1999.05.10
レストランは楽しい
フレンチレストラン「シャトーアムール」乃木坂
喜-5

久しぶりにいい店に出会えた。ホテル日航東京で素晴らしいコンビネーションを見せていた当時マネージャーの仁田秋夫氏とシェフの宮崎修氏が、それぞれ総支配人オーナーソムリエ、エグゼキュティブシェフ副支配人としてスタートさせたフレンチレストラン「シャトーアムール」は、ホテルダイニングのくつろぎと街場のレストランならではのプライスを両立させた本格派レストランだ。

まだ開店して一ヶ月の店内は隅々まで清潔で、内装にも非常に力を入れただけあり、洗練された空間に仕上がっている。さすがホテルでの経験が長いオーナーだけあって、ゆとりとくつろぎを主眼とした空間は、落ち着いて食事を楽しむことができ、知らず知らずのうちに時間が流れてゆくので、「3〜4時間かけてゆっくりとお食事をなさるお客さまが多いんです。」というオーナーの言葉にもうなずける。

卓上には真っ白なクロスが掛かり、オリジナルの位置皿と店名の刺繍が入った柔らかなナプキンが置かれ、シンプルな中にも思い入れが感じられる。メニューはコース料理で、昼は2,800円と3,800円、夜は5,500円から9,500円までと非常にリーズナブルだ。夜の5,500円のコースには選択肢が用意されているので、好みに合わせてコースを仕立てることができる。また7,500円で、シェフがその日の仕入れた素材を紹介し、お客さんの好みを直接席で尋ね調理するというコースも堪能できる。

この日は、シェフのおすすめを参考に、日航東京で印象深かった帆立貝のパート包みとラングスティーヌ、そして日本では珍しい仔牛のレバーのポワレをチョイス。どれもグランメゾンで提供されるようないわゆる高級食材ではないが、素材の持ち味を十分生かし見事に料理されていた。特に野菜やきのこ類にはハッとするような味わいがあった。

オーナーの仁田氏は、ソムリエとしても長い経験と確かな知識を有しており、この店でもワインには相当の力を入れている。リストには手頃でしかも良質な銘柄が並び、グランヴァンの類いは載せていない。しかし、仁田氏にその用意がないはずはないので、特別な日に特別なワインを楽しみたい時は、遠慮なく尋ねてみるといいだろう。驚くほどのお値打ちプライスをそっと耳打ちしてくれるかもしれない。

サービスは極めて快適でフレンドリーなタッチだ。店の構えは気軽に入れる雰囲気ではないが、店内では緊張しながらもくもくと過ごすようなハメになることはまずない。現に隣席のひとりで訪れていた女性も、サービス人との会話を楽しみながら、満足そうに過ごしていた。ただ、良く気付き気持ちの通うサービスだが、仮に店内が満席の状態に近くなった場合は、現状3人のサービス人では十分行き届いたサービスが保証できないだろう。

まだ滑り出しまもなく知名度が低いために、店には気の毒だが客にとっては万全のサービスで食事を楽しめる絶好の機会かもしれない。今後、人気が出てきた時、如何にサービスと料理のレベルを保っていくかが成功の鍵となるように感じた。シェフが積極的に各テーブルをまわり、客の言葉に真剣に耳を傾けている姿から、素朴ながら真面目なお人柄がうかがえ、好感が持てた。食事がこんなに楽しいものだと再確認させてくれる、いま、最もオススメのレストランだ。

1999.05.20
エンターティナー不在
フレンチレストラン「シャトーアムール」乃木坂
楽-3

もう夏を思わせるほどに気温が上がったこの日は、イベントのため早朝から明治記念館に缶詰状態だった。午後1時30分、イベントは無事に終了したので、朝からお付き合いいただいた方たちの労をねぎらう目的を兼ねて「シャトーアムール」でランチを楽しんだ。電話で予約を入れる際、ラストオーダー間際の入店になるので、もしや迷惑を掛けるのではないかと気遣う言葉を添えると、快く待っていてくれるとの返事だった。

