1999.07.01
実力派ホテル
帝国ホテル Superior Room (本館)
楽-2

本館の日比谷公園を望む眺めのいい部屋に滞在した。禁煙階を希望したところ10階だったが、あと1〜2階高ければ日生劇場よりも高くなり、より見晴らしがよかったと思われる。到着時からサービスは一貫して万全で、ドアマンからベル、ベルからフロントへの引き継ぎも見事だった。また、正面に車をつければ、バレーパーキングもしてくれる。

今回は帝国ホテルホームページで案内されている「インターネットモニタープラン」を利用して宿泊したため、チェックインタイムが午後7時、チェックアウトタイムは午前9時と、客室の利用時間がかなり限定されている。宿泊料金はラックレートで45,000円の客室が23,000円で利用できるわけだが、これほどまでに時間が限定されると、あまりオトクな感じはしない。モニタープランというだけあって、滞在中にアンケートを記入しなくてはならないが、それほど細かい内容ではなく、せいぜい5分もあれば十分だった。これは必ず提出することになっているが、チェックアウト時には提出を求められなかった。

42平米ある客室だが、天井があまり高くないのと、家具類の配置が非常にゆったりして隙間が多いためか、それほど広くは感じない。ところが、長い時間部屋にいると、この余裕のある家具の配置と落ち着いた照明が心地よく感じてくる。派手さや豪華さはないが、居住性は高いという印象を受けた。客室の清掃状況は素晴らしく、髪の毛一本見当たらない清潔さだ。寝具には染みひとつない。

客室全体に収納スペースが大きく取られており、2個所の引出しと棚がある。室内の家具はすべてにつやがあって、手入れに手抜きがないことをうかがわせている。電話機はライティングデスクとベッドサイドに2台あるほか、バスルームの電話機からも発信が可能だ。ナイトパネルでは電動カーテンの操作ができ便利だが、照明は入口灯と天井灯以外は個々にスイッチがあるので一括での操作はできない。

バスルームは広く、シャワーブースを設置するにも十分だが、残念ながらシャワーブースはない。広いベイシン周りには、棚があってこまごまとしたものを整理するのに重宝だろう。また、照明が可変式で夜中でも眩しい思いをせずに済む。バスタブを含め非常に丁寧に清掃されており、他に類を見ない清潔感がある。バスタブの湯は圧が高く2分程度でいっぱいになるし、シャワーも圧力が高い上に水流が細かく気持ちがいい。

アメニティは大阪の帝国ホテルのようなデザインに変わり、箱でなくビニールの包装になった。シャンプーはパコラバンヌから資生堂のスーパーマイルドに変わってちょっと残念だ。バスルーム内に壁掛け時計が設置されているのはなかなか珍しく、出発前に身支度をする際にありがたいだろう。

最新のホテルに比べると、内装などは垢抜けしないという印象が否めないでもないが、やはりホテルとしての機能と実力は他の追随を許さない。このように大規模なホテルでは実現するのが困難だと思われることを、いともあっさりとやってのけている点などは、驚嘆に値する。ルームサービス係の真夜中でも明るい声、客室係の丁重で迅速な対応など、総じて快適で、滞在中に不愉快な出来事は微塵もなかった。

この、インターネットモニタープランに限らず、宿泊プランのインターネット予約は、日本語のページからでないと予約ができない。日本語がよくわからない外国人の友人はそれをしきりに残念がっていた。

「ラ・ブラッスリー」

アメリカンエキスプレスカードの特別企画で、プリフィクスディナーというプランがあったので利用してみた。案内によると、10,000円相当の料理が5,500円で楽しめるということだったので、これはオトクだと思い期待して出掛けた。食べ終えてみての印象は、世の中そんなうまい話しはないんだなぁ、というのが正直なところだ。

因みに魚と肉両方が付く「お薦めディナーメニュー」が6,500円なのに、10,000円相当であるはずのプリフィクスディナーは、魚か肉のどちらかしか付かない。オードブルとメインディッシュはそれぞれ5〜6種の中からチョイスできるが、ブラスリーらしい家庭的な料理がほとんどで、デザートはケーキやアイスクリームといったごくありふれたものだ。その他に突き出しのような感じで白魚のフライとグラスワインがサービスされる。

メインディッシュの前にはスープも付くのだが、小さなココットに入った野菜のブイヨンスープだった。季節のスペシャルには桃のスープ仕立てなど、魅力的なものもあったので、今回のコースの内容には少々落胆した。料理を味わってみての感想は、これが10,000円相当?と首を傾げるものだったが、5,500円だったら納得という感じだった。実際にこれらをアラカルトで注文すれば10,000円相当になるのかもしれないが、割高感がある。

