式のフロントに立つ女性たちは想像以上に洗練されており、手続きはとてもスムーズだった。ベルスタッフは置かず、案内が必要な場合を含め、要望への対応など、フロントスタッフが全てのサービスを担当するシステムらしい。それはいわゆるクラブフロアのチェックインを思わせるやり方だが、非常口や客室の説明も一切なかったし、次に廊下で出会っても無視されるなど、クラブフロアのようなきめ細やかさは少しもなかった。もう一歩踏み込んでパーソナルなサービスを実現させなければ、単なる人件費削減にしか思えない。 客室へ向かうエレベータは2基。これが非常によく待たされる。たった1泊で何度イライラしたことか。しかも、ルームキーを挿し込まなくては客室階へはアクセスできないが、これがまた面倒だ。ルームキーを挿して、滞在中のフロアのボタンを押すわけだが、そのフロア以外のボタンは押しても点灯しない。ということは、エレベータはキーの情報からフロアを認識しているということだ。ならば、キーを挿すだけで目的のフロアが点灯するようにしたらいいのに。 客室階廊下は最上階までの吹き抜けに面し、レストランやロビーを見下ろすことのできる構造だ。ゆるやかなカーブを描いており、クラシックピアノのBGMが流れているが、重く激しい曲ばかりでかえって落ち着かない。 今回予約したのはコーナールーム。廊下の突き当たりに位置し、非常にワイドな2面の窓を持ち、抜群の眺望が自慢の客室だ。構造上しかたがないのだが、入り口部分の廊下とミニバーがある小さなホワイエまでの空間が、かなり無駄に感じられた。全体で43平米のうち、10平米くらいが単なる通過点としての「過ごしようのない」スペースになっていた。 その分、居室は機能的にまとまっている。140センチ幅ベッドが2台、シッティングコーナー、ライティングデスク、テレビキャビネットというシンプルな構成で、一般客室にあるにしては少し大きめの観葉植物がアクセントになっている。見た目にはモダンな中に「禅」的な落ち着きを感じるインテリアだが、質感については中庸だった。 寝具はデュベスタイルではなく、掛け布団にシーツを合わせたカバー一体型で、肌触りもいまひとつ。カーテンは電動式だが、カタツムリのようにのろまなくせに、ボタンを押している間しか作動しないので、全開するまでに肩が凝る。これなら手動の方がマシだ。テレビは液晶だが、プログラムはつまらない。独立したデスクは窓を向いており、広くて使いやすいし、LANも無料だ。だが、オーディオなどもなく、BGMすら聞くことはできなかった。室内の照明がやや暗いことも気になった。ミニバーには有料のリカー類、無料のコーヒー、紅茶を備え、冷蔵庫には無料のミネラルウォーターのみが入っている。 バスルームは上位カテゴリーの客室にもかかわらず、なんとシングルルームと同じ仕様だ。安っぽい扉の3.2平米のユニットで、部屋の割りに狭い。だが、かわいらしいデザインのベイシンは石の天板を使い、カランやシャワーなど金属部分は艶消し仕上げがやさしい印象。スツールやワゴンもあってコンパクトながら充実したバスルームではある。アメニティは一通り揃うが、中国産で品質はいまひとつだし、バスローブすらないのは5万近い客室としては情けない。水圧が安定しないのにも困惑した。 クローゼットの扉は鏡張りで、ハンガーは多数用意される。クローゼットには艶出し薬剤を染み込ませたインスタントシューシャインを常備しているが、シューシャインクロスやペーパーの類は置いていない。きちんと靴墨で手入れをする人は艶出し薬剤など好まないはずだ。また、エキスプレスランドリーができないのも、ビジネスの最前線に建つホテルとしてはお粗末。ルームサービスは11月からとのことで、この時点では営業していなかった。 サービス面でもスマートさに欠けた。あと10通ほど手紙を書きたいので少し多めに持ってきて欲しいとステーショナリーの追加を頼んだら、便箋と封筒を11部持ってきた。確かに多めではあるが、ちょっとギリギリじゃないだろうか。「足りないようでしたら、またお申し付けいただければすぐにお届けにあがります」なんて言葉でも添えられれば納得だが、そんな気の利いたセリフは聞けなかった。ミニバーに汚れたままのグラスがセットされていたので交換させたが、持ってきたグラスもまた埃っぽく手垢だらけで、先日のヴィラフォンテーヌと同じシチュエーションだ。こんなビジネスホテルと同レベルのサービス感覚では、80年の歴史が泣くというものだ。 客室やサービスには「まあ、そこそこ」という印象しか持てなかったが、東京駅をこのアングルからひたすら眺めるという贅沢は飽きることがなかった。日本の中心的ターミナルとして人が行き交う日中には決して見せない、その神秘的な深夜の素顔は実に魅力的だ。 コンフォートフロアとコーナーツインの宿泊客は9階にある丸ノ内メンバーズクラブラウンジが利用できると案内されたので出かけてみた。特に説明は受けなかったし、フロントでもらった利用チケットには営業時間の記載しかなかったので、いわゆるエグゼクティブラウンジのようなものだろうと思っていた。ラウンジは広く、数名の係がサービスに当たっており、数組のゲストがくつろいでいた。適当なソファに腰を下ろすと、メニューが差し出された。見ると全て有料。コーヒーは1323円と安くない。他に軽食なども用意する。 どうやら、特別階用のラウンジではなく、法人契約など向けの施設であるようだ。まあ、どこにも無料だなんて書いてないし、帝国ホテルのインペリアルクラブラウンジのように有料のところもあるのだから構わないが、無料で利用できると早合点していたので、してやられたという印象は否めなかった。やはりシステムを事前に案内すべきだろうと思う。「朝食はおいくらなんですか?」と質問したら、朝食だけは無料とのこと。 朝食に利用した時には完全にセルフサービスだった。レタスサラダ、パン、飲み物というシンプルな献立だが、品質は優れていた。パンは5〜6種ある。クロワッサンが美味しかったので、もうひとつおかわりを取ったら、今度は味が違った。聞けば、すべて館内のベーカリーで焼いており、同じはずだと言う。見たカタチと焼き方は同じなので、おそらく生地だけ足りずによそから仕入れて焼いたのではないかと想像される。その旨を指摘するとすぐにアクションを起こした若いスタッフの姿勢には感心した。結論は出なかったが、ちょっとしたコミュニケーションが取れたのはよかった。 丸ノ内ホテルが古くから格式を大切にしてきたことは、サイトにある丸ノ内ホテルの歴史のページを読めばよくわかる。サービスは欧米の一流ホテルにも匹敵すると自負しているが、それはかつての栄華でしかない。建て替えのための休業期間中に、以前のスタッフの大部分は辞めてしまったということだ。建物を替えてスタッフまで一新したのなら、それはもう老舗とは違うのではないか。接したマネージャーたちは、歳ばかり重ねていても、頼りにはならない存在だった。だが、若い人たちには期待が持てる。新生丸ノ内ホテルには、一から出直すつもりで誠心誠意取り組んでもらいたい。そんな気持ちにさせられる滞在だった。 |
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[丸ノ内ホテル] |
Y.K.