1999.08.07
針がおしりに
ホテルオークラ Standard Room
哀-3

プールサイド

5,000円分のレストラン利用券と屋外プール利用券がついて、2名1室1名17,500円(サ込・税別)と、オトクなオークラのサマープランを利用してみた。予約時に希望を出せば14時までのレイトチェックアウトが可能で、改装済みの客室を指定できると聞いたのでそのようにリクエストした。その際ホテル側から、改装工事中のため、日中は騒音が気になることを了承してもらえるのなら改装済みの客室を用意するとの案内があった。98年11月に苦い思いをして後にしたオークラなので、多くを期待することなく過ごすつもりで出掛けた。

到着時の対応はさすが国際級ホテルの名に恥じない見事なもので、素早い連携と自然な笑顔にキビキビとした動き方が実に素晴らしい。館内いたるところで従業員と出会うが、目が合えば必ず自然に微笑み返してくるし、オークラマンとしての品位を保ちながらも適度にリラックスしている従業員が大勢いる。チェックインもスムースで手際よい。

フロントから本館の客室へは、一度メインエントランス前を横切るかたちとなるのが珍しい。エレベータホールには、涼しげな夏の着物姿をしたアテンダントが立っている。本館では9月末までの予定で幾つかのフロアが改装工事中になっており、今回利用した3階の半分も改装中のためクローズされていた。案内された客室はロビーとは反対側の駐車場を見下ろす、お世辞にも眺めがいいとは言えない客室だが、室内は改装されたばかりで清潔感が溢れていた。

ところが、バスルームをのぞくと昔のままで、ウォシュレットを付けたくらいしか変化はなさそうだ。聞けば5階以上の客室しかバスルームの改修は行っていないとのことで残念。5階以上だと廊下や扉も豪華にできているし、バスルームはシャワーブースを備える最新の設備に改修されているはずだ。3階の客室は、天井高が2メートル70センチあり、窓の上にはお馴染みの蛍光燈間接照明があるので、室内は夜でも明るい。入室時すでにターンダウンされており、ベッドの上には鶴と亀のオリガミが置かれていた。

ベッドは115センチ幅で陸鳥と水鳥の枕がセットされ、軽い羽毛布団が心地よい。弧を描いたライティングデスクにも明るい照明がついており、ドレッサーとしても十分に機能するだろう。ドレープは電動で、引出しが多数あるのもとても便利だ。

バスルームはシャワーブースこそないが、大き目のバスタブにはシャワーカーテンの代わりにサッシの仕切りが取り付けられており、バスタブの奥には腰を掛けるのに丁度いいスペースが確保されていて広々と使える。全体に大理石張りで、ダブルベイシンだ。バスルーム内がかなり明るいのはありがたいのだが、夜中に起きた時にはまぶしすぎるので、一長一短。アメニティはごくありきたりで、必要最低限の用意だ。

もちろんルームサービスは24時間だが、かなり高額。ランドリーは職人芸とまでいわれる素晴らしさで、宿泊客でなくともショッピングアーケード内のカウンターで依頼できる。

さて、今回は何事もありませんようにとの思いは通じず、結局事件が起こってしまった。シャワーを浴びてバスローブを着て、窓際の肱掛椅子に勢いよく腰掛けた瞬間、激痛が走った。どうしたのかと思ったら、おしりに針のようなものが刺さっていた。

長さ5センチほどの細い針で、一見注射針ののような形状をしているが、穴は開いていない。一体何に使用する目的の針なのか見当がつかなかったが、それが不安を掻き立てた。万が一、前の客が使った医療器具の一部だったりしたら、感染の可能性もなきにしもあらずだ。

結局、客室係の人が言うには、この客室はリノベーション後、はじめて使用しているので、この針が前の客の遺留品だという可能性はなく、おそらく工事関係者が椅子の張り替え工事中に使用するピンだろうとのことだった。そうであって欲しいものだが・・・

改装済みの客室 ライティングデスク

ダブルベイシンは天板も立派 サッシがユニーク

中国料理「桃花林」

午後1時45分頃に出向いたところ満席だった。入口を守る見るからにベテランのオークラマンから、丁重な詫びがあり、45分後には必ず席を用意して待っているとのことだったので、しばし館内の散策をして45分後に再度店のエントランスに立った。今度はやや若いキャプテンが出迎え、予約の有無を尋ねた上で席に案内してくれた。

店内は赤系の絨毯に黒と翡翠色の椅子と大胆な色使いをしているが、美術品がさりげなく置かれ落ち着いた雰囲気を醸し出している。土曜日の昼間とあって、もうオーダーストップ間際だというのに大変な賑わいを見せ、さながら香港の飲茶店のようだった。

