1999.05.24
長い下り坂に注意
「シェ・ゆりの」ホテルモリノ新百合丘
哀-1

昨年は、なにかというと買い物ついでによく出掛けた店だが、実に半年ぶりの来訪だった。従業員の顔ぶれはほとんど変わらず、親しみを込めて出迎えてくれるので、気分的には安心してくつろげる。しばらく来ない来なかったものの、メニュー内容や店内の様子に大きな変化はなく、徐々に落ち着きを見せてきた感がある。

しかし、客足は伸び悩んでいるように見受けられ、この日は天気に恵まれなかったこともあるかもしれないが、昨年までの賑わいはどこへやらという感じで閑散としていた。久しぶりにしみじみ店内を見回すと、フローリングの床は傷だらけで、椅子のカバーは染みだらけだ。

オマケにぼくのテーブルのクロスはソースの染みがいたるところに付着していて、気にしないよう努めてはみたが耐えられなかったので、ナプキンをもらってクロスに重ねて汚れを隠すことにした。これほど汚れているのに替えないのは、予算的に厳しく替えたくても替えられないのか、あるいはただ気付かないだけなのか、よくわからない。

ナプキンを持って来てくれた若い女性給仕は、「久しぶりにご来店いただいたのに、粗相ばかりで申し訳ございません」と丁重に詫びてくれたが、今時若い女性からそのようなセリフを耳にできるだけでも賞賛に値するような気がする。彼女はワインを注ぎながらわずかにコルクが入ってしまったことも気に留めて、「お取り替えいたします」と申し出てくれたが、些細なことなので構わないと辞退した。

何事も気持ちが伝わりさえすれば、少なくともそれ以上に悪い方向へ傾いてしまうことは避けられるというものだ。これだけ気持ちのあるサービスができるのに、彼らに対して洗練された技術を指導できる立場の人間がいないことは不幸だし、また、実際に洗練されたサービスを習得して実践したとしても、それを汲み取り、この店に対する評価を高くするような客層に恵まれていないのは、より不幸なことだと思う。

料理も申し訳ないが目先の華やかさだけで本質が伴なっていない。だからおいしさで胸が躍ったというためしがない。昼のメニューは1,500円、2,500円、3,500円とあり、それぞれに200円増しでサラダが、400円増しでスープ、同じく400円増しで特製ワゴンデザートが追加できるが、一番追加品目を加えたいと感じるであろう1,500円のコースにはすでにスープが組み込まれているし、それ以上のコースの場合、そもそも十分な品数なので、追加は出にくいだろう。

そのあたりでもせっかくのアイデアが死んでしまっているように思う。400円増しのデザートを追加してみたが、ワゴンからケーキをひとつ選ぶだけなので、得な感じがしない。せいぜい200円増しで同様のことをすれば、需要があるかもしれない。また、夜はエシレのバターを大胆に振る舞っているが、昼は一転してポーションのマーガリンを皿に空けてきただけという差のありよう。せいぜい無塩バターくらいは用意してもらいたい。このような状態ではかえって自分たちの首を絞める結果になりはしないだろうかと心配だ。

1999.12.15
ホテルのお仕事
ホテルモリノ新百合丘 Single Room
哀-3

今日の読み物!

最近狭い客室に泊まる機会が多い。ひとりで静かに過ごしたいときには、広くて贅沢な空間よりも、静かでシンプルな客室の方が落ち着けることもある。また、スタンダードな客室には、そのホテルの基本が凝縮されていることも、楽しみのひとつだ。

このホテルのシングルルームは、17平米と面積こそ控えめだが、2メートル75センチの高い天井と、落ち着いた木目に明るいファブリックが映えるスタイリッシュなインテリアの相乗効果によって、バランスのいい居住性を実現しているかのようだ。入口脇のクローゼットには扉を設けずむき出しにしたりと、斬新なアイデアも導入されている。

ところが、全体的に見かけ倒しで、実質的な快適さには欠けていた。扉のないクローゼットは、客室のドアを開けると、廊下から丸見えの状態になる。ベッドは140センチ幅で、真っ白なシーツが清潔そうだが、ノリが効き過ぎ、ゴワゴワして肌触りがよくないのが残念だ。弧を描いたライティングデスクには、ポットや電話機が載っている。この電話線がもう少し長ければ、就寝時にはベッドサイドのしゃれたテーブルに移動できて便利だろう。

バスルームは非常にコンパクト。バスタブに湯を張っても、膝を抱え込まなければ浸かることはできない。ないよりはマシ程度の設備に思えた。また、タイルの目地にカビが発生しているが、バスタブのコーナーなど、所々ぬめりの残っている部分さえあるほどに、いい加減な清掃状況だから、カビが繁殖するのも無理ないだろう。

オープン2年少々のホテルとしては、ステンレス部分の汚れなどが深刻な状況だった。日頃の手入れを怠った結果だと思う。また、収納スペースが皆無と言っていいほど不足している客室だった。長期滞在をするゲストにとってはこの上なく不便なはずだ。更に、このホテルに限らず、シングルルームでは、禁煙室でない場合、タバコの臭いが強烈に残ってることが多い。

フロントのサービスタッチなどがフレンドリーで親切なだけに、客室内の状態が惜しまれる。この夜、お馴染みの「あるホテルマンの日記」の作者が書いた「ホテルのお仕事」という本を再び読んでみた。楽しいエピソードが満載のこの本、ホテルの一室で読めば、面白さが倍増する。

入口から窓の方向を見る コンパクトなバスルーム

Y.K.