2000.03.16
スルメイカホテル
東京プリンスホテル Standard Room
楽-1

白っぽい客室

東京プリンスホテルは、裏手に東京タワーが聳え立ち、周囲には芝公園や徳川家ゆかりの増上寺など、豊かな緑に恵まれた環境に位置している。いつ頃からか、新しいプリンスホテルは軒並みビジネスホテルに毛が生えた程度の設備の節約ホテルばかりになったが、古いプリンスホテルは元貴族の広大な敷地を譲り受け、非常に贅沢な土地の使い方をしているものが多く、東京プリンスホテルも後者のひとつだ。

建物自体はそれほど大きくないのに土地は広く、表通りから正面玄関までまっすぐに伸びたアプローチはスケール感たっぷり。その両脇が駐車場になっており、立派な樹木がたくさん生い茂っている。正面玄関にはドアマンの姿も見受けられたが、扉を開けるだけで特になにも手伝ってはくれない。ベルマンとて、ベルデスクに大勢群がっているものの、荷物の世話には興味がない様子だった。頼めば手伝ってくれたのかも知れないが、自分で持ちきれないことはなかったので頼まなかった。

チェックインの対応は、たまたま熟練したマネージャーが対応してくれたが、とても丁寧かつスピーディだった。手続きが終わるとキーを渡されるが、部屋への案内は特には行っていないようだった。1階のパブリックスペースには、エアクルーたちがくつろいでいたり、スーツ姿のビジネスマンなどが多く見受けられ、活気がありながらも渋い雰囲気がある。スタッフたちの感じは、やはり他のプリンスに比べれば「ホテルらしさ」があって安心できる。

今回利用した客室はもっともスタンダードなタイプのツインルームだった。最近の新しいスタンダードルームは画一的で面白くないものが多いので、今回のようにいい意味でも悪い意味でもユニークな客室は、初めて利用する場合なら結構楽しめるものだ。まず、狭い。20平米あるのだろうか?天井高255センチとそれほど低いわけではないが、それでも閉塞感がある。窓が片方によっていて壁の部分が多いことも手伝っているのだろう。スタンドが一切ない代わりに、天井にはシーリングライトがある。全体がオフホワイトでまとまっており、病院の個室か修道院のシスターの部屋か、はたまた政治犯の独房かという感じ。

ベッドははじめて見る小ささで、幅98センチ長さ198センチというまるでオリエント急行のようにコンパクトだ。この狭い室内にも興味は尽きないほどに盛りだくさんのネタがころがっている。ディレクトリーを開くと、さまざまなプロモーションの案内に始まり、羽田空港までの貸切ジャンボタクシーの案内、プリンス名物「ステイ清掃が不用な場合の割引」の案内、「パソコンを接続する場合はナイトボードの裏から電話線を抜いて、そこにつないでください」という「親切」なパソコン通信の手引き、24時間ルームサービスのメニューなどなど、熟読するほどに面白い。ユニークかつナリフリ構わないアイデアが満載で、噛めば味が出るスルメイカのようなホテルだ。

室内に電気ポットはなく、夕方になると湯の入った昔ながらの保温ポットを配りに客室係がワゴンを押してやってくる。意外と保温性が高く、翌朝になっても熱いお茶を入れるに十分だった。バスルームも面白い。3平米程度の狭い空間で、バスタブは130×60センチとやや小ぶり。バスタブの周囲はタイル張りだが、ベイシン周りは濃い柄のビニールクロス。この狭い空間にしっかりした生地のタオル類が3サイズ揃い、その他にもウオッシュタオルもある。アメニティはそれなりに充実しており、レディースセットにはウエットティシューなども入っていて女性のみならず便利そうだ。シャワーの水圧は問題なかった。出張や不意に遅くなったときの急なお泊りなどには最適。ただ、古いホテルなので壁がかなり薄く、よく気をつけないとあなたの吐息まで隣室に筒抜けかも。