案内された席は、ちょうどパントリーへの出入り口付近で、従業員の往来が激しいばかりでなく、下げた皿などが視線に入るという最悪の席だった。このような席では、広東料理のコースを楽しむより、むしろ本場の飲茶店に来たような気分で点心を味わった方が満足度が高そうだと思って、ちょうどメニューにあった3,500円の飲茶セットを注文した。

オークラマンは非常に商売熱心で、「お昼ですが、お飲み物はいかがいたしましょう?」と積極的にというより、強引に近いパワーで勧めてくる。それに負けたわけではないが、グラスの白ワインを注文した。銘柄は最後までわからなかったのだが、1,000円と比較的高額だった。

周囲の席では、ちょうど食事を終えて退店してゆく客が多くなり、従業員は片づけとセッティングに忙しそうだった。しかし、料理は一向に出てこない。テンポ感を楽しみたいのに、30分待って2品しか出てこなかった。待ちくたびれて来た頃になって、やっと調子良く料理が運ばれてくるようになった。

それでも不機嫌にならないくらい、料理そのものは見事な出来映えだった。ひとつひとつ丹念にこしらえられた点心は、それぞれに個性的な味わいがあり見た目にも楽しい。サービスに関しても素晴らしく、お茶さえお客に注がせることのない目の配りようだ。ホテルのレストランはかくあるべきという典型だといえよう。

1999.08.14
カーネーション(針事件後日談)
ホテルオークラ Suite
哀-5

お詫びの花(画像だと意外とキレイ・・・)

8月7日、針が刺さってから最初に客室へ来た係は、「工事の針」だと主張していた。その際、もしその通り工事で使用する針ならば、翌朝工事関係者に確認をすれば簡単に判明することだから、分かり次第報告して欲しいと依頼してあった。ところが、結局なんの報告もなく、チェックアウト時にさえ気遣いや詫びの言葉はまったくなかった。

コンピュータで情報を管理しているホテルなのだから「滞在中こんなことがあったから、出発時には一言お詫びを」というメッセージをフロントで共有するくらいたやすいはずだが、それさえもしない。出発時にアシスタントマネージャーが詫びをいれ見送りをするくらい、高級ホテルであるならば当然のように行うべきだ。このような時に顔を出さずに、いったいいつ出番があるというのだろう。

このまま出発しては、前回同様うやむやになると思い、こちらからアシスタントマネージャーデスクに出向き、「昨夜の針の件ですが、何の針だかわかりましたか?」と尋ねると、アシスタントマネージャーはそのような事態があったことすら把握していない。

すぐに客室係に問合せをし、責任者に駆けつけるよう指示をしてはいたが、15分ほど待つことになった。その間、掻い摘んでことの次第をアシスタントマネージャーにも説明をした。オークラ流のクレームを聞くテクニックを紹介した本によると、1:直立姿勢で、2:緊張感を出さないで、3:親身な視線で、4:柔和な表情で、5:軽いジェスチャーを交えて、6:エクスキューズせずに、というのが基本になっているとある。

アシスタントマネージャーは座ったまま聞いていたので、1と5には当てはまっていなかったが、それ以外はテクニック通りに耳を傾けていた。ところが、緊張感なく「あぁ、そうですか、そうですか、そりゃ、びっくりしますよねぇ」とにこにこ柔和な表情で聞かれていると、まるで他人事のようで軽率に扱われている印象が強かった。

出発を急いでいるのに15分待たされ、やっとはなしの通じる人が来てくれたかと思いきや、客室係のマネージャーも「昨晩、椅子の上に落ちていた針でお怪我をされた」「針が何であるかは現在調べているところだ」ということしか伝わっていない。

もち立場が逆であったなら、逆にこの程度しか情報を持っていなかったらむしろ非常に不安を感じ、「お客さまのお怪我はどの程度なのだろうか」「お医者さまの手配はしたのだろうか」「たいしたことがなければよいが」「椅子に針が落ちているとは、どうしたことだろうか」と追求せずにはいられない責任感に駆られるだろう。

しかし、彼はそうではなかった。少なくとも現状で持たなければならない危機感はなく、楽観視していた。本当に現在調査中だというのなら、その報告を出発時までにする必要があったはずだ。

オークラの職務遂行基準によれば、アシスタントマネージャーは、このような突発的事柄に対して、常に周到な処理マニュアルを頭に入れ適切な対処と報告を行い、完全な事後処理を通じてお客さまとの人間関係をより深め、顧客確保を図らなければならないことになっているという。

残念ながら、彼らがこれに準ずる行動をとっているようには見えなかった。とにかく、こちらも急いでいたので、後日の報告を待つことにしホテルを後にした。

翌日の留守中に客室担当の人から電話があり、工事関係者に尋ねたところ工事用の針でないことがわかったが、注射針でないことは確かのなので安心して欲しいと伝言が残されていた。

