ヴィラフォンテーヌ汐留は8月9日にオープンしたばかりの最新のホテルだ。以前は普通のビジネスホテルを展開していたが、六本木以降、シティホテルのグレードに迫る新しいタイプのホテルブランドを目指すようになった。既存のホテルも急速に改装を進めているが、汐留の完成によってシックで洒落た雰囲気の「ちょっとイケてるホテル」のイメージを浸透させたいところだろう。
ホテルが入るビル自体はまだ工事中箇所が多く残っていた。汐留駅から即席の案内表示にしたがって工事現場を避けるように進むと、かっこいいエスカレータがある。吸い込まれるように上昇すると気分もワクワクしてくる。まだ人のいないひっそりとしたビルのアトリウムは40メートルもの吹き抜けがあり、荘厳な雰囲気さえ感じられた。アトリウムの正面を見ると、神殿の前門のようなホテルエントランスが目に入る。静かに開く自動ドアを抜けてホテルに足を踏み入れると、立派な造りに一瞬圧倒された。六本木と比べて、スケール感がまったく違う。
だが、サービスに触れるにつれ、館内を進むにつれ、やはり所詮ビジネスホテルだと現実に引き戻されることになった。小さめのフロントカウンターでは、4人いる係のうち、3人の係が対応していたが、3組のゲストがカウンター前で手続きをし、他に3組のゲストが後ろで待っていた。いったいどこへ並べばいいのだろうかと思いつつ、待っている3組のうちの1組の後ろに並んだ。そこへ続々とゲストが到着したが、やはりどこへ並んだらいいのかわからないらしく、一番エントランスに近い列だけがどんどん長くなっていった。
前に並んでいるゲストがチェックインをしている間は、エチケットとして2〜3歩下がったところにいたのだが、いよいよ順番が来たと思ったその瞬間、大胆にも横入りをしたゲストがいた。係はこちらが次の順番であることは認識していたにもかかわらず、勢いに押されてか、横入りしたゲストの手続きを先に始めてしまった。仕方がないので待つことにしたが、今度はそのゲストの後ろにぴったりと付いて並んで待った。
やっと順番が来たが、係からは「お待たせしました」の一言もない。にわかに忙しくなって余裕がなかったのかもしれないが、印象はよくなかった。この状況では、ゲストは混乱するばかりだから、混雑したときは誰かがカウンター前に出て整列するなどしたほうがいい。また、ロビー脇には開業祝の花が並ぶが、すでに枯れ果てていてみっともない。
先に料金を払って、自分で荷物を持ち客室へ向かう。この辺はビジネスホテルのシステムだ。ロビーには無料朝食を提供するコーナーや、観葉植物が配されたくつろぎのソファスペースなどがあるが、どことなく冷淡な印象がある。テレビドラマなら、悪事を働く企業の本社として撮影の舞台に使えそうだ。館内には朝食以外に飲食施設はない。だが、この周辺はまだ工事中で、何かを食べようにも、一番近くでもパークホテル東京があるビルまで出向かなくてはならず、極めて不便だった。
ダイナミックなロビーから、このクラスのホテルには不釣合いなほど立派なエレベータホールを経由し、客室階へと向かう。客室階廊下もシックなインテリアでまとまっているが、カーペットは硬く、だんだんとビジネスホテルらしくなってきた。廊下は長く、最も奥の客室まではかなり歩かなくてはならない。
30平米のビジネスルームは、細長くてウナギの寝床のようだ。一見スタイリッシュな内装だが、ちょっと見れば安っぽいことがすぐにわかる。カーペットは薄く、180センチあるベッドは変な硬さで寝心地が悪い。シーツなどの肌触りもよくなかった。窓際付近にワークスペースが集約され、大きなL字型のデスクには、液晶テレビ、ノートパソコンが用意され、LANも無料だ。だが、液晶テレビは小さい上に、位置的にベッドから見ることができないのが不便だった。イスはデスクチェアの他に、座り心地が悪いイージーチェアがふたつある。照明はいい位置に設けられているが、スタンドやメモパッドなどが安っぽさを助長していた。
バスルームは明るくゆったりとしたユニットバスで4平米弱の面積がある。給湯にはかなり時間を要するし、シャワーカーテンがペラペラで体にまとわり付いて気持ちが悪い。アメニティはそこそこ揃い、タオルは2サイズが2枚ずつ用意されているが、バスタブやベッドにも髪の毛が多数残り、清掃が不行き届きだったお茶セットと一緒に用意されたグラスはビニール袋でひとつずつ覆われているが、いざ開封してみると著しく汚れていたので、交換を依頼した。すぐに新しいものが運ばれてきたが、より一層汚れたものだった。
ディレクトリーを読むと、面白いことがたくさん書いてあった。タバコは窓を開けて吸え、ヘアスプレーを使う時も窓を開けろ、香水は遠慮しろ、館内で写真を撮るなといった内容だが、なんとなく感じの悪い印象だった。貸し出し品もほとんどなく、客室の清掃は14時までしか受け付けないなど、サービスは極めて限定的だ。ランドリーにはオーバーナイトがあるのがありがたいが、ワイシャツが714円、スーツが3937円と高い。夜は静かで過ごしやすかったが、日中は目の前のコンラッド東京が入るビルの工事で騒々しかった。
朝食は、千切りレタス、だまだまのスクランブルエッグ、ソーセージ、スープ、ジュース、コーヒー・紅茶、牛乳、数種のパンという品揃え。8時過ぎにはかなりの混雑を呈し、ラフというよりだらしない服装の人が多かった。女性も素足に洗い髪とスッピンだと、目のやり場に困ってしまう。このゲストたちは、ひとり1万円もの宿泊費を払って、わざわざこの最新のホテルを目指してやってきたのだろうか?とても不思議に思った。
全般にこのクオリティで、「ホテル革命」「SHIODOMEグレード」「ゴージャスな外観」などとのぼせた表現をするのは行き過ぎな気がする。もう少し身の程をわきまえてほしいものだ。これで料金が驚くほど安いのなら納得だが、実勢価格としては近隣のインターコンチネンタルやパークホテルの2〜3割引程度だ。ラックレートこそ控えめでもほとんど割り引かないので、倍以上の価値があるホテルを前にすれば、割高な感じがする。自分的にはイケてないし。
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