JR目黒駅から線路沿いを渋谷方向にゆっくり歩いても数分の位置に建つホテルプリンセスガーデンは、その名が示すとおり、小さいながら美しい庭園を擁し、落ち着いた佇まいを見せるホテルだ。三條苑としてオープンして以来、何度か週刊誌を賑わしたが、魅力あるホテルとして話題に上がる機会には恵まれない。ある意味、謎と伝説に満ちたホテルだけに、一見穏やかなそのガーデンにも、深い思念が刻まれているような気がしてくる。
チェックインしたのは午後8時。ロビーには人影もまばらで、ひとりしか居ないフロント係は覇気がなく、空気そのものまで疲れ果てているように感じられた。かつてベルデスクだったコーナーは物置と化し、ゲストの目に触れる場所でもはばかりなく散らかっている。乱雑でだらしない印象があった。ロビーのソファには中年の女性がふたり、気を失ったように眠っている。もしや時間が止まってしまい、動いているのは自分だけなのかなんて、一瞬ドキッとする雰囲気だった。すると、あのフロント係は人間ではなかったのか。んな、まさか。
向かった客室は8階。そのフロアだけとりわけ明るく華やかな雰囲気に設えてあった。後に各フロアを覗いて見たが、それぞれのフロアでエレベータホールのソファの色などが違っていた。8階と6階がノンスモーキングフロア。8階の隅の客室には、入口になにやらシーサーのような置物があり、まるで誰かがそこで生活をしているような感じがした。
客室は一瞬、瀟洒な印象を受けた。横にワイドで2面の窓がある。ダークブラウンの家具に、明るいファブリック。部屋の中央に置かれたふたつのアームチェアはレモンイエローで、ベッドスプレッドとドレープはエレガントなフラワープリントだ。デスクに添えられたイスは比較的新しく、おそらくミラーやスタンドも新調して間もないと思われる。しかし、イスとデスクの高さが合わないなど、新旧渾然となることでバランスが失われた感もある。冷蔵庫は入口のすぐ脇にあるが、そこは昼なお暗かった。
バスルームはアウトベイシンだが、そのベイシンの低いこと。スツールでもあればいいが、立ったまま使うと腰を悪くするだろう。バスルーム内はトイレとバスタブが並ぶ。洗浄機能つき便座は備わっていた。アメニティは必要なものに絞られている。タオルはなんともいえない悪臭で使う気になれないほどだった。
一見瀟洒とはいえ、1分と経たないうちに、あらゆるものに手を触れたくなくなった。窓は曇りガラスかと見紛うほどに汚れ、ディレクトリーやメモ用紙パッドなどはベトベト。すべての鏡に汚れが残るなど、極めて不衛生だった。TVはBS以外、まともに映らない。ベッドはいやな感じに硬く、まくらは低くて小さなものがひとつだけ。このホテルは、ゲストに快適に過ごしてもらおうなどとは、微塵も思っていないのかもしれない。少なくとも、客室内に於いてはプラスに評価できる点をひとつも見付けられなかった。
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