更に数日してから、今度は支配人室の人から電話があり、鍼灸用の針であることがわかったので、心配だから病院で検査を受けて欲しいといわれた。負った傷について、実質的に気遣いを見せたのはこれがはじめてだった。怪我を負ってから、実に4日目のことである。

それまでに何人もの担当者に対して一から同じ説明を繰り返して来たが、今度の担当者に対してもまた同じだった。情報が断片的にしか伝わっておらず、どこでどんな不手際があったのか、だれひとり把握していない。話せばその度に「そんな対応だったんですか、返す言葉もございません」と恐縮されるのだが、それでは埒があかない。

針はこちらで預りたいと伝え、土曜日に受け取ってラボに検査を依頼しようと思っていたが、断りもなくホテルが検査に出してしまった。なにからなにまで信用に値しない行動をとられたことが、何よりも悔やまれる。

気がすすまないながらも、友人とオークラに滞在する約束をしていたので出掛けることにした。今回の滞在に当たっては、針事件のお詫びを兼ねてそれに値する客室にアップグレードし、客室に生花を用意するとあらかじめ聞いていた。ところが、最初に案内された客室はスタンダードルームだった。また、生花というのは、上の写真にもある通り数本のスプレーカーネーションをさりげなく差しただけの質素なものだった。

抱えきれないほどの花束を贈られることが日常であるミュージシャンの気分を和らげるために用意しているという自覚があるとは到底思えないし、普通の感覚で見ても特別な思いを込めて用意した花だとは決して思えないような代物だ。 

客室に案内された際、「これがよいお部屋ですか」と尋ねると、「はい、本館改装済みのガーデン側のお部屋です」とのこと。このタイプの客室は、サマープランで宿泊する場合でも指定できる。それが、度重なる非礼の謝罪を表現したものだとあっては、ばかにされたような気持ちになる。

花に関して指摘しても、「ただいま季節が悪くて、用意ができない」というが、館内いたるところに美しい盛花が飾られているし、ロビー階のフラワーショップには新鮮な花があふれるほどだ。これが、おもてなしの頂点を極めたオークラの流儀なのだろうか?

感じた通りの印象をきっぱりと伝えると、新しい客室を用意してくれることになったが、その客室に通されたのは到着から1時間15分後だった。その間、スタンダードルームで、いつ連絡が入るかと思いながら、その部屋を汚してはまずいと考え、窓際に立ったまま待っていた。これまた、98年11月の状況に近いものがあった。

新しい客室は、ちょうど2部屋分を割いた広さのスイートで、1部屋分がリビングルーム、もう1部屋分がベッドルームとバスルームになっている。入口を入ると、すぐに大きなライティングデスクがあり、一応どちらサイドにも椅子と引き出しがあって便利だ。その奥にソファセットとテレビ台、ミニバーがあるだけで、ゆとりのある配置だ。ミニバーにはクッキーとフレーバーティーの用意もあり、テレビにはビデオデッキを備える。

ゲスト用のトイレは設けず、水周りはベッドルーム側のバスルーム1個所に集約されている。ベッドルームへはリビング中央にあるフレンチドアで結ばれており、1客の肱掛椅子と120センチ幅のベッド2台、チェストとバゲージ台が設置されている。チェストが若干前に傾いていて引出しが自然に出てきてしまうので、客室係を呼んで応急処置をしてもらった。

ベッドはスイートといえども、すでにターンダウンされた状態になっていたので、カバーを掛けてくれるよう頼んだ。寝具は一般客室よりも高級な羽毛布団を使用している。カーテンはベッドルームのみ電動で、リビングルームは手動なのだが、どうせなら両方とも電動にしたらよかったのにと思われる。

バスルームにはかなりの面積を割いており、全体に大理石を張り詰めてはいるがゴージャスな印象はない。また、床の石には暖房が入っておらず、夏といえども素足で歩くにはひんやりとし過ぎていた。クローゼットもバスルーム内に設けられているのだが、クローゼットの内側までバスルームと同じ大理石貼りになっているところが面白い。ただ、鏡張りの3枚の引き戸のうち1枚分の幅しか開けることができず、やや不便な感じがする。

トイレは扉で仕切られておりビデを備えるが、外国製の便器であるためか、洗浄式トイレの設備はない。ベイシンはシングルで本館5階以上のスタンダードルームと同じ仕様だが、蛇口などはより贅沢なものを採用している。シャワーブースは極めて広々としており、バスタブとほぼ同程度の面積だ。シャワーの水圧も十分でサーモスタット付き。アメニティはスタンダードルームと同等で、変わり映えはしない。

今回気になったのは、トレー上でのアメニティの並べ方だった。パッケージの表裏や向きを考えずに乱雑に置かれた感じで、印象が悪かった。また、全体的に照明が中途半端で物足りないことも気になった。家具の装飾に起用されている波のモチーフやステンレスに鋲を打ったようなデザインは、好みが大きく分かれるところだろう。

