六本木プリンスといえば、かつては若者を中心に人気を集める洒落たホテルの代名詞だった。200室程度とこぢんまりとした規模で、繁華街からも少々奥まっており、ちょっとした隠れ家的な雰囲気を持ちながら、中庭に位置するダイナミックなプールや、そのプールを眺めながら食事ができるレストランなど、リゾート的な工夫を盛り込んだ遊び心あふれるホテルだ。ホテルから至近距離に地下鉄六本木一丁目駅ができ、徒歩圏内に東京の新名所、六本木ヒルズもオープンしたものの、ホテルそのものの勢いはいまひとつ振るわない。
外観は黒川紀章ならではのシャープなフォルムをしており、存在感のある建物ながら、奥まった立地と周辺の建物に囲まれている関係で、あまり目立たないのが残念。このホテルに入るには、正面玄関か駐車場からの出入り口どちらかを利用する以外にない。
ロビーは小さく、フロントカウンターもまた小さい。ロビーにはユニークなデザインのイスやテーブルが並んでおり、窓の外には竹の植え込みがあって涼しげな印象だ。その脇には大きな水槽があって、熱帯魚が泳いでいる。ロビーラウンジのようにも見えるが、希望すれば有料でドリンク程度は注文することができるものの、基本的には自由に利用できる。
その他、無線LANのホットスポット、みやげ物を扱う売店、係のいないベルデスクなどがある。プリンスにはつき物になったコンビニエンスストアは、このホテルにはなく、客室フロアか売店脇に自動販売機があるが、客室フロアの自動販売機よりも、売店脇の方が値段が安かったので、そちらを利用する方が得だ。
ロビーから2階レストランフロアへと向かう階段は、エッシャーの騙し絵をモチーフにした、トリックアート風のデザインが施されている。全体的にモノトーンをベースに鮮やかな赤や緑をアクセントに用いており、館内のいたるところで非常にユニークな雰囲気が楽しめる。最近多い「デザインホテル」のハシリと言えるだろう。
午後3時くらいに到着したが、まだ食事をしていなかったので、館内で軽く何かを食べたかった。しかし、午後2時から午後5時の間はすべてのレストランがクローズしてしまう。一応、ルームサービスは取れるようだが、ちょっと不便だった。客室へと向かうエレベータは2基。いずれもシースルーになっていて、中庭のプールを望める。特に夜のライトアップは見ごたえがある。小さなロビーからエレベータに乗り込むと一転して開放的な空間が目の前に広がるというのも、このホテルのデザイン的な特徴をよく表現している。
プールは温水で一年を通じて利用できるよう準備が整っているが、この日も利用客はまったくいなかった。客室の廊下もまたプールを見下ろすようにぐるりとレイアウトされているが、エレベータの対角で行き止まりになっているので、客室階を一周ぐるりと廻ることはできない。
禁煙フロアは5階と6階と、ちょうど中間のフロアになっている。客室の扉は、今時珍しくオートロックになっていない。外出する度に、客室の外から鍵を掛けなければならないのは少々面倒だった。今回利用したツインの客室は23平米程度の広さだが、幅が狭い分とても細長い印象がある。
室内のインテリアは色彩感を抑えたモノトーンに近いテイストにコーディネートされており、開業当時はかなり斬新で画期的なデザインとして話題になった。改装された部分もあるようだが、客室の雰囲気は開業以来まったく変わっていない。照明器具はほとんどが調光可能で、スタンドの類は少なくダウンライトやペンダントが中心だ。収納が極めて少なく、小さなクロゼットとその中にあるラックがすべて。
窓際のソファは一見二人掛けのラブソファのようだが、一人掛けのソファをふたつくっつけて並べてあるだけなので、それぞれ離して使うこともできる。テレビは随分と古めかしく、くたびれている。また、窓が高く閉塞感があるが、結局窓の外の眺めもたいしたことはないので、あまり残念な気もしない。周辺は騒々しい環境ではないのだが、ちょうど近所で工事をしており、その音は室内まで響いていた。廊下の音もよく聞こえるので、遮音性はさほど優れていないようだ。
さて、お茶でも飲もうかと思い、キャビネットに用意されたお茶セットを取り出したが、湯沸しポットがどこにも見当たらない。もしやプリンスだから廊下に給湯器でもあるのかと思い探しに出たがそれもない。散々探してあれこれ思案していると、テレビの上に小さなポップスタンドが見つかり、お湯はオーダー制なのでダイヤル5番までと書かれていた。その小ささといい置く場所といい、ちょっと不親切な感じがした。氷はルームサービスにて500円。バスルームは2.64平米と広くはないが、タイル張りで、ベイシンには便利な棚もあり、使い心地はそれほど悪くない。タオルは3種類が揃い、アメニティも一通りの用意があった。
全体的に見て、流行を過ぎた設えではあるが、使い方次第で結構お得に楽しく過ごせるホテルだと思う。気取る必要がないから、まったく肩が凝らないというのもうれしい。レストランもランチを中心に随分とリーズナブルなメニューが用意されているし、比較的静かなので、雑踏を避けたい気分の時のために覚えておきたいホテルだ。
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