2000.05.05
シップウォッチング
観音崎京急ホテル Standard Room
楽-2ガラガラの東京都心から高速道路を乗り継いで約1時間半、三浦半島の先端に近い海沿いのホテルにチェックインした。この日はまもなく訪れる夏の気配を色濃く感じる暖かな日差しにつつまれ、ホテルに向かう途中にある海岸沿いの堤防は釣りや日光浴を楽しむ人々で賑わい、のどかな漁港に程近いこのホテルの館内にものんびりとした空気が流れていた。
ホテルの建物はエレベータさえ必要ない低層建築で、周囲の環境ととてもよく調和している。こぢんまりとしたフロントで手続きを済ませると、ベルが部屋まで荷物を運んでくれた。客室はすべてオーシャンビューで、スタンダードツインとスイートの2タイプのみだ。どの客室も大きく取られた間近に海を望め、開放的なバルコニーに出れば潮風を浴びることができる。海との間にはパターゴルフのグリーンがあり、スクリーンを見つめっぱなしで疲労した目が休まる。夜には対岸にあたる千葉の夜景が意外と近くに明るく美しい。ところが少し陸側に目をやると、ずいぶんと無粋な団地風の建物が並んでおり、せっかくの景観を殺してしまっているのが残念だ。
客室内は32平米の面積と260センチの天井高があり、リゾートホテルとしては標準的な広さだ。ピンクのカーペットが開業当時の流行を偲ばせるが、インテリアはいたってシンプル。また、PAYテレビやBGM、ルームサービスはない。しかしアメニティにはさまざまな工夫が見られた。ハーブティのティーバッグ、バスローブ、3サイズ揃ったタオル、キュリオケースのようなガラスのアメニティボックス、一輪挿し、パズル、浦賀水道を通る船舶の通過予定表、双眼鏡など、最後のふたつ以外はそれほど特別な用意とはいえないが、足りないハードを補う工夫として好意的に感じることができる品々だ。バスルームもシンプルだが、タイル張りで清潔感がある。ただ、バスタブの上には照明がなく、カーテンを閉じるとやや暗いのが気になった。
レストランはラウンジを併設したコーヒーショップとメインダイニングのみで、この日の日中はメインダイニングで披露宴が行われ、ラウンジはその2次会として貸しきり営業になっていたために、コーヒーショップ「浜木綿」だけが唯一利用できる飲食施設だった。店内は天井が高く、海側の壁一面に取られた窓が印象的な明るい雰囲気。ファミリーやカップルで結構賑わっていた。翌朝の朝食もこの店でとった。開店と同時に店に入ったのだが、すでにキャッシャーの前には案内を待つ人の列ができていた。朝食はブッフェ形式で、和洋の品がいろいろと並んでいる。朝一番なので美しく盛り付けられた料理はどれもおいしそうだった。店内はあっという間に満席になり、ブッフェ台にも列ができた。従業員は人数が少なくとても慌しそうだったが、頼んだことは比較的すぐに実現してくれ、一生懸命さが伝わってくるサービスだった。
その他の施設としては、前出のパターゴルフ場と、夏にオープンする屋外プール、テナントのブティックくらいで、これといって面白い施設があるわけではない。何もない環境でただひたすら海に思いを馳せるか、釣り竿を担いで岸辺に繰り出すか、磯遊びに明け暮れるのか、いずれにしてもこのホテルで充実した時間を過ごすには、設備に頼ることなく自ら楽しみを生み出すすべを知っている必要がある。なんとなく軽井沢チックな環境だ。身軽な支度でふらっと1泊、チェックイン後は船舶の通過予定表を頼りに、行き交う船を見つめて過ごすのもいいかもしれない。
2000.05.06
涼風と霧
山のホテル Standard Room
楽-2観音崎から箱根までは、渋滞で相当の時間を要するのではないかと予測していたが、途中茅ヶ崎海岸あたりで混雑したほかはスムースだった。山のホテルの敷地内は宿泊客のほかにも多くのビジターが訪れ駐車場は大混雑を呈し、あちこちに駐車場係が立って車の誘導・整理を行っていた。後で尋ねたところ、普段は鉄道などの小田急関連会社で働く従業員が、アルバイトの形で借り出されているのだそうだ。その鉄道系助っ人スタッフとの間には、ちょっとしたエピソードがある。
