大阪市内から紀伊田辺までは特急オーシャンアローに乗った。先頭車両は座席の配置も変わっていて、眺めもいいし座り心地も快適だった。だが、廊下を挟んで隣に座ったおばちゃんは、携帯のマナーを知らずにちょっと迷惑だった。超デカいボレロの着メロがひっきりなしに鳴り、その度にオクターブ高い声でマシンガントーク。「なぁ、それ、マナーモードにできひんの?」と尋ねても、「ようわからんねん」とのこと。
こちらはこちらで姜建華さんを他、演奏家の女性3人と男一人というグループ。乗車したらすぐ「せっかくだから椅子を回しましょうよ!」「そうね、おしゃべりしたいしね!」と盛り上がり、椅子をぐるりを回転。しかし、あっという間に女性3人は熟睡。ひゃー、この表情はダンナさん以外しらんよなーとか思いつつ、気持ちよさそうに眠る皆さんのカバンの番をしながら車窓の風景を楽しんだ。和歌山から夏川りみさんのご一行が乗り込んできて、ミュージシャン専用車両のようだった。
田辺でのコンサートも無事に終わった。途中、ボレロのソロも弾いたが、隣のおばちゃんの着メロが頭にこびりついたままで、いつもと曲想が変わってしまったかもしれない。終演後はすぐにホテルにチェックイン。オークワオーシティに位置し、ショッピングストアと同居しているので、夜食や飲み物を調達するには便利なホテルだ。1階のショッピングストアの入口脇に正面玄関があるが、そちらは目立たずあまり使われていない様子。車でアクセスすると、3階のエントランスに到着する。車寄せからエントランスまで少々距離があり、そこには長い赤絨毯が敷かれているので、しばしオスカーごっこ。そこからエレベータに乗って、5階のフロントロビーに向かう。
5階にはフロントのほか、レストランや宴会場がある。フロント前は蛍光灯に白々した照明に、ベンチシート風のソファが並んで、病院の受付のような雰囲気もある。レストランの入口には、ホテルでは珍しいサンプルのショーケースがあって、サービスエリアのよう。外観は立派でも、やはり都会のホテルと同じようにはいかないようだ。
客室は6階と7階。まっすぐな廊下の両側に部屋が規則正しく並ぶ。廊下は陰気で薄汚れた感じ。部屋は思ったよりかは狭くないが、インテリアのセンスが悪く、何よりも下水のような妙な臭いには閉口した。引き出しを開ければ底が抜けているし、椅子は座るといつひっくり返るかと思うほどガタガタ。椅子とテーブルの高さもまったく合っていない。用意された便箋はメモにしか使えないほどしわくちゃ。冷蔵庫の中は一人暮らしの学生の男の子が使っているみたいに汚い。バスルームにいたっては、カビだらけで使うのも恐ろしいし、シャワーカーテンは濡れるといやな臭いを発し、バスルーム中に立ち込める。
壁も蹴れば破れるのではないかと思うほど薄く、隣の会話も丸聞こえだ。クローゼットも小さくて、用意されたハンガーにはズボンを掛けるところがなくて困った。ベッドは120センチ幅で、まくらはひとつ。毛布だがトップシーツは掛けず、毛布が露出している。暖房が効きすぎるし、なんとなくじっとっとした湿気があって、まったく眠れなかった。これでうろたえてちゃ、ウルルンには出られないな。
朝食は日本料理「味弁慶」にて。チェックイン時にあらかじめ和洋の好みを伝え予約をする必要がある。洋食を選んだが、結果的には失敗だった。ベーコン入りの目玉焼き、ジュース、キャベツのサラダ、グレープフルーツとパイナップルのかけら、こげたロールパン、セルフサービスのコーヒーという内容。800円と手頃だが、それでも高いと思わせる内容。小学生が作ったような料理だった。これなら、和食の方がずっとよかったと思う。
文句ばかりだが、いいことも少しだけあった。夜は真っ暗だった景色だが、翌朝見ると海が見え、ささやかな驚きだった。チェックアウト時にフロントにいた女性は、とても礼儀正しく好印象。女性らしい細やかな気遣いが感じられ、このホテルの格を一気に押し上げた。終わりよければすべてよし。
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