1999.10.25
コンテンポラリーフレンチ
フランス料理「ロオジエ」銀座資生堂
楽-5

エレベータと大理石の螺旋階段

1997年以来、改装のため閉店していた「ロオジエ」が、場所を資生堂本社ビルの1,2階に移し、10月18日にリニューアルオープンした。高級ブティックが軒を連ねる銀座並木通りでも、ひときわ目を引くエントランスを持ち、2名のドアマンを配すという、レストランとしては今までにない贅沢な演出をしている。そのエントランスは、まるでニューヨークのスモールラグジュアリーホテルのような雰囲気で、歩道から植え込みを隔ててエントランスまで伸びるアプローチがあり、ドアマンが手で押す回転扉を通ってレセプションに入るようになっている。

レセプションはクロークを兼ねており、こちらで手荷物を預けてダイニングに向かうが、待ち合わせの場合は、右手にあるコーナーを利用することが可能だ。レセプションから2階のダイニングまでは、大理石の螺旋階段か、もしくはレトロ調のエレベータを利用する。今回は女性3名、男性2名だったが、エレベータの定員の関係もあって、女性はエレベータを、男性は階段を利用するようにメートルから案内された。

2階に上がると左手に個室があり、右手がメインダイニングになっているが、エントランスの構えから想像されるよりも実際には小ぢんまりとしていて、見た感じでは30席ほどしかなかった。ダイニング内は、大理石とダークな色調の木材が印象的な壁、ややグリーンがかったグレーのレザーシート、ブロンズのオブジェなどのコンテンポラリーな美術品に囲まれ、非常に洗練されたシックでモダンな空間に仕上がっている。

このテイストは、日本にある既存のグランメゾンでは見られなかったもので、最近のフランスではやりのミシュラン三つ星レストランに近いものがある。間接照明やハロゲン光を巧みに使っているので、比較的明るい店内だが、白々した感じはしない。このように90年代風のインテリアに囲まれながらも、サービスや料理は堂々たるものだ。十分な人数の給仕がおり、満席のテーブルに対して極めてよく目を行き届かせている。ひとつひとつの動作も優雅で角がないから美しい。

カトラリーは珍しくピュイフォルカを使っている。まだ真新しく、銀器の輝きが眩しいほどだ。ナプキンは大型で非常に肌触りが良く、ひとたび席を立つと戻ってくるまでには新しいナプキンを用意して椅子を引くために待ち構えてくれる。

料理はコースが14,000円(税・サ別)と25,000円(ワイン付き、税・サ込み)の2種、その他に豊富なアラカルトが用意されている。今回は14,000円のコースを注文したが、一皿ごとに伝統的な深い味わいと新しい工夫が同居し、新鮮な驚きの連続だった。チーズの状態も良く、ワゴンで提供されるデセールも完成度の高いものだった。14,000円の価値は十分にある。

ワインリストも充実しており、手頃なものから高級品まで幅広い品揃えだが、飲みごろを押さえているという点では信頼に値する。ソムリエのサービスも特筆に価するほど、謙虚で誠実だった。今回は、ヴーヴクリコイエローラベル、エシェゾー(Dujac)'92、デザートにイケム'88を楽しんだ。バーを併設しなかったのは残念だが、全体にムラがなくどんな場合でも安心して利用できる。まさに日本を代表する名店だ。敷地内に駐車場を併設しているのもありがたい。尚、サービス料は12パーセントである。

アミューズ・ブーシュ
AMUSE-BOUCHE

温かいオマール海老のテリーヌ仕立て、ソースコラリーヌ
LA TERRINE CHAUDE CRUSTACES SAUCE CORALLINE

新鮮なすずきと香ばしいポテトの包み焼き、赤ワインソース
LE BAR ROTI ENROBE DE POMMES DE TERRE CROUSTILLANTES SAUCE VIN ROUGE