車でアプローチを進んでいると、助っ人スタッフが交通整理をしており、駐車場へ進むようこちらにサインを送っていた。だが、こちらは荷物を降ろすために正面玄関を目指していたので、そのサインを無視した。すると、「ふざけんなよ。こっちだって言ってるじゃん。バカヤロー。」と悪態をついた。彼には他意はなかったと思う。小声で独り言のようにつぶやいていただけだから。しかし、運が悪いことに、こちらの車の窓が開いていたために、つぶさに聞こえてしまった。悪態をつくなら心の中で。たとえ助っ人でも、顔はにっこりホテルマンでなくっちゃ。
到着はチェックインタイムよりも若干早かったが、フロントで手続きを済ませるとすぐに客室に案内してくれた。客室は1階から4階までに位置しており、どの客室からも美しい自然の眺望がダイナミックに広がっていて、階層によって窓が大きかったり、バルコニーがついていたりする。3階、4階の客室は窓が小さいが、その分湖水や遠くの山並みまで美しく望める。
3階のスタンダードルームは、30平米程度の面積と250センチの天井高をもち、重厚な風合いの家具と落ち着いた色調のファブリックでくつろぎの空間を作り出しているが、今回の客室は如何せん窓が小さかった。せめてもう少し腰が低かったり幅があれば、見事な芦ノ湖の景観をより満喫でき、開放感も増したに違いない。しかし見方を変えれば、冬場などには小さな窓がかえって山小屋を連想させ、暖かさを演出できるのかもしれないと思った。
室内はシックにまとまっており、使い古された家具が歴史を刻んでいるのだが、部分的に改装を施した個所もあり、その部分がいやに浮いていた感は否めなかった。ベッドは幅が98センチと狭く夜行列車のように窮屈だが、この狭さもまたなぜか「山に来たんだなぁ」という気分にさせ、これはこれで興味深かった。バスルームは大浴場を備えたこのホテルではあまり重要ではないかもしれないが、きれいに改装をしてあり一面に大理石模様のシートを張り巡らせてある。タオルは薄手だが3サイズ揃い、暖色系の色に染めてあるのがユニーク。アメニティはあまり豊富ではないが、トイレはウォシュレットだった。
露天風呂もついた大浴場が山側の斜面に面して設けられており、随時利用できるようになっている。箱根だから当然天然温泉だろうと思い成分表示を眺めてみると、人工的に温泉に似せてこしらえたお湯とのことでややガッカリ。しかし、部屋のユニットバスに比べれば、広くて清潔な大浴場はとても快適だ。冬に雪が舞うころだと、また一層心が和みそうな施設だった。
レストランは日本料理とフランス料理の2店舗があるが、やはりリゾート価格という感じでいいお値段だ。しかし、サービスも料理内容も想像以上のクオリティで、朝食にも手抜きがなくこのホテルがレストランにそそぐ力の大きさが伝わってくるようだった。センチュリー相模大野の飲食施設はこのホテルと深い関係にあるにも関わらずずいぶんと印象が違ったのは、箱根という環境のせいだけではなかったと思う。ゴールデンウィークということで、従業員にはアルバイト的な実習生を多く見かけたが、不慣れながらもマジメに仕事に励む姿がじつにほほえましかった。
また、このホテルの見所はなんと言っても庭園のつつじだ。すこしゆっくりと散策してみたが、この日は午後から霧が出て、湖水や林を抜けとてもよい香りを伴った涼しい風が気持ちよかった。見頃にはまだしばらく時間を要しそうだったが、少しずつほころび始め満開時の素晴らしい光景をぜひとも見てみたい気持ちになった。でも、きっとその時期はつつじ見物というよりも、それを見にきたオバサン見物になっちゃうんだろうな。
Y.K.