アラカルトや季節のコースメニューの方がずっと魅力的な内容なので、次回はそれらを試してみたい。味そのものは非常にオーセンティックなブラスリーそのものの素朴な美味しさで、満足だった。店内はパリあたりの小粋なブラスリーの感じがよく表現されていて、暖色系のファブリックとマホガニー調の深い色合いの家具、真鍮の飾りなど、なかなか雰囲気はよい。サービスも概ね快適だが、白いブレザーを着たマネージャー風の従業員は目つきといい、態度といい横柄で感じが悪かった。

せっかく全体的にいい雰囲気なのに残念だ。客もたくさん入っていて心地よい活気があり、食事をする環境としては申し分ないもの。なお、いつのまにか店の肩書きが「フランス地方料理」から「カジュアルフレンチ」に変わっていた。

「オールドインペリアルバー」

直線と円のみをモチーフとしたフランクロイドライトの美学を味わうにはこの上ない空間だが、この日は多くのビジネスマンというかサラリーマンという表現のほうがお似合いの客で、居酒屋のような賑わいを見せており、「渋い」とか「オトナの空間」というイメージは損なわれていた。

奥の席から見渡す店内は20年くらい昔の談話室喫茶のような状態で、せっかくの設計が一歩間違えば単にキッチュな感じに見えてしまいそうだった。店全体の空気を味わいながら、客層というのも立派なインテリアの一部だと再確認した。バーとしては十分な従業員数がおり、満席でも常に目が行き届いているので安心だ。

カウンターテーブルにはステージ上のようにスポットライトが照らされており、グラスや色とりどりのカクテルが光線に浮かび上がりなんとも美しい。テーブル席からは、数々の建築美を鑑賞することができ、どちらの席もそれぞれに魅力がある。本来はドレスコードがあり襟付きシャツの着用を要求されるが、この日カウンターに掛けていた男性有名人は、トレーナー姿だった。有名人には甘いのか、はたまたドレスコードを廃止したのかは、さだかではない。

「レ・セゾン」

午前9時にチェックアウトをしてから、朝食をとりに「レ・セゾン」へ行った。エントランスには新鮮な花々が見事に飾られ、風格を漂わせている。すでに朝食には遅い時間だったので、店内はやや閑散としていたが、温かみがありながらも華やかな色彩のインテリアと、照明を巧みに使った空間演出とあいまって、ほとんどが外国人ビジネスマンという客層が、この洗練された空気を醸し出していると感じた。

サービスは出迎えから見送りまで、特に黒服たちは非常にスマートで快適だった。この日、比較的若い従業員が多かったが、彼らもまたそれなりに頑張っていた。少々不慣れでも一途な気持ちが伝わってくるので、こちらもおおらかに受け入れることができる。店内は151席と、とても広いスペースがあるが、サービス上の都合からか、客を寄せ集めるようにして一角に詰め込んでおり、周囲を客で取り囲まれる席に案内された。

その席は禁煙席だったので別段不都合はなかったが、もう少しゆとりのあるアサインをしてくれればより快適だったと思う。ベンチシートの横一列にテーブルが並んだ席についたので、特に両隣の客の会話が気になってしまった。隣席との間は比較的狭いので、これがディナーだったら窮屈に感じるかもしれない。

この日のスタートには「お薦め朝食」3,400円を注文した。フルーツ又はフレッシュジュース、ポーチドエッグとチキンコロッケのオランデーズソース焼き、イングリッシュマフィン又はロール又はトースト、コーヒー又は紅茶という構成。卵料理はエッグベネディクトの変わりダネのようで、朝からヘビーに調理されていると感じたが、それでも美味しかったので全部食べてしまった。イングリッシュマフィンは、非常にきめが細かく上品な味わいだったが、個人的にはもっと素朴で切り口の焼き上がりがゴツゴツしている方が好みだ。ナイフで切るより、フォークをさして切って焼いた方が風味が増すような気がする。

今回強く感じたことだが、帝国ホテルでは、日本人と外国人とでは、サービススタイルをはっきり使い分けているようだ。外国人に対しては、親しみのこもった気さくな接し方をしているのに対し、日本人にはカタチから入っているので、昔の日航スチュワーデスのような固さを感じることがあるのかもしれない。でも、ぼくは結構この固さも心地よく思える。

1999.11.25
ホテルにいる実感
帝国ホテル Deluxe Room (本館)
喜-4

ロゴにエンボス加工を施したステーショナリー

最新のホテルには、最新の機能や受けのいいインテリアがあって、ハード面での快適さは向上する一方だ。シャワーブースや豊富なアメニティなどは、もはや当たり前の時代になって来た。シャワーブースやバスローブなど、10年前には珍しいものだったのだから、その進歩はめざましい。ところが、こうした設備面での充実ばかりが先に立ち、それに似合ったサービス内容が実現できていないホテルが後を絶たないのが現状だ。ソフトがハードを追いかける。こうした構図が一般的になってしまった今日では、それがまったく逆のホテルに滞在すると、思いがけず新鮮な気分を味わえる。

