2000.04.15
住むためのスイート
ホテルオークラ Corner Suite
喜-2オークラのルームタイプはかなり変化に富んでおり、特に本館はたとえ同じ末尾のルームナンバーだとしても、階層によって設備やレイアウトが違ってくるようだ。階層別に分けると、5,6階がもっとも早い時機に改装に着手しており、バスルームの大幅な改装のほか大胆な装飾を施し、おそらく最も投資額の大きなリノベーションだったろうと推測される。次に7,8階が改装され、5,6階の意匠を引き継ぎながらも、評判の悪かったイボイボの装飾を排除し、ライティングデスクに引出しを設けたり、蛍光燈のトップライトと白熱灯のウォールライトのスイッチをそれぞれ独立させるなど、より利便性が高い客室が完成した。
その後の3,4階の改装は、それまでと随分違っている。バスルームにはほとんど手を加えず、室内のファブリックなども、5〜8階に比べると落ち着いた渋い感じのものを採用し、どちらかというとオークラらしいしっとりとした雰囲気に仕上がった。最後に改装した9,10階もこのテイストだ。
今回利用した9階のコーナースイートは、ウイングの廊下を突き当たった先端部分に位置している。客室扉のドアスコープはビデオカメラ式で、スイッチを押している間だけモニターに廊下の映像が映る仕組みになっており、覗くと廊下がずっと見渡せる。室内に入ると2面に窓を持つ30平米程度のリビングがあり、両方から対面式に掛けられるライティングデスクと、ソファセット、テレビ台が置かれている。冷蔵庫、ミニバーは扉を閉じることで隠すこともできる。
テレビ台にはビデオデッキを置くスペースがあり、デスク上にはビデオデッキの操作方法が書かれたマニュアルとビデオデッキ用のリモコンが用意されているのだが、肝心なデッキはなかった。客室係に問い合わせたところ、リクエストで用意することになっていると言っていたが、それならリクエストがあってからデッキと一緒にマニュアルとリモコンも用意した方がいいように思った。またライティングデスク上にライトが設置されていないのも不自然に感じた。デスクの真上にダウンライトでもあるのならまだしも、作業するには手元が暗すぎる。本来備わっていたものを、何かの理由で運び出したのではないかと想像できなくもないが、リクエストをしたら他の客室のナイトランプを外して運んできた。
リビングの奥にはベッドルームがあるのだが、その間は短い廊下になっていてバルコニーも付いている。外光を意識してか、その廊下部分にドレッサーとバスルームの扉があるが、トイレは他のスイート同様、トータルでひとつしか備わっていない。初めからターンダウンされた状態のベッドルームはリビングより気持ち小さな感じで、心地よい羽毛布団の掛かったベッドが2台、オットマン、そしてテレビ台とその両脇にふたつの椅子が置かれている。照明は蛍光燈の間接照明とナイトランプだけでスタンドの類はない。リビング、ベッドルームとも、日中は全体を合わせて3方向の窓から十分な自然光が入り込むので明るさに申し分ないが、夜になると蛍光燈ではムードが足りず、かといってナイトランプとスタンドだけでは照度が足りないという、どっちつかずの状態になってしまった。照明はもう一工夫欲しいところだ。
バスルームはスタンダードタイプを少し幅広にした感じで、ダブルベイシン、ウォシュレット、ビデを備えるが、シャワーブースはない。バスタブにはシャワーカーテンの代わりにオークラ名物サッシ扉が付いているが、あまり清潔な印象を受けなかった。アメニティには変化なかったが、タオルのデザインが変わった。以前の方が厚手の生地で、ひとまわり大きかったような気がする。また、ハンドタオルからはロゴの刺繍が消えてしまった。
オークラは、フォーシーズンズや西洋銀座などと同様、高級スイートは別としてもスタンダードルームとスイートとで室内インテリアの質はあまり変わらない。広くはなるが、見るからに豪華な感じにはならないのだ。こういうタイプのスイートは、特別な日などに一晩の非日常を求めて利用するのにはあまり向いていない。例えば住むような感覚で1週間利用してみると、結構深くその味わいを実感できるのではないかと思う。オークラの良さも、長い滞在になればなるほど、しみじみと伝わってくる。機会があれば、ぜひ最低4泊はしてみていただきたい。
2000.05.03
赤水
ホテルオークラ Standard Room
喜-1オークラではゴールデンウイークや夏の盆などの時期に、リーズナブルなパッケージプランを発売する。ビジネスのオフシーズンになると、エグゼクティブたちが姿を消し、ビジネスマンの多い都心のホテルは稼動が下がる。特にオークラではスイートの需要が減り、普段なかなか手の届かないスイートにも、手軽な料金でステイすることができるというわけだ。
