2000.12.31
a practical mind
ウェスティンホテル東京 Executive Club Room
楽-3

上質な空間コーディネート

20世紀最後の夜は、ウェスティン東京で過ごすことになった。予約はかなり早い時期に入れてあったため、まったく苦労せずに確保することができていた。これまでウェスティン東京での滞在には、残念なことに不満が残るケースが多かったが、今回はそうした不運に遭遇することもなく概ね快適だった。

到着したのは午後1時になろうかという時刻で、すでに館内は大勢の人たちでごった返していたが、フロントデスクは閑散としていた。3箇所あるアイランド式のフロントカウンターにはそれぞれ担当者が立ち、そのうちの1箇所では先客がチェックインの手続きを行なっていたが、他の2箇所は担当者が立っているにも関わらず、目を落としたまま作業をしており、事実上機能していなかった。目を合わせればその作業を中断してチェックインを担当しなければならないのを危惧してかは知らないが、がんとして目を上げようとはせず、それは銀行窓口でよくでくわす状況に似ている。担当者にもいろいろと作業の手順があるのだろうが、無関心を決め込まれているような印象を与えるのはマイナスだろう。

チェックインを担当した女性は大変手馴れた様子で安心感があったが、極めて事務的であっさりとしていた。何年経っても毎回同じことを感じさせられるので、これには慣れてしまって不満にも思わなくなった。案内された客室は隅々まで清掃が行き届き、清潔感に溢れ実に快適。コネクティングルームだったので一瞬ドキッとしたが、幸い隣人に恵まれたらしく騒音などはまったく気にならなかった。

室内はしみじみと見回してみるまでもなく、通常の客室としてはかなり上質な内装が施されており、鏡面仕上げの家具類はほとんど年月を感じさせない良好な状態を保っている。270センチの天井高と大きく取られた窓が42平米の空間をひとまわり大きく感じさせ、ゆとりのある客室に仕上がった。バスルームは7.2平米の面積と230センチの天井高がある贅沢な空間だ。床とベイシンの天板には石を使っているが壁はテラコッタ風の色合いをしたタイルを張ってある。

アメニティはお馴染みになったグリーンのポーチのほか、シャンプー・コンデショナー、シャワージェル、モイスチャライザー、マウスウォッシュのボトルが並べられている。石鹸は円形のものがベイシンとバスタブにそれぞれひとつずつ置かれている。ポーチの中に入っているレザーや歯ブラシはビジネスホテル並みの品質で、そのあたりにウェスティンの本質が見え隠れしている。

タオル類は3サイズに加えスクラブタオルが豊富に用意されており、使用済みのタオルを入れる籠がベイシン下にあって便利。バスタブはあまり深くはないが内側が140×66センチのサイズがあってゆったりとしている。シャワーブースは別に設置されているが、バスタブにはシャワーがついていない。バスタブでシャワーを浴びようとは思わないが、例えばバスジェルで泡を立てたあとに軽くバスタブを洗い流したい時など、シャワーがないと不便を感じることがある。バスルーム内でBGMを聴くことはできるが、バスルーム内の電話機は着信専用だ。ルームサービスは24時間で、コーヒー800円、アメリカンブレックファスト2,900円など。プレスは通常料金で2時間仕上げが可能だが、他のホテルに比べると通常料金そのものがやや高めの設定になっている。

今回は在室中にターンダウンの係がやってきたので、仕事ぶりを見ることができた。他のホテルでこの光景に遭遇すると、ひとりがベッドカバーをはずしベッドを整え、室内のゴミ箱を空にし、氷の補充をしている間に、もうひとりがバスルームをチェックし、使用したタオルを交換したりゴミ箱を空にするだけでなく、シャワーを使用した形跡があれば拭きあげたりアメニティを補充したりして、もとの状態に近いところまで仕上げて、最後に「他にご用はございませんか?」と確認して退室するという場合が多い。在室中でなければカーテンを閉じたり、使用した茶器などを洗ったりもしておいてくれる。