帝国ホテルは、ホテルの本質がぎゅっと詰まった、もっともホテルらしいホテルだ。ホテルの中のホテルといっても過言ではないだろう。広く知られている通り、客室には新しい仕掛けやうれしくなるようなアメニティもなく、パブリックスペースにしても女性がうっとりするようなゴージャスさもなく、男性が思わず恋を打ち明けたくなるようなロマンチックな要素もない。一言でいえば、つまらないホテルなのかもしれない。

ところが、雑踏からホテルの館内に入り、同じく雑踏と大差ないロビーを横切って、フロントでスムースにチェックインをし、ベルアテンダントにいざなわれて客室に向かい、室内でひとりになってほっと一息つくときの安堵感は、他のホテルにチェックインしたときと確かに一味違う。これが女性の一人旅であれば、この感覚はもっと強烈なものだと思う。

ホテルは貸し別荘ではない。単に快適な空間を提供するだけでは片手落ちだ。単に泊まるだけならば、帝国ホテルは高いだけでおもしろくないという印象になるかもしれない。ところが、滞在中にあらゆるサービスを使いこなすほどに、コストパフォーマンスがよくなり、高いレートにも納得がいってしまう。このホテルが密かに守っている思い入れが、どれだけゲストの心に響くか、それはゲスト次第だが、ステイを重ねるごとに帝国ホテルの魅力にハマってゆくことは確かなようだ。

今回は、デラックスのコーナールームを利用した。日比谷公園側の42平米の客室と同じ料金だそうだが、こちらの窓からはJRの線路と建築中の宝塚ビルが見え、面積は49平米。コーナールームの静けさと広さ、あるいは日比谷公園の眺め、どちらを取るかおおいに悩むところだ。

31平米の客室が並んでいるサイドの一番奥の客室にあたり、31平米の客室プラスリビングコーナーという構成になっている。リビングコーナーにはソファセットとライティングデスクが置かれ、角に窓が取られている。ベッドは200センチ幅でシルク50パーセント綿50パーセントのキルティング羽毛布団を採用。窓際にドレッサーがあり、必ず椅子が斜めに構えた状態でセットされている。

天井高は2メートル50センチで、高級ホテルとしては低めだが、家具の配置にはかなりの余裕を持たせていることから、広々とした印象を受ける。電動式カーテンを採用している客室が多い本館だが、この客室のカーテンは電動でなかった。バスルームは標準的なユニットバスではあるが、床だけは大理石張りになっており、清掃状況が実に見事である上、調光可能な照明や小物を並べるスペースなど、十分に考え抜かれた設計だ。なお、ゲストステーショナリーは、金色のエンボス加工を施したきわめて贅沢なもの。

ベッドサイドからリビングを見る ベッドスプレッドの下には肌触りのいい寝具が

1999.12.12
四角くない箱
帝国ホテル Standard Room (タワー)
喜-1

この客室はピンクが基調

1981年にオープンした帝国ホテル新館タワーは、低層部にショッピングプラザやレストラン、その上がオフィス、20階には宿泊客専用屋内プールやサウナ、そしてその上31階までが客室で構成される複合ビルだ。

客室はアーチ型の天井や出窓というアイデアが採り入れられているが、聞くところによると、当時のホテル客室といえば「四角い箱」という常識を覆したほどに斬新だったそうだ。確かにそれらがアクセントになった客室で、特に出窓は高層階からの景観をよりダイナミックにする意味で重要な存在だが、残念ながら「四角い箱」には変わりがない。

32平米のスタンダードルームでも、275センチの天井高を持たせ、明るい照明と大きな窓からの十分な採光が、開放感を与えてくれる。家具類は深い色合いのしっかりした材質で、派手さはないが使い込まれた質感が帝国ホテルらしさを感じさせる。フロアによってファブリックのテーマカラーを変える工夫も施され、ベッドは110センチ幅と小さ目ながら、シルクを使った掛け布団など心地よさにこだわっている。

バスルームはベイシン部分を絨毯敷きにして、ミニバーもその部分に持って来ているのがユニーク。シャワーブースはないが、150センチの長さがある大きなバスタブと十分な水圧があり、何といっても清潔さに溢れ気持ちのよい空間だ。

バスルームの面積は約5.5平米だが「客室の3分の1をバスルームに当てた」といううたい文句とは一致しない。ホテルによってはクローゼットや室内廊下の部分もバスルームの面積に加える計算法があるようだ。アメニティは一部本館と異なり、シャンプー類はパコラバンヌを使っている。本館フロントからやや離れているのが不便だが、高層階からの眺めは素晴らしく、特に日比谷公園側は東京らしい壮大な景観が得られる。

家具は使い込むほどに味が出そう 本館とはちょっと違った内容のアメニティ

Y.K.