開業から1年余りが経ったものの、セレスティンホテルの名が広く一般に知られるまでには至っていない。開業当時と比べれば、かなりの割安料金を提案して必死に集客しているが、なかなか思うようにはいかないようだ。このホテルには、快適なベッドや24時間使えるラウンジをはじめとした、魅力的な設備が多数揃っている。
また、ホテル全体がモダンなテイストでコーディネートされて雰囲気もよく、立地上、ホテルに用のない人たちがやたらと出入りしない環境にある。その辺りを気に入ってリピーターになっているゲストが少なくないようだが、ウェッブサイトなどから得る情報から描いたイメージと、実際に利用してみての印象が違って、ガッカリしてしまったというゲストも相当数いるだろう。今回の滞在では、ハード面と価格面とのバランス感は感じられたものの、ゲストへの気配りや設備の清潔感にマイナスポイントが多数見受けられた。建物やコンセプトからもたらされる期待感を、裏切ることのないサービス体制が確立されることを期待したい。
今回はスーペリアルームの2名利用朝食付きのプランを予約した。地下鉄で最寄りの駅に降り立ったが、ふつうホテルであればどの出口を出ればいいか黄色い看板に案内があるのに、セレスティンホテルの名前はどこにも見当たらなかった。チェックイン時の対応は、丁寧ではあったが、やや暗い印象があった。プランにはいくつかの特典があるが、その説明はなかった。客室への案内はなく、自分で荷物を持って部屋に向かうが、キーを差し込まなければ作動しないエレベータの使い方についての説明もなかった。この調子だから、非常口の案内もない。
客室は17階のスーペリアルーム。20平米程度で決して広くはないが、窓が大きく、東京湾方面の眺めは想像よりもずっと開放的だった。天井が275センチと高いのもいい。ダークブラウンで統一された家具は、それぞれがコンパクトなサイズ。140センチ幅のベッドには、バスローブが2着セットされていた。窓を向いたデスクには、ところ狭しといろいろなものが載っていて邪魔な気もするが、ひとつひとつ確かめてみるのもホテルステイの楽しみだ。
デスクの脇には、クッションを添えたアームチェアが置かれているが、マットが少しずれていたので、それを直そうとしてめくると、綿棒やら細かいクズなどが多数落ちていて不潔だった。窓も汚れているし、清潔感には欠けるが、狭いなりにすべてに手が届くという感じで、使い勝手は悪くない。バスルームを見ると、床にバスタオルが落ちていた。おそらく棚の上に丸めて置いてあるものが、転がって落ちたのだろう。天井が240センチと高く、白い大理石柄の樹脂の壁に囲まれ、ゆとりのあるサイズのバスタブを備えているので、このクラスの客室としてはグレード感のあるバスルームだといえる。
バスルームの前には、クローゼットがある。扉は一枚だけで、常に左右のどちらかがオープンした状態になり、左がクローゼットで、右はミニバーと冷蔵庫を収納している。ミニバーには豊富なグラス類、無料のドリップコーヒーや紅茶、無料のセレスティンウォーターが用意されている。そのセレスティンウォーターを飲もうと思ったら、2本置いてある内の1本が飲みかけだった。さすがにここまで重なると、いくらビジネスホテルに毛が生えた程度のホテルでも許しがたい。客室係に注意をしようと受話器を取ると、今度は受話器そのものが油かクリームのようなものでベットベトだった。
このように清掃が不十分でも、ホテルでは見過ごされることが多いのはなぜだろう。多くのゲストは我慢をするか諦めてしまう。スーパーではひとつ100円のトマトを選ぶにも慎重で、ましてや虫が食ったものを高く買う人などまずいない。いい加減に清掃した客室など、虫が食ったトマトに等しいのだ。食える部分が残っていたとしても商品価値はない。
呆れ果てつつ、客室係の責任者を呼んで現状を説明し、この客室の清掃はどんな人が担当したのかと聞いてみた。テーブルに載っていた「この客室は私が清掃しました」の紙には、どうも若い男性のものと思われる字で名字だけが書かれていたが、その通り、まだ経験の浅い若い男性が担当したという。経験が少ないものが担当したと承知しているのなら、その若い彼の責任というよりは、仕上げのインスペクションを念入りにできなかったインスペクターの責任が重い。とにかく、客室は変えてもらうことにした。次の客室でも同じような失態がないように、30分差し上げるから、あなた自身の目できちんとチェックするようにと伝え、下がってもらった。
新しく用意された客室は、同じフロアにあるデラックスルームだった。28平米でベッドの幅は180センチと広くなり、窓際には2名掛けのソファが入る。バスルームにも一層のゆとりがあり、アメニティがより充実するほか、カランも洒落たデザインのものになる。家具は白木で揃えられ、前の客室よりも明るい印象だが、濃紺のカーテンや赤い椅子がビビッドなアクセントになっている。窓からの眺めは、目の前にビルが立ちふさがり鬱陶しいが、横目にはレインボーブリッジのほぼ全景が望める。
レイアウトとしては、スーペリアと比較すると、よりオーソドックスな配置だ。しみじみ部屋を見てみても、ファブリックの質感は総じて低級な上に、壁には傷や汚れが目立つ。フットライトの設備がないのも不便だった。ルームサービスもあり、LANは無料。各種衛星放送が無料で観られるのはいい。
14階の宿泊客専用ラウンジは健在だが、随分と埃が積もって汚れていた。電球も3箇所が切れていて、ここでもメンテナンスの悪さをうかがわせている。以前は無料で提供していたラウンジでの朝食は廃止され、「グラン・クロス」での朝食優待券を配るようになった。
翌日のチェックアウト時、廊下は清掃係に占拠されていた。ワゴンのみならず、シーツなども散らかっている。こちらが遠慮して歩かなければならないほどだった。見たところ、茶髪の青年が多く、珍しい雰囲気だった。それはいいとしても、このホテルはメンテナンスに重点を置き、もっと館内をいい状態に保つ努力をしなければならない。
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