いよいよ注目の汐留地区に最初のホテルがオープンした。先陣を切ったのは、ロイヤルパーク汐留タワー。第一ホテルズの手がけるホテルが入居する計画だったが、途中でロイヤルパークに変更された経緯があり、ロイヤルパークとしても既成概念を振り払って、新しいコンセプトのホテルづくりを目指し、入念に準備を進めてきた。
掲げたコンセプトのキーワードは3つ、「Convenient 」「Flexible」「Stylish」だ。多くのホテルが開業に際してこうした新しいコンセプトを掲げながら、単に絵に描いた餅で終わらせたのを繰り返し見てきたので、今回も掛け声倒れだろうかと心配をしていたが、とんだ取り越し苦労だった。開業初日に宿泊してみて、そのコンセプトが見事に表現されていることに感嘆し、すっかり気に入ってしまったのである。
これらのコンセプトは、開業前からウェブサイトの紹介を読んだり、関係者から話を聞いたしすることで、それなりに理解はしていたが、実際にどのようなカタチになって設備やサービスに反映されるのかは、利用してみないことにはピンとこない。そして、このホテルがどのように新しくて、どんな工夫がなされているのかは列記できても、それが利用客にどんな利便性や快適さとして感じられるかということを文章で伝えるのは難しい。
さらに、このホテルを気に入るか否かは、大きく好みの分かれるところだと思う。まず、コンピュータの基本的な操作ができないと、設備を十分に活用することが不可能だし、フルサービスのラグジュアリーホテルで至れりつくせりがお好みという人にも適していない。自分の肌に合っているかどうかは、このホテルの場合、特に自分で確かめに出掛けないとわからないかもしれない。そして、ホテルに期待したいのは、掲げたコンセプトをこらからも貫いて欲しいということだ。
肌に合わなかったゲストからは、きついお叱りや厳しい評価を受けるかもしれないが、だからといっていちいち路線を修正しているようでは、日本中同じようなホテルばかりになってしまう。もちろん手違いや不行き届きで叱られた時には、それ相当の反省と改善が必要だが、ユニークなポリシーに関しては、頑なに守っていかなければ、受け入れてもらえずに終わるしかなくなる。このホテルには、新しいアイデアがいっぱい詰まっている。いままでのどんなホテルにもなかったユニークな工夫と、どんなホテルにもなくてはならない基本的なホスピタリティが散りばめられた新しいホテル。フレキシビリティを武器に、これからも斬新なアイデアを積極的にカタチにし続けて欲しいものだ。
到着は地下からだった。地下鉄大江戸線汐留駅に降り立ったが、果たしてホテルがどの方向なのか、初めての場所で戸惑うばかりだった。もう少し親切な表示があるといいのにと思いつつ、資生堂本社を目指しながら歩いていると、やっとホテルの案内表示が見つかった。今度はビルの中に入ってから少々迷った。一度来てしまえばもう心配はないが、24階のロビーにつく頃にはいささか疲れてしまった。車の場合は1階の車寄せに、新橋駅方面から徒歩で来る場合は1階の別のエントランスと、アクセスによって入口がまちまちだ。ちなみに駐車料金は1時間につき100円という設定になっている。
ロビー階に降り立つと、2層が吹き抜けになった天井から下がる仄かなブルーのシャンデリアが目を引く。ラウンジの向こうには一面の大きな窓が開け、東京ベイ方面の見事な景観が広がる。ラウンジの反対側にフロントカウンターがあり、シックなユニフォームを着たスタッフが立っている。ベルデスクもあり、客室までの案内などをしてくれるが、基本的に24階から客室までの間のサービスで、通常これより下へは運んでくれないらしい。チェックインはスムーズで、不慣れな感じなど微塵もなかった。本日開業とは思えない手際よさだった。案内してくれたベルガールもまた落ち着いていた。当然のことのようだが、実際はめちゃくちゃなことの方が多く、これほど落ち着いた開業など、未だかつて見たことがない。
今回利用した客室は、最上階38階にあるタワーフロアのダブルルームだ。ロビー階から客室へと向かうエレベータは5基あり、下からロビーまでのエレベータ3基に比べると多い。エレベータホールのから客室に向かう途中、廊下の片側は高い窓になっていて、石庭がしつらえてある。最上階は客室の天井高が320センチと高い。一般階でも280センチあるそうだが、40センチの差はかなりのものだ。
客室面積は26平米と、決して広くはない。むしろ随分と窮屈だが、幅の割りに奥行きがあるのも特徴だ。室内はスッキリとしたデザインの品々でコーディネートされているが、鮮やかなカラーでアクセントをつけたり、ジャガード織のレッグブランケットをベッドに掛けたりと、冷たい印象になることを上手く避けている。天井からは、行灯を思わせるペンダントライトと、額に当たるように設定されたハロゲンのダウンライトがあり、明るいながらもコントラストのある照明だ。狭い空間をいかに有効に使うかという工夫がなされ、非常に機能的だ。タワーフロアにはマッサージチェアも用意されている。
窓はほぼ床から縦に長く取られており、海側の客室ならば、今しばらくの間は港や浜離宮の緑を眺めることができるが、それも目の前に建築中のビルが立はだかるまでの束の間だ。ベッドはシモンズ製で快適そのもの。そして、デスクにはコンピュータとテレビ両方を表示できるディスプレイがある。備え付けのマウスやキーボードを使って、インターネットやメールなどを利用できるほか、館内の案内やルームサービスの注文など、あらゆるサービスに対応している。なんと、コンビニからの品物のデリバリーまで受け付けている。
コンピュータにはワードやエクセルなどがインストールされているが、自分の利用したいソフトをインターネット経由でインストールして使うことも可能だという。わからないことがあれば、電話のPCサポートというボタンで助けてもらえる。プリンタ機能を持ったFAXも常設されているが、コンピュータのデータを直接印刷することができず、印刷しようとすると、ディスクに保存してキンコーズまで持参するようにとの表示がでる。せっかくある機材なのに活用できないのは残念だった。
バスルームはビニールクロスの壁、タイルの床と決して上質な造りではないが、室内同様、レイアウトに工夫を凝らし、狭い空間を洗い場付きのバスルームに仕立てた。バスタブは長さが短く、ベイシン周辺にも余裕はないが、この広さだから我慢しなければなるまい。アメニティは標準的な品揃えに加え、マウスウォッシュや洗顔せっけんと化粧水、バスソルトなどを用意し、シャンプー類は資生堂のポンプ式ディスペンサーをシャワーの脇に並べた。ワッフル地のナイトガウンのほか、厚手のバスローブも備わっている。しかし、バスタオルやローブを掛けておけるフックがどこにもなく、それらを置くのに都合のいい場所がまったく見当たらないのは不便だった。使用済みのタオルを入れられるカゴはベイシンの下にあるのだが、再度使うものをそこに置く気はしない。
クロゼットにはズボンプレッサーがあるが、クロゼットそのものには扉がないので、荷物を隠すことが不可能だ。バスローブ姿になってしまった後に、のどが渇くこともしばしばで、自販機オンリーのホテルでは不自由することがある。ここの冷蔵庫とてほとんど空に近い状態だが、いくつかの飲み物が手頃な価格で用意されているのはありがたい。タワーフロアでの滞在には朝食も含まれており、24階の「HARMONY」にてとることができる。
汐留にはこの後もホテルのオープンが控えている。パークホテル東京、セントレジス東京、ヴィラフォンテーヌ汐留とそれぞれが個性を競い合い、共存共栄するのにはピッタリな顔合わせとなり、これからがとても楽しみだ。
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