今回はひとりでの利用だったので、スタンダードのプランで2泊予約をした。カスタマー会員向けの料金と一般向け料金の2種類の設定があるが、実は会員向け料金の方が高い。会員料金を安くするのが一般的だが、今回オークラでは一般向けと会員向けで利用する客室タイプに差を設けて、会員向けプランにはより広いタイプの客室をアサインするので、料金が若干だが高く設定されている。客室の面積差や設備の差は、料金の差をはるかに凌いでいるので、会員向けプランの方が満足度は高いと思う。最初狭い部屋に案内されたが、なにか間違っているのではとフロントに尋ねたところ、ルームチェンジをしてくれた。
さて、いまだかつてない事件が発生したのは、1日目の夜、バスタブに湯を張っている時だった。なんとなく湯に色が付いているような気がしたのだが、照明や屈折の影響か、はたまた錯覚かと思い見過ごしていた。ところが、徐々に色が濃くなり、バスタブがいっぱいになる頃には烏龍茶かアメリカンコーヒーのような色に染まってしまった。どうしたことかと驚いて客室係に電話をして尋ねたところ、同様の問合せが十数件入っており、原因は館内で一斉にお湯が使われたため、複数あるボイラーの古い方の底に溜まった水までもが利用され、客室まで流れてしまったとの説明であった。湯の利用をしばらく控えて様子を見て欲しいとの話しだったので、その時は入浴を断念した。
改めて夜中に入浴したが、その際にはいつもの無色透明な湯に戻っていた。一晩明けた昼ごろ、前夜の詫びにと、フルーツの盛り合わせが運ばれ、不測の事態に迷惑を掛けたことを申し訳なく思う気持ちが伝わって来た。何かあった時に詫びの言葉もなく、そのままにしてしまうホテルが少なくないが、ささやかなことでも事後処理として行動を起こせば、効果のあるフォローアップができるのだから、労を惜しまず汚名を返上する努力をしてもらいたいものだ。それにしても、格式高いイメージのオークラで、こうして次々とハプニングがあると、妙に親近感がわいてくるから不思議だ。頑固そうに見えるオヤジが、実は優しかったなんて具合に。
2000.06.09
お気に入りに出会う喜び
ホテルオークラ Junior Suite
喜-3オークラの客室は、同じ料金のカテゴリーでも室内の設備や眺望などに豊富なバリエーションがあり、ルームナンバーを指定して予約をする顧客も少なくないと聞く。同じ面積の客室どうしでも、レイアウトやバスルームの面積などがさまざまなので、泊まるたびに新鮮さが感じられる。今回利用したジュニアスイートは、今まで泊まったオークラの客室のなかで一番自分にあったタイプのレイアウトだ。スイートを一回り小さくした感じだが、リビングとベッドルームはフレンチドアできちんと仕切れるし、バスルームは例えば上記のスイートよりも広くとられている。
大きな対面式ライティングデスクには深いひきだしが多く備わっており、後ろには棚もあるので長期滞在で仕事をする場合にも便利だ。クローゼットは小さめだがバスルームは十分な広さだ。昔のデザインのままだが、ベイシンはひとつだが大きなバスタブとボディーシャワー付きのシャワーブースを備え、もちろん総大理石仕上げ。全体としてはさほど広くない面積だが、必要な設備がぎゅっと凝縮された感じの客室で、無駄に広い印象がなく使い勝手のよいレイアウトに思えた。料金的にも良く似たつくりのスイートに比べればリーズナブルなのが嬉しい。
しかしオークラにはまだまだ未体験の客室がたくさんある。扉に貼り付けられたフロアの見取り図を見ても興味深いレイアウトの客室が目にとまるし、改装が始まった別館の仕上がりも楽しみだ。オークラでルームナンバーを指定して予約できるようになるにはまだまだ足繁く通わなくてはならないが、こうして偶然アサインされた客室がどんなだろうかと期待に胸を膨らませるほうが楽しみがあっていいのかもしれない。
よく「前回と同じ客室を用意する」というサービスを自慢するホテルがあるが、個人的にはあまり嬉しいサービスだとは思わない。そこから気遣いを感じ取ることができ、その点は心に響くものがあるが、できるだけいろいろなタイプの客室に泊まってみたいと思っているので、むしろ「前回と違う客室」を用意してくれると嬉しい人は、少なくないだろう。
シングルルームからスイートまで、低層階から高層階まで、いろいろな向きの眺望、ちょっとしたレイアウトの違いなど、同じホテルのさまざまな条件の客室に宿泊してみると、おもしろい発見がたくさんある。その中で「これだ」と思える自分にぴったりのルームタイプが見つかると、ルームチョイスのポイントがつかめ、失敗がすくなくなるような気がする。
Y.K.