2000.03.24
特別な日に行きたくない店
「タイユバン・ロブション」恵比寿
哀-4

楽しい食事をと友人がセッティングしてくれた午餐のため、タイユバン・ロブションを訪れた。今までの印象は残念なことにあまりよくなかったが、最近になってこの店のよい評判を耳にする機会が増えたので、努力を重ねて洗練を極めたのだろうと想像し期待をしてしまった。しかしそれはまったくの失敗だった。

友人によれば、予約時の対応は非常に丁重だったそうだ。ところが、丁重なだけで終わってしまっている。誕生日を祝うためだと告げてあっても、当日案内された席はパントリーへの出入り口脇の落ち着かない位置。どちらが招かれる側かがわかるように振舞っているにもかかわらず、その信号をとらえる能力も持っていない。席につくと「食前酒でもいかがですか」とサゼッションがあり、「ルイロデレールクリスタルを」と注文したが、その銘柄をすぐに理解できないとは、こちらのほうが理解に苦しむ。本当にグランメゾンに従事し、食前酒のオーダーを取ることを許された立場の従業員なのか疑わしいほどだ。

シャンパンが運ばれてくるまでの間、相当の時間を要し、乾杯と注文を済ませるまでに30分以上が経過していた。頻繁に顔を合わせていても、ゆっくりと話すチャンスが少ない友人との食事だったので、会話が弾み、料理が運ばれてくるまでのタイミングが遅れ気味だったり、ワインのサービスが滞ってもさほど気にはならなかったものの、どう贔屓目に見ても高級店のサービスとしてはお粗末だと言わざるを得ない。全体にゲストを楽しませようという気迫が感じられず、給仕はおしなべて通夜の進行係のようだった。

デザートワゴンが運ばれてきて驚いたのは、どの品物ももうあと一切れ二切れとればおしまいの、悪く言えば食べ残しにしか見えない状態だったことだ。その寂しいデザートが食べ終わる頃になると、メインダイニングには我々だけになってしまった。「そろそろダイニングも寂しくなってきましたので、コーヒーはバーのほうでいかがですか」と声がかけられた。親切で提案してくれていると思いたいところだが、早いところダイニングを閉じて、次のステップに移りたいという「店の都合」を匂わせるようなイヤミな物腰だった。

バーに移ってからは、誰がサービスに付くでもなく、コーヒーを出したら放ったらかし。お替りを勧めることもせず、会計時でさえこちらから立って従業員のところまで出向く必要があった。確かに長い午餐ではあった。12時過ぎに入店し、気が付いたら3時半だった。しかし、この程度の長さの午餐は日常茶飯事だし、その場合はディナー時と変わらない高額のオーダーをしている。ことさらちやほやとサービスしてほしいなどとはさらさら思わないが、店の名に恥じないだけのサービスは提供してもらいたいものだ。

てんでダメなサービスに比して、料理はすばらしかった。実に丁寧に調理され、デリケートな味わいには芸術性すら感じられる。理屈抜きに旨い料理が味わえる。お粗末極まりないサービスは、この極上の料理をもってしても、帳消しにはできない。友人たちもサービスの悪さには閉口し、この店を選んだことをしきりに詫びていた。よい評判があるのも事実だし、その通りであってほしいと心より願っているが、特別な日に利用するにはリスクが大きすぎる。

Y.K.