2000.03.19
改装後
フォーシーズンズホテル椿山荘東京 Superior Room Garden View
楽-4久しぶりにフォーシーズンズに宿泊した。ちょうど連休の途中でかなり混雑する日程での宿泊だったため、希望するクラブフロアは予約が取れなかった。オープン以来、希望する客室タイプが取れなかったのは初めてだ。レギュラーフロアでしかも街側の予約だったが、「当日空きがあれば」というかたちで庭側のリクエストだけは入れておいた。
当日、予定の時間に到着すると、予想通り正面玄関は混雑しており、ドアマンもサービスのタイミングを完全に逃してしまっていた。ドアマンが開閉するというポリシーで自動化しない金張りのエントランスドアも、誰ひとり開けてくれないから、自分で押し開けてメインロビーへと足を踏み入れた。季節の花がいつも美しいロビーの装花には、一足先に桜があしらわれ上品な華やかさを放っている。小さめのフロントには、これから押し寄せてくるチェックインラッシュに備え大勢のフロントクラークが構えており、カウンターへ順に案内をするためのアテンダントも配置されていた。
早々とチェックインが済んだが、到着してから一度も名前を名乗る必要はなかった。実に1年ぶりの宿泊なのに、こうもスムースだと感動的だ。案内された客室はリクエストがかなえられ、庭側のスーペリアルームだった。数日前に改装を終えたばかりだというフロアには、まだ塗装の臭気がたちこめており、気になる人にとっては我慢がならないかもしれない。塗装のにおいについてはあらかじめベルアテンダントから了承を得るためのインフォメーションがあったが、「気になりませんか?」というタッチではなく、「我慢してください」というニュアンスに伝わってきたのが残念だった。いつもバゲージが届くまでかなり時間を要するので、今回はあらかじめ急いで運んでくれるよう頼んだところ、期待通りすぐに運ばれてきた。
客室改装の内容はファブリックの張り替えと塗装のみで、家具などの設備そのものには変化なかった。元来永く使える上質なファニチャーをそろえているので、まだまだ使い続けていけるクオリティだ。今回の改装で以前よりも深みのある色調のファブリックに変わったが、好みは分かれるところだろう。新しいに越したことはないが、開業当時のコーディネートの方がフランクニコルソンらしく、洗練されていたように思う。特に今回利用した客室のカラーパターンだと、ベッドスプレッドとカーペットの色が近すぎて変化に乏しい。ドレープも華やかな柄は以前と似たり寄ったりだが、以前の方が上質な布地でできていたように記憶している。
バスルームや扉の塗装は以前の黄色がかったアイボリーからスッキリとした白に変わったが、以前のほうが個人的に気に入っていた。椅子の塗り替えは美しく仕上がっていたが、壁の一部や扉の塗装は非常に粗雑で子供の工作レベル以下だった。その辺もホテル側がきちんと監督するなり、指摘するなりするべきだと思う。また、せっかく客室がリフレッシュしたというのに、見えなさそうで見える部分が汚れたままなのは残念だ。例えば、ウォシュエットのノズルは普段引っ込んでいるので目にすることは少ないが、カビだらけで先端が真っ黒になっていることが多い。今回の客室のものもそうであった。
せっかく優れたデザインのカランを起用しているのに水垢が付着しているし、ベイシンの底や上部排水口の中は有機物のヘドロがこびりついていて不潔な感じがした。先の細いブラシで軽くこすれば落ちる汚れだったり、漂白剤などで簡単に洗浄できる汚れなのに、放置しているのでは手抜きに思える。更にバスタブのカランも壊れていた。どんなに頑張っても、湯を出せばシャワーから漏れ出てきてしまう。シャワーから湯が滴ると、バスタブの縁にあたって飛び散り床まで濡らすことになってしまうのだ。せっかくの広くて豪華なバスルームなのに、水浸しの床では快適度半減だ。
このバスルーム、よく雑誌などに16平米あると書かれているのを見かけるが、どのように計測した値なのかが謎。実測すると9平米弱なので、その差はミニバーやクローゼットを含んだ面積であるか、給湯設備などが7平米以上なのかもしれない。それはともかく、大理石をふんだんに使ったこのバスルームは240センチの天井高があるが、ちょっと古めのホテルなら客室の天井高に匹敵する。照明はやわらかいながらも十分に明るく、夜は拡大鏡のライトだけを点けておけば眩しい思いをすることもない。
ベッドは110センチ幅と比較的小さめで、硬いベッドがはやっているこの頃にしてはやわらかめだ。しかし、シーツや枕カバーのやさしい肌触りといったら極上で、快適な睡眠が得られる。ナイトランプがオン/オフのみで調節が利かないかわりに、285センチの天井から下がるシーリングライトが調光可能で、しかも間接照明なので室内の雰囲気をコントロールすることができる。ライティングデスクは大型でデザインもよく、モジュラージャックが近くにあるのでインターネットにも対応している。ビジネスしながらリゾートできる格好のホテルだ。
