土曜の夜とあって、到着した夜8時頃はまずまずの活気を見せていた。車で細いループを抜けて小ぢんまりとした正面玄関に着くと、ドアガールがにこやかに出迎えてくれた。小雨に濡れた植え込みからのかすかなハーブの香りと潮風とが入り混じり、どこか遠くへ来たかのような気分にさせられる。正面玄関を抜けると、スケールの大きな吹き抜けと、エレガントな階段が目に飛び込んでくる。エントランスが小さい分、中が一層大きく感じる。小さなエントランスはガリバーのトンネルのような役割を果たしていた。
見回せば、明るい照明の中に、趣味のいい邸宅のようなシッティングスペースや古城を思わせるシャンデリアなどがバランスよく配置されている。大階段では、新しいカップルがウェディングの記念撮影をしていた。スタッフは皆心地よい動きをしており、健康的な雰囲気がある。フロント係も好青年で感じがよかった。
客室は40平米のハーバービュールーム。ぱっと見たところ、カーペットだけは最近新しくしたようだが、他の部分は開業当時のものらしい。ロビー同様、明るい色調をベースに、自然素材の風合いを生かした空間づくりをしている。毒づいたところはないが、デザイン面での遊びも感じられ、退屈しない雰囲気に仕上がった。カーテンやベッドカバーにコットンを使うことでやわらかさが出て、アーモアやデスクの木肌ともよくマッチしている。
だが、家具は傷みが激しい。立派な品物だが、メンテナンスもよくなかったのだろう、そろそろ耐用の限界に達している。天井高は270センチと高く、132センチ幅のセミダブルベッドが2台入る。アームチェアもふたつあるが、中央のテーブルは小さすぎるように感じた。照明はナイトテーブルでデスクライトまでコントロールできるのが便利。また、スイッチを短くクリックすると、ハーフライトにすることができる。
この客室は幅がさほど広くないが、奥行きがかなりある。割とうなぎの寝床風だ。もちろんバルコニーがあって、水際の空気を存分に感じることができ、レインボーブリッジや都心の景観が見事だ。ミニバーには4種ものグラスが用意される他、無料のインスタントコーヒーやティーバッグ、カップアンドソーサーもある。ミニボトルにはたっぷりと埃が積もっているところを見ると、あまり需要はないようだ。ミニバー後ろにある姿見がとても立派で存在感があった。最近流行のモダンデザインよりも、ずっとお金が掛かっているし、質感も高いインテリアでコーディネートされており、デザイン的には結構気に入った。
バスルームも充実している。広いベイシンに並んでトイレがあり、ガラス扉で仕切られたバスタブはシャワースペースを持ち、壁は大理石張り、床にも石を使い立派だが、照明が暗いために一層窮屈に感じるのが難点。アメニティは十分に揃い、バスローブも用意されている。
翌日のチェックアウトには長い行列が生じていた。列が消えたのは12時20分だった。フロントカウンターの右手、ロビーラウンジとの間に、レインボーブリッジを望むベストポイントがある。そこはパブリックスペースなので、だれでも自由に景観を楽しめるはずなのだが、せっかくの視界が開けたビューポイントに、窓を背にしてレストラン案内デスクを設置し、さえないオヤジスタッフが構えていて、美観を損ねていた。夜はパブリックスペースの照明をケチりすぎて貧乏くさい空気すら感じられた。このホテルは若いスタッフは溌剌と頑張っているものの、歳のいったオヤジたちがダメだ。センスはないし、やる気もない。だから存在価値がない。レストランも総じて魅力がない。
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