2000.11.09
ワインの館
「オザミ・デ・ヴァン」銀座
喜-3

市川での公演を終えて自宅に戻る途中おなかがすいたので、銀座で高速をおり食事をして帰ることにした。遅くても食事の出来る店をあまり知らなかったので、友人に以前から評判を聞いていた深夜までやっているという店に直行することにした。ところが直行しようにも確かな場所をしらなかった。どうやら西洋銀座からそう遠くなく明治屋の裏あたりという程度の情報しかなく、しかも夜になって気温が下がり寒くなっていたので、あまりうろうろする気分ではなかった。ざっと探してすぐに見つからなかったら、24時間営業している銀座東急ホテルの「オーツーフォー」に行けばいいというつもりで車を停めた。

22時を回り銀座の裏通りはすでにひっそりとし始めていたが、裏道からさらに路地を入ったところに一軒だけ活気に溢れる店があり、すぐにそこが目当ての店だとわかった。夜に見る外観はかなり砕けた感じで、満席のざわめきがもれてくるビニールテントに覆われた1階ホールの脇に小さなエントランスがある。扉を開けると満員電車から人が溢れ出てくる時のようなエネルギーが中から伝わってきて、この混雑ぶりでは席を確保するのはムリだろうと半ば諦めていたが、2階の席なら用意できるとのことだった。

テーブルがひしめくようにセッティングされた1階ホールを横目に細い階段を上がると、5卓のテーブルとワインセラを配したのみの小ぢんまりとした空間があった。空間のスケールから察するに、この建物はかつて個人の邸宅であったような雰囲気だ。テーブルには白いクロスが掛けられ、窓から銀座の裏路地を見下ろすシチュエーションはビストロ的な感じがしてなかなか面白い。この上階にもホールがあって、そちらはカウンター席も設けたワインバーとなっている。

各階でそれぞれ目的が分かれており、本来食事をメインに楽しむ場合は1階を利用するらしい。2階は一品料理をサカナにワインを堪能するための空間だそうだが、頼めばコースも用意してくれる。コースは4.800円と6,500円の2種類あって、4,800円の方はプリフィクススタイルになっており、初めて訪れたこの日はこのコースから試してみることにした。オードブルとメイン、デザートはそれぞれ5〜6種類の中からチョイスでき、その他にアミューズ、グラニテ、パン、コーヒーが付く。追加料金でスープ、ハーフサイズスープ、ハーフサイズ魚料理などが加えられるが、ハーフスープは量がとても少ないので、1人前サイズの方がこの店の豪快さには似つかわしい。

尾関シェフがこしらえる料理は、てまひまを惜しまず注ぎ込み、熱のこもった素晴らしい出来栄えだった。ガルニひとつにでも深い印象を残す力が感じられた。料理そのものの力強さに対して、サービスに当たる若い従業員たちはやや覇気に乏しく、のびのびと振舞っているようには見えなかったことが残念。よい意味でも悪い意味でも若々しいサービスであった。

そして忘れてはならないのがワインの品揃えである。リストは圧巻だ。しみじみと眺めていてはたちまちオーダーストップの時間になってしまうだろう。しかも安い。おいしい飲み頃のワインを豊富にしかも安く取り揃えていることそのものが最大のサービスと言えるのかもしれない。この店に気取りなどいらない。客はうまいものを食わせてくれ楽しく飲める屋台に行くのと同じ感覚で利用すればいい。サービス人たちが、がさつであっても構わないから、さらに自信をもって堂々と振舞えるようになるのが楽しみだ。

2001.04.14
3階
「オザミ・デ・ヴァン」銀座
喜-4

通常3階はワインバーとして営業しているそうだが、3階には上がったことがなかったので、予約の際にそこで食事ができないものかと尋ねてみたところOKだった。3階へと続く階段はとても細く、クルーザーの船室からデッキに上がるような感じがする。のぼりつめればそこには一列のテーブル席とカウンターがあって、窓際はサンルーム風にトップライトが取れる造りになっており、いよいよもってクルーズ気分だ。別段眺めがよいわけではないが、階下から伝わってくる喧騒が開放的な気持ちにさせてくれる。しかし客層のせいか、3階そのものはむしろ落ち着いた雰囲気だった。

シャンパンで喉を潤しながら、それなりに時間を掛けてメニューを眺めたが、結局今日はシェフにおまかせしようということになり、品数だけ給仕と相談して、どんな料理が運ばれてくるか楽しみに待った。あわびを使った前菜、フォアグラのパンケーキ、仔羊などどれも期待を裏切らない見事な出来栄えだった。土曜日で混雑しているさなかにも、丁寧に調理をして、手抜きのない料理を提供している。

ソムリエにまかせたワインの選択も的確で、よく料理の内容と流れを理解しているようだ。以前は硬さを感じたサービスも、コリがほぐれたようにスムースになり、客を楽しませる余裕を感じさせるまでになった。そして、帰り際に勘定書きを見て、ますます驚いた。この内容ならこのくらいの料金だろうなと想像していた金額をはるかに下回っていた。高くていいかげんなのが堂々とまかり通るこの時代に、価格以上の価値を提供してくれる数少ない店のひとつだ。

Y.K.