チェックアウト前に、支配人室の担当者の人と食事を共にする機会が持てた。今回の滞在中に起こった事柄を含め、一連の出来事について詫びるために出張先から急ぎ駆けつけてくれたという。彼は忌憚なく心情を吐露し今回の経験を生かし、オークラを再びサービスの頂点に導くことを目標にして最善を尽くすことを誓ってくれた。

話すにつれ、彼の言葉と気持ちに偽りがないことがひしひしと伝わって来て、それまでの不信感がずいぶん緩和された。実際に起こってしまったことは仕方がなく、この時点までの間にぼくが直面した事実が消えることはないが、もう一度オークラに期待してみようという気持ちが湧いてきた。

初めからこのようにことが運べば、お互いにもっと消耗を避けられただろうし、なにも支配人室の人が出てくるまでもなく、アシスタントマネージャーでも彼がしたのと同等の配慮ができてしかるべきだったと思う。いずれにしても今回の「哀-5」が「喜-5」となる兆しが感じられたのは、うれしいことだ。

リビングを入口から窓に向かって眺める 寝室へのフレンチドア

ベッド シャワーブースはかなりの広さ

中国料理「桃花林」

いつもながら、多くの客で賑わっており、14時15分過ぎに行ったにもかかわらず満席で15分ほどのウエイティングだと案内された。ところが、宿泊関係の不手際で不愉快な気分になっていたので、そのまま不愉快そうにしていると、どういうわけだかすぐに席を用意してくれた。事情を説明したわけではないのに、ずいぶんと察しのいい黒服だなという印象を受けたが、このあたりは「さすがオークラ」と賞賛したくなる部分だ。

案内された席は個室を開放したセクションなので、閉鎖的で窮屈だったが無理して用意してくれた席なので、気持ちを汲んでそこに落ち着くことにした。まぁ、これでも前回のパントリー脇よりは落ち着いて食事ができそうだ。1週間前に「飲茶コース」を味わったので、今回は4,000円から用意されているコースのうち、一番手頃な4,000円のコースを注文してみた。

3種冷菜盛り合わせに始まり、4種の料理と続き、チャーハンが運ばれてくる頃にはおなかがいっぱいになっていたが、とどめのチャーハンの量もまた豪快で最後には苦しくなりながらも、せっかくなので全部たいらげた。飲茶コースも分量的には十分だったが、それを遥かに凌ぐ量で味と共に大満足だ。価格に対する満足度もとても大きかった。

ただ、死角にある席だったためか、お茶の継ぎ足しなど、いつもよりは気配りが行き届かない点があったことと、ひとりの女性従業員の態度がややつっけんどんで不親切な印象を受けたことが残念だった。

1999.09.06
名誉挽回
ホテルオークラ Deluxe Room
喜-4

入口側からバスルーム奥を見る

満足ができなかった日航東京から移ってきたら、まるで別世界のように快適だった。到着予定時間通りに車で正面玄関に着くと、2人のドアマンが荷物を丁重に扱いながらおろしてくれ、すぐ近くの駐車スペースを案内してくれた。ベルマンに先導され回転ドアを通り抜けると、アシスタントマネージャーから「神田様、お帰りなさいませ」と、歓迎の気持ちがこもった出迎えを受けることができた。

先だっての滞在の時に少々やりあった相手なのだが、こうして再びお互い笑顔で挨拶を交わせるのはとてもうれしいことだ。チェックインの手続きをしている間に、到着の連絡を受けた支配人室部長がロビーに降りてきて、そのまま客室まで案内をしてくれた。

今回は割引のレートで宿泊しているにもかかわらず、デラックスタイプにアップグレードをしてくれ、室内には盛花、フルーツが置かれていた。これだけでも、どれほど気持ちが和んだかしれない。程なく客室に荷物が届き、精密機器だと告げたバッグにはきちんと取り扱い注意の札がついていた。前回不愉快なことがあった際に、ついでに指摘した事柄がすべてクリアーされているのには、正直驚いた。

デラックスルームは客室の3分の1を堂々と当てた広いバスルームが特徴で、特にバスタブ周りが広く取ってあり、まったく圧迫感を感じずに快適なバスタイムを過ごすことができる。サーモスタット付きのカラン、十分な水圧のシャワーなど、設備的にも充実している。ベイシンはシングルだが、回りにものを置くスペースが広く取られていて便利。

ベッドは115センチ幅で、スタンダードルームよりも狭いものが入っている。テレビはビデオデッキと一体型だ。収納は、引出しの少なさがやや気になった。広いバスルームは非常に魅力的ではあるが、スタンダードルームとの差額を考えると、実際に通常料金を支払って宿泊するのなら、スタンダードルームで十分だと思う。