2000.04.19
タメぐち
新横浜プリンスホテル Junior Suite
楽-1

見事な眺め

まず、予約係の対応が興味深かった。若い女性が応対するホテルが多いが、最近は人手不足なのか、意識の変化なのか、予約課長やそれに次ぐような立場のおじさんが電話で応対するケースが増えてきた。さすが部署の長と思わせる正確で迅速丁寧な応対があるかと思えば、どちらが客だかわからないような横柄な態度に出られることもある。これこそ人による差が大きいところだが、エライ人が一度悪い風習をつくってしまうとなかなかぬぐえないようで、予約の対応が悪いホテルというのもだいたい決まっている。

今回このホテルに直接予約を入れた際、宿泊予約係だと称して電話口に出たのは中年に差し掛かったと思われる男性で、気合たっぷり、愛想もいいのだが、予約に関する知識が限りなくゼロに近い人だった。何かを言うと、そのたびに電話をホールドして調べてから返答をしていて、「もしかして、管理職の現場研修かな?」なぞという想像力が働かずにいられなかった。最後には、「じゃぁ、ジュニアスイート、メンバー様ですので、ウェルカムドリンク付きっつうことでー!ハイ」と向こうから電話を切られてしまった。なんだか民宿の親父さんとでも話しているような感じだったが、不思議にも不愉快になるどころか楽しい気分にさせる力があった。

さて、新横浜プリンスホテルは東海道新幹線開業とともに栄え始めた新横浜駅前で、ひときわ目を引く円筒形の超高層ホテルだ。館内には1002室の客室と多くのレストランがあるほか、ショッピングプラザ「プリンスペペ」とも直結しているので、いつも多くの人でにぎわっている。ホテルの形態としては、品川プリンスに見られるような典型的なビジネス型プリンスだ。開業当時を記憶でたどると、駐車場は無料で、ベルもいたような気もするのだが、今ではそのような太っ腹なサービスはない。当然冷蔵庫は空っぽだし、氷やお茶も各階に備え付けのサーバーまで自分で受け取りに行かなければならない。しかも、氷は有料である。手本は国民宿舎かと思わせるような最低限のサービスながら、一応シティホテルの端くれ的なプライドも残っている様子で、スタッフのサービスからは人間性も感じられた。

パブリックスペースは、白の大理石をふんだんに使い、清潔感のある空間に仕上がっている。以前は単にアトリウムとして公開されていたスペースも、今となってはセルフサービスのカフェテリアコーナーになり、一円でも生み出せるのなら無駄にしないというプリンスのど根性をアピールしているかのようだ。スケールの大きなパブリックスペースに比べ、各客室は悲しくなるほどの小ぢんまり空間だが、それでも狭い空間を広く使えるような巧みな工夫が各所に見られる。また、建物がチューブ状で高層建築だから、向きや階層によって眺めの条件にはかなりの開きがある。周囲に高い建物がないので、高層階からの眺めは特にすばらしく、一面に広がる夜景を楽しむことができる。方角としては横浜方面がもっとも明るく、港なども望めるので、地方から旅行に訪れるのならこの方角が一番いいと思う。

広いタイプのツインルームはすべてこの方角を向いているので、あとは高層階をリクエストし、明かりを消して外を眺めれば、部屋の狭さや汚れも気にならなくなるかもしれない。ジュニアスイートは、高層階にしかなく、横浜方面を向いているので、眺めとしては申し分ない。扉を入るとすぐにリビングスペースがあり、丸見えの室内を簡単なパテ―ションで目隠しをした状態。カーブを描いたソファと肘掛け椅子が置かれ、天井にはダウンライトを丸くあしらった、プリンスホテルのロゴを思わせる照明がある。まるで飛行機のトイレのように、狭い空間を有効に使ったゲスト用トイレがあり、中は大理石張りだ。

