2000.01.15
ブランド志向
ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル Laura Ashley Suite
楽-2

入口扉

ハーバースイートは一部を除いたほとんどのフロアの先端部にあって、このホテルの形状を活かし、コンセプトをもっとも特徴づけている客室だが、そのうちの数室は著名ブランドのインテリアでコーディネイトされており、そのブランド名を冠している。ローラアシュレイスイートは、赤やピンクなど、どちらかといえば女性好みする色調のファブリックを多用して、花柄などのローラアシュレイらしいモチーフでデコレーションしている。だが、絨毯や家具、アメニティなどは既存のハーバースイートと変わらないので少々中途半端だ。ぱっと見た感想は、せっかくやるならもっと徹底的に大胆にやった方がおもしろいのにというものだった。

客室料金は通常のハーバースイートと同じ100,000円だから、特別な面白味がなくても文句は言えないのだが、これならシンプルなハーバースイートの方が居心地はいいような気がする。この際、残りのハーバースイートもジャンポールゴルチエスイートとか、ヴィヴィアンウエストウッドスイートとか、もっと奇抜で斬新なデザイナーを起用したら、とってもおもしろくなりそうなんだけれど。ローラアシュレイのテーマを使ったコーディネイトとしては、このスイートの他に、吉祥寺第一ホテルの客室で楽しむことができる。

リビングルーム ソファでくつろぐまったり象

ベッドスプレッドはバラがモチーフ カーテンも花柄

2000.04.01
調和
ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル Laura Ashley Suite
楽-3

ゲストを大歓迎してくれる枇杷ひとつ。そしてチョコレート。

以前はハーバースイートと同じ料金設定だったが、この度の改定で1万円の差がつき11万円になった。おそらくこの客室を定価で利用するゲストはまずいないのではないかと思う。インターネットを見れば、年末年始などを除きほとんど一年中オトクなプランが用意されている。今回も前回同様20階のローラアシュレイスイートにアサインされたが、21階にも同じ名称のスイートがあり、そちらはもう少し軽やかなカラーにコーディネートされているようだ。卓上のフラワーアレンジメントや、結構なバラエティを備えたティーバッグが演出小道具として効果を上げている。

以前からのバスローブに加え、やわらかくて快適なワッフル地のローブも併せて用意されるようになったのもうれしい。毎回思うのだが、ウエルカムフルーツがどうもしょぼくていけない。昔のように大きな盛り合わせをもらっても食べきれなくてもったいないと思うが、あまりしょぼいと「あなたを歓迎する気持ちもこのくらいしょぼいんですよ」と言われているような気がする。

果物が安くて豊富な国ならまだしも、日本で果物をふんだんに用意するのは確かにコストが高くつくだろう。それなら、画一的なウエルカムフルーツという発想をやめて、なにか他のアイデアを考えたほうがいいかもしれない。何度も見ていると慣れてしまうが、会員特典に「ウエルカムフルーツ」と堂々と書かれていて、入会後まもなく期待して訪れ、枇杷1個とくればちょっと寂しいものがある。

日本の場合、会員の利用が非常に多く、海外とは事情が違うというのも会員サービスが期待以下と感じ取られやすい要因のようだ。その分、パーソナルなサービスで十分に穴埋めをしてほしいと願うところだが、大きなホテルではそれも難しい。2,3度クラブフロアに滞在すれば、リピーターとして認識してくれるが、2階のフロントでは何度利用しても顔を覚えてもらえないので、もう少し顧客情報に敏感な姿勢を持ったスタッフを常駐させてほしいと思う。

さて、幾つかのフロアで改装が実施され、特にクラブインターコンチネンタルフロアはずいぶんとリフレッシュした。しかし、時代の流れか、改装前のほうがよい素材のファブリックを使っていたので、こぎれいになったものの、どことなくチープな感じが漂っている。クラブラウンジはインテリアが抑えたカラースキムでまとまっていたものを、どういうわけかゴテっとした色調の装飾を採りいれオレンジ系のカーペットに改装した。個人的には以前のままの方が趣味が良かったと思っている。「女性的」というより「非男性的」と表現したほうがしっくりくるレディースフロア、エイジアンテイストのフロア、ブランドスイートと、開業当時の統一感がどんどん崩壊していくのはもったいない。もっと調和を大切にしてほしいものだ。