ちょうどこの日、9階と10階の改装が終了し、それまで通過していたエレベータが停止するようになったので、降りて探検してみた。まだ、最終の工事が残っている様子で、全客室の扉が開け放たれており、中では工事関係の人たちやメードさんが作業しており、お陰でなかなか見れないシーンを見物できた。客室をのぞいてみた感じだと、3,4階同様、バスルームは以前のままにしたタイプの客室なので、シャワーブースはない。シャワーブース付きのバスルームを希望する場合は、5階から8階までの客室を指定する方が良い。因みに禁煙階は3階と7階になっている。

ライティングデスクとミニバー、テレビ ハリウッドツイン

鉄板焼「さざんか」

本館11階でエレベータを降りると、本当にここはオークラ?と疑いたくなるようなインテリアに驚かされる。何といっても壁紙がいけない。地方の結婚式場でさえ最近は憚りそうな柄だ。パステル調でコーディネートされた廊下を進んで行くと、階段があり、それを降りたところに「スターライトラウンジ」と「さざんか」がある。つまり、実際に店があるのは10階だが、11階からでなければ行かれない構造になっているわけだ。

前回宿泊した時には満席で利用できなかったため、早い時間から予約を入れておいた。予約した12時ちょうどに到着すると、店内はまだ落ち着いており外国人のグループ2組の先客がいるだけだった。ランチコースは3,500円から6,500円まで4種類が用意されていて、今回は6,500円の和牛スペシャルコースを注文した。

お通し、さざんかサラダ、白身魚又はカニ、和牛サーロイン180グラム、季節野菜、ご飯、味噌椀、香の物、コーヒーが付いている。鉄板焼の店にしては、べたついたものが一切なく、店内は非常に清潔だった。また、シェフたちからも清潔感が溢れており、それだけでも気分がいい。サービスは変に出過ぎたり、無口だったりせずに程よい距離感を保っており、つまらない気を遣わずに済むのがうれしい。

せっかく大きく取られた窓があるのに、隣りのビルが見えるだけなのが残念だった。ホテル内鉄板焼としては非常に高いレベルにありながら、手頃な料金設定で利用価値が高い店だ。

「オーキッドバー」

夜ともなれば、スーツ姿のビジネスマンや外国人で賑わう「オーキッドバー」は、本館5階のメインロビー脇に位置しており、日中はロビーラウンジ的な役割を果しつつ、軽食のランチをも用意している。ランチはサンドイッチなどを中心に数種類あって、いずれもスープが付いて2,000円(税・サ込み)と手頃だ。その中から「オークラクラブハウスサンド」をオーダーしたところ、「スープはコーヒーなどのお飲み物に変更することができますが、いかがいたしましょうか?」と尋ねてくれた。メニューにはそう書いてはいないが、要望が多かったためにはじめたサービスなのかもしれない。

結局、アイスコーヒーとサンドイッチのセットにしてもらい、込み込みで2,000円に収めることができて、なんとなく得した気分。昼でも明るさを抑えたメインロビーよりも一段と仄かな照明の店内は、シックで落ち着いた内装に囲まれ、静かで居心地が良い。さすがバーのスタッフだけあって、隙のないサービスは見ていても気持ちの良いものだった。

「テラスレストラン」

「テラスレストラン」の朝食ブッフェといえば、最高水準の料理がずらりと並び、安定したサービスの中で気持ちのいい一日をスタートできる舞台として名高い。このレストランでの朝食目当の外来お客も少なくないようだし、この朝食が魅力でオークラにステイする客さえいるそうだ。

この日は午前7時のオープンと同時に入店した。というのは、前夜のコンサートから戻った際、アシスタントマネージャーに「明日はテラスレストランで朝食をとるつもりだが、何時ごろだったら比較的混雑していないか」という内容の質問をしたのだが、「今日は満室なのでかなり混み合って、お並び頂くこともあるかもしれません」とか、「午前7時からの営業ですので・・・」と繰り返すばかりで、結局答えにならなかった。それなら率直に「混み合う可能性が十分にあるので、スムースにお入りいただくには、オープンと同時にお出かけ頂くのがよろしいかと思います。」と言ってくれればいいのに。

確かに午前7時のオープンと同時に、たちまちたくさんの客が入って来たが、8時過ぎまで店にいてもその間に行列ができたり、ブッフェ台に列ができることはなく、それぞれにゆったりとした時間を過ごすことができていたようだ。日曜日でもあったので、ピークはそれ以降だったのかもしれない。いずれにしてもこの程度の情報は、アシスタントマネージャーともあろう立場の従業員なら把握しておくべきだと思う。