リビングからフレンチドアを隔てて寝室があり、幅110センチのベッドがハリウッドスタイルで2台並んでいる。窓際には小さなコーヒーテーブルと椅子が用意され、ベッドの奥にライティングデスクがある。しかし、このデスクはベッドとの距離が近すぎるために、椅子を引いて座るだけの幅がない状態で、実際には機能していない。バスルームは贅沢にも大理石張りで、シャワーブースはないがビデが設置されている。アメニティはプリンスにしては相当の頑張りようで、化粧石鹸やケース入りの歯ブラシセット、立派なクシやブラシなど、期待していなかっただけに驚いた。タオルは3サイズがふんだんに用意され、バスローブも備えるなど不自由なかった。

客室の天井高は品川同様240センチと、やや圧迫感があるものの、3メートル幅のワイドな窓が幾分和らげてくれているようだ。もちろんルームサービスはないが、ランドリーには2時間のエキスプレスサービスがあるなど、充実した一面も。残念なのは、室内が非常に汚れている点だった。埃がたまっているとかではなく、じゅうたんの染みや家具の傷、ファブリックのほつれなど、メンテナンス面が良くなかった。それでよしとしているホテルにも責任があろうかとは思うが、じゅうたんの染みのつき方などは尋常でないので、利用しているゲストの使い方にもおおいに問題があるように感じた。

リビングのソファ リビングからベッドルームを見る

ベッドルームの窓際から奥を見る

2000.12.27
恋の墓標
赤坂プリンスホテル Business Suite
楽-1

白い客室

日本のホテル御三家といわれる帝国・オークラ・ニューオータニに負けてなるものかと高級路線をねらい、新館開業当時は「これからは四天王の時代だ」などと訳のわからないことを叫んでいたのもつかの間、いつのまにかフツウのホテルに落ち着いてしまった赤坂プリンスホテルだが、「さて、四天王の実力はいかがなものか」と試しに宿泊した際の印象が極めてよくなかったため、それ以来実に10年以上も足が遠のいていた。

その頃ぼくは海外に暮らしていたのだが、東京に里帰りするときは都心の体温を直接感じるために実家に戻る前後をホテルで過ごすことが多かった。よく利用していたのは東京ヒルトンだったが、たまには浮気をしてみようと、その日は赤坂プリンスに予約を入れた。昔は今と違って割引なんてほとんどない。めったに利用しないホテルに直接予約を入れるときにはラックレートというのが普通だった。

正確な値段は忘れてしまったが、高層階からのダイナミックな夜景を期待していることを伝え、予約課のアドバイスに従いタリフで最も高いレートのツインルームを予約してあったにもかかわらず、アサインされたのはなぜか最も低層階の部屋。しかも「低層階しかご用意できなかったので、広めのお部屋をご用意しました」といわれつつ、入った部屋は最も多い標準のツインルームであった。窓からは植え込みのようなものしか見えないのに、翌日は4万円以上払ってチェックアウトした記憶がある。その当時は若造で、フロントで文句を言うなんて芸当は身に付けていなかったためおとなしくホテルを後にしたが、その代わりにもう利用しないと固く決める結果となってしまった。

それから10年以上の月日が流れて当時の憤りは時効をむかえ、初めて泊まるホテルへ出かけるような新鮮な気持ちで赤坂プリンスを予約した。このホテルの新館は丹下健三設計のシャープで斬新な外観をした40階建てのタワーで、ひときわ目を引く印象的な建造物だ。ホテル全体としては結構な敷地を保有しており、都心にしては周囲に緑が多い恵まれた環境に位置している。永田町に近いことからか政治家が世にも有名な密談に使ったり、一部の有名タレントに人気があるとかで、マスコミに登場する頻度が高く何かと話題に上がるが、実際に利用してみた印象はコレといった個性のないホテルだった。真っ白なロビーや近代的な外観からは淡々としたサービスを連想してしまうが、そこそこの気遣いは見せてくれた。