ブレス産仔鳩の胸肉のロティとそのジュ
LA POITRINE DE PIGEON ROTIE JUS COURT AU SANG

フランス産フロマージュ各種
LA SELECTION DE FROMAGES AFFINES

お好みのデセールをワゴンから
LE CHOIX DES DESSERTS

プティ・フールとショコラ
PETITS FOURS ET CHOCOLATS

コーヒー
CAFE

Jacques Borie (Meilleur Ouvrier de France Paris 1982)

1999.10.30
ここまで来た日本のフレンチレストラン
フランス料理「ロオジエ」銀座資生堂
喜-5

素晴らしい料理に出会った。この週のはじめに「ロオジエ」を訪れてからというもの、ここの料理の虜となり、また行きたいなぁと夢にまで思うようになって、気が付けば何とか予定を都合して駆けつけてしまっていた。週末は静かなはずの銀座で、ほとんど満席の賑わいである。エントランスでフランス人メートルドテル、ドレピンヌ氏の出迎えを受け、白が眩しい大理石の階段を上がる。雑踏から異空間となるダイニングへ抜けるためのこの階段は、クラシックでありながらどこか近未来的で、時空を超える旅に出るためのゲートだ。

こうしたインテリアに見られる「クラシカル」と「モダン」、あるいは「近未来」との融合は、新旧の概念を超えたジャック・ボリー氏の料理を象徴しているかのようだ。この日は少々奥まったブースの席に案内された。席に着くまでの間に、ほとんど給仕総勢から笑顔を向けられ、そこから彼らの自信と士気の高さを感じ取ることができる。

まず、シャンパンをグラスで注文した。すると、しゃれたチューリップ型グラスに注がれたシャンパンが程なく運ばれて来た。口に含んでみると、泡立ちもよく、キレもいい。銘柄を知らされず味わうのも、テイスティング的な趣きがあっておもしろいなと思っている矢先に、「申し訳ございません、銘柄をご案内もせずお注ぎして。」と、ボトルを抱えた給仕が、シャンパンの説明をするためにテーブルに駆けつけた。

アペリティフでのどを潤しながら、じっくりとメニューの検討に入る。そろそろ目星がついた頃、絶妙なタイミングでメートルドテルが訪れ、料理についての質問を交えながら注文を決める。このやり取りがグランメゾンの醍醐味のひとつだ。優秀なメートルドテルは、その日の献立について熟知しており、常連になればそのお客の嗜好をも把握しているから、ベストなチョイスの手伝いをしてくれるものだ。

選んだ料理は、オードブルにカエルのポワレ、続いてオマールのフリカッセ、そして鴨とフォアグラのフュイテ、締めくくりのデセールはチョコレートスフレだ。量的に食べきれるかが不安だったが、ドレピンヌ氏がフランス訛りの日本語で「ダイジョウブ」というので、トライしてみることにした。料理が決まるとソムリエが来て、ドレピンヌ氏からオーダーの内容がフランス語で伝えられ、ワインを選択してゆく。我々がさほど量を飲めないことも把握してくれているので、デミのセレクションからとっておきのワインを薦めてくれた。

シャトーレオヴィルラスカーズ’82。これは、スーパーセカンドと呼ばれ、第2級格付ながら、限りなく第1級に近い品質を誇る素晴らしいワインだが、特に82年88年の出来映えは特筆ものだ。市場でも数少なくなっているこのワインを、わずか20,000円で味わえるとは、驚きだった。しかもこの環境とこのサービスの中で、ましてや溜息の出るような料理と共に・・・。

オードブルが運ばれてきて、それを口に運ぶや否や、鳥肌が立つほどドキリとさせられた。浮かんで来た言葉は「おいしい」のただひとこと。5年に一度も刺激されることない神経が呼び覚まされた感じがした。熱いカエルの股肉にパンチの効いた塩味、そしてクーリにしたエシャロットの蟲惑的な香りが程よいアクセントになった見事な料理。魚料理までシャンパンで持たせようとコントロールしていたのに、グルヌイユとの相性があまりに良いものだから、ほとんど飲み干してしまった。