さて、ブッフェ台の料理はいつも通り非常に充実した内容で、どれにしようかと迷ってしまう。その品数も然る事ながら、品質の高さや状態の良さが嬉しい。好みで焼き上げてくれるオムレツはもちろん、豊富なブレッド類、温野菜類、新鮮なフルーツやサラダの他、和食のアイテムも揃っている。ブッフェ台の補充や整頓も随時行われており気持ちが良い。コーヒーのおかわりや済んだ皿を下げに来るタイミングなど、かなり頻繁に行われており、行き届いている。この充実度で2,700円はかなりのお値打ちだ。

1999.10.18
バルコニー
ホテルオークラ Suite
喜-4

ベッドルーム

オークラのメインロビーがある5階には、フロント機能やレストラン・バーと幾つかのショップがある他に、客室も配置されている。都心のホテルで、到着してからエレベータや階段を使わずに客室に入れるのは珍しい。セキュリティ面や騒々しさなどが気になるところだが、パブリックスペースと客室廊下とは扉で仕切られているし、夜には警備員がしっかり巡回しているのに幾度となく遭遇したので、セキュリティ的には問題ない。パブリックスペース自体がオークラならでは落ち着いた気品と静けさに満ちているので、客室での静寂も保たれている。

しかし、ホテル棟のすぐ横を走る道路で、深夜から早朝にかけて工事が行われていた。この工事は、道路に面して建つビルの空調設備を交換するためのもので、大型クレーンで屋上に機械を上げ下げする度に尋常でない騒音を伴なうものだった。この工事については、ホテルも事前に把握しておらず、それゆえ当然、ゲストへの告知もなされていなかった。

深夜1時30分を過ぎても尚、断続的にうなるようなクレーン車の騒音が続き、コンサートでヘトヘトに疲れ、翌日にも演奏を控えているというのにまったく眠ることができない。意を決してアシスタントマネージャーに尋ねてみたところ、工事についての認識はなく、とりあえず部屋に来て状況を実際に感じてもらうことになった。

部屋のチャイムが鳴り、アシスタントマネージャーを招き入れ騒音を聞いてもらうと、特別詫びるでもなく、「分かりました、では、もう一度お調べして、おり返しご連絡します」と言い残して去っていった。「おくつろぎのところ恐れ入ります」とか、「せっかくのお休みを妨げて申し訳ございません」といった気遣いの感じられる言葉はまったくなかった。

程なく電話が鳴り、今度は重ねて「窓を閉めて、カーテンを引いてもまだうるさいですか?」と聞いてきた。それでもうるさいからこうして電話まで掛けて、部屋まで来てもらったのではないか。とりあえず、別の客室を用意してもらうことになったが、今回はロングステイのため荷物も多かったので、ルームチェンジではなく安眠するためだけの部屋ということで、荷物はすべてそのままで体ひとつで新しい客室に向かった。そのために再度洋服を着て靴下と靴を履くだけでも結構面倒なものだ。

そうしてあてがわれた新しい部屋は静寂そのもの。「そうか、本来オークラはこんなに静かだったのか」と改めて感激してしまったが、それだけ前の部屋が騒々しかったということだ。翌朝、臨時の部屋の鍵を返すためにフロントへ立ち寄った。その時点ではお陰で良く眠れたと礼を述べるつもりでいた。ところが、フロントに立つ若い男性従業員の言葉を聞いて、礼が怒りに取って代わった。

「昨日の工事は、もう今日はないんですよね」と確認をしようと尋ねると、「私どもには直接関係がないんで〜、はい〜」とか、「たぶんないと思いますが、あるかもしれません」という無責任な対応をしたからだ。何も工事がホテルの責任だとは思っていないが、騒音で眠れないような事態に目をつむることは許されないことだくらいの認識は持ってほしい。

もしぼくがオークラの従業員だったら、隣りの工事で眠れなかったと客に言われれば、恥ずかしくってたまらない気持ちになるだろう。そのフロントマンはどんなに仕事ができても、オークラにはふさわしくない。

さて、翌日からは、もう工事の騒音に悩まされることなく、オークラならでは静寂に包まれて休むことができた。

本館5階の客室には、もうひとつ他のフロアにはない特色がある。それは、大きな窓とバルコニーの存在だ。5階客室の窓はその他のフロアに比べて、おそらく倍以上はあるだろう。特に、今回はプールと庭を見下ろす南向きの客室だったため、眺めも日当たりも最高だった。バルコニーにはチェアが置かれ、東京タワーやオークラの全景を眺めながら、風にあたってくつろぐこともできる。騒音に悩まされた一夜があったものの、それ以外の点では極めて快適に過ごすことができた。

