ホテルラフォーレ東京は、普通のシティホテルではない。全国に13ホテルを展開する森観光トラストが運営しているが、基本的には法人会員制ホテルであり、これまでさほど積極的な宣伝をすることなく、提携のない一般の人々にとっては、影の薄い存在だった。1990年の開業当時は、オペレーションをパレスホテルに委託していたが、現在は自力で頑張っているようだ。普通でないのは運営面だけではない。
御殿山ヒルズと名付けられた品川の再開発地区には2棟のタワーが建っている。ひとつはオフィス棟だが、もうひとつにはレジデンスとホテルが同居している。ホテルとレジデンスが同じタワーにあるというのも、日本ではまだ珍しいのに、そのわけ方が、普通でない。多くの場合は高層階と低層階という具合に横割りで配置されるが、ここでは縦割り。つまり同じフロアにホテル客室と住居の両方が存在しているわけだ。もちろん、それぞれのセクションは非常設備以外、完全に仕切られており、住人とホテルゲストが廊下ですれ違うようなことはないが、なかなか面白い構造だ。
このホテルには開業当時、何度か宿泊したことがあったが、それ以来10年以上ご無沙汰していた。この春に高層階に一部の客室を改装し、それまでの明るくオーソドックスな内装から、落ち着きのあるモダンで流行りの内装へと様変わりした客室が誕生した。それを一休com.やe-Auctionで盛んに販売しているので、一度は利用してみようと思い予約した。この日は品川駅からどの程度遠いのだろうと思いながら、ホテルまで歩いてみた。想像するよりずっと遠かった。おそらく御殿山ヒルズやその更に向こうにあるSONYから家路を急ぐ人たちだろう、仕事を終えたラフな格好の会社員たちと多数すれ違ったのだが、彼らは毎日この道のりを歩いているのかもしれない。結構大変だ。
汗だくになりホテルに到着したのは20時過ぎ。案内表示に従い館内に入ると、オフィスタワーを突っ切り、アトリウムに出た。沖縄のリゾートホテルを思わせるような開放的なアトリウムには、ラウンジから奏でられているピアノの生演奏が響いている。アトリウムに面したオープンテラス風のレストランでは、数組のゲストが食事を楽しんでいるが、ラウンジの方はほとんどゲストがいなかった。このやや閑散とした空気の中でも、ピアノの音色は上品に美しく雰囲気を彩っていた。音色に耳を済ませながらアトリウムを横切っていると、後ろから若いベルボーイが近寄り、「ご到着ですか?」と声を掛け、荷物を持ってレセプションカウンターまで案内してくれた。
レセプションエリアはアトリウムよりもずっと奥まったところにある。廊下に面しており、よそのホテルなら宴会の打ち合わせサロンかと見紛うような造りだ。カウンターの他には、いくつかのソファやアシスタントマネージャーデスクのようなものもあった。フロントカウンターに立つ3名の係はすでに夜勤モードに入っているのか、雰囲気が暗く不親切で、ビル管理の警備員風だった。
先ほどの感じのよいベルボーイは、客室まで案内すると、「お部屋のご説明はいかがいたしましょうか?」と尋ねてきた。いつもなら面倒なので断るところだが、改装したての客室だったので、どんな設備があるのかと思い、一通り説明してもらうことにした。聞いていて感心したのは、室内の設備について非常によく精通していることだった。よどみなく説明をこなし、どこにどんなものが置かれているのかもよく把握していた。
バスルームをのぞくとリキッドソープのみで、固形の石鹸が見当たらなかった。ベルボーイに言ってもお門違いかと思いつつ、彼にリクエストしたところ、すぐに取りに行き、立派なソープを持ってきてくれた。室内は、ダークブラウンを基調にコーディネートされており、控えめな照明はやや薄暗く感じる。「ベルボーイがこれ以上は明るくならないのでご了承ください」と言い残した意味がじわじわとわかってくる。
家具はしみじみと見ると、情けないほど安普請だった。ほとんどが木目のシールで仕上げてあり、ソバ屋のテーブル風。配置も悪く、とにかく使いにくいレイアウトだった。デザインをした人間は、利用客の便宜を考え抜くという手間を省いたとしか思えない、見た目重視の劣悪なレイアウトだ。40平米のエクセレントルームよりも、38平米のスーペリアデラックスルームの方が、無駄なスペースもなく、広く感じるのではないかという気がした。