遅いお昼を摂ろうとビストロに出向いたところ、午後2時半近くなるにもかかわらず、満席で5組の順番待ちがあるとのことだったので、空席が出来次第客室に連絡を入れてもらうよう依頼した。10分程度で用意できるとのことだったが、実際には25分経ってから客室に電話が入った。再び出向いたときもまだ満席状態。しかも驚いたことに、そのほとんどが子供連れであった。案内された席の隣は、ちいさな子供3人を含むグループで、卓上はこぼれた料理などででちらかり、子供たちは落ち着きなくはしゃぎまわり、まるで戦場のようだった。
案内された瞬間に、もう少し静かそうな別に空いている席を指して「あちらでもかまいませんか?」と隣の皆さんに気づかれないように尋ねてみたが、「は?」という感じの反応だった。まるで同席していると感じるほどにしか間隔のない隣席が、こうも食事にふさわしくない光景になっているのだったら、案内するのを憚るだけの神経は持ち合わせてもらいたい。そうこうしているうちに隣席のグループは席を立ち帰っていった。それでもまだ、大半は子供連れのグループだから恐れ入る。
今回は軽い食事で十分だったので、3,500円のセットメニューを注文した。バルサミコ酢テイストのサラダと、アサリと小海老のリングイネ、小菓子とコーヒーという構成だ。パンのバスケットも付いてくる。テーブルによってはハムのペーストとグリッシーニはサービスされていたが、我々のテーブルにはなかった。料理はパスタがやや水分を含みすぎていたほかは、とても良い出来栄えで満足のゆくものだった。サービスのタイミングもよく、不足はない。以前は店内中央に大きなフラワーアレンジが飾られていたが、現在は観葉植物の寄せ植えになってしまった。
料亭「錦水」はホテルではなく椿山荘に属する店舗だが、ホテルの1階から連絡通路をとおればそのまま店に入ることができる。庭園の中に「泊まれない旅館」をつくったようなたたずまいで、広々としたエントランスには、渋いはっぴ姿の番頭さんが待ち構えている。ヨーロピアンエレガンスの世界から一瞬にして雰囲気が変わるので、その対比がまたおもしろい。エントランスでスリッパに履き替え、正面を見ればそこはソファーが数多くならんだロビーになっており、その向こうには庭園の景観が広がっている。ところが、夜になってしまうと真っ暗なので、緑を目で楽しむには昼間のほうが向いているようだ。
館内は個室になっており、結構入り組んだ構造なのでどこへ連れていかれるのかわからなくなることもある。長い廊下を進んでエレベータに乗ったりと忙しい。「お若い方同士で驚きました」との言葉から察するに、普段は高い年齢層のゲストがほとんどの様子。今回は気のおけない食事だったので、とりわけ贅沢な料理を注文することはなかったので、思いのほか少ない予算で「料亭気分」を味わうことができたが、器を楽しんだり、接待などで利用する場合は2万円以上の料理を注文した方が格好が付くようだ。
和服姿の女性によるサービスは、座敷で視界に入っていなくとも、タイミングをよく察しており、的確なサービスが提供され続けた。しかし、赤坂あたりの料亭と違いあくまで旅館的であるため、日本料理に精通していたり、料亭を使い慣れている人にはおおいに物足りないものと思われる。
朝寝坊をして、10時を回ってから朝食に出向いたところ満席。満室、しかも連休の翌朝ではいたしかたないことだろう。しばらく待って案内された席は、店の最も手前の最も奥のブース席の隅だった。朝だというのにやや薄暗く窮屈であまりよい席ではないが、店内全体を見渡せるのでピープルウォッチングをするには適している。見渡してみると若い女性グループが多い。レディースプランなどを利用してつかのまの休息に訪れているのだろうか。象のようにゆっくりとしたテンポで小鳥のようについばんでいる様子は、見ていてなかなか興味深い。
そうこうしているうちにメニューは運ばれて来た。久しぶりに来てみると、メニューの用紙がかわりぺラっとした一枚だけのメニューになった。かつて朝食時だけカフェやルームサービスで用いるブルーのラインが入った食器類を用いていたが、ビーチェで使用しているものが中心になったなど変化が生じている。サービスは以前と変わらないクオリティで、よく気が付く人もいれば、何のために店にいるのかわからないような人まで揃っている。今回は運良くデキる人が担当だったので快適な朝食になった。
以前は必要な時にさっと注ぎ足してくれたコーヒーだが、今ではテーブルにポットごとドンと置いていく。それも、今回はカラのポットを置いていってくれた。開業当時に比べ、洗練されてきた部分もあるのだが、なんとなく大衆化し、他のホテルの朝食との差があまりなくなってきてしまったのは残念だ。
2000.03.30
改装前
フォーシーズンズホテル椿山荘東京 Superior Room Garden View