また、滞在中に電話機が新しくなった。発信元の番号が表示される、今まで見たことのない新しいタイプの電話機だった。

リビングセット 窓の外には緑が

ドレッシングコーナー バスルーム

「ラ・ベル・エポック」

平日の昼下がり、ハウステンボス総料理長上柿元氏によるスペシャルイベントを翌日に控えてのダイニングは、4組の客をもてなすにとどまりひっそりとしていた。

別館12階のエレベータを降りると、宴会場と共通のクロークとホワイエがあり、長い廊下を通ってエントランスへと至る。その廊下の壁紙はグリーンを基調とした楽園の鳥たちをモチーフにしたものだが、目がちらつくほどに強烈な柄が描かれている。エントランスにはキャッシャーカウンターがあって、その前でメートルドテルがゲストを出迎えている。予約を告げるとスムースに案内をしてくれるが、快活かつ優雅な動作とハキハキとした口調が貫かれ、オークラのレストランらしさを強く感じることができる。

席につくとすぐにソムリエが現れ、食前酒を勧めてくれる。昼だから控えめにしようかと考えていたのに、こうもスマートに勧められれば、ふたつ返事で「では、グラスでシャンパンでもいただきましょうか」と答えてしまう。こうなっては、もうソムリエのペースでことが運び、注文を終えた後にはリストが手渡され結局ボトルを注文することになった。しかし、予定外の出費にもしてやられたという印象は微塵もなく、むしろこのように勧めてくれたことに対して素直に感謝できるのだから、たいした腕前のソムリエだ。

なにもサイフの紐を緩ませるのだけが得意なソムリエではなかった。注文したボーカステルのシャトーヌフデュパープ93年は、メインディッシュにタイミングを合わせ、温度や空気と触れる時間などを巧みにコントロールして提供してくれたおかげで、実に見事な状態で味わうことができた。

料理もそれに負けてはいない。昼は4,000円の定食から用意されているが、定食にはカロリーの表示があるので、それを参考にしながらもっとも軽いコースを選択したところ、それが5,000円だった。手頃な価格のコースなので、料理が運ばれてくるまでは、あまり期待をしていなかったが、実際にその料理を見て驚いた。

「魚介類をあしらったサラダ」と「仔羊肉のポテト包み」の2皿とワゴンデザートのコースなのだが、それぞれに力の入った充実した内容の料理で、出来映えも素晴らしく、5,000円での満足度はかなり高い。デザートはケーキ類の他に、冷製のスフレや皿焼きのクレームブリュレなどもあり、注文をしてから厨房で仕上げてきてくれる。特にサツマイモを使ったジャスミン風味のティラミス状をしたムースケーキが印象的だった。コーヒーと一緒に小菓子も付き、メレンゲのお菓子が軽やかで香ばしい。

サービスは、ホテルダイニングとして第1級にレベルある。非常に良く気がつくことはもちろん、優雅な動作も素晴らしい。アールヌーボーの店内インテリアは好みの分かれるところだろうが、モダンでシックな内装の店が多くなった今となってはかえって物珍しいと言えるし、細部まで良くこだわって精妙にできている。窓際の席からは、かろうじて東京湾を眺めることもでき、オークラの中ではもっとも景観に恵まれた店舗だろう。店名が示す通り、古きよき時代を彷彿とさせる店は、新しすぎるものに飽きた本当の都会人が良く似合う。

「スターライトラウンジ」

お昼の時間帯には、以前から地中海料理をメインにしたランチが用意されていたが、10月1日から新たに「地中海レディース会席」2,000円と「パワーランチ」2,400円が登場した。「地中海レディース会席」は、オードブル、スープ、シェフ特選料理(魚または肉)、パスタ、サラダ、デザートの6品が1品ずつ小皿に盛られ、それが盆に乗せられて一度に提供される賑やかなセットだ。これにコーヒー又は紅茶が付く。

一方「パワーランチ」は生ビール又はウーロン茶でのどを潤してから、お肉料理とピラフ、温野菜、サラダが盛られたパワーディッシュが運ばれてくる。そして最後にコーヒーが紅茶が付くというもの。館内にイメージ写真付きで案内が出ているので一度利用してみようと思い、「パワーランチ」を注文してみた。

皿が運ばれてきてビックリ仰天。写真のイメージよりも皿が2周りくらい大きいのだ。大迫力の料理はボリューム、カロリーともに最大級で、まさにパワーをつけるにはうってつけ。質より量なのかと思いきや、この日の献立であるビーフカツレツは、肉もやわらかくて焼き加減にも気を配ってあった。布のランチョンマットとナプキンが置かれ、よく気が付くサービスの中でいただく「パワーランチ」は短い昼休みで、おなかも気分も満足させ、不思議と気力が湧いてくる。客層も管理職風のビジネスマンや、キャリアウーマンが多いようだ。

