2001.01.13
見えない住人
ホテルニューオータニ Duke Suite
楽-3ニューオータニのタワーは、数年前から順次改装が進み、エレベータホールや廊下に至るまですっかりリフレッシュした。どのフロアも照明効果が生かされたコントラストのある廊下に生まれ変わったが、階層によって内装などに差があり、上層階はひときわ豪華な雰囲気がある。
今回利用したデュークスイートは、タワーの客室ではもっとも高層階にあたる39階にあり、スタンダードルーム2部屋分のパーラーを挟んでふたつの寝室がある2ベッドルームスイートだ。パーラーには濃い色調の家具と邦人画家の油絵作品があって、昔風の応接間のようなイメージ。壁紙をはじめファブリック類は新調されたようだが、家具などは改装前からのものを手入れして大切に使用している。とりたてて面白い仕掛けはなにもないが、余計なものがない分スッキリとしており広く感じた。照明は一部調光できるが、パーラーはかなり明るい印象だった。
その明るいパーラーとは対照的に寝室は照明を控えた空間になっており、部分的には暗すぎると感じる場所がないわけではないが、いかにも寝室という明るさで落ち着ける。主寝室はちょうどコーナー部分に位置しているので、窓が90度分の弧を描いてベッドを取り巻いている。全面が窓になっているわけではないが、異なった方向の景観を楽しむことができるだけでなく、日中は十分な採光が得られる。BGMは癒し系で耳に心地よいが、空調の作動音がかなり気になった。
主寝室のバスルームは、改装の結果が最も顕著に感じられた。床、壁ともにすべて石張りで、ハロゲン光や縦に配した電灯色蛍光灯を巧みに使い、快適で使いやすいバスルームに仕上がっている。ダブルベイシンでもちろんシャワーブース付き。外を眺められる窓はないが、トイレは完全に別に造られている。アメニティは渋いブラックのパッケージに入っているが、特別気を引くアイテムは見られなかった。タオルはふんだんに用意され、バスローブはバスルーム脇にあるウォークインクロゼットに備えられている。
主寝室とパーラーは天井高が270センチあるが、副寝室は250センチだった。それでも、下のフロアに比べると窓のところに梁がない分、スッキリとして圧迫感がない。副寝室のベッドはひとつが140センチ幅、もうひとつが110センチ幅と異なるサイズのものがツインで置かれており、110センチベッドの下には、さらにもうひとつのベッドが収納されている。この副寝室は、パーラーとの仕切り扉を閉じれば通常のスタンダードルームとしても使えそうだが、バスルームはちょっと変わっていた。改装が行なわれず、古いままの雰囲気を保っているので、貴重といえば貴重かもしれない。いかにも古いデザインのベイシンや、カランの脇に付いている飲料水用のノズルなどのほか、なぜかタイマー付きの大きな赤外線ランプが備わっていた。
この3室からなるデュークスイートの最大の魅力は、素晴らしい眺めだ。赤坂御用地の豊かな緑、それに続く迎賓館が手にとるように眺められ、遠くに目をやれば新宿の高層ビル群から富士山までを一望できる。もちろん、すぐ下をのぞけばニューオータニ自慢の庭園が見え、実にダイナミックだ。タワーのこの向きであれば、どの客室からも多少の差はあれど同じ雰囲気が味わえると思うが、他の向きになるとだいぶイメージが変わる。ガーデンコートとご対面の向きだと落ち着いて楽しめる眺めではなくなってしまうので、ビューにこだわる場合は、しっかりとリクエストをしたほうがいいようだ。
滞在中、怖い気分を味わった。寝ていると、不気味なうなり声。女性の声にもにた低い咽びが夜通し続いた。気のせい、気のせいと思って眠りに集中するが、うとうとしたところで首筋をすぅーっと冷たいものが触れる。起き上がってみても誰も居ない。壁の一点に妙に気を惹かれるのだが、そこには何もない。だが、この寝室には、見えない住人が存在するような気がする。
日曜日のランチタイムはかなりの混雑を呈しており、我々が入店して程なくして順番待ちの列ができた。レストランは満席になった直後が一番席が空きにくい。ちょっとしたタイミングでご馳走にありつくまでにかなりの時間差が生じてしまうものだ。店内は禁煙セクションと喫煙セクションでくっきりと分かれているが、今回は敢えて喫煙セクションを選んだ。
少し明るめでやわらかい雰囲気の禁煙セクションに対し、喫煙セクションの方がシャープで都会的なインテリアになっているので、空間的には後者の方が「SATSUKI」らしいように思う。そのインテリアにあわせたのか、単に忙しさのあらわれなのか、従業員たちはおしなべて無愛想。なんだか殺気だった気配を漂わせながら働いているものもいる。活気を超えて、修羅場に迷い込んだかのような雰囲気があった。