クラブフロアにステイするゲストには、クラブラウンジでのコンチネンタルブレックファストが用意されているが、最近は1階の「マリンカフェ」の朝食ブッフェも選択できるようになった。週末ステイの翌朝ともなれば、「マリンカフェ」には長蛇の列ができる。よく皆さん朝っぱらから列に並ぶ元気があるなぁと感心。クラブフロアに滞在中のゲストのために、「The Club」という優先コーナーを設けているので、並ばなくても席につけるケースが多い。優先コーナーのテーブルにはクロスが掛かり、一段高くなった奥の静かなスペースを当てている。しかし専用席ではなく、あくまで優先席ということらしく、半数以上が一般のゲストであった。

ベイシンも白い大理石 白亜のバスルーム バスタブのすぐ隣にトイレというのが残念

2000.04.22
スパイス控えめ
ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル Club Deluxe Room Asian Taste
楽-1

照明器具のかさもエイジアンテイスト

新しく誕生した26階のエイジアンテイストフロアは、一応クラブインターコンチネンタルフロアに属している。しかし、もともとレギュラーフロアであったため、このフロアのほとんどの客室にはシャワーブースがない。既存のクラブフロアのような大理石張りでシャワーブースを備えたバスルームを持つ客室と同じ料金にするのははばかられたのか、若干低いレートに設定されている。各種宿泊プランについても、既存のクラブフロア利用の料金とは別に、独自の料金設定を行っている。

今回利用した客室はデラックスタイプで、シャワーブースが設けられていることが唯一の差だ。このフロアだけでなく、レギュラー階には僅かながらこうしたシャワーブース付きの客室があり、デラックスルームとして売られている。細かいことをいえば、クラブフロアのバスルームと同等のレイアウトだが、壁はレギュラーフロアと同じタイル張りになっており、ちょうど中間のグレードといった感じ。

実はこのエイジアンテイストのフロアは、もっともっと奇抜なインテリアでびっくりさせてもらえるのではと、大きな期待を寄せていたのだが、実際に利用してみたら意外にイヤミのない普通のテイストだった。エレベータホールは床をフローリングにし、ややエイジアン調といえないこともないが、ことさらエイジアンフロアでございますというほどのインパクトはない。客室もしかり。細かいところに目をやれば、さすがに思い入れに満ちた工夫を発見できるのだが、ぱっと見た印象ではこの程度の雰囲気なら他でも見られそうな・・・という感じ。

例えば福岡のシーホークに見られるようなアフリカをテーマにした客室とかの方が面白みはある(決して好みではないけれど・・・)。もっともっとスパイシーで個性的な客室を期待していた。そんな薄味のインテリアの中でも、ひときわ目を惹いたのはアメニティを収めた籠とその横に並んだカップだった。ミニバーにあるゴテゴテ中国調の氷ケースは以前からクラブフロアやスイートでお目にかかっていたものの使いまわしだが、このフロアのコンセプトにはぴったりマッチしてよいアクセントになっている。

これはこのフロアに限らず、今回の改装全般に言えることだが、ファブリックの質感が以前のものに比べるとやや劣るような気がする。さすが外資系と感心するコーディネートが見られた開業当時のテイストから比べると、ずいぶんと大衆化した感じで、やもすれば東急ハンズやロフトあたりで入手できてしまいそうな材質だったりする。おカネを掛けずに知恵で勝負しているようだが、プラス「センス」がほしいところ。更に、ミニバーに備えたお茶をジャスミンティーなどにしたり、スパイシーJからルームサービスが取れるようにしたり、もっともっとスパイスを効かせてもらえるよう期待したい。

ライティングデスクの椅子にはカバーがかかっている デラックスにのみあるシャワーブース

タイル張りのバスルーム 籠に入ったアメニティ。カップもユニーク

「カリュウ」

エレベータホールを挟んで反対側にカジュアルな「スパイシーJ」がオープンしてから、「馬華 馬留」の方もつられてか、以前の風格を感じさせる雰囲気から、すこしくだけた路線に変わりつつあるようだ。お値段的にご立派なのは以前と変わらないのだが、店内が次第にごちゃごちゃした印象になってきて、食事をしていてもなんとなく落ち着かない。一番いけないのは無理やり席を増やした結果、席どうしの間隔がとても窮屈になったばかりでなく、本来動線として確保してあったスペースにもテーブルを押し込んでいるから、デパートの食堂のような乱雑さを感じることだ。

