刈谷市での公演を終え、一行と別れて単身向かったのはホテルグランコート名古屋だった。駅前の好立地に位置し、ボストン美術館など文化の薫り高い施設と同居するこざっぱりとしたホテルは、午後10時近い時間にはすでにひっそりと静まり返っていた。喝采の大ホールを後にしてから、まだ1時間と経っていないこともあって、この静けさは対照的に感じられた。いつもなら落ち着きと捉えるに違いない雰囲気も、今日に限ってはなんとなく寂しかった。
正面玄関を入ると、そこは小さなロビー。天井は高くないが、大理石をふんだんに使い、中央にソファをいくつも配置して自由にくつろげるようにしてある。蘭の鉢植えが多数飾られて美しい。照明が蛍光灯ベースで白々しいが、広さを考えれば正解かもしれない。ロビーの脇にはロビーラウンジがあるが、すでに閉店しており照明も落とされていた。
車で到着した際、このホテルには車寄せがないのだと思っていた。しかし、実は地階駐車場の一角に立派な車寄せがあり、それ用のロビーもきちんと設けられていた。その他、駅からアクセスするのに便利なエントランスもあり、小さなメインロビーには様々な方向から人が集まるようになっている。メインロビーの片隅にはベルデスクがあり、この時間でも係が立っていた。ロビーにアクセスするすべてのルートから見やすい位置にあり、常にゲストの動きに注意を払えるようになっている。
フロントカウンターはこぢんまりとしている。係は全員男性だったが、明るく親しみのある若いスタッフが揃っている。なんとなくスターバックスの店員を思わせる。部屋まで案内してくれたベルも、適当な話題を上手にみつくろって話を投げかけるので、終始和やかな雰囲気が保たれる。それでいながら、非常口の説明なども最後まで怠らなかった。
用意されたエグゼクティブダブルルームは42平米の面積があり、2面の窓をもつワイド客室だ。とりわけベッド前のスペースにはワルツの稽古ができるほどの余裕があり、フォーシーズンズ椿山荘の客室を思い出させる。ニューヨークテイストのインテリアは、シックな中にも鮮やかなアクセントを加え、都会的ながらもドライな印象はない。それぞれの家具が大きくどっしりしており安定感をかもし出している。明るい木の色は、どこか北欧風のスッキリした印象も与えてくれる。
ベッドはキングサイズで、カバーを外すと白いデュベカバーをまとった羽毛布団が現れる。ベッドサイドには日本の日常的な街並みの写真が飾られ、これがいい味をだしていた。ベッドサイドにはレザーのチェアとデスク、窓際には円形のテーブルとベロアのソファ2脚を配した。この日は曇りで窓からは近隣しか見えなかったが、天気がいいと名古屋港まで見渡せるとのことだった。
テレビはアーモアに納まり、同じアーモアには浅いながら6つの引き出しがある。スタンドの照明はそれぞれ独立していた。入口脇のクローゼットは、3面のスライドドアを持つのに、最大で1面しか開かない構造なのが残念だった。3面のうち1面は姿見になるミラー張り。中にはズボンプレッサーと金庫が用意されている。
最も快適なのはバスルームだった。木製のフレンチドアを開けると、正面にベイシンがあり、右にバスタブ、左にシャワーブースとトイレのブースという配置。パンパシフィックホテル横浜によく似たレイアウトだ。こちらの方が一回り広く、ひとつ上の工夫もあった。基本的にタイル張りだが、ベイシンや床には石を使った。床の黄色い石は珍しい。また、シャワーブースの中には石でできた段があり、そこに腰掛けたり足をかけて使えるのが便利だった。水圧も申し分なく快適だった。アメニティは標準的な品揃えだが、リクエストであれこれ用意してくれるとのこと。バスローブは備わっていなかった。清掃は概ね良好だったが、窓が内側も外側も汚れていたのが残念。
出発前にロビーラウンジでコーヒーを飲んだ。ラウンジは思ったよりも狭いが、いろいろな椅子やテーブルがゆったりと配置され、のんびりとくつろげる。コーヒーはおかわりもできるが、味はモンカフェ風。ときどき係がクッキーを配って回るサービスがある。
サービスは全体的にとても感じがよく、人なつっこいイメージ。アジアの名門ホテルのスタッフのような勤勉さも感じられた。出発時には駅へのルートを丁寧に教えてくれ、見えなくなるまで見送ってくれた。4月に開業5周年を控え、館内では様々なプロモーションが行われる模様。「ひとつ上の贅沢」を合言葉に、心地よいホテルを目指す。
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