雁行した壁の一面すべてに張られた鏡は歪んでおり、映るものが傾いて見え気分が悪くなる。その鏡の前には円形のテーブル、空気を清浄する機能があるという人口の観葉植物、スタンドの照明があるのだが、そのスタンドの照明スイッチを操作しようとしても、配置が悪く届かない。照明を操作するためには、重いテーブルをいちいち動かす必要があった。ライティングデスクは外を向いており、作業にはいい環境だが、電話機がベッドサイドにしかなく、しかもベッドまでには少々距離があるので、とても不便だった。また、新しい客室にはマッサージチェアが備わっており、これが細かい芸当のできる賢いマシンなのは気に入った。
ベッドは素晴らしかった。寝具共に快適で心地よい。ナイトパネルには、90年代初頭頃に導入が流行った440ch有線放送が組み込まれており、天井に設置されたステレオスピーカーから好みの音楽を聴くことができる。窓は2面あるが同一方向。開放できる造りにはなっているが、開けられないように留め金で固定してあるのは残念。さらに、近くを走る電車や幹線道路の騒音はかなり聞こえていた。また、天井には在室センサーが取り付けられているが、どうやら作動はしていないようだった。
バスルームはベイシン回りをリフレッシュした以外は手を加えていない。ベイシンまでは絨毯敷きで、その奥は大理石で仕上げてある。シャワーブースはないが、明るく清潔で居心地のよいバスルームだ。アメニティは海外ブランド品を中心に、充実した品揃えだった。使い捨てながらハブラシもしっかりとしているし、ペーストもたっぷり入っていた。もちろんバスローブも備えている。ミニバーに用意された、ポットで入れる無料の本格的ハーブティもうれしい。
LANの設備が整っていると聞いていたが、室内でその案内を探してもどこにも見当たらない。LANのジャックもないようだ。あれこれ探しでも見つからないので、フロントに電話で尋ねると、1日1000円でアダプターは貸しだすシステムだとのこと。TVで流される館内のインフォメーションも、キッチュな内容になってしまっているので、新しくした方がいいような気がした。いずれにしても、サービス内容や館内の設備に関しては、リアルタイムで正確ば情報を積極的に提示して欲しいものだ。
このホテルには立派なフィットネス設備も備わっている。プールやジムはもちろん、テニスコートも備わり、いつも健康的な人たちで賑わっている。そのスポーティな雰囲気に入り混じっているだけでも、なんだが元気付けられるような気がする。早朝から営業しており、宿泊客の場合、朝9時までの入場なら1000円、それ以降は3時間につき2000円で利用できると室内の案内にはあった。
翌朝は工事の音に悩まされた。どうして、いつも騒音に付きまとわれるのだろう。朝9時になると同時に、ものすごいドリルの音が響きだした。響き方からして非常に近い場所で工事をしているようだった。無神経なことに、工事についてはフロントにおいても室内の印刷物においても、事前の案内は一切無かった。フロントに電話をすると、最初は仕方が無いだとか言い訳していたが、結局中止させると先方から言ってきた。しかし、それも束の間、程なくしてまた再開。秋には更にこのデラックスフロアが更に増えるようなので、その工事だと思われるが、滞在客への配慮は怠らないで欲しいものだ。
耐え難い騒音だったので、御殿山ガーデンに散歩に出掛けることで緊急避難。近隣の住人だろうか、結構歩いている人が多い庭園だ。椿山荘のように手入れの行き届いた庭園ではなく、どちらかというと雑木林の雰囲気だが、斜面にあって高低差があるので、歩いていると変化があって楽しい。時折庭園の由来などについて書かれた案内があり興味深かった。
こうして立地は今ひとつながら、環境には比較的恵まれたホテルなのだが、いかにせん、サービスや室内設備ということでは、まだまだ素人くさい。契約会員向けには、かなり手頃な料金を提示しているが、それも会費などがあってのこと。一般に対しても魅力ある料金が提示されるようになってきたが、ゲストに満足感を与えるには、もう一工夫するか、はたまたもう一声安くするか、どちらかが必要だろう。
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