今回利用したのは23階のビジネススイート。階層としては真中よりもちょっと上程度だが、かつての経験に比べれば格段にまし。正面玄関と反対側の麹町方面を望む向きだったが、近隣に高層ビルのない方角なので、視界が開けて見事な夜景を楽しむことができた。客室はそれぞれは狭いながらも寝室とリビングが完全に独立しており、どちらもコーナーのある窓が設けてある。その窓はとてもワイドでポイントが高い。リビングは窓に向かってライティングデスクが設置されており、その延長線上には窓に沿ったソファがある。天井高は240センチと、それほど古いホテルではないにもかかわらず低めだ。テレビはリビング、寝室ともに設置してあり、リビングの方は再生用ビデオデッキが用意されている。ビデオテープの貸し出しは1本1,000円。驚いたのは今時珍しくテレビにリモコンがないことだ。空調も旧式で、適温に保つのが難しかった。

ルームサービスは飲物に限り24時間営業しているが、食事ものは午前2時までとなり、コーヒー800円、ピラフ2,500円などやや高め。一方の寝室には155×210のベッドが1台置かれ、コーヒーテーブルとプラスチックの椅子のみのシンプルさだ。ターンダウンサービスはないので、自分でベッドカバーをはがして使用するのだが、その際ものすごい静電気が生じた。毛布にはトップシーツが掛かっていないので、化繊のカバーとウールが直接ふれあい、かなりの電圧になってしまうようだ。また、ベッドに寝たままの状態だと、目覚し時計や電話に手が届きにくくてちょっと不便な感じがしたが、時計が近いと目覚ましを止めて2度寝してしまう人にはかえって好都合かもしれない。

バスルームは完全なアウトベイシンタイプだが、バスルーム内はプラスチックのユニットバスだ。160センチ四方でそれほど狭いわけではないが、照明がトイレの上1箇所しかないので、なんとなく陰気な感じがする。BGMが聞ける設備や洗浄式トイレはないが、発信が可能な電話機が設置されていた。ベイシン部分の床は絨毯敷きになっており、スツールも用意されている。その後ろがプリンスらしくスペースを合理的に活用したアメニティ用のラックになっていて、プリンスとしては比較的充実した品揃えのアメニティが並んでいる。タオルは大きなバスタオルをはじめ3サイズ揃えており、加えてウォッシュタオルやバスローブの用意もある。

全体的に遊び心や癒し効果を考えた客室づくりはなされておらず、当時のビジネス仕様を具現化したかのような印象だ。それほど快適だと目を見張るものがない一方で、不快だと決定付けるような要素もないので、あっさりとした滞在となり深く記憶に刻まれることがないのかもしれない。

今夜は赤坂プリンスに行こうかと彼氏が切り出したときは、とうとう別れ話かと覚悟を決めるという話を聞いたことがあるが、一晩過ごしてなるほどと思った。客室は乾燥し、内装はくたびれ、染みだらけ、キズだらけ。別れの舞台は新しい恋への出発地でもある。たくさんの恋の墓標として東京の夜空に浮かび上がる赤坂プリンスには、次のシアワセを求めて旅立った人々の想いが静かに眠っているようだ。

リビングルームのデスク コーナーのソファは便利

ベッドルーム バスルーム

「ブルーガーデニア」

40階からの眺望はひときわ素晴らしく、特に朝の日差しに照らし出された東京の景色は爽快だ。天候に恵まれれば遠く千葉から富士山までくっきりと見渡せる。7時過ぎに入店したときにはまだ混雑もなく、窓際のボックスシートに案内された。テーブルには小さなフラワーアレンジメントが置かれ、布のナプキンが使われている。ブッフェスタイルの朝食は2,500円で和洋の品揃えな割と充実している。手作りの豆腐やしらすおろしなど、ヘルシーな一品がうれしい。サラダやフルーツは新鮮で、きれいにディスプレイされている。またポカリスウェットもあってユニーク。サービスもよく気が付き全体的に良い状態だった。

Y.K.