この日オーナーの仁田氏は夜からの出勤だということで、若い給仕が二人でホールを仕切っていた。前回は窓際の席に座ったので、今回は奥のソファー席を利用してみた。店内奥から眺める窓の外は、街路樹がちょうど目の高さにあり、涼やかな雰囲気を醸し出している。先客は一組しかおらず店内が静かだった上に、外の喧燥はまったく聞こえてこないので、時間の流れが緩やかになったような気分になる。

昼のメニューは1,800円と2,800円のコースがある。この日はシェフに一人5,000円でおまかせ料理をこしらえてもらったところ、バランスの良い構成で十分に楽しませてくれた。サービスについては若いなりに非常に誠実で丁寧だったが、エンターティナーである仁田氏が不在だとさみしい気がすることは否めない。ワインの品揃えは今のところすべてフルボトルのみ。少量派としてはハーフボトルがあるとよりうれしい。

1999.05.31
テイスティング
フレンチレストラン「シャトーアムール」乃木坂
喜-4

オーナーでソムリエの仁田氏が所有するコレクションから、シャトーラフィットロートシルト'91を格安で分けてもらい、宮崎シェフの料理と共に楽しむことができた。'91はまだまだ若いのではないかと思っていたが、思いのほか熟成が進み、開くのも早く、素晴らしい状態で味わえた。ワインの質はいまさら云々言うまでもないが、今回見ごたえがあったのは、仁田氏の抜栓とテイスティングの様子だった。

巷にはソムリエと名乗るサービス人がたくさんいるが、ワインの扱いやワインに対する愛着のようなもの十分気持ちを注いでいるソムリエはまだまだ少ない。しなやかで確かな手つきで抜栓をし、王侯貴族を迎えるときのように背筋を伸ばし、首から上だけをワイングラスに近づけテイスティングをするさまは、プロの技術と気品とを感じさせてくれた。今や、ホテルレストランや高級レストランでもこのような卓越した技術はなかなか見ることはできない。

普段は冗談ばかりの楽しい仁田氏だが、ワインに対する真摯な姿勢はワインの味わいに大きな花を添えてくれる。この日の料理は一段と温度が素晴らしく、このような熱い料理は久しぶりだった。

1999.06.02
これぞ旬の味
フレンチレストラン「シャトーアムール」乃木坂
楽-4

真夏のように暑くなったこの日の昼食は、御婦人おふたりとの会食で、シャトーアムールに出掛けた。レディーをお待たせするわけにはいかないので、ぼくが一足先に到着し、いつものようにオーナーの出迎えを受け、慌ただしく人が行き交う大通りを見下ろす窓際の席に案内され、しばらく雑談を楽しんだ。おふたりが到着したところで、ひとたび席を立ってエスコートし、一同がテーブルにそろい食事が始まる。シェフがテーブル脇に立ち、今日オススメの素材と調理法について丁寧に説明をしてくれ、話しを聞いているだけで、食欲が沸いてくる。

アミューズ代わりにデミタスカップに入った一口ビシソワーズが運ばれ、オードブルはフレッシュ野菜のサラダ。このサラダ、それぞれの野菜の個性や旨みが生きていて、シンプルなのに深く印象に残る味だった。聞けば、アスパラやキノコはオーダーが入るまで土の付いた状態のまま置かれていて、注文ごとに手を加えるそうだが、小さな店だからこそできる工夫だ。魚料理は6月1日に解禁になった鮎の開きを香草やオリーブオイルで南欧風に仕上げた一品。サラダ同様、添えられた焼き野菜も決して添え物で終わっていない。

肉料理は仔牛ロースのポワレ。サッパリとしたソースでいただく仔牛は塩加減が絶妙で、旨みが巧みに引き出されている。そら豆、ニンニク、小玉葱、アーティチョークなど、こちらでも野菜との素晴らしいハーモニーを楽しめる。

デザートは桃のスープ仕立て。走りの桃の果汁に少量のリキュールとシロップ、そして微塵切りのミントをアクセントにして仕上げてある。添えられた桃の切り身も甘く季節感たっぷりだ。一貫して旬の素材のみを使った充実のコースだった。実に素晴らしい。

