新宿の主要なホテルは主に西口の高層ビル群方面に集中しているが、新宿プリンスホテルは場所もクラスも、そられとはちょっと外れている。西武新宿駅の真上、歌舞伎町の玄関口に位置するとあって、非常に幅広いゲストが利用している。怪しげなセールスマンや、毛生え薬を山のように抱えたおじさんなど、アジアチックな雰囲気が楽しい。
ホテルへは駅や地下街からもアクセスできるが、一応正面玄関がちゃんとある。赤みを帯びた石造りのエントランスにはベルが常駐しており、地階のフロントへの案内役も果たす。フロントへと向かう階段には天井にユニークな意匠が見られる。
地階にフロントを置くというのも珍しいが、フロント係は地下の暗いイメージとは正反対に明るく礼儀正しかった。こんな気が利く青年が自分のスタッフだと仕事もはかどりそうだと思いながら手続きを終えると、「お待たせして申しわけございませんでした!」と詫びられた。そう言えば、チェックインをするのに、1〜2分待ったかもしれない。その程度でも言葉を添えることを忘れないのには感心した。
客室へと向かうエレベータは4基。しかし571室の規模に加え、フロントとエントランスのシャトルや高層階のレストランへのアクセスも兼ねるので、常に待たされるし、各階停止で通勤列車のような混雑になることもしばしばだった。客室階の廊下は、薄汚れていて雑居ビルや貸しオフィスのようだ。なにか怪しい商談に呼び出されたような気分で面白い。
客室の扉を開けて、カーペットが廊下と同じことに驚いた。クッションのほとんどない薄いカーペットは寒々しい印象を与える。内扉の向こうには2面の窓を持つ居室がある。窓からは歌舞伎町の街並みを見下ろす。華やかなネオンサインが瞬くさまは、まるで誘いを掛けるかのようだ。繁華街の喧騒もよく聞こえてくる。客室は30平米程度。広くはないが十分だ。
室内を見回すが薄暗く湿った感じがして、家具はどれも古く傷だらけだ。壁際のクローゼットは置き家具。デスクは窓を背にして置かれ、2脚のアームチェアと丸いテーブルは中央にある。ベッドは窓を向いた110センチ幅のものが2台。テレビは室内の最も奥にあるが、プログラムはつまらなかった。電気ポットはなく、夕刻に客室係が湯を配るシステムだ。エレベータホールには各種自販機、氷、お湯のディスペンサーが置かれている。
バスルームはアウトベイシンで、蛍光灯の照明がやたらと明るかった。設備は充実しているとはいえないが、アーチ状の扉など、年代を感じるインテリアが興味をそそる。バスタブはタマゴ型をしているが、実際に入ってみると見た目よりも小さいし、壁を向いて入るので開放感もない。タオルは3サイズが2枚ずつが、味気ないラックに置かれている。アメニティは少なめだった。
陰気な客室ながら、ルームサービスもあるし、23時までに出して朝8時に仕上がるランドリーがとても便利だ。近隣の東急スポーツオアシス新宿もビジターで利用できる。LANは一部客室のみだが1泊525円。フロント付近にもコインネットがあり、ペペ3階の店では無料の無線LANが使える。駐車場は1泊2,000円だが、途中の出し入れは不可。レストラン・バーは全席終日禁煙と、思い切ったことをしているが、この立地で成功しているとしたら素晴らしい。
この日はひなまつりだが、このホテルの開業記念日でもあるとのこと。デスクに用意されたひなあられに添えられた案内を読んで初めて知った。ちょっとしたサービスだが、なんとなくうれしかった。他の部屋に泊まってる、悪そうなおじさんや、怪しいセールスマンもひなあられを頬張っているのだろうか。想像するのは楽しい。
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