オマールのフリカッセには、オマールから取った濃厚なソースに、セロリのピュレを添えており、半生ほどの状態に仕上がったオマールにはオレンジの風味を効かせてあって、プリッとはじけるようでありながら、甘さがじわっとしみでてくるようだった。味わっていると、カヴァレリアスルティカーナの冒頭シーンが頭に浮かんで来た。

鴨のフュイテが運ばれてくる頃には、おなかも八分目ほどになっていた。というのは、レーズンとクルミのパンといい、栗のペーストを練り込んだパンといい、噛むほどに味わいが深まるおいしいパンの魅力に負け、すでに3つも食べていたからだ。こんがりと焼きあがった香ばしいパイの中に鴨とフォアグラがずっしりと詰まったフュイテが、目の前でデクパージュされ、鴨のエッセンスを凝縮したフランス料理ならではの重たいソースが皿に流される。ソースをたっぷりと絡めて味わうと、秋の至福が体中に広がってゆくようだ。途中ソースのおかわりをして、ゆっくりと時間を掛けてレオヴィルラスカーズとともに楽しんだ。

さすがにもうフロマージュは入らない。そのままデセールを。スフレなので、焼き上がりまでに時間を要する。その間、バニラ風味のクリームと共に甘い赤ワインがサービスされた。デミタスカップの底にびっしりとバニラビーンズが詰まったクリームは、小ぶりながら印象の深い一品だった。スフレは見た目にもパーフェクトな状態で運ばれ、酸味、苦味、甘味が見事に調和した上質なチョコレートの風味が活かされた素晴らしい出来映えだった。添えてもらったチョコレートのアイスクリームも限りなく滑らか。

何かが突出しているというのではなく、全体に調和が見られ、高いレベルでバランスが取れている。とうとう日本のレストランもここまで来たかという印象。正直言えば、ナイショにしておきたい店だが、今すぐ予約すべき。99年10月末時点でのアラカルトは以下の通り。

前菜 LES ENTREES

LES CEUFS EN MEURETTE AU VIEUX JAMBON ET MOUILLETTES AILLEES
地鶏卵のポッシェ 赤ワインソース ジャンボン風味のカンパーニュ添え 2,800

LA FANTASIE DE LANGOUSTINES AUX ENDIVES EN VINAIGRETTE
赤座海老のアンディーブ包み ヴィネグレットの香り“ファンテジー” 4,600

LE BEIGNET DE TOMATE ET SES CUISSES DE GRENOUILLES COULIS D'ECHALOTES
ドンプ産グルヌイユのポワレとトマトのベーニエ エシャロットのクーリ添え 4,200

LES HUITRES CREMEUSES EN GELEE D'EAU DE MER
海の香りに包まれた牡蠣のゼリー寄せ ほのかなカレー風味 3,200

LE FOIE GRAS D'OIE CONFIT EN TERRINE "PAIN DE CAMPAGNE GRILLE"
鵞鳥のフォアグラのテリーヌ パン・ド・カンパーニュ添え 6,800

LES FLEURS DE COURGETTES FARCIES FASON ANTIBOISE
花ズッキーニの詰め物とパルミジャーノのガレット ハーブのトマトソース 3,800

LES POTAGES スープ

LE BOUILLON D'ETRILLES AUX HERBES POTAGERES
蟹と香り豊かな野菜のクリアースープ 2,600

LE VELOUTE DE MOUSSERONS GLACE
冷製シャンピニヨンのクリームスープ 2,600

LA CREME DE COCO, TARTINE DE FOIR GRAS DE CANARD
白いんげん豆のクリームスープ ラビオリ入り フォアグラのトースト添え 2,200