1999.08.05
料理バンザイメニュー
フレンチレストラン「シャトーアムール」乃木坂
喜-4

8月8日にテレビ番組「料理バンザイ」で、ここ「シャトーアムール」が紹介されることになり、その収録の際に用意した料理を再現したコースを、期間限定7,400円で楽しむことができる。

アミューズに続き、フォアグラのソテー バルサミコソース、じゃがいもを鱗に見立てたイサキのポワレ タイム風味のバターソース、リムザン産仔羊ガーリックソース、デザートにはクレームブリュレや桃のスープ、バナナとチョコレートのタルトなどが用意されている。フォアグラはこの店のスペシャリテのひとつでいつもながらこってりとした濃厚なソースととろけるようなフォアグラが素晴らしく、添えられた野菜がまた脇役に終わることなく引き立っている。

イサキに添えられたポテトの鱗は、パリっと香ばしく、ほのかなタイムの香りが嗅覚よりも深い部分へ訴えかける。デザートに添えられたレモングラスのアイスクリームも同様に香りといい舌触りといいよい出来映えだった。冷凍ものは一切使わないという吟味されたの素材の持ち味が十分に生きた堂々たる料理の連続だった。

仁田氏セレクトの、夏に爽やかな、チャーミングながらどこかセクシーな香りが特徴の辛口ドイツワインとの相性もぴったり。新しい女性スタッフも加わり、今後が益々楽しみな店だ。また、夏の期間は4,500円のコースも用意されており、はじめての来訪でとりあえず味見をという人にオススメ。

1999.08.29
ワガママ
フレンチレストラン「シャトーアムール」乃木坂
喜-3

夏の暑い日にフランス料理をと誘われても、なかなか気が進まないものだが、シャトーアムールならば話しは別だ。厳しい暑さの雑踏から、店への階段を上がり、扉を一歩踏み入れれば別世界のように落ち着いた空気が流れている。街路樹ごしに通りを見下ろす席に腰を落ち着けると、黒服の給仕がその日の献立を説明し、メニューの枠にとらわれず、好みに応じたコースをすすめてくれる。好みと予算を告げ、料理内容を相談しながら組みたてていけるという楽しみ方がいつでも可能なのがうれしい。

特にこのような暑い日には、食欲もさほど湧いてこないし、ましてや昼間から濃厚なソースは想像するだけでも胃に悪い。そんな時に、量は少なくとか、さっぱりとした調理法でなどのワガママを聞いてもらえるのは非常にありがたい。もちろんこの程度の要望は、どんな店であっても応えてくれるかもしれないが、その際のコミュニケーションがスムースなだけでなく、より楽しみが増す方向で膨らむ店というのは意外と少ないのだ。

この日は、家族での食事で、珍しく母まで同席していた。母は人生の楽しみを半分以上放棄しているとしか思えないくらい好き嫌いが激しく、人間が口にするものの半分以上を食べることができない。そんな事情もあって外食はあまり好まないのだが、給仕は諦めることなく、食べられる食材をつかって素晴らしいコースを仕立ててくれた。

母以外の料理も、その日の気候や顔ぶれに合わせたものが提供され、全部食べられるか心配だと思いながらはじめた食事も、キレイにいただくことができた。この日はどうやら宮崎シェフは不在の様子だった。いつもなら欠かさず客席に顔を見せてくれるのだが、その姿がなかった。シェフの不在を感じさせたもうひとつの理由は、野菜の下ごしらえの状態だった。いつもの、ついさっきまで土に根を張っていましたといわんばかりの新鮮さが現れていなかったこと、そして、微妙な塩加減がいつもと様子が違っていることを物語っていた。

デザートに提供されたアイスクリームの滑らかさにも、いつもの感嘆はなかった。しかし、これは日頃の宮崎シェフの存在価値を改めて認めさせる結果となったが、決してこの日の料理が不出来であったわけではない。むしろ、グランシェフの不在をよくぞ守り抜いていると賞賛を与えたいほどだった。

Y.K.