楽-4もう泊まれないのかと思っていた改装前の客室を利用できた。改装前といっても、一応天井だけは塗り直してあった。壁紙や入口付近の塗装はそのままだ。ドレープやソファをはじめとしたファブリックは8年の歳月を経てきたとは思えないほど損傷も劣化もなく、まだまだ十分通用する状態だ。建物が変則的な形状のため日照条件にもかなり差があるが、条件のよくないところの方が日焼けなどによる劣化が少ないのかもしれない。さらに番号が若い客室は眺めの条件がよくないから、閑散期には使用頻度が少ないく、よい状態が保たれているものと推測される。やはり、改装後の客室と見比べてみると、個人的にはであるが、改装前の方が好みに合っている。
それにしても、これほどの高級ホテルがなぜ、床を歩く足音が非常に響きやすい設計にしたのか不思議だ。自分の客室で普通に歩いていても、中央部分にくると鉄板の上を歩いているように振動が周囲に伝わるのがわかる。よほど上品に注意深く過ごさないと、階下の宿泊客に迷惑を掛けることになってしまうのだ。階上の客室で明らかに騒いでいる状態ならクレームにできるが、ちょっと体格がよかったり大地に足を踏みしめるようにして歩くクセのある人が階上に泊まっていて、ごくフツウに振る舞っているだけなのかもと思えば言い出しにくいものがある。
また、最初に案内された客室がコネクティング仕様であったため、音が気になってしまうかもしれないと申し出たところ、この日は客室に余裕があるらしく快くルームチェンジに応じてくれ、その対応も迅速で的確であった。いつも気になっていたバゲージが届けられるまでの時間は、前回に続いてスムースであった。このペースをぜひスタンダードにしていただきたい。窓から見える三重の塔のすぐ脇に大きな桜の木があり、現在3分咲き程度。庭園から外に出られる「冠木門」から川沿いにでれば、桜並木が続き、満開時にはよいお花見ができそう。桜のシーズンにも見所のあるホテルだ。
この夜はボールルームでサイ・イエングアンディナーショーが開催されていた。そのディナーショーのチケットを購入し、客として参加した。歌は素晴らしく感動的だったが、料理はフォーシーズンズにしては随分とケチだった。メインディッシュはなんとチキン。銀座中央会館の3,000円フルコースみたいな料理だった。
予約時の対応からして非常に感じがよく、それは入店から退店まで終止続いた。平日の店内は10組弱のゲストと個室での宴席のみの静かな営業で、従業員数も少なく途中何度か追いつかない場面が見受けられたが、そのあたりを入口で指揮に当たっているマネージャーがよいタイミングで適切なフォローをしていた。
今回は平日限定のセットメニュー「桜花」3,000円を注文してみた。2種の冷菜盛り合わせ、芝海老とアスパラの炒めに続き、チャーハンかワンタンをチョイス、その後にタピオカの甘味水がつくというもの。個人的には静かな店内で行き届いたサービスのもとにいただくチャーハンならこれでも高くないと思えるが、これで3,000円かという感想を持つ人も多いかもしれない。味付けはいつも通り控えめで上品に仕上がっているが、どんどんオーソドックスになり、「養源斎」ならではというありがたみには欠けてきてしまったように思う。
この店の底力を堪能するには、個室での晩餐がお勧めだ。十分な予算を掛ければ、「錦水」同様、ミュージアムクラスの器に盛られた目にも美しい料理が楽しめる。逆に、お昼ならば無理してコースを注文する必要はない。たとえつゆそば一杯でも、フォーシーズンズならではのサービスでゆったりとしたお昼休みを楽しめそうだ。
簡単なミーティングを兼ねた夕食に「シーズンズビストロ」を利用した。予約を入れようと思って電話したところ、「予約制ではございません。ご来店の順にご案内させていただいております」と説明された。十分に空席があるとのことだったので、そのまま店に出向くことにしたが、混雑する時には注意を要するようだ。ちょうど世界中のフォーシーズンズやリージェントから人気メニューのレシピを取り寄せてコースに仕立てたというプロモーションメニューがあり、興味をひかれて注文してみた。
5,500円で前菜、スープ、メインディッシュ、デザート、コーヒーと、フュージョンスタイルで世界中の自慢料理を楽しめる、ユニークなコースだった。サービスには余裕が感じられ、週末のぴりぴりとした雰囲気もなく、スタッフが楽しんでサービスに当たっているようだった。コーヒーのおかわりを頼んだところ、相当の時間を要したことだけが残念。また、なぜか週末同様、この店は子供ちゃん連れの巣窟。お行儀のよい子ならまったく問題ないが、中央のテーブルの下で寝転びながら奇声を発したりするうちに、飽きてしまったのか鬼ごっこが始まった。スタッフたちもさすがに困惑しているようだったが、なにを言うでもなし。
そうこうしているうちに、近くのオヤジが、「いいんだ、いいんだ子供は騒ぐのがシゴトなんだから」と加勢する始末。そのオヤジはどう見ても分不相応なお連れ様とごいっしょでずいぶんと気張っている感じ。まぁ。実は娘と久しぶりの食事を楽しんでいるだけなのかもしれないが・・・ 高級ワインなんか注文して、そこまでお嬢さまのゴキゲンをうかがうのなら、おとなりの店の方がオススメだけれど。それはそうと、子供ちゃんはつるめば騒ぐのが世の常。ご父母の方には、ぜひ店内の皆さんがそろって気持ちよく食事を楽しめるよう、ご配慮願いたいものだ。
Y.K.