メニューには豊富なアラカルトのほか、プリフィクススタイルのコースがあり、2400円からと一見お得な気にさせられる。しかし、選ぶ料理によってはプラス300円、700円と加算され、デザートもものによって200円の追加料金が必要だ。やはりおいしそうなものはお値段もいい。僅かな差ならこっちがいいかなと思ってチョイスすると、たちまち3000円以上のコースになってしまう。料理にも工夫があり、レトロ感覚溢れる洋食のラインナップが興味深かった。料理提供にやや時間がかかったが、温度管理もよく、おいしかった。そして食後のコーヒーは、コーヒーショップで提供されるものとしては群を抜いて素晴らしい。サービスに余裕と思いやりが加わることを期待する。
2001.08.19
トッピング
「SATSUKI」ホテルニューオータニ
楽-3以前からあまりいい印象のなかった「SATSUKI」だが、この日はその印象を見事に覆された。店内は混雑しており、ともすれば険しい表情でそっけないサービスになりがちなどころだが、この日はにこやかでフレンドリーなだけでなく、都会的なスピード感があった。まさに絶好調という感じ。温かいコーヒーのみならず、アイスコーヒーもホテルレストランとしてはかなりのおいしさ。アイスコーヒーにホイップクリームをトッピングしてほしいというリクエストにも、躊躇することなく、スマートに応じてくれた。チーズ付きのバーガー(2000円)はボリュームたっぷりでジューシー。
2001.10.07
癒しの先駆者
ホテルニューオータニ Husui Healing Room
喜-2最近は導入するホテルが増えてきて、ヒーリングルーム自体はさほど珍しくもなくなった。しかし、風水の力を取り入れた「フースイヒーリングフロア」をいち早く完成させたホテルニューオータニの大胆でユニークな発想は素晴らしい。
エレベータホールに降り立った時から、独特のカラーコーディネートや照明効果によって癒しを感じることができるが、室内には想像以上にバラエティに富んだ癒しアイテムや仕掛けが用意されている。フロア専用の特別ルームサービスメニューや、フットバスや抱き枕などのレンタルグッズが充実しているだけでなく、ハーブティや一般フロアとは違うアメニティなどを用意してある。タワーの中では比較的低層階に位置しているが、運良くガーデン側の客室に当たれば、身近な距離にガーデンを眺めることができ、リラックスにつながるだろう。
室内照明は、スタンドの類が一切なく、間接照明とハロゲン光のダウンライトだけで構成されている。読書灯も天井からのハロゲン光だが、ヘッドボードに背をもたれ掛けて読書するにはいいが、ベッドに横になったポジションで読むと逆光になってしまった。また、スッキリとした印象を出すためか、蛍光灯を多用しているので、夜になると白々しさが目立つ。独立したオン・オフが少なく、どれかを消灯しようとすると、全体が消えてしまうなど、便利なはずの部分で不自由を感じることもあった。
今回利用した客室は、ちょうど廊下の先端に位置しており、窓の部分がカーブを描いていて、窓が都合3面についている。窓の上にある分厚い梁が圧迫感をもたらしているが、室内の明るい雰囲気がそれを緩和してくれている。寝具は軽い素材でできており、肌触りもよかった。家具は改装前からのチークで、木肌もそのまま使われている。引き出しは蟻組みを使いしっかり仕上げてあり、存在感があって使い勝手もよい。部分的に石もつかったバスルームは、他のタワールームとほとんど同様だが、ベイシンの形やその上の照明などに差がある。より明るく、清潔感のある造りになっており、広さの割には快適なバスルームだ。
タワーのスタンダードルームに連泊した。主力の標準客室で27平米という面積は、40平米が当たり前になった近頃の東京のデラックスホテル事情においては、どうしても物足りなさを感じさせる。しかし、この客室は狭いことと天井が低いこと以外に関しては、それなりにクリアしており利用してみるとなかなか心地よい。ただ、それぞれには吟味されていても、全体の調和ということでは、ちぐはぐなインテリアコーディネート我慢がならないし、個人的にはナイトランプとベイシン上のハロゲン光以外、すべてが蛍光灯の照明であることに参った。どういうわけか、蛍光灯からは小刻みな音が聞こえてきて神経を逆撫でする。
ベッドの幅は110センチと狭いが、その分周囲にはゆとりを生み出している。窓際に設置されたテーブルは、フースイルームにあった同形のものよりずっと高さがあるので、ダイニングテーブルとしても役立つし、ライティングデスクで作業をするよりも、こちらのが空間に余裕があってよい。
バスルームはベイシンの形状やカラーコーディネートに若干の差があるが、フースイフロアのものとほぼ同等の仕様だ。フースイフロアのバスルームよりも暗い印象なのは、色使いの影響かと思ったが、照明器具もすこし違っていた。バスローブやパイルスリッパは常備されており、ターンダウンサービスもある。そして、この部屋で何よりも素晴らしかったのは景色だった。見事な夜景はもちろん、日中には眼下の庭園や赤坂御所の豊かな緑が、まるでプライベートガーデンのように目を楽しませてくれる。