また、淡い色を基調としバランスの取れたインテリアも、近年になってだいぶくたびれた様相を呈してきている。特に日中に見ると、そのやつれ加減は著しい。サービスについても、観光客相手のさばくような接し方が目立ち、もう少し謙虚で丁寧なサービスが期待されるところ。それでも、大きな窓から横浜港やベイブリッジの眺望を満喫しながら食べる料理にはロケーションの魔法も加わって大満足だった。程よい高さから眺める景色とともに味わう中国料理という点では、他で楽しめないことだから、少々値が張るのもいたしかたないかもしれない。BGMにはこの雰囲気にまったくそぐわない軽快でチープな音楽が流れていたが、どういうセンスで選んでいるのか感覚を疑うところだ。

2000.10.14
ロビーで無礼講
ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル Club Superior Room
怒-2

家具類にだけ以前の面影が

このホテルの1階ロビーは、大理石をふんだんに使ったアトリウム空間の正面に大きな階段を設け、シンプルながら大変ダイナミックな雰囲気を持っており、国際級ホテルの顔として申し分のない設備だ。ところが徐々に余計な装飾品が置かれたり、イメージに合わない植物が配されたりしているうちに、開業当初とは随分と趣きを異にする空間になってしまった。それはそれでだれにでも馴染みやすいプラザ的な雰囲気が出てよいという考え方もあるが、デザイナーの意図をないがしろにしているのは残念だ。

この日はロビーウエディングを催しており、ロビーの一番よい場所は占拠されていた。それだけなら仕方がないが、このロビーウエディングのえげつないこと。神聖なムードのなか厳かに執り行われる結婚式ではなく、最初から披露宴お開き直前か、はたまたすでに2次会かというノリで大層やかましく下品だった。流行曲をスピーカーから大音量で流し、それに負けじと司会者が演歌の解説でもするような口調で声を張り上げるからたまったものではない。その様子はどうみても国際ホテルのロビーとは信じがたいものだった。

そして、この日だけでなく翌日にも同様のロビーウエディングがあったが、その間一夜、セッティングはそのまま出しっぱなしだった。いくら面倒でもパブリックスペースを占拠する以上、その都度準備をするのが妥当だろう。到着早々乱れた空気にさらされて大変不愉快だった。今度はエレベータに乗ったところ、終電車のように酒とすえたようなオヤジ臭さが入り混じった独特のにおいがした。この感じが終日続き、しかも温度がいつもよくないところを見ると、このエレベータは換気が悪いようだ。

客室はクラブフロアのベイビューだった。観覧車が目の前に迫って賑やかなパークビューに対し、遠目に見るハーバーライトやベイブリッジは落ち着いた光を放っている。パークビューなら元気が出るし、ベイビューなら癒しになって、一口に夜景と言っても感じ方が違うことがよくわかる。客室の清掃はいつも良好なのだが、この日のバスタブは清掃が不十分で、しかも排水口付近が黄ばんで不潔な印象があった。

また、クラブフロアでは輸入ものの便器に合わせた洗浄機能を取り付ける工事が完了したなど、順次快適性を高める改装を進めているようだ。ミニバーに置かれていたカップヌードルが、シェフによって1年掛かりで開発されたという「インターコンラーメン」に変わった。同時にドリップ式カセットコーヒーにもインターコンのロゴが入った。なお、このホテルでは高層階ほど携帯電話の電波が入りにくいが、ベイビューよりはパークビューの方が比較的つながりやすい。

以前よりも軽やかなインテリアになった ファブリックはやや女性的

大理石張りのバスルーム 広めのシャワーブースと洗浄式に改装されたトイレ

2000.10.18
データ参照
ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル Club Superior Room
哀-2

今回のウェルカムフルーツはみかん1個だった。毎度のことだからもう驚かなくなってきたが、よく見ると情けないほどせこい。部屋に入って最初にほっと一息つくときに、ホテルからの歓迎の意を感じながらフルーツを食べるのだが、長い滞在の始まりがみかん1個だと気分も萎えてしまう。