水曜日の14時からは、デザートブッフェが開催され、毎回かなりの盛り上がりを見せている。この日も13時半ころから行列ができ始め、5分前の案内開始と共に、店内は多くの女性で賑わい始めた。「パワーランチ」の後で、デザートブッフェにも挑戦してみようかと思ったが、デザート用の別腹までランチで一杯だったため断念。

1999.10.30
ロビー見学
ホテルオークラ Standard Room
喜-3

ベッドが窓に寄ったスタンダードルーム

ホテルオークラの週末は、平日よりもやわらかい空気が流れている。エグゼクティブたちが作り出すいつものキリッとした雰囲気が、披露宴に出席する華やかな装いの女性たちや、団欒のひとときを過ごそうとやって来た上品な家族連れなどによって、緊張が解かれたような趣きに変化する。それでも、オークラの空気はオークラ独特の香りを失うことがない。集う人々も少なからず襟を正して出掛けてくるのか、ホテルのイメージを壊すような服装や振る舞いをする人には滅多に出会わないのがいい。

せっかくのオークラの風格を壊しているのは、一部の従業員なのかもしれない。むしろ優秀な人材が多いゆえに、役に立たなそうな従業員がかえって目に付いたりするし、意外にも高いポジションにいるから不思議だ。この日もそんなことを思いながらロビーを散歩してみた。目が合えば必ず自然で親しみのある笑顔で声を掛けてくれる若い従業員たちと挨拶を交わしたり、新鮮で個性的な花々が咲き乱れるフラワーショップや、オトナのムードが溢れるシガーブティックを覗いてみたりするのも実に楽しいが、十分な空間をあけて配置されたロビーの椅子に腰掛けて、しばしゲストウォッチングをしてみるのがおもしろい。

サービスが悪くなったり、敷居が低くなってきても、オークラの風格はお客さんが守ってくれていることが、よく理解できるはずだ。従業員たちはこの光景を毎日眺めているのだから、そのあたりをもっと肝に銘じてくれたらなぁ、と思わずにいられなかった。

今回も本館の5階を指定して予約を入れてあった。チェックインを済ませてキーカードを受け取ると、そのケースにはすでにルームナンバーと名前が印刷されていたので、早い時間にはもうアサインが確定していたようだ。客室の向きは指定していなかったので、北向きの駐車場ビューの部屋になった。バルコニーは付いているが、下を覗くと高級車がズラリ。なにか物でも落としたら大変だ。

本館ではこの向きの客室が一番多いのだから、駐車場に屋根をつけて、その上を庭園にでもして眺めを工夫すれば、車を風雨にさらさずに済むし、景観が向上してさらに訴求力のあるホテルになると思う。北向きで日当たりは望めないだろうと予想していたが、お向かいのビルのハーフミラー部分にうまい具合に反射して、思いのほか日差しが部屋の中にまで差し込んできていた。

客室の構成は特に変わっていないが、コネクティングルームの仕様になっているため、ベッドが窓際ぎりぎりにまで押しやられ、壁の方に肱掛椅子とテーブルが配されている。また、他の客室と違って、この客室の寝具には花柄の羽毛布団が用意されており、柄はともかくとして、抜群の寝心地であった。

今回、部屋に入って感心したのは、前回にリクエストした追加のアメニティなどがチェックイン時にはすでに用意されていたことだ。加湿器を希望するなどの情報は、多くのホテルで蓄積して再度宿泊するときには用意されているということが良くあるが、葉書きの枚数などといった細やかなことまで再現されているのには驚いた。チェックイン時にはベッドスプレッドがかかった状態になっており、夕刻にはフルサービスのターンダウンが行われた。

「テラスレストラン」

日曜日の午後、「テラスレストラン」はほぼ満席に近い混雑を呈していた。前の晩に「ロオジエ」で食べ過ぎたため、当初予定していた「オーキッドルーム」での朝食を諦めて、それでも尚、まだおなかがいっぱいだった。前日のカロリーオーバーを反省してなにか軽いものをと思い、ヘルシーサラダとパン、それにフレッシュハーブティーを注文した。運ばれて来たサラダは大きなボールに盛られ、傷んだところのまったくない新鮮なレタスと、チキン、グレープフルーツ、カッテージチーズなどが飾られている。これほどまでに良い状態で提供されるサラダには、そうはお目にかかれない。そのままメニュー用の写真撮影に使用できるような、美しい出来映えだった。

ハーブティも新鮮で香りがよく、胃が落ち着いて気分もリラックスできた。長いフライトで疲れて戻ったときなどにもなかなか良いと思う取り合わせだった。このレストランでは、注文を受ける際に目の前でハンディターミナルをはじいて、厨房に直接データを送っている。合理的で便利なシステムだとは思うが、高級ホテル内のレストランでこれをやられては、なんとなく味気無さを感じてしまうのだが・・・

Y.K.