LES POISSONS, CRUSTACES ET COQUILLAGES 魚料理

LE BAR ROTI ENROBE DE POMMES DE TERRE CROUSTILLANTES SAUCE ROUGE
新鮮なすずきと香ばしいポテトの包み焼き 赤ワインソース 6,200

LA PETITE RASCASSE FARCIE CUISINEE EN CASSEROLE
新鮮なカサゴのバプールと野菜のファルシ 6,500

FRICASSEE DE HOMARD BRETON A L'ORANGE CONFITE PUREE DE CELERIS
ブルターニュ産オマール海老のフリカッセ コライユソース セロリのピューレ添え 9,800

LE BLANC D'AMADAI AUX POMMES BOULANGERES
甘鯛のエテュベ ポテトのブーランジェール風 5,600

LA POELEE DE ST-JACQUES A LA CONCASSEE DE TRUFFE, JEUNES LEGUMES ET JUS A LA TAPENADE
帆立貝のポワレ トリュフの香り タプナードと旬の温野菜 5,400

LE RAGOUT D'ECREVISSES AU LARD FUME
スパイシーな野菜とベーコン入りエクルビスのラグー 5,600

LES ABATS, VIANDES ET VOLAILLES 肉料理

LA POITRINE ET CUISSE DE PIGEON EN RISSOLE FRIANDE JUS COURT AU SANG
仔鳩の胸肉のローストと腿肉のファルシ包み揚げ フォワ入りのジュとハーブサラダ 7,800

LA COTE DE VEAU FERMIER, GNOCCHI DE POMMES DE TERRE AUX CHAMPIGNONS (2pers.)
仔牛の骨付きロース肉のポワレ ポテトのニョッキと茸添え(お二人様より) 16,000

L'AGNELET DE PAUILLAC ROTI A LA CREME D'AIL, JUS GRASSOUILLET
ポイヤック産乳呑み仔羊肉のロティ アイユの香りのクレームと共に 7,200

LE CIVET DE LAPIN ET SES NOUILLES AUX CHATAIGNES
フランス産兎のシヴェ 栗の香りのフレッシュヌイユ添え 7,800

LE FILET DE BOEUF POELE MADERISE "CORCELLET PALAIS ROYAL"
和牛フィレ肉のポワレ マデラ酒風味の甘酸っぱいソース“コルスレ・パレ・ロワイヤル” 9,000

LA TOURTE FEUILLETEE DE GIBIER ET FOIE GRAS SAUCE ROUENNAISE (2pers.)
焼きたてのジヴィエとフォアグラのフュイテ ルーアン風ソース(お二人様より) 16,000

LA DAUBE DE PIEDS DE COCHON FARCIS PARFUMEE A LA SAUGE
“ピエ・ド・コション”のファルシ ココット焼き セージの香り 5,200

LA CANETTE DE BARBARIE CUISINEE EN COCOTTE AUX FINES EPICES A L'AIGRE DOUX
バルバリー産仔鴨のロティ スパイス風味 くるみとオレンジソース 6,800

◇◇◇

LA SALADE DE SAISON OU MELANGEE A VOTRE GOUT
季節のサラダ お好みで 1,500

LA SELECTION DE FROMAGES AFFINES
フランス産フロマージュ各種 1,800

LE CHOIX DES DESSERTS
お好みのデセール 2,200

LE SOUFFLE MOELLEUX AU CHOCOLAT AMER (2pers. 20min.)
温かいチョコレートスフレ(お二人様より お待ち時間20分)

LE MILLE-FEUILLES LEGER A LA CREME PRALINEE (2pers. 20min.)
軽く焼き上げたミルフィーユとプラリネクリーム(お二人様より お待ち時間20分)

LES PETITS FOURS ET CHOCOLATS
プティフールとショコラ

LES GLACES ET SORBETS MAISON
自家製アイスクリームとシャーベット

L'OSIER
中央区銀座7-7-5
03-3571-6050 (日・祝定休)

Y.K.