みかんを頬張りながら椅子に座ってしみじみと部屋を眺めてみた。クラブフロアの客室が改装されてから半年が経ったが、どうしてもこの内装はアンバランスで好きになれない。まだエイジアンテイストフロアの方がずっと調和が取れているように思う。とりあえず色調はオフホワイトとブルーで基調は改装前と同じだが、生地の材質やリボンとか小さい花をあしらった柄のせいでかなり軽いイメージに変わってしまった。逆に言えば、ファブリックを変えただけで、こうもガラッと変わるものかと驚くほどだ。

家具はさすがにしっかりとしたものを使っているから、今なおよい状態を保っており、むしろいい味を出してきたところなので、軽薄なファブリックとはどうしても溶け合わない。みなとみらいの3つの高級ホテルのなかではもっともセンスが悪いといわざるを得ない。せっかく清掃状況やメンテナンスが優れているのにもったいないと思う。

清掃でもうひとつ感心するのは、東京ベイ同様に客室廊下にワゴンや清掃用具を置かないことだ。チェックアウトタイムになると思い切り清掃モード全開にして、廊下は清掃用具置き場と化し、清掃のオバチャンの金属ボイスが飛び交うホテルが大半だが、このホテルでそのような光景に出会うことはない。一部屋ごとに必要な道具を持って清掃しているからだ。清掃後のインスペクターによる確認作業にも積極的で、「なにかお気づきの点はございませんでしたか?」と尋ねにやってくる。ただ、滞在中ステーショナリーの補充は一度もなかったが、たまにはチェックして消耗していれば補充してもらいたい。

それから、一度依頼したことはデータベースに残して管理することができるはずだが、このホテルでは最近あまりそれが反映されないようになってきた。チェックインするたびに、あるいは清掃のたびに同じことをお願いしなくてはならず、あまり効率的ではない。ところが、忘れた頃に以前頼んだことが反映されていることもあるので、おそらくそうしたデータをよく見ている時と、まったく気にしない時があるのだろう。

例えば、ぼくが騒音に敏感であることは再三アピールしているが、このホテルでは80パーセント近い確率で、上の階に子供連れがいてプロレスごっこをはじめるとか、コネクティングルームをアサインされ隣りの客室には団体の一部がいて夜中まで集まって騒いでいるというケースに遭遇する。そういうことこそデータに残して、配慮を見せるというのがサービスではないか。このホテルは廊下で騒ぐ人が少ないからか、客室の扉から廊下の物音が気になるということはほとんどないが、上や隣りの客室からの音はよく響いてくる。特に29階は上階がスイートダイニングと呼ばれる小宴会場になっているので、できるだけ避けた方が無難。

さて、28階のクラブラウンジでは、朝食からリフレッシュメント、カクテルアワーまでを楽しむことができるのは言うまでもないが、カクテルアワーには専用の飲み物リストが用意されていて、シャンパンをはじめ、ちょっとしたバー気分で利用することができる。オードブルカウンターには個性的な料理が並ぶが、毎日ほとんど変化がなくつまらない。季節などで変化をつけるよりは、毎日少しでも違ったものを用意した方が連泊しているゲストには喜ばれるだろう。平日のカクテルアワーは外国人の姿が多く、サービスも含めて雰囲気がとてもよい。チェックインからチェックアウトまでゲストリレーションズのサービスも大変快適でみなとみらいでは群を抜いた存在。それだけにインテリアセンスの悪さが残念でならない。気に入っているゆえに厳しく「哀」。

「マリンカフェ」

毎朝のように朝食に通ってやっと数人と顔見知りになり、気持ちのよい朝をスタートできるようになった。「マリンカフェ」はオープン時間と同時に混雑が始まるから、従業員は愛想よりも体力で勝負だ。広い店内の席が埋まる頃になると、ブッフェ台の料理は次から次へとカラになり、補充やメンテナンスも大変だろう。カリカリしてくるのも理解できるが、お客さんの前を平気でススッと横切ったり、コーヒーのデカンタを腰より低い位置にぶら下げ持ってクツをパタパタいわせながら歩くのはとても見苦しい。突風の如くテーブルにやってきてにこりともせず空いた皿を奪うように下げていくのもみっともない。

そういう光景はごく一部であって、爽やかな笑顔やスマートな物腰でもって、合理的に要領よくサービスしている従業員もいないことはないが、あれ?と思わせる従業員の方がどうしても目立ってしまうようだ。ところが、そうした粗雑な行動をする従業員ほど、実力は持っていたりするから、それを矯正するのはなかなか難しいかもしれない。また、この店は3人のマネージャーが交代で勤務して管理に当たっているが、それぞれに個性が異なっており、だれが勤務しているかによって店の雰囲気が大きく左右される。

この店の内装は船の内部のようなイメージがあり、大きな窓からは桟橋や港が望め、明るく開放感たっぷりなのだが、床や椅子などがかなりくたびれてきているし、隣りの「トスカ」と比べてもかなり見劣りがするから、そろそろ改装を考えなくてはならない。「マリンカフェ」という名が示す通り、横浜に数あるホテルレストランの中でも抜きんでて海に近い感じを味わえるだけに、いままでのアクティブなイメージをより強調してもいいだろう。

朝食ブッフェは2,500円で、和洋に加え中国粥や点心まで、バラエティに富んだメニュー構成が楽しめる。自慢のデニッシュペストリーなど、パンの種類がとても豊富だ。また、粥のトッピングがいろいろあるなど、毎日きても、あれこれ工夫をして飽きずに食べられるのがいい。ゲストの層もさまざまで、宿泊客の多様さにはいつも驚かされる。朝食の他、ハーヴェストランチの丼ぶりもなかなかのお気に入り。

「アジュール」

ゲストリレーションから予約を入れ、クラブラウンジでシャンパンを飲んでから予約の時間にレストランへ向った。入口に従業員の姿はなく、しばらく待たされた。予約時間はわかっているのだから、入口で出迎える用意を怠るとは、このクラスのレストランとしてはお粗末だ。店に入り、入口に近い小さな席に案内されたが、このような末席しか用意できなかったことに対しては申し訳なさそうであった。べつにこの日は特別な食事ではなく、単にお腹を満たしたかっただけなので、どのような席であっても不満はなかった。

食前酒を薦められたがすでに飲んで来たことを伝え、すぐにメニューを見せてもらった。コースは8,000円、10,000円、12,000円の3種があり、8,000円と10,000円との差は、料理が一品増えることくらいなので、料理を選択するという意味では二者択一に等しい。12,000円のコースにはシェフのスペシャリテがメインに据えてあり、それがとりわけ魅力的に見えたので、12,000円のコースを注文することにした。しかし、周囲を見回しても注文を聞いてくれそうな従業員の姿はない。

店内はかなりの席が埋まっており、かつて見たことがないほどに活気があった。ところが、従業員の数は信じられないほど少ない。今日は混まないと踏んでいたのか、はたまた日頃からこの苦しい状況でサービスに当たっているのか、いずれにしても無理のある営業体制だった。ブラッスリーではないのだから、最低限必要なサービスが不足なく提供できる体制を整えてもらいたい。それぞれの従業員には華麗なフルサービスを提供できる技能があるにもかかわらず、それがまったく発揮できない状態なのはさぞストレスだろう。

その苦戦は店を後にするまで続いた。料理の提供にも長い時間を要し、空いた皿が下がらなかったり、ワインのグラスが空になった状態だったりと散々である。それが従業員の気の利かなさに起因しているのなら激怒するところだが、気持ちがあっても手も足もでない従業員を前にしては、むしろ同情を寄せてしまう。料理はどれも控えめなポーションで、ダイナミックさに欠けていた。特にスペシャリテとあるメインの料理には相当のインパクトを期待していたので、香りの飛んでしまった古いハーブなどにはがっかりした。それでも、盛り付けや温度管理は素晴らしく、忙しい中にしてはよく丁寧な調理を貫き通した思う。

ワインはシャトーフュイッセとシャトーダルマイヤックを。料理と料理の間の退屈凌ぎには申し分ないものだった。ちょうど真上の宴会場で開催されているパーティの中で、和太鼓のエキシビジョンがあったようだ。突然轟音が響き出し、最初はとうとう大地震の初期微動が来たかと思うほど驚いた。グラスがあちこちでかちゃかちゃと音を立て、シャンデリアも小刻みに震えていた。そのあとも豪快なリズムがしばらく続いたが、見えないのに音だけというのは、なんとももどかしかった。

「アジュール」

この店に足繁く通う常連の友人から誘いを受け、同じ週に2度目の利用をした。先日の混雑とは打って変わって店内は穏やかな空気が流れており、活気もよいが落ち着きもまた大切なものだと思った。席は店の奥の静かなコーナーが用意され、ゆとりある環境で楽しむ食事は印象をより深いものにしてくれる。コースは品数を抑えた8,000円のものを注文し、アルコールをたしなまない連れに合わせて、ぼくはグラスワインを用意してもらった。

この店も開店当時はあらゆる面で贅沢を極め、格式のあるサービスを守り抜いていたが、残念なことにヨコハマという土地には高尚すぎたようだ。特殊な調理に使用する高価な器具や、客の目の前で最後の仕上げをするゲリトンサービス用の道具などは、どこか倉庫にでも眠っているらしい。友人はその当時からの顧客であり、サービス人たちもまたその当時から彼をもてなして来ているから、かつての華やかかりし頃の記憶を共有しているらしく、その様子を伝え聞くだけでも興味深かった。例えばシーザーサラダひとつでも、目の前でドレッシングをこしらえるところからはじめ、華麗な手さばきで単なる生野菜が料理へと変わってゆき、そのおいしいことといったらなかったそうだ。そのような手の込んだ作業を平然と行えるホテルレストランは、数えるほどに少なくなってしまった。

かつて贅沢なレストランはおいしさだけでなく、夢を与えてくれたものだ。サービス人の気配りも仕種も、みな一流のショーにひけをとらないほど洗練されていて素晴らしかった。そのようなレストランで過ごした時間は、いつになっても色褪せずに想い出として残っている。それでは経営が立ち行かないというこのご時勢だから仕方のないことだが、そのような夢を与えてくれるレストランの価値を、利用する側がもう少し高く認識してもいいのではないかなと考えさせられた一夜だった。

2000.11.15
クラゲじゃないよ
ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル Harbor Suite
楽-4

この季節になるとあちこちのホテルでクリスマスの装飾が見られるようになるが、この日ロビーにお目見えしたクリスマスツリーは実にユニークだった。ホテルから定期的に送られているメールマガジンの冒頭には「クラゲじゃないよ」とさりげなく書かれていたが、この時期にこのホテルを利用していれば、それが何を指すのかは考えるまでもないことだろう。普段はソファが置かれゲストが自由にくつろぐことのできる数少ない貴重なコーナーを閉鎖して、上の写真のような風変わりなクリスマスツリーがディスプレイされた。床にはもみの木の枝を一面にちりばめ、その中央に光ファイバーのようなもので刻々と色を変えながら輝くツリーを置いて、まるで「カナダあたりの樹林に巨大なクラゲ型宇宙船が着陸しました」という感じなのだ。思い切ったアイデアだが、非常に面白いし見ていて飽きないのがとてもよいと思った。

さて、今回利用したハーバースイートは、なぜか不思議なにおいが漂っていた。リビングのある位置に立つとバナナが古くなってきた時のような甘酸っぱいにおいがする。その位置以外ではまったく気にならないから不思議。卓上のポプリでもないし、空調の吹きだし口でもなく、他ににおいを発するものなどなにもない。いつかのパンパシフィックみたいにとんでもない事態が潜んでいるのではないかと危惧したが、結局原因がわからないままそのにおいとともに3日間を過ごした。最近利用した客室の中では、もっとも開業当時のテイストに近いまま残っている客室で、全体をオフホワイトでまとめたやさしい色使いのインテリアがとても心地よい。各種ブランドスイートもよいが、個人的にはこのシンプルなタイプが一番気に入っている。

建物の先端にあるため眺めはいいし、寝室が隣室に接していないから、隣の騒音に悩まされることがない。(それでもこのホテルで騒音難の相にあるぼくは、いつも上の階のドタバタに泣かされているのだが。)リビングは260センチの天井高があるのだが、寝室は最高部でも230センチ、低い所では215センチしかない。ところが寝室の天井はリビングと違ってそれほど高くなくても眠る分には気にならない。また窓や壁に3つずつ並んだダウンライトがすっきりとしたインテリアに動きを生じさせており、とても効果的に見える。

トイレは2箇所にあるが、いずれもまだ洗浄式への改装工事はなされていなかった。白い大理石がまぶしいバスルームは10平米近い面積があり、いつ利用しても大変快適だ。バスタブ上の天井も凝った意匠になっている。ひとつ不便に感じるのは、バスタオルを積んである棚が便器の真上にあって、いささか取りにくいことだ。濡れた体で手を伸ばせば、便器を濡らすことにもなる。ベイシンの下がそっくり空いているので、籐のワゴンかなにかを置いて、そこにたたんで収納しておいたりすれば、あまり背が高くない人には便利だと思う。

ハーバービューのリビングルーム 先端のコーナーからはッベイブリッジがよく見える

「スパイシーJ」

ロビーに掲げられたポスターに、「スパイシーJ」で大好きなタイフードフェアを開催しているとの案内があったので、出かけてみることにした。クラブラウンジから予約を入れて店に向かったが、店内は慌しくごった返しており、案内されるまでにはしばらく時間を要した。エントランスからすぐの中央にある落ち着かない席を用意されたが、この混雑では仕方がない。狭く暗い店内はまるで学園祭の模擬店のような雰囲気で、安っぽさもそれと大差ない感じがするものの、今までのホテルにはないスタイルのレストランとして大きな存在価値を持つ店だ。

あたりを見回すと、従業員の数がとても少なく、内訳としてもアジアから来ている外国人の女性サービス人がほとんど。しかも彼女らはまだ仕事に慣れておらず、アルコールの注文を取って回ることしかできない者も頭数に入っている。それを取り仕切るのはひとりの若い日本人なのだが、サービスは滞ってばかりで彼のストレスたるや相当のものだろうと同情してしまう。天井を見上げれば2箇所の電球が切れていたが、それを交換する余裕すらないのかもしれない。この体制ではどんなに頑張ってもよいサービスは不可能だ。利益最優先というのか、お客は二の次というか、組織のあさましい部分が露呈しているように感じ取れた。

さて、フェアのディナーコースは3,000円と5,000円の2種があるが、3,000円の方は品数も少ないし内容的にもさみしかったので、奮発して5,000円のコースを注文した。注文を終えてすぐにオードブルの生春巻きが運ばれてきた。これはすでにスタンバイ済みの料理で、目の前のカウンターで冷蔵庫から出し、ラップをはずして運んでくるだけなので、待たされることはなかった。ところが、その後は待てど暮らせど出てこない。厨房への入り口を見ていても、我々のテーブルのみならず、一向に料理が出てくる気配がないのだった。「料理人が逃げちゃったのかな」なんて考えも本気で考慮に入れたくなるくらい待ちに待った。

ようやく運ばれてきた料理はどれもおいしかったので、待った甲斐があったというものだが、聞けば厨房には2人の料理人しかいないとのこと。人員削減とはいえ、やりすぎではないか。デザートに出たかぼちゃ入りの温かいココナッツミルクが印象的だった。コレ、激甘。

2000.11.17
裏窓
ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル Standard Room
楽-1

幅の割には奥行きがない客室

ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルといえば、ベイビューなら間近に迫る海面とベイブリッジ、パークビューなら大観覧車やランドマークタワーなど、どちらからでも横浜ならではのダイナミックな景観を独占できるというのが大きな魅力のひとつだ。パークビューと言っても、横目に港を望むことができるので、ウォーターフロントの醍醐味はそれなりに味わえる。しかし、そのベイビュー、パークビューとは別にちょうど建物の裏手に位置するスタンダードというカテゴリーの客室があることは意外に知られていないようだ。

その客室はロビーが吹き抜けになっている13階までの裏側にあるため、すべて低層階になる。面積も30平米弱とスーペリアに比べると窮屈な感じがするが、見比べさえしなければ必要なものはすべて揃っているので、それほど居心地が悪いわけではない。ベイビュー・パークビューの客室に比べると、窓が高い位置にあるので、景観の開放感は低下するが、眺めそのものはちょうどシースルーエレベータからのものと同じで、MM21地区から横浜駅方面の夜景が広がる。このタイプの客室は宿泊プランなどに適用されることも少なく、コンベンション利用客などにアサインされているようだ。

ファニチャー類はスーペリアルームと同等 バスルームはこのホテルを基準に考えると狭いが、カランなどはよいものを使っている

2000.11.23
象の部屋
ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル Jim Thompson Suite
喜-4

天蓋のあるベッド

11月24日に開催するディナーショーの控え室としてジムトンプソンスイートを予約し、念のために一晩早くチェックインをして当日は早朝から準備に取り掛かった。このホテルのトップスイートに当たるロイヤルスイートは、総面積こそこのジムトンプソンスイートよりも広いのだが、レイアウト的にもインテリア的にもさほど魅力のない造りをしている。一方改装前にはベイブリッジスイートと称していたジムトンプソンスイートは、26階のエイジアンテイストクラブフロアの先端部分に位置し、タイのシルク王「ジムトンプソン」のイメージで全体をコーディネートした人気の高いブランドスイートだ。

115平米と控えめな面積ながらエキゾチックでリゾート感覚溢れるインテリアは、ロイヤルスイート以上に個性を放っており魅力的に映る。客室はエントランスを入ると左手にリビングルーム、右手にベッドルームという具合に大きくふたつの部屋で構成されている。リビングはフローリングで、ソファセットが置かれたシッティングスペースとダイニングスペースをエイジアン風の意匠のパテーションで仕切り空間に変化を持たせた。象柄のシルククッションやシルクでできた象のぬいぐるみなども効果的なアクセントとなっている。

ベッドルームは比較的小ぢんまりとした空間で、なおかつ天井高が230センチしかないため凝縮感がある。ベッドは180センチ×200センチで天蓋とジムトンプソンのベッドカバーがゴージャスさを醸し出している。ベッド正面のルーバードアを開け放つと白い大理石を張り詰めた開放的なバスルームがある。

建物の先端にジャクージ付きバスタブを配置し、その脇にはスチームサウナ機能の付いた広いシャワーブースがあって、シャワーからも横浜港を眺められる。バスタブ上のシーリングライトは明るさをコントロールできるので、夜景にあわせた雰囲気作りも可能だ。バスルームとは別に設置されたトイレも窓に面しており、開放感があるのはよいが、夜はかなり寒い。随所に工夫がしてある完成度の高い客室ではあるが、クローゼットの中にチェストを入れてしまったためにハンガーに掛けたものの裾がつっかえてしまい使いづらかったり、室内にコンセントが少ないなど、珠にキズな部分も少なくない。

せっかくのスイートであったが、ぼくは準備と本番のためゆっくりくつろぐ余裕がなかったのが残念だ。ベッドも3時間ほどしか利用していない。すべての演奏が終わったあと、リビングルームで出演者とスタッフだけで簡単なレセプションを行なった。ルームサービスで「プリティウーマンセット」を注文し、演奏後のひとときを皆で深夜まで楽しんだ。また改めてプライベートでじっくり満喫したい部屋だ。

シーリングファンが回るシッティングスペース パテーションがアクセントになっている

ダイニングスペースは4人がけ ベッドサイドのライティングデスク

ベッドからバスルームを見る バスルームから独立したトイレからもこの景色!

シャワーブースはスチームサウナ付き ベイシンは意外と狭く感じる

「カリュウ」

いつものぼくならば本番前に食事はしない。崔岩光さんも大久保眞さんも演奏前に何か食べに行くというので、どうぞ気にせず行ってきてくださいと見送るつもりが、崔さんに「神田さんも食べなきゃダメよ。行きましょう!」と誘われて同行した。店の最も奥の方に位置する窓際の円卓を用意してくれたので、これじゃ豪勢にコースでも注文しなくちゃなと思いつつも、いくらなんでも演奏直前にあまりのんびりと舌鼓を打っている場合でもなく、みな単品の注文しかしなかった。しかもあまり時間がないので急いで欲しいというワガママまで付け加えてだ。

それでもサービスは大変丁寧で感じよく、歌い手さんたちにも喜んでもらえたのでホッとした。崔さんとぼくはチャーシューと細切りネギ入りのつゆそばを注文したが、実に気合をいれて作ってくれたらしく想像以上のおいしさに驚きを禁じえなかったほど。崔さんもここのつゆそばは本当においしいと高い評価をしていた。おかげでその後の演奏にもいい影響あったわけだが、このとき食べられなかったスタッフたちにも食べさせてあげたいと思い、翌日の昼にもこの店に来て同じ物を注文してみた。

ところが同じ物とは思えないほど味が落ちていた。それが作り手の違いによるものか、気持ちの問題かは別にしろ同じ店の同じ商品であるにも関わらず、こうも品質に差があるようでは困ったものだ。

Y.K.