しかしここウェスティンでは、まずふたりで部屋にずかずかと勢いよく入ってきて、ベッドの左右からふたり掛かりでバタバタと埃を巻き上げるような乱雑さでベッドカバーをはずし、そして氷を補充し、バスルームにバブをふたつ置いて「以上です。失礼しました」と嵐のように去っていった。1分も在室していなかったように感じるほどのすばやさだ。バスルームはタオルの交換などまったく行なわれていなかったし、それを依頼するすきも与えられなかった。すばやいのは立派なスキルだが、せっかくの空気を大きく乱し、埃まで舞い上げられたのには少々驚いた。せめてゲストが在室している場合くらい、落ち着いて作業をしてはどうだろうか。なお、一時期有料となっていたエグゼクティブクラブ滞在ゲストのためのフィットネスクラブ優待だが、再び無料化された。

翌日の朝食は地下1階の宴会場でおせち料理を食べた。地下なので外光は入らないが、明るい照明が爽やかで卓上には正月らしい生花が飾られていた。和服姿の外国人女性によるおとそのサービスもあり、ささやかながら新年の雰囲気を盛り上げていた。料理はお馴染みのおせちや目の前でこしらえてくれる雑煮など目には楽しいものが多かったが、例えば黒豆は小粒でしかも袋が破けたものばかりで見掛け倒し。ディスプレイのしかたにも問題があり、見た目ばかりを優先していて取り分けがしにくかった。客の立場を優先しないウェスティンの流儀がこんなところにもあらわれている。チェックアウトタイムにはさすがに長蛇の列。列が短くなるのをラウンジでお茶を飲みながら待っていたら、12時30分を過ぎてしまった。

シャワーのないバスタブ シンプルなアメニティ

「ビクターズ」

「タイユバンロブション」で食事をしようと思ったら正月あけまで閉まっているとのことで、急遽「ビクターズ」に行くことにした。来店直前に予約を入れたら、13時がラストオーダーなので急ぐようにといわれた。時計を見ると12時50分。確かに急がなければならない。

慌てて店に直行するが、店先には従業員の姿はなかった。今しがた予約を受けて客を急がせたのだから、程なく客が現れるだろうと容易に想像がつき、当然それに備えるべきだがなぜしないのか。仮にそれがしたくてもできない状況であったなら、店先で立って待つ我々の姿を見て、とっさに詫びの言葉くらい出てくるのが自然だと思うが、そんな考えはこの店には通用しないようだ。

恭しく席に案内をしてくれたのはいいが、なかなかメニューを手渡さず、かといって食前酒を勧めるでもなかった。やっと手にしたメニューから急いで注文を決めたが、こんどはなかなか注文を取りに来ない。まぁ、こちらが急いでいるわけではないのだから構わないのだが。結局10分ほどしてから注文を取りに来て、料理を告げると品切れだという。タイミングがなかったのかもしれないが、品切れがある場合はあらかじめ案内するようにしてほしいものだ。

お昼のコースはオードブル、メインディッシュ、デザート、コーヒーの構成でオードブルとメインは数品からチョイスできる。料金は3,500円が基本で、メインによっては4,500円となる。運ばれてきた料理はどれもかなりのスモールポーションで、あまり食べた気がしなかったし、料理の提供には随分と時間を要した。また、スープの多いメインディッシュにスプーンを添えなかったり、パフォーマンスだけで料理の品質を低下させるようなゲリトンサービスなど、稚拙な部分が目立った。

デザートはワゴンサービスで好きなだけチョイスでき、担当もいろいろと気前のいいことを口にするが、カットする幅はちいさくかなりケチな印象。一方ではコーヒーのおかわりはタイミングよく、しかも新しいカップで用意してきてくれるなど積極的な一面もあったし、食後はせかされることもなくゆっくりと過ごすことができた。しかし、「タイユバンロブション」がお昼に5,000円のコースを実施していることを考えると、どう考えても「タイユバンロブション」の方がコストパフォーマンスが優れているように感じた。

Y.K.