ディナータイムを過ぎると、メニューはアラカルトのみになる。品揃えも絞り込まれるが、ポイントをおさえた選択で、不自由を感じさせない。パンケーキを食べたいと思っていたが、残念ながらこの時間のメニューにはないので、代わりにカツ丼を注文した。どういうこと?自分でもわからない。サービスはフレンドリーで感じもよく、楽しそうにしているのが印象的だった。
2001.11.24
微妙な差
ホテルニューオータニ Tower Standard Room
哀-2今回利用した客室もまた、いつもと同じガーデンビューの客室だった。階層は中程度だったので、夜景も庭園もほどよい距離で両方とも楽しむことができる高さだった。しかし、残念なことに、驚くほど窓ガラスが手垢で汚れており、思わず窓から一歩離れてしまうほどだった。せっかくの景観を損ねるばかりでなく、このホテルが客室に込める思いはその程度かと興ざめしてしまう。自ら窓ガラスを拭くために、タオルを取りにバスルームへ入ると、今度はひどく下水の臭いがたち込めていた。排水口のあのいやな臭いが、生ぬるい空気といっしょに、バスタブやベイシンから上昇してくるのがわかる。仕方のないことかもしれないが、気分はよくない。
今回の客室は、ブルーを基調としたタイプで、カーブした外壁の関係で、窓際が少し斜めに広くなっていた。この微妙な差が、意外に大きなゆとりを感じさせてくれる。また、バスルームは、前回利用した客室と広さや設備は同じだが、タイルが違い、ベイシンの上にハロゲンのダウンライトがあるなどの差があった。エレベータは高層階用として4基あるが、場合によっては待てど暮らせど来ないことがある。また、ロビーから高層レストランに向かうゲストが列をなしているケースがあり、客室へ向かうにも苦労することがあった。
ディナータイムにプリフィックスのコースを注文した。最近は、いつも快活で感じのよいスタッフにばかり遭遇していたので、店の雰囲気そのものがよい方向に変化したのだと思っていたが、この日の担当は無愛想で、最初からややつっけんどんな態度だった。それはそれで構わないのだが、オードブルを下げ終わった後、いくら待ってもメインディッシュが運ばれず、そのことに苛立ちはじめていた。周囲の様子を見ていたら、我々が注文した料理は、間違えて近くの別のテーブルに運ばれてしまった。たまたま同じ注文だったようだが、そのテーブルの方がはるかに後になってから入店したのは見ていたので、提供ミスだとすぐにわかった。
背後で先輩スタッフがミスをした若手を叱りつけている様子が、鏡の多いこの店では丸見えの状態だった。それからしばらくしても、我々のテーブルには詫びるどころか、事情の説明にさえ来ることはなく、何事もなかったかのように、ことを済まそうという魂胆が見え見えだった。提供ミスがあってから15分ほど経って、いよいよ待ちきれなくなり、近くのスタッフをつかまえて料理はどうなっているのかと尋ねると、「ただいますぐに」と言っただけ。あくまで白をきるつもりに見えた。
オードブルが下がってからすでに30分近く経っている。にもかかわらず、フォローのひとつもできないことに、非常に腹が立った。責任者を呼び、状況を説明させたところ、案の定、他のテーブルに間違って料理を出してしまったということだった。この事態をどう収拾するつもりか尋ねたところ、「お客さまのご希望どおりに致します。」という返答だった。そのくらい憤慨しているということを伝えたくて「これでは、今日は料金を支払えない」と伝えると、意外にも「かしこまりました」という返事が返ってきた。その時ちょうど料理が運ばれてきたので、話は後回しにして食事をすることにした。できたてのメインディッシュは、このような不愉快なことがあった後でさえ美味しく感じられた。それだけの実力があるにもかかわらず、サービスのレベルが低いのは残念だ。
食事をしていると、いきなり別の係が名刺を差し出して、テーブルに割り込んできた。彼は、先ほどの「責任者」はただのキャプテンで、自分が責任者だと名乗った。なぜ今ごろになってしゃしゃりでてきたのか、それだけでも腹立たしい。とにかく、食事中に従業員側の都合でテーブルに割ってはいるなど、とてもサービス人の神経とは思えない。話は後にしてくれるよう告げて下がってもらった。食事が済んで、店を出ようとエントランスの方へ向かうと、後から来た方の責任者が、「今日はサービス料を割引いたしますので、こちらでお会計をお願いします」とキャッシャーへ連れて行かれそうになった。
別に大した金額ではないのだから、納得のいく対応さえしてくれれば気持ちよく支払うところだが、先ほどの話と違っている以上、「はいそうですか」とはいかない。一度承諾したものを説明もなく曲げてはばからないことに、みっともなさと哀れさを感じた。「私が責任者ですから」とか、「どうしてお支払いいただけないのか理解できません」とか、声を荒げて騒ぎ立て、全く反省もないので、これでは埒があかないと思い、アシスタントマネージャーデスクまで同行させた。事の次第を確認したアシスタントマネージャーは、レストランの不手際とマネージャーの非礼を丁寧に詫びてくれたので、こちらもほこを収めることにした。ここは商売する資格